白鳥号データ

[485系全体の基本1]

1.485系誕生 

 日本の鉄道の電化区間には,直流,交流があり,更に交流には,東日本の50Hz と西日本

の60Hz がある.鉄道の電化はまず直流で行われた.一般電力は交流で送られてくるので,

変電所を通して直流に変換し,架線から電車へ供給する.電車特急も最初この直流型で

1958年に作られた26系(後の151系ボンネット)であった.

 東海道本線のような大幹線なら,変電所で一括変換する直流電化はコスト的にも有利だが,

輸送量の少ない地方幹線の電化を考えると,変電所の建設費用は大きすぎる.そこで,交流の

まま電車に供給し,変換は電車自身にやらせる方式が検討された.こうして,交流電化が地方

幹線で進み,屋根に変電所を乗せている交直両用電車が生まれたわけである.

 最初の交直両用特急電車は,北陸本線の米原−富山間の60Hz 交流電化に伴って設定され

た,大阪−富山:”雷鳥”号と,名古屋−富山:”しらさぎ”号.1964年のこと.

形式は,直流電車特急151系の流れをくむボンネットスタイルの481系.60Hz 専用で

あった.翌年,東北本線の交流電化:黒磯−盛岡間が完成し,50Hz 専用の列車もできた.

上野−仙台:”ひばり”号と,上野−盛岡:”やまびこ”号.形式は483系.

但し,先頭車は形式に関係なく481系が共用できた(動力車でないため).

 さて,こうなると,なんとか50Hz と60Hz を一本化したいわけで,1968年に遂に

485系が誕生したのである.

 電化している区間ならどこだって走れる485系.このときから現在に至るまで,様々なマ

イナーチェンジが行われ,様々な形式ができた.


2.年代と基本車種

 485系全体のおおまかな基本車種について示す.ここでは,具体的には,先頭車クハ

481の外観を中心に記載する.なお,クハ481と,動力車のモハ484,485では年代

がずれることをご了承願いたい.

番台

年(クハ)

先頭形状

クーラー

その他

0〜

1964-

1968-

ボンネット

AU12/AU41

きのこ型

MG(発電器)150kVA

ボンネット内装備

100〜

1971-

ボンネット

同上

耐寒耐雪構造

MG 床下装備(以後全て210kVA)

200〜

1972-

貫通型

AU13/AU71

300〜

1974-

非貫通型

同上

以降のスタイルの原型

1000〜

1976-

1988-

1991-

同上

同上

耐寒耐雪構造強化

”はつかり”青函トンネル用に

高速走行用パンタグラフ

PS26BとATC-L装着

1500〜

1975-

同上

同上

北海道仕様,後北陸本線へ

運転台上前照灯2灯

2000〜

1989-

同上

同上

クロ:”スーパー雷鳥用”改造

3000〜

1996〜

同上

同上

”はつかり””はくたか”

(1000番台改造)


3.20〜30年経た485系がなぜ今も通用するのか

 1)最高速度について

 青函トンネルを渡って本州と北海道を行き来する特急列車を御存じだろうか?特急”はつか

り”( '02 年以降,”白鳥”の名称を引き継いでいる).かつて上野−青森間を運行してい

た列車.現在は,盛岡('03 年以降は八戸)−函館間を運行している.これに用いられている

車両は,485系1000,3000番台.青函トンネルを含めた津軽海峡線内には信号が無

い.ここは車内信号式になっており,このためのATC-L (一般のATC:自動列車制御装置と

は異なる)装置を搭載.併せて高速運転用パンタグラフPS26B を搭載し,新中小国信号場−

木古内間で,140km/h の高速運転を行っている.これは,在来線(新幹線を除く)全ての

列車の中で,99年11月までは最高運転速度であった.90年に行った試運転では

160km/h で走行している.

 そもそも,現在の列車の最高速度は基本的には120km/h である.最高速度は次の事柄

で決定される.

  1.ブレーキ能力(非常時の停止距離:600m)   

  2.軌道状態   

  3.環境:踏切などの有無 

 最近のスーパー特急,例えば651系等に見られる130km/h 仕様とは,軽量のボルスタ

レス空気バネ台車を採用すると共に,ブレーキ性能を向上(VVVF インバータ制御装置との

連携や保安ブレーキ装置の搭載)させて上記1.をクリアしたことにほかならない.しかし,

現実には上記2.3.での制限を受けるので,全ての区間で130km/h 運転可能というわけ

ではない.

 また,1.の項目は,3.の状態で考え方や制限値が変わってくる.要するに,トンネル内

とか高架線のように踏切等が無く,軌道敷地内への障害物等の侵入が不可能であれば,ブレー

キ性能はここまで厳格でなくても良いということになる.だから1.をクリア出来ていない

485系でも,場所さえ限定すればスーパー特急と全く変わらないことが出来るわけである.

 現在,北陸本線系統に於ける485系は,湖西線(高架)と,北陸トンネル内で,特別許可

によって130km/h 運転を実施している.その他,ほくほく線でも実施されている.そし

て,青函トンネル内では更に上の140km/h 運転を行っているわけである.

 2)加速性能について

 485系に搭載されている主電動機(動力装置)はMT54D.多少のマイナーチェンジは

あったものの,出力:120kW は485系誕生当時から変わらない.この数値,今となって

は低い.最近の首都圏や関西圏の中距離通勤電車は,ゆうに200kW を超えている.加えて

485系は特急仕様であるため,最高速度を稼ぐために極めて低いギア比(3.50)に設定さ

れており,これは現行通勤電車の1/2である.これらのことから485系電車の加速性能は

最近の電車と比較して,かなり劣っていることが分かる.

 しかし加速,減速性能が真価を発揮するのは,停車する駅間距離が短かったり,曲線のやた

ら多い山岳路線の場合である.従って,これらの影響の少ない幹線,亜幹線の特急使用である

限り,485系は特に問題無く使用できるのである.

 3)コストについて

 最近の電車は,主電動機の出力が高い分,ギア比を高く設定することが可能なため,加減

速性能の向上みならずトルクも大きくなっている.これによって1編成当たりの動力車数を減

らすことが出来ると共に,定格回転数を低くすることが出来る.また,最近の電車は回生ブ

レーキ(モーターを発電機として負荷を発生させ減速させ,その電力を架線に戻し消費電力を

抑える)を採用している.これらから,485系は省コスト省エネの面で大きく劣っているこ

とが分かる.勿論485系は交直両用電車であること事体,運行コストが割高であることは言

うまでも無い.

 しかし,485系ボンネット(100番台)などは,30以上年経った今なお使われ続けて

いる.これだけ長い年月,北陸地方を中心とした過酷な気象条件下で使われ続けていることに

着目して頂きたい.中空アルミや軽量薄板ステンレスで造られた最近の電車などは,首都圏で

もよくもっても精々10〜15年くらいだろう.このような485系の耐久性は,ある種の省

コスト省エネとは言えないだろうか.

 4)総論

 とは言うものの,485系は次第に,しかも確実に淘汰されてきていることは事実である.

設備の陳腐化,特に福祉対応(車椅子対応やベビーベッドなど)されていないこと等,もはや

必要条件すら満たされていないと言えるかもしれない.

 しかし,これより特急らしい特急電車を私は知らないし,これより存在感のある電車を私は

知らない.なにより,これより美しい電車を私は見た事が無い.(最後は感情論)