トレンディ・アコースティックの終着点
大道芸人仕込みのジャジー・サウンド。無垢なミュージシャンシップの勝利、フェアグラウンド・アトラクション (Mark E. Nevinインタビュー)


 ユーリズミックス、アリソン・モイエ、ウォーターボーイズなどのバック・ヴォーカリストをやっていたエディ・リーダーを紅一点とする4人組。スタンダード・ジャズや、モノクロ映画の挿入歌を思わせる ノスタルジックなアコースティック・サウンドそれ自体は何ら攻撃性を感じさせないが、ファースト・シングル”パーフェクト”はイギリスのナショナル・チャート1位、アルバムは初登場7位まで上がった。

 彼らのサウンド・スタイルはコンセプトやシーンの分析から導きだされたものではなく、メンバーそれぞれが生理的にマシン・サウンドを嫌悪しているというごく単純な理由によるもの。大道芸人としてプレイしていたらいつの間にか売れてしまったという、 ごく原始的なミュージシャン・シップのバンドである。コンセプトに飽き飽きし、その結果、欲望直対応のダンス・ビートに席巻されているイギリスのシーンに新風を吹き込むのは、今、こういうバンドなのだ。

●街頭やパブで演奏していた頃は、将来売れるかもしれないという希望を持ってやっていたんでしょうか、それとも単に趣味だったんでしょうか?
 『正直言って、売れるなんてことは予想もしてなかった。びっくりだったよ。特に、1位になったのにはね。自分達のやってるような音楽が、 こんな規模で支持されるとは思わなかったから。もっと地味なインディー・レーベルか何かからレコード出して、一部の人に好きになって貰えるとかいうんならともかく』

●チャートに上る音楽の大部分は、青春的なパッションに支えられたエネルギッシュなものですが、そうした意味ではあなた方の詩や音楽はあまりポップ・ミュージック的ではないですね。
 『うん、それはそうだね。僕らの音楽は、できるかぎりいいものに仕上げる、という以外には何かの狙いがあるわけでも、誰かに向けられたものでもないからね。だから、今、巷で使われているような言葉の意味での ポップ・ミュージックではないと思うよ。ただ、本来の意味でのポピュラー・ミュージックだとはいえると思うけど』

●エヴリシング・バット・ザ・ガールは『あくまでもハードなパッションをなんとか新鮮に伝えるために静かな音楽スタイルに行き着いた』と言っていますが、その当たりの基本的な姿勢はあなた方も同じですか。
 『うん、そうだね。やっぱり一番伝えたいものは人間的な感情だし、それを伝達する時にはラップ・ミュージシャンみたいに暴力的音声に頼るよりは、もっとこまやかな表現を用いる方がいいと僕は思っている。 何より、そんなふうに攻撃的になったり怒りを感じたりすることもそんなにないもんな。人間は年を取るにつれて、刺激をただそのまま放出するんじゃなく、より洗練された形で表すべきだと思うんだよね』

●ただ、ちょっと静かな音楽だとすぐにBGMやオシャレのアイテムの一つとして受け止められてしまいがちですよね。
 『僕だって、業界の人間が僕らの音楽を”ヤッピー向け音楽””コーヒー・タイム用のレコード”とみなしてることは知ってるよ。 もちろん僕らとしては全然そんなつもりで作ったんじゃないけどさ。もっと気をつけていたらもっとヤッピーぽくないものになってたかというと、そういうことではないし』

●じゃ<もしフェアグラウンド・アトラクションの曲がシャーデーの曲と一緒にテープに入れられてカーステレオから流れている……という光景を思い浮かべると、どんな気がします?
 『ま、その人の勝手だとは思うけど、……決して鼻高々な気分にはなれないね(笑)。シャーデーと同じカテゴリーに入れられたくないよ』

●ところでトップ・オブ・ザ・ポップスからリムジンでお迎えにきた時にロイが怒り狂って電話で怒鳴り付けたそうですね。
 『(笑)ああ、あれね……あれは、だって恥ずかしかったんだ。それと、やっぱ金の無駄遣いだと思ったし。ほら、レコード会社としては自社のアーティストはスター然とさせたいから、リムジンの後部座席に坐らせたがるのさ。だけど自分が以前一文なしでてくてく歩いたその道をリムジンに乗って通り過ぎるなんて、居心地悪いよ。 リムジンを一台出すのに何百ポンドってかかるだろうに、僕らは昔、デモ・テープを作るために一ポンドだって浮かそうとしてたんだぜ。なんか情けないじゃないか。どこのアマチュア・バンドだって、レコーディング用にその何百ポンドが喉から手が出る程欲しいだろうよ。彼らの為にその金を使う方が、ずっとましだと思わないかい』

●他にも、エディがその昔ユーリズミックスのバック・ヴォーカルをやっていた頃、派手なステージ衣装を着ろというアニーとジーンズで出たいというエディとの間で大喧嘩になったそうですが……。
  『(笑)大喧嘩かどうかは知らないけど、何といっても彼女はスコットランド人だし。その情熱こそが彼女を偉大なシンガーにしてるんだとも思うよ(笑)』

●まだあります(笑)。ワム!も手がけていたやり手マネージャー、サイモン・ネピアーベルの申し出を断ったそうですね。
 『いや、というか……あんまり活字にして欲しくないんだけど(笑)……。いや、彼とは直接会ったわけじゃないしいろいろ言える立場にはないんだけど、まあ南アに大量の金をつぎこんでたとかジョージ・マイケルがそれで彼と手を切りたがってたとか、そのへんは一応知ってたから、そういう人物を鼻にもかけないって態度を示してやるのはなかなかいいんじゃないかと』

●でも一応は超有名な人に声をかけられて、多少は嬉しかったりもしませんでした?
 『いや、笑えるって感じだったな。だって、売れた途端にいろんな人が電話してきたり、挨拶がてら御馳走してくれたりするんだから、ほんと笑っちゃうよ。自分達がある程度年もとってて分別があって、良かったと思うよねぇ。 連中はただ、マネージメントの仕事を引き受けうまい汁を吸おうと必死になってるんだ、ってわかるから。これが、もし僕らが20そこそこの若造だったら、感激して何にでも飛びついちゃうんだろうね』

インタビュー: 山崎洋一郎

from rockin' on '88/10号 

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