たくさんのTVカメラや新聞記者,ジャーナリスト,リポータが集まっていた.記
者会見席に私は座り,マイクに向かって話した.
”京都,東山断層上空に,数キロに渡って極端なプラスイオンの蓄積が見られます.
計算の結果,5日後の午前11時に,マグニチュード7. 7,震度6クラスの大地震
が発生する可能性が94%であることが分かりました”.
場内は騒然となった.私は,地球物理学者の蟹山仁太郎.上記の地震予知の記者会
見を行っているところだ.
”でも,ご安心ください.地震は鎮めることが可能なのです.但し,早急に事を進め
なくてはならない.直ちに数百トンのタニシを送ってください.他の貝でも結構で
す.威力は弱まりますが,効果は期待できます.牡蠣は勘弁してください”.
私は上空のプラスイオン濃度と地磁気の関係から地震を予知する方法をあみ出し,
更に,地震そのもののエネルギーを吸収半減させる方法も発案したのだ.その方法と
は,タニシをその震源地の断層に沿って並べていくもの.
早速,数百トンのタニシとその他の貝類が到着し,我々は震源の東山断層に沿って
1列に貝を埋めていった.
”時間が無いぞ.急ぎたまえ”.
私自身も,陣頭指揮するかたわら,自ら貝を並べていた.時折混ざっている牡蠣に,
私は舌打ちをしながら,
”全くあれほど言ったのに,こういう間違いをしてくる輩は,どうしても確率的に存
在するようだ”
などと割と的確に嘆いていた.
やがて,貝はみごとに数キロにわたり1列に埋まり,後は地震を迎えるのみとなっ
た.私はタバコに火を着け,
”これでいいんだ”
とつぶやいた.そして,普段私のことを完全にナメきっている私のところの学生と共
に,千葉県野田市にある倉庫のような自分の研究室に引き返した.
”あとはおたくらでやってくれ”
そして,予告どおり最初の縦揺れが数秒の誤差で起こった.
と同時に,一列に並べていた貝が”プシュッ”と音をたてたかと思うと,全ての貝が
こげ茶色に変色し,わずかな煙を吐き,そして震度3〜4程度の揺れでみごとに鎮
まった.人々は歓声を上げて喜んだ.TVも一日中そのことを放映した.
京都の,とあるお寺で,このとき活躍した貝の供養が行われた.全ての貝をピンク
色に塗り,これまた透明なピンク色のゼリーの中に一つ一つ入れていくのだ.この供
養の間,貝の鎮魂歌が流れていた.まず,超有名ロック歌手:○野○春が,貝に朗読
を捧げた.そして,オペラ調(コーラス付き)に鎮魂歌を歌い始めた.極めてはぎれ
よく,
* 貝っ 貝っ 貝っ 貝っ おかげですぅ *
私も深刻な面もちで,インタビューに応えた.
”私に感謝するより,貝にお礼を言ってください”