”もっともっとシンプルになりたい、と心がけているよ”
聴いているだけで心の中が洗われてくるような、そして心地よい優しさと希望を与えてくれる音楽。繊細で、純粋で、温かくって……
そんな気持ちが溢れるフェアーグラウンド・アトラクションの音楽に、自分の中の忘れていた何かを見い出した人達は多いはず。彼らの音楽に生で接したいと、日本初公演は各地で連日満員御礼だった。
「もっとシンプルで自分達にあった音楽も始めたい」とエディが、当時'84年頃、イギリスの音楽シーンに嫌気がさしてニューオリンズにいたマークを呼び戻し、小さなクラブで演奏し始めたのが結成のきっかけ。 そしてサイモン、ロイと誘われて活動するうちに注目を浴び、レコーディング……、現在に至っている。
インタビューは、コンサート打ち上げの翌日に行われ、マーク・E・ネヴィン(ギター)、サイモン・エドワ−ズ(ギタロン=メキシカン・ベース)、ロイ・ドッズ(ドラムス)の3人は2日酔いの顔で集まったものの、エディ・リーダー(ヴォーカル)はかなりはしゃいだらしく、遅れて参加。おかげでブランチをつまみながらのリラックスした取材となった。
フェアーグラウンド・アトラクションとは移動遊園地という意味で、彼らはアコースティック・ミュージックをバスキング(街頭演奏)して人気を広げて来たという話だったが、実際尋ねてみると、「エディや、それぞれ個人としてやってきていても、グループとしてはないよ。 ジャケット用に撮ったときは少し演奏したけれど、実は日本でやるのが最初のようなものさ」という話。ちょっと驚いてしまったけれど、さっそくフェアーグラウンド・アトラクションの心地よさのベースにあるものを知りたいと、曲作りしているマーク中心に尋ねてみた。
「子供の頃からロマンティックな子だったかって?そうだね、ジュディ・ガーランドの曲をいつも聴いているようなセンチメンタルな子だったよ。あらゆる種類の映画、音楽、書籍からはいつも影響を受けてきたし、そこから音楽について多くを学んだよ。 トルーマン・カポーティ、ウィリアム・サローヤン、ジョン・スタインベック…といった作家、映画ではスティーブン・スピルバーグ。彼の作品はどれも素晴らしいと思うけど、特にと言われれば『カラー・パープル』だね。技術的にも想像力の面でも巧みに処理してある。どんなときに笑わせようとするか、とか、真面目な場面を作ろうとするか、とか、曲を作る上でも参考になるよ」とマーク。曲にはウォルター・スコットの詩を基にしたものがあるが「ポップ・リリックスのようにシンプルでダイレクトなもの、W.B.イェイツは好きだけど、詩はあまり読まないね。曲を作るときは、普通、詩が先にくるんだ。自分の言いたいことがまずアイディアとして頭に浮かんで、それを詩とし、音楽と一緒に発展させる。最終的には詩と音楽はうまく調和していると思うよ」 「そうさ、マークの詩はバツグンだよ。ダイレクトで明確な言葉を使い、ストレートな言い方をする。人の心に自然に溶け込むにはとても大切なことだと思うよ」とはサイモンの意見。マークは3人の兄弟と4人の姉妹、そして21人もの姪甥がいるとても大きくてハッピーな家庭に育ったから、常にまわりの人のことを一緒に考える習慣がついてしまったらしい。
サルサをやっていたサイモン、'50〜'60年代初期のジャズが好きでセッション・ドラマーとして活躍していたロイ、フォークやカントリーを素朴に歌っていきたかったエディ、テクノロジーに染まらない、人間味のある音楽をやりたかったマーク。 「皆が集まってこそ均衡がとれるんだ。もっと、もっとシンプルになりたいと心がけているよ」とマーク。「ベースを僕のパートナーに選んだのは、この楽器はポピュラー音楽のハート(大切な部分)だと思ったからさ」と話すサイモンは、目下珍しいメキシカン・ベースのギタロンがお気に入り。ロイはスタンダード・ジャズの他、アフリカ音楽などパーカッションの入った音楽に興味を持っていて、それ故、彼は「ドラム・キットに頼らないヒューマニティ溢れるリズムを叩きたい」と語る。エディは「音楽に集中すればファッションのことなどたいしたことじゃないわ。自分が自分であるなら、どんな格好で歌ってもいいと思う」とファッション優先のアーティストに対しチクリ。ただ9ヶ月の子供がいるエディは、子供の話題をする方が断然嬉しそうだ。
英国BRITS賞を受賞して自分達の音楽に自信がつき、「より良い音楽、誠実な音楽をこれからも演奏していきたい」と熱心に話してくれたメンバー4人。新作は年内に発表出来るとの吉報も。待ち遠しいね。
インタビュー: 伊藤なつみ
from Music Life '89/9号
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