”The first of a million acclaims - 声援もなければ拍手もない中で私たちはチャンスをものにした
デビュー・シングル”パーフェクト”がいきなり全英チャートのNo.1。懐かしさと新しさが織成す不思議な平衡感覚は我々の心を捕えて離さない。マシーンやハイテクに頼らない、自分達だけの音楽を追い求める彼らはパフォーマンスの真の在り方を語れる数少ないグループの一つだ。本当に自然に生まれたというこのラッキーなバンドの核を成す2人に急接近インタビュー。 (Mark E. Nevin, Eddi Readerインタビュー)


 何が起きても不思議はないイギリスの音楽シーンだが、この6月、突如としてナショナル・チャートのNo.1にフェアーグラウンド・アトラクション(以下F.A.)というニュー・グループのデビュー・シングル”パーフェクト”が輝いた時は、驚きを禁じえなかった。というのも、このところイギリスのヒット・チャートもアメリカに準じた刺激の少ない退屈なものになり下がり、半分興味を失くしかけていた矢先の出来事だったからだ。

 初めて耳にしたF.A.ミュージックの印象は古き良きノスタルジックなムードと斬新なアコースティック・サウンドのバランスが新鮮で瞬時に夢中になってしまったのは言うまでもないが、まだこういった音楽がいきなりNo.1になることが可能なフレキシブルな状況がイギリスのシーンに残っていることに安堵したわけだ。

 そのF.A.にロンドン滞在中の6月下旬、インタビューするというチャンスに恵まれた。6月第一週発売のNMEにはヴォーカリストのエディ・リーダーが妊娠した為にドクタ−・ストップがかかり、ツアーをキャンセルしたという記事が載っていたので心配していたのだが、インタビューにはお腹のふくらみがちょっぴり目立ってきたエディ自身と、バンドの音楽的なリーダー、マーク・ネヴィンのふたりが元気な姿を見せてくれた。

 まずはバンドのプロフィールから話してくれませんか?

マーク:「OK、今のメンバーでバンドが結成されたのは去年の春だから、まだ1年ちょっとなんだけど、それ以前はみんな別々のバンドでプレイしていたんだ。サイモン(エドワーズ)はソニッド・レ・ランドレスというサルサのバンドでベースを弾いていたし、ロイ(ドッズ)はアフリカン・ミュージックのバンドにいて、ジャズ・フェスティバルなんかの常連で結構有名なジャズ・ドラマーだったんだ。 セッション・マンとしてもワーキング・ウィークやロバート・ワイアットなんかと仕事もしてたしね。エディ(リーダー)もユーリズミックスやアリソン・モイエとかのバック・コーラスでワールド・ツアーにも参加してたし、ミュージシャン仲間では結構有名だったんだ」

エディ:「マーク(ネヴィン)もサンディ・ショウのディレクターをやってたりトット・テイラーのコンパクト・オーガニゼーションで仕事をしてたりしてたのよ。マリ・ウィルソンとかの」

 この4人でバンドを結成しようっていう直接のキッカッケって何だったんですか?

エディ:「私はとにかくマークと一緒に何か仕事をしたかったわけ。彼だったら私に合った音楽を作ってくれそうな予感があったし。それで2年ぐらい前、当時ニュー・オリンズにいたマークに電話したの」

マーク:「とにかくマシーンやハイテクなどに頼らない自分達の音楽を作りたいってことで今の4人の意見が一致して、それでバンドはスタートしたわけさ」

 F.A.の音楽ってとても古いジャズのフィーリングと共に何か凄く新鮮なものを感じるんですけど、この個性はどこから来てるんですか?(笑)

エディ:「みんなに言われるの。懐かしさの中に新しさを感じるって。私が思うには多分、オールド・ファッションな方法でレコーディングしたからだと思うの。マシーンはあまり使わずにアコースティック楽器を使って、 ヴォーカルも演奏と一緒にライブ録音したの。その方が気分が出てやり易かったし、多分長い間こういう風に誰もレコーディングしなかったから、あなたが感じるような個性が出せたんじゃないかしら。
 とにかくレコーディングはとても楽しかった。こういうやり方だったら、メンバー全員で何かを作り上げていく喜びを感じることができるでしょ? でも通常の場合だと多くのシンガーは曲の一部に参加してるという気分しか味わえないと思うの。みんなで同時に録音する時は15回もやり直しなんてできないから、凄く緊張感はあるけど、その緊張感がより良いものを作りだせるんだと思うの」

 F.A.の音楽コンセプトは基本的には誰のアイデアなの?

エディ 「とてもインスピレーション的なものだと思うの。私達は運命的な出会いをしたのだと思う。4人が4人とも同じものを目指していて、ごく自然に出会って、そこからとても自然に出来上がったのが私達の音楽なの。だから苦労して今のスタイルを築き上げたのではなく、本当に自然に、簡単に生まれたものなの」

 みんな出身はロンドンなの?

エディ:「今はロンドンに住んで活動しているけどメンバー全員ロンドンの出身ではないわ。私はスコットランドの出身だし、マークとサイモンはブリストル出身なの。最近ではマンチェスターやリバプール、グラスゴーなどミュージック・シーンも活発になりつつあるけど、残念ながら総ての中心はやはりロンドンだと思うわ。レコード会社の支社は各地にあっても、中心はやはりロンドン」

 RCAとはどうやって契約したの?

マ−ク:「まず一回リハーサルをして、それから去年の始めにロンドンのブリッジ・スタジオでデモ・テープを作ったんだ。そのテープをレコード会社10社ぐらいに送りつけてギグに招待したんだ(笑)。そのギグには僕らの友達も招待したんだけど、その日は雨がひどく降っていて友達は一人も来なくてね。 結局来たのはレコード会社の人間だけで、まるでオーディションのような雰囲気だったんだ。声援もなければ拍手もないようなクールな雰囲気でね(笑)。メンバーも異常に緊張してたんだけど、不思議なことにレコード会社の人たちは気に入ってくれてね」

 じゃあ、その夜の1回だけのライブでチャンスをモノにしたんだ?

マーク:「そう。結局、2〜3のメジャーなレコード会社から誘いがあったんだけど、メンバーと話し合ってRCAに決めたんだ。僕らの音楽にとても理解を示してくれたし、音作りに関する主導権とか、好きなことをやりたいようにできるチャンスを与えてくれたからね。一番はやっぱりパーソナリティの問題だよ」

 最近イギリスでは新人のデビュー・シングルを大ヒットさせるのって凄く難しくなってきてると思うけど、全英チャートでNo.1になった感想は?

エディ:「本当にラッキーだったと思うわ。それだけ多くの人達に私たちの音楽が気に入られたってことだから」

マーク:「RCAにはジョニーっていうやり手のプロモーション・マンがいるんだ(笑)。彼がバイクでラジオ局にレコードを持って行ってプロモーションしてくれた。ジョニーの話だとふたりのDJを除いてはみんな凄く気に入ってくれたみたいだね。 この国では放送局の人間が曲を気に入ってくれるかどうかが曲のヒットに大きな影響をもたらすからね」

 でも本当に曲さえ素晴らしかったら、プロモーションはレコードだけで十分だよね。イギリスの音楽シーンて、まだそういう良心が残ってると思うけど。

マーク:「僕もそう思う。別にシャンペンやプレゼントを持って行かなくともね。実際、僕らの音楽を聞いてもらっただけでみんな気に入ってくれたわけだしね。こういうやり方ってのももしかしたらとても古風な正統的なやり方なのかもしれないね。 ディーコン・ブルーのサポートでツアーをした時でも、コンサートの後、とてもたくさんの人達がレコードを買ってくれたし、下手なトリックなんて使わなくても売れる時は売れると思うんだ。
 フェアーグラウンド・アトラクションのモットーは制作テクニックよりもパフォーマンスを重視するってことなんだ。それは最もシンプルでダイレクトな方法だし、ステージっていう場では私達と観客との間に本当のコミュニケーションが生まれる。それこそが最も大切なものだと思うんだ」

 僕はまだシングルしか聞いてないんだけど、アルバムはどんな感じなの?

エディ:「私達の良さって、やっぱりシングルだけでは表現しきれないと思うの。アルバムにはタイプの違った曲もたくさん入ってるし、私達の様々な面を表現できてると思うから、多分もっと多くの人にも気に入ってもらえると思うわ」

 ”パーフェクト”のビデオ・クリップは凄く楽しくて気に入ってるんですけど、他にもクリップは作ったんですか?

マーク:「いや、 まだ一本だけで、これから作る予定なんだ。”パーフェクト”はとてもシンプルな作りだけど、ボートの上でビショビショになりながら1日中かけて撮影したんだ(笑)。とても長いトンネルを幾度もくぐってね」

 では、最後に今後の予定を話してもらえますか?

マーク:「今決まってるのはセカンド・シングルの”ファインド・マイ・ラブ”のビデオ制作だけでツアーの予定は今年の終わりまでないんだ。その間に2作目のアルバムのための準備はしておくつもりだけどね(笑)」

エディ:「恐らくツアーは来年の始めにはスタート出来ると思うけれど、その時はヨーロッパ、アメリカ、日本にもぜひ行きたいわね。ライブは凄く好きだし、イギリス国内ではもう30〜40ケ所はやってるの。 今年の初めにも2週間かけてスカンジナビアにプロモーション・ツアーに行ったしね。日本にはアリソン・モイエのバック・コーラスで行ったことがあるから少しは知ってるけど、今度はフェアーグラウンド・アトラクションとして行くのを楽しみにしているの」

 日本でも8月21日にBMGビクターより待望のデビュー・アルバム「ファースト・キッス」がリリースされるが、 10月煮は曲入りCDシングル”ファインド・マイ・ラブ”のリリースも決まったようだ。この中にはサム・クックの名曲”ユー・センド・ミー”のカバーも収録されているということなので、カバー好きの僕としては一日も早く抜群の歌唱力を持つエディのそのナンバーを聴いてみたいと思ってる今日この頃だ。

インタビュー: 保科好宏

from クロスビート '88/9号 

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