金属音:バット

 窓から見える小学校に
 大きなライトが立っている
 どこかの球場と同じ位の明るさの下で
 一体誰が走り回っているんだろう
 ボールに当たるバットの音が
 僕の元まで飛んできた
 重くて鈍いその音を
 僕はずっと聴いていた

 君は野球部だったよな
 暑い太陽光線を浴び
 君はこの音と共に練習をしている
 もうすぐ大会で
 でも 頑張れ の一言がかけられない
 隣の家の晩御飯の匂いと
 遠くの野球の練習の音が
 窓から僕に訴えかけた
 君のグローブが頭に浮かび
 明るい光が入らないように
 僕はしっかりと目を閉じた......




  金属音:ナイフ

 今まで何回死にたいって言っただろう
 ものすごく淋しくて 独りに感じて
 でもそれは口先だけだった
 右の手首にナイフをあてて
 ゆっくり一本の線を描く
 微かに滲み出る血が怖くて
 僕の手からナイフが滑り落ちた

 床に落ちたナイフは
 金属特有の響きを残し光るのをやめた
 鋭い刃には錆びがあった
 何度も同じ所で止めてしまう
 だからいつのまにか錆びで覆われた
 僕はそれでもナイフを手にする事を止めず
 床に傷をつけている
 死ンデシマエバイイ その囁きが
 僕の耳元で...僕の心で繰り返される




  金属音:鏡

 僕の顔がこっちを覗く
 眼の奥の輝きはもう枯れていて
 あの頃のような笑顔も浮かんでこない
 心の醜さがそのまま顔に表れてた
 磨いたばっかりの手鏡も
 すぐに曇ってしまって使い物にならない

 洗面所の鏡の前に立ち
 自分を見つめる
 心の奥がぼんやりと見えてくる
 いくら表面だけの笑顔をつくっても
 鏡には無表情の僕しかいなかった
 手を伸ばしても
 冷たいガラスしかなかった

 自分の姿を映しているのが哀しくなって
 僕は手鏡を床に投げつけた...
 足に刺さるガラスの破片が痛かった......




  金属音:フルート

 息を静かに吹き込んだ
 まだ音にならない響きが
 僕の持つ筒から出る
 まだ柔らかいだとかそんな事も解からないけど
 そのうち君の吹くフルートのように
 誰かを包めるような音を出すんだ...

 軽い眩暈を感じて
 僕は吹くのをやめた
 僕のフルートは息の通り道でしかなく
 "楽器"としての仕事は与えられていなかった
 椅子の上に置いたフルートに
 僕はただ謝るしかなかったけど...

 僕はもう一度息を入れた
 かすれてはいたけど
 柔らかいCの音が出た......




  金属音:仏蘭西料理店

 ナイフとフォークのぶつかる音しかしなかった
 君と向かい合ってはいるものの
 一言も二人の口から出なかった
 子牛の肉がだんだん小さくなって
 僕の口の中に消えた

 でも僕らは喋らなかった
 最後の時間だってお互い気付いていた
 もう僕らは終わりだって...
 きっと君の頭にも
 今まで交わした言葉が詰まってるんだろうな
 君の声が頭の中でこだましていた
  別れたくないよ...
 でももう終わりだった
 君といた空間はすごく心地良かった
 これほどまで好きになった人はいなかった

 最後のデザートの皿が空になった時
 僕はやっと口を開いた
  ... ばいばい
 ...やっぱりナイフとフォークのぶつかる音しかしなかった