夏色
机の奥で見付けた
忘れかけたあの頃の写真
空はもう紅く染まり
風もまた紅く染まり...
でも写真の中の笑顔の上には
青い空が広がっていた
手を伸ばせば届きそうだった雲も
今年も届かぬまま去ってしまった
僕の頬に当たる涼しい風も
今は心に冷気を送るだけ
まだそんなに経っていないのに
僕の周りの色は
別のものとなってしまった...
あの青はもう紅い......
この空気を秋と呼ぶのなら
写真の先の世界は
今何色に染まっているんだろうか
端の方から聞こえてくる蝉の声が
秋風に吹かれて空に飛んだ
少年
道に落ちていた小さな帽子の持ち主は
今何処にいるのだろう
帽子を落としても気付かないほど
楽しく笑っていたんだろうか
その少年の瞳には
何が映っているんだろう
道の真ん中に
落ちている小さな帽子を見つけた
風に転がり
車の下で息を殺し
帽子が僕には少年に映った
彼が持ち主だろうか...
帽子と重なる彼の姿が
無邪気に笑う
その心に
何が響いているのかい
次の日其処に
帽子はなかった
小さな帽子をかぶった少年を
頭の中で歩かせて
僕はひとり
笑顔を浮かべてた...
からっぽ
ぬけがらになっていた
身体の中の空洞を
風が通って少し寒かった
ただ何となく動いて
ただ何となく音を発して
何か足りない...
何かを必要としている自分がいた
知識なんて...いらない
記憶なんて...いらない
心なんて......いらない
からっぽの僕は
何者なんだろう
ただ笑い...ただ哀しみ...
ただ怒り...ただ悩む
スイッチは背中についているんだろうか
それとも...リモコンなんだろうか
ぬけがらの自分が動いている
何も考えていないはずなのに
眼から一滴の心が零れた...
いつか
また1日が終わった
薄くなっていくカレンダーを見て
ふぅ...ため息をつく
今日がものすごくもったいない...
でもどうにもならなくて
もう12月になってしまう
貴方と出逢ってから
もうすぐ1年になる
でももう...それは祝えない
いつかもう一度貴方の笑顔が見たい
無理かもしれない
でもいつか...
また考えてる間に今日が終わる
残り枚数が僕の心を比喩しているのか
ふぅ...止められないため息が
無意識のうちに洩れる
あとどれくらいで「いつか」は来るんだろう
哀しい願いでも
薄いカレンダーに託すしかないのかもしれない
今は......ふぅ...
また...ため息だった......
サヨナラバス
バス停は
もう其処になかった...
寒い風が僕を吹き
新たなバス停を求めて
僕はまた足を動かした
できれば逢いたくなかった
もう二度と逢いたくなかった
通り道にあったバス停で
僕は周りを確認する
近付いて来たバスに
淋しげなため息をひとつついて
再び周りを気にしながら乗り込んだ
できれば...逢いたくなかった
窓の下を走るたくさんの人
その中にあの人はいるんだろうか
白く曇ったガラスを手でこすり
小さく“バイバイ”って描き残した
...できれば逢いたくなかった
...もう二度と逢いたくなかった
でも哀しそうに
僕が乗ってるバスを見上げているあの人が
僕の暗い瞳に動いていた...