”奇跡は夢の中に”
'94.9.17 東京・渋谷公会堂


 夏の終わりの豪雨をくぐり抜け、やっとの思いでたどり着いたずぶ濡れの人々。 疲弊と安堵の奇妙な一体感が会場を包む中、エディ・リーダーが登場する。ストンと長いレーヨンの緑色ワンピース、同じく長い黒のカーディガン、布地の白いハイカット・ブーツ、大きな黒縁眼鏡と、なんだか殺風景な出で立ちの彼女を6人のミュージシャンがまるく囲み、まるでキャンプファイヤーのだしもののように演奏が始まった。

 オープニングは”ワンダフル・ライ”。 「真実はわからない、だからせめて素敵な嘘をついて」と歌う曲だ。霧の向こうから響いてくるようなハイハットとキーボードのイントロが始まると、スーパーマンが、アラジンが、恋人を夜空の旅に連れ出したみたいにエディが両手を一杯に広げて、”みんなで一緒に飛んでいきましょう!”と喜びに満ちてステージの上で助走を始める。

 数カ月前にインタビューした時、彼女はこんなに生き生きとはしていなかった。フェアグラウンド・アトラクションの解散話に触れると、受話器の向こうで口ごもってしまい、イヤな話題に触れてしまったと謝ると、今度は迷いを隠すように勢いよく”前向きな今”を語り始めた。その必死さにかえって凄まじく葛藤に満ちたこんがらがッた日常が垣間見えて、私には痛々しかったのだけれど、今日の彼女はそんな影が微塵もない。別人のようだ。

 

 


評者: 橋中佐和

from rockin' on '94/12号

 

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