'92.6.8 東京・パルコ劇場
ありがとう、と心から言いたい。本当にいいものを見せてもらった。
ほぼ定刻通りのスタート。が、ステージに登場したのは、セミアコ&生ギターの二人(ニール&カラム・マッコール兄弟)のみ。プロクレイマーズのような、かすかにケルト的香りをしのばせる瑞々しい抒情性と熱っぽさに、早くも胸が踊る。 3曲目でドラムのロイ・ドッズ、4曲目でベ−スのフィル・ステリオプリスが加わり、5曲目でやっとエディが登場。が、まだコーラスのみだ。そして6曲目から本格的に歌い出したのだが、その曲が何とウォーターボーイズの「スピリット」。
ゆっくりとした導入から徐々にテンポと音量を増し、曲の終盤、アコースティック・アンサンブルが爆発的なハーモニーを奏でる中 、エディは何かに取り憑かれたかの如く、か細い手足をバタバタと宙に泳がせる。
突然、涙が溢れてきた。彼女の霊的な法悦の表情に感応したかのように。こう書くと、いかにもクサくて結構恥ずかしいのだが、そうとしか言いようがない。そしてこの日、僕は彼女の歌が陶然たる”歓喜”のヴァイブレイションを発するのを、終始感じ続けた。
その歌声は、軽い。というか、どこにも無理な力が加わっていない。彼女が声をしぼり出すのではなく、頭のてっぺんや指先など全身の至る所から四方八方に声が自ら飛び立ってゆくような、そんな感じだ。そして、目。はるか彼方を見遣るかのようなその澄んだ眼差しは、虚心で静かに祈る人の無垢なたたずまいを思い起こさせる。
こうしたエディのワン&オンリーともいえる軽味や浄らかさを温かく見守りながら美しく浮き上がらせたバックの<<ザ・パトロン・セインツ・オブ・インパーフェクション>>の面々の達者な演奏も、特筆に値しよう。緩急・強弱の自在性とダイナミズムを絶妙のバランス感覚で表現しながら風のように駆け抜ける彼らのアンサンブルには、総毛立つ感覚を何度も味わわされた。名前とは反対の”完璧さ”である。
2度のアンコールに応え、最後にしっとりと歌ったのが、ザ・スミスの「ガールフレンド・イン・ア・コマ」。うー、また涙が…。
評者: 松山晋也
from Music Magazine '92/8号