Fairground Attractionの推薦記事

このページは個人的に特別な記事の一つを載せます。なので元記事だけでなく私のコメントもついています。

以下、ミュージックマガジン'88/9号、”今年ピカリの新人達、Rising Stars '88”より抜粋

 『(Tracy ChapmanやMelissa Etheridgeなどに言及した後で)そんなところから、ダークホース的に気に入ってしまったのが、フェアグラウンド・アトラクションだ。このグループのリード・ボーカルはエディといいう女性。彼女の歌にはかつてのメラニーやリッキー・リー・ジョーンズなんかに似たところがあるが、とにかく声が印象に残るのはいいことだ。サウンド的には、フォークだけでなく、カントリーやジャズ的な要素もあるが、憂歌団の演奏にも似たあまりにもシンプルなコンセプトでうっちゃられた感じもする。』(筆者:北中正和)

 『(イギリスのバスキングの流れを汲むバンドに対しての興味に言及して)『パーフェクト』が全英ナンバー・ワンとなったフェアグラウンド・アトラクションもそうである。彼らもアルバムのジャケットにバスキングをしている写真を使っていた。』(筆者:中川五郎)

 『早速、本題。フェアグラウンド・アトラクションの『ファースト・キッス』。へへへ、いきなりロックだぜ。何せ、このところパティ・スミスやスティーブ・ウィンウッドといった、年輪の多さがキメ手の、テンションを孕みつつもまっとうにロックしてる者ばかり偏愛している私が、久々にあけすけに心許せちゃう新顔なのだ。ま、このブレーメンの音楽隊みたいな人たちも、浅漬けの割にはヌカ床はヴィンテージ的なたたずまいの複雑さは見えかくれするのだが、それはさておいて、まずエディ嬢の声にシビレちゃっている。この気持ちよさのおかげで、彼らの音楽がある種トラッドぽさの故に内包している毒気や、その存在自体が現状に対する一つのステイトメントたりえてる部分を放り出して、ぬくぬくと気分に酔えるのがまたいい。それに、この人達、基本的な生き方において定点観測がしっかり出来てそうでしょ。音の礎のところでポイント高いと思うな。』(筆者:望月展子)

以上は評論家9人が'88のお薦めの新人を挙げる特集企画で、Fairground AttractionはHothouse Flowersの4人に次ぐ3人の評論家が名前を挙げていた。参考までに書くと、これこそが私がFairground Attractionの名前を知った記事であり、その注目度の高さからHothouse Flowersともどもチェックしようという気にさせられた記事である。

この号にはもう一つ、ディスク・レビューが載っているが、上記の記事とこのレビューで私のFairground Attractionに対する興味は決定的なものとなった。

以下がそのレビューです。

『ファースト・キッス/フェアーグラウンド・アトラクション』
 
いや〜、なごむなぁ。こんなになごんじゃっていいんだろうか。

フェアグラウンド・アトラクションというのは、移動遊園地の演しもののことだそうだが、このバンドのシングル2(全英チャートで1位!)のジャケットは鋪道で演奏している写真で(注:トップページに使っている写真です)、移動遊園地にくっついてきたストリート・ミュージシャンのような雰囲気の写真だった。つまり、お祭りのド真ん中ではなくて、ちょっと端っこでなんかやってて、通りすがりについ足を止めて見てしまうような感じだ。

 その写真で、前の方で両手を広げたポーズをしているのがヴォーカルのエディ。丸メガネをかけた彼女はマジメな大学生みたいで、こんな声で歌う人には見えないのだけれど、ギャング・オブ・フォー、ユーリズミッククス、ウォーターボーイズなどのツアーやアルバムに参加し、アリソン・モイエの来日公演にも同行したという強者。そのエディが、ブリストル出身のギタリストで当時ニュー・オリンズにいた(何をしていたんでしょう)マークに、『何か私に歌える曲でも作ってよ』と電話をして始まったのがこのバンドで、その後、ジャケットではスネアひとつをブラシで叩いているドラムスのロイと、ギタロンを抱えるサイモンが加わって、実際の活動を開始したのが87年の春。4人ともタダモノではないようで、成長したアコースティック派と言ってしまうには惜しい。そして今年に入り、春に出したシングルに続きアルバムもベスト10に入る好調ぶりだ。きっとイギリスでも、このアルバム聴いてなごんでる人がいっぱいいるのだろう。

 マークの書いている曲もいいのだけれど、エディのヴォーカルがいい。歌のマズサを押し付けがましい自己主張でカバーするようなところがなく、歌を歌として聞かせている。だから耳にすんなり入り、最後までここちよい。それにエミルー・ハリス的な張りとマリア・マルダー的な揺れがあり、不要な力みのないところがアコースティックなサウンドによく似合う。スウィングやシャッフルで気持ちよく揺らしながら、コステロ的カントリー風味なんかもあったりして、アコースティックものにありがちな一本気なところともまた違った味わいだ。解説でピーター・バラカン氏も言っているように、新しさはないけれど新鮮な、バランスのよい作品だと思う。だからこちらも余計な力みがいらずにラクに聴けて、ついなごんでしまうのだろう。

 ライ・クーダーは見逃したものの、ヴァン・ダイク・パークス、アラン・トゥーサンとなごみのライブをたて続けに見て迎える私のこの夏にはピッタリで、これ一枚で秋まで過ごせそうな気がしている。

評者:今井智子

from ミュージック・マガジン '88/9号

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