吟遊詩人な日々
第41回 リッチ
 久しぶりに隊長と会った。最近隊長とは「久しぶり」が多い気がするんだけど。仕方がないのかな、隊長は忙しい人なんだもの。
 狩りに行くかと隊長が訊いてきた。もちろん速攻で、行くって返事をした。
 「リッチ。確実に死ぬけど」と隊長が言葉を継ぐ。
 えっ、さすがのわたしも逡巡してしまう。リッチはアンデッドモンスターの一種で、強力な攻撃魔法を持っている。見かけはタダの お爺さんとなんだけどなぁ。銀製の武器があればラクなんだろうけど、わたしは持っていないし。お金をたんまり持ってるし、魔法 の武器や防具が手に入るので人気なんだよね。
 なにごとも経験だから。隊長から銀製の三日月刀を借りて、行くことに決定。実はこの銀製の三日月刀はヘブンから隊長が借りたも のなんだって。壊さないようにしなくちゃ。
 リッチ狩りに行くにあたって、リコールを使うことになった。隊長からリッチのいるダンジョンにマーキングされたルーンを受け取 る。う〜ん、うまく行くといいんだけど。
 隊長の声援とともに3回目のリコールを唱えたとき、景色が変わった。で。無事飛べたワケだけど、なんかこの景色は見たことある ような。とてもじゃないけどリッチがいるダンジョン前とは思えない。このタイル張りの地面。石造りの壁。あそこに見える建物は わたしの定宿に似てる。・・・。ここ。城の地下水道入口前?
 なんでこんなトコに飛んじゃったんだろ。失敗したらヘンなところに飛ばされちゃうのかな。とにかく隊長のいる場所まで戻らなく ちゃ。急いで、先程の橋に戻る。
 でも隊長がいない。うそぉ。なんで?まさか隊長だけ、無事リッチのダンジョンに着いちゃったんじゃ。そんなぁ。
 不安だけど、リッチのいるダンジョンへの移動方法をもたないわたしは、おろおろ橋を行ったり来たりした。
 そこに天の助けかぴょんがやってきた。ぴょんに事情を話そうとしたとき、「わり、わり」と言いながら隊長が戻ってきた。
 「ふにゃ〜〜隊長〜」泣きべそをかくわたしに向かって、「もしかして地下水道の前に出たんじゃない?」と訊ねる隊長。
 「はい、とってもびっくりした。でもなんで〜??」とまだ半泣きのわたし。「あぁ、ルーン間違えて渡しちゃった。あはは」って、 どういうことですか!?
 隊長がぴょんを誘う。「これからリッチ狩るけど、ぴょんも行く?死にに(笑)」。すごい誘い文句もあったもんだ。「リッチ?絶 対死ぬね。慣れてるけど(笑)」とぴょん。こっちもすごい承諾の仕方だな。
 秘薬をたっぷり用意して、準備おっけい。死に場所求めていざゆかん。ってエンギ悪いけど。でも今日はそういう感じがする。
 魔法使いであるぴょんに改めてゲートを開いてもらうことになった。隊長が今度こそ「リッチ行き」のルーンを渡す。ゲートが開い て、3人で移動した。
 到着した場所は、無事リッチダンジョンだった。と言いたかったけど、ブリテイン第1銀行前。「わり、わり、また間違えた」(爆 )。「街の中でルーン使っちゃだめです」と言うぴょんの言葉に平謝りの隊長でした。
 三度目の正直ってことで、ゲートを開く。今度は無事リッチのダンジョン前でした。というわけで、洞窟内に入る。真っ暗だったけ ど、ぴょんが「夜目」の魔法を使ってくれたので、真昼のように中を見ることができた。わ〜い。
 目の前の鉄製の扉を開ける直前、ぴょんが3人で行くのかと確認してきた。えっ、どうして、少ないとだめなのかなと隊長とわたし の顔に疑問符が浮かぶ。少人数のほうがみんなに目が届く分支援しやすいから、そのほうがいいとぴょんが言ったので、ほっ。
 ぴょんが扉の鍵を魔法で開けながら、奥に向かう。ついに棺桶が置かれた広い部屋についた。すでに何組かのパーティがリッチと戦 闘中だった。改めて見たけど、やっぱりお爺さんだ・・・。この姿で冒険者泣かせなんだから、ヤ〜なか〜んじ〜っ。
 リッチが出現した、かと思ったら、ハイエナみたいに冒険者達が群がる。ひぇ〜、みんな反応速い。完全に出遅れてるよ。倒せなか ったら、お宝も手に入らないじゃん。
 とりあえず群がってるところに参加して、リッチと戦ってみた。ぎゃぅ。魔法で炎が背中に。うぅ。火傷しちゃった。ひりひりす る。ひどい。乙女の柔肌傷つけるなんて。リッチから逃げるわたしに更にリッチが追い討ちをかける。ぴょんに回復してもらって、 逆襲する。うきっ
 階上にリッチが現れた。馬で駆け上がりリッチに挑みかかった。他の人達も殺到したけど、リッチのほうのターゲットはわたしだっ たみたい。火の玉をどんどん投げつけてくる。思いもかけない威力に傷がどんどん広がる。ひ〜強力だ。
 うっ、回復しなきゃ。魔法を唱えようと思った瞬間、あぅ、背中に一段と強い痛みを感じたまま、フェードアウトした。あ〜ぁ、早 速死んじゃった。きゃはははは。(ちょっとヤケになってます)。ぴょんが蘇生魔法を使ってくれた。
 無事蘇生して、自分の荷物をかき集める。で、ゴースト専用のずるずるから、元のわたしの姿にまずは着替える。ところが、まだ 着替えてるというのに、リッチが現れて、まとわりついてくる。
 「うきぃ〜っ、リッチ〜、レディが着替えてんのに、ジャマするなっちゅーねん!!」思わず故郷の方言で大絶叫。たまたまそば にいた別のパーティの金色の騎士に「こわいレディだね〜。レディはもっとおしとやかにね」と言われる始末。更に横にいたぴょ んはこの言葉にぎゃはは笑いで大ウケ。ひどすぎる。しくしく。
 着替えが終わって、またリッチ相手に戦闘。だけど、ホントキツイ。別のパーティはベテランらしく、わたし達のレベルだとかな り無謀だと忠告してくれた。えぇ、わかってて、来てるんです。はい。
 ぴょんがわたしと隊長に魔法に対する耐性はどれくらいか質問してきた。わたしが20。隊長が38。
 答えた瞬間ぴょんの顔がひきつったのをわたしは見逃さなかった。リッチ相手にかなり無謀なレベルらしい。今日帰ったら、二人 ともレベルあげる練習ねと厳しく言われました。ほ〜い。
 フロアをうろうろしながら、現れたリッチに攻撃を仕掛ける。ぴょんを狙って、リッチが攻撃してきた。その上毒まで受けたみた い。ヤバい。ぴょんに解毒を施し、拙い魔法で懸命に回復魔法を唱える。ぴょんが無事危険域を脱した。お礼を言うぴょんに ちょっとは上達したでしょ、とニコニコ返事をした。
 油断大敵。不意に眼前に現れたリッチにあっけなく殺られました。そんな〜。ってことで。また蘇生してもらったけど。
 新たなリッチが今度は隊長に。隊長がアブない。また回復魔法を唱える。ぴょんや他のパーティの人達が隊長を回復する。
 でも本来の実力から言えばヒトのフォローしてる場合じゃないようで。そうです。またわたしがリッチから攻撃を受ける。今度こ そ自分を回復しようと思ったら、マナが足りない。うそでしょぉっ!?
 魔法を唱えるのにはマナと呼ばれるエネルギーがいるんだけど。気力っていうのかな。たくさん魔法を唱え過ぎたらしくて、かな りのマナを消費してたみたい。マナを回復しないと魔法が使えない。まだまだ初級レベルだからマナすら回復に時間がかかるって いうのに。がび〜ん。このままだと死んじゃうよ〜〜〜。で。死んだ。
 この結果、めでたくないけど、死亡通算10回目となりました〜〜〜。とほほ。また復活させてもらったら、ねこが来てた。遅い よぉ。もうちょっと早かったら、死なずに済んだのに。
 とりあえず今日は疲労がピークに達してたので、リッチがいない隙にゲートを開いて、ブリテインに戻ってきた。は〜。ホント疲 れた〜。
 ぴょんは緊急救助連絡が入ったらしく、ねこと共に、消えちゃいました。隊長とわたしは疲れた足取りで宿屋に戻って、さっさと 眠りました。
 今日の結論。やっぱりリッチきら〜い。

第42回 魔法耐性
 昨日のリッチ狩りで、自分の魔法耐性のなさを暴露したわたし。今日はぴょんとねこに手伝ってもらって、魔法耐性力をつける訓 練をすることになった。
 どんな方法で訓練するのかな。どこでするのかな。わくわくしてるわたしにぴょんの一言。
 「フェルッカいこ〜」地獄に叩き落としてどうするっ。
 フェルッカは、わたし達の住む世界トラメルと対に存在する双子世界。但し、トラメルとは違って、街中にもPKやらモンスター やらが現れるコワいところ。なんでそんなトコ行くのぉ。ここで、できない練習やってか?
 と叫びたかったけど。本日の教授に逆らうワケにはいきません。それに。ちょっと興味があったんだよね。フェルッカに。
 ねこがPKが出現するような場所にはいかないと言ってくれたし、この二人がいれば安心だし。きっと大丈夫だよ。
 というわけで、ぴょんがフェルッカへのゲートを開いてくれた。いつも使うゲートは青い色をしているけれど、今日のゲートは金 色に輝いてた。エンギ良さそうだけど、行き先はかなりエンギ悪いよね。
 着いた先は、切り立った崖沿いだった。歩いて、街の方にいく。なんか見たことあるような景色だな。わたしのいる世界トラメル のヘイブンに似てる。
 そう二人に言うと、「ここはオクロー。トラメルのヘイブンにあたるかな」双子世界っていうくらいだもんね。街並みもそっくり なんだ。ヘイブンに当たるということは比較的安全圏ともいえるのかな。ヘイブンは冒険初心者の街だもん。
 オクローの街の雑貨屋に入り、秘薬をそろえる。そして、街の一角で脚を止めた。ここで訓練を始めようというぴょんに、ねこが 反対意見を唱える。「ここで魔法使ったら、まちがいなく衛兵が来るよ」って。
 衛兵が来るようなことを今からするのだろうか。衛兵が来るとマズイようなことなんだろうか。 わたしのアタマに沸沸と湧いて くる疑い。いったい、この二人はわたしに何をさせるつもりなんだろう。
 それはマズいと二人の間で話がまとまり、また移動開始。今度は舟に乗るというので、海岸まで歩く。ぴょんの舟が現れた。乗っ てすぐに出航した。いったいどこまで行くのかな。
 沖に出た頃、船頭が舟を止めた。
 「ん?ここ?」
 「そ」海上訓練ですか。ほぉ。感心するわたしの前でやおら呪文を唱え始めるぴょん。
 途端、舟の上に炎の壁が現れた。な、なにごと。いきなりナニを。ワケがわかってないわたしに向かって、ぴょんとねこが言った 一言。
 「この火の間を往復してね」
 は?
 「それで上がるから」
 はぁ?
 「さ、やってみ〜」
 ニコニコしながら、しれっとえげつないことを言う二人。ちなみにいたって冷静だったりする。
 あの。火傷すると思うんだけど。とりあえず反論してみる。
 「あ。ちゃんと回復してあげるから、大丈夫。心配しないでいいよ」
 舟燃えちゃうよ?とにかく逃げを図ってみる。サーカスのライオンじゃあるまいし、火くぐりなんて。
 「大丈夫。舟は燃えないから」
 「時間もったいないよ。さ。はやく〜」
 入るまで帰らせてもらえないんだろうな。一人で帰りたくてもここ海の上だし。トラメルじゃなくて、よりにもよってフェルッカ だし。・・・。
 はい、はい、わかりました。入れば、いいんですよね。入りますよ。えぇ、入りますとも。でもかなり勇気いるよね。
 恐る恐る、火柱に入る。
 あつっ。あつっ。焼けてる、焼けてる。焦げてる、焦げてるって。うぉぉぉぉお。あつい、あついよぉぉぉぉぉぉ〜。あぁぁぁぁ ぁぁっぁぁぁっぁっぁぁっぁ。
 最早人間というより獣の雄たけびをあげて、重度の火傷を負いつつも火柱を行ったり来たりするわたし。なんて自虐的な訓練なん だろう。うぅ。こんな訓練だなんて思わなかったよ。
 ぴょんが回復してくれるので、すぐに傷は治るけど。治した先から、また燃えるし、焦げるし。うぅっ。
 訓練、訓練。ガマン、ガマン。自分に強く言い聞かせながら、往復する。もう声を上げる気にもならない。
 だけど。確かに魔法耐性がついてきてるみたいだった。ほんの少しずつだけど、炎を、熱さを感じなくなってきてる。
 おぉ。これは、確実に上がるわ。魔法耐性がついて傷を負わなくなりつつあるし。調子に乗って、歩き回っていると。
 あぅ。強烈な痛みの後、フェードアウト。えぇ、死にました。こういうの自殺ですか?自爆ですか?それとも殺人ですか?
 ぴょん達が蘇生してくれたけど。あの、やっぱり自虐的なんですけど。死んだことで、ヤル気が下がったわたしに向かって、二人 もこの方法で訓練して、死んたこともあるらしいことを告白してくれた。ああ、体験済ですか。そぉですか。だからって、わたし も、ですか?
 「ブツブツ言わずに」とぴょんがまた火柱を上げる。観念して、また行ったり来たり。
 わたしの練習につきあってるぴょんはいいとして、ヒマをもてあましているねこは、召喚魔法で、よりにもよってデーモンを呼び 出して魔術を上げる訓練を始めた。
 で。なんだかよくわかんないんだけど。突然死亡。初めて調教で得た愛馬インディも。いきなりでホントに何が起こったのかわか らない。
 復活した。
 二人がギャーギャー甲板で騒いでる。騒ぎの理由を訊いてみると、どうやら今のわたしの突然死に殺人カウントがかけられたらし い。つまりわたしは誰かに殺された扱いになったらしい。
 二人が殺したワケじゃないし。気にしなくてもいいんじゃないのかなと思ったんだけど。
 これがキッカケで。二人がバトルを始めちゃいました。二人にとってはどちらが犯人かは重大な問題だったみたい。けんかの結果 は、ぴょんの負け。
 かなりわたしのスキルがあがったし、練習を終えて陸に戻った。速攻、トラメルに戻る。戻った先は見慣れた東の森。空気とか雰 囲気自体、こっちのほうがほっとする。フェルッカは息がつまる。
 無事に戻ってきたら、今度は舌戦。まだ仲直りしてなかったのね。ぴょんに軍配があがったらしい。泣き出したねこが走り去って しまった。ぴょんを注意して、慌ててねこを追い掛ける。
 木陰で泣いてるねこに泣かないでと懸命に慰める。ねこが泣き止んで笑顔を見せた。ペコ、やさし〜と後ろでのんきなぴょん。あ なたが泣かしたんでしょ。
 さて、と。姿勢を伸ばして、軽く息を吸い込んだ。そして。
 「じゃれあうのもいいかげんにしなさいっ。二人ともほんっとにバカなんだからっ」ふぅ。
 二人の目が点になったけど、けんかを止めてくれたんだし、いいよね。けんかはダメだよ。ホントにね。

第43回 愛馬
 集合時間ギリギリまで馬を探しにデルシアに行くことにした。リコールを使うため地下水道に向かう。それにしてもなんで新大陸 に行くときは、地下水道からしかリコールできないのかなぁ。不便極まりない。
 地下水道に到着し、早速リコールを唱えようとルーンブックを取り出した。まだリコールスクロールが入手できなくて、未だに魔 法で飛んでいるんです。はぁ秘薬代高くついてるな〜。
 もたもたルーンブックのページを繰っていると、人の気配を感じた。顔を上げると目の前にラマ。うぉぉ、びっくりするでしょ。 って、あ。隊長〜。宿屋に隊長がいなかったのは知っていたけれど、こんなトコロで偶然会うなんて。隊長も相当驚いたみたい。 地下水道なんて滅多に人の来るところじゃないもんね。
 とりあえず銀行行かないかと誘われたので、喜んでついていくことにした。デルシア行かないとだめでしょとか、馬探しに行けよ とか思ってるでしょうけど。すいません、団体行動は大切なんです。てへ。
 銀行で隊長の用事を待っていると、先程から銀行の前でうろうろしていた白熊がわたしのほうにやってきた。がうと唸り声をあげ た。普通ならココで怖がるかもしれないけれど、わたしは思わず笑ってしまったの。そして「かつさん」と白熊の名前を、正確に は白熊に変身した相手の名前を呼んだ。「バレたか」とぼそっと白熊が人間の言葉を話しながらもとの姿に戻る。何でわかったの か、とても不思議そうなかつさん。余程自信があったのかもしれない。
 ごめんね。わたしの周りにはかつさんより数倍上手で同じようなことをする連中がいるの。ぴょんとねこっていうんだけど、ね。
 動物なんてかわいいもんだよ。あの二人ってば、怪獣でしょ。エレメンタルモンスターでしょ。デーモンでしょ。ガーゴイルで しょ。挙げ句の果てに他人にまで化けるんだから。今度いたずらが過ぎたら、攻撃してやろうと密かに思ってるわたし。うしし。
 隊長がわたしを呼んでる。返事をしつつ、そばに行った。
 鎧いる?前着てた成金セットだけど。隊長は金色の鎧を特にそう呼んでいる。そんなに重くないらしいので、遠慮なく頂くことに した。早速リングメイルを脱ぎ捨て、金色鎧セットを着込む。でも上からいつものワンピースを着ているので、みかけは何も変わ らないけれど。
 所用を終え、銀行の片隅で今日の予定について訊かれたので、馬を探しにデルシアに行くつもりだったことを伝えた。もちろん狩 りも行きたいけれど。
 隊長は快く承諾してくれて、一緒に馬を探しにデルシアに行ってくれることになった。
 リコールで各自で移動して、現地銀行前で集合することを決めた。隊長はチャージがあるみたいであっという間に目の前から姿を 消した。わたしは地下水道から魔法で移動した。やっぱり早くリコールスクロールを手に入れないと。
 馬を求めて、デルシアの外をうろうろした。森のほうにいるらしいので、北の森林に向かう。やっと馬を見つけた。残念だけど、 既に飼われてる馬だった。諦めかけたとき、そのうち野生にかえるからと隊長が教えてくれた。それじゃ、と野生に戻るまでじっ と待つことにした。馬は木の側から離れないので、わたしもそばでじっとしていた。
 どれくらい時間が経ったのか分からないけれど、馬が嘶いた。隊長が野生に環ったよと言ってくれた。調教してみる。うん、ホン トだ。あっという間に成功した。新しいインディ。今度のインディは白馬。
 無事乗馬して、隊長と共にそのまま狩りに行った。丁度馬を探していた場所は死の街と呼ばれるトコロのそばだったので、そのま ま死の街に行くことにした。行ってみてびっくり。死の街ってずっと前に来た「骸骨ダンジョン」のことだったんだもん。あぁ。 不吉。ここって、ひどい目にあったんだよね。隊長からも危なくなったら逃げることと念押しされてダンジョンに入る。
 やっぱりおびただしいほどの骨男がいる。もちろんいろんなパーティが来てたけど。
 剣を振るって叩き切るけど、ホントきりがない。そして。大きく剣を振り上げたとき、クラッとしたと思った途端そのまま意識を 失ってしまった。目が覚めると当たり前だけど、ゴーストになってた。
 わたしの周りに人が沢山集まってる。隊長が他の人達にお礼を言ってるのも聞えた。そんなに長く意識がなかったんだ。蘇生魔法 をかけてもらい、復活した。
 また愛馬を自分のミスで失った。これで何回目なんだろ。まるで死なせるために調教したみたいで。心が痛む。
 「また死なせてしまいました。調教師失格」と呟いた。しょうがないよ。それならおれもだよ。と慰めてくれる。うん。そうだけ ど。でも。昨日のぴょんの言葉を思い出した。ぴょんは馬を死なせてしまうのがイヤで最近あまり馬に乗らないのだという。
 わたしは偽善者なのかな。ぴょんのように決断もできないし、隊長のようにちゃんと心の整理もつけられない。
 荷物は隊長が回収してくれていた。鞄を開けて、中を確認すると、あの鎧セットがない。隊長も絶句した。それはそうだと思う。
 隊長がもしかしたら、と一人の戦士を指差す。彼が持ってるかもしれない?わたし達とは言語圏の異なる地域から来ているらしく 言葉が通じない。わたしは自分のあらゆる知識を総動員して質問してみた。
 すると確かに青い鞄を拾ったと答えた。そうそう、それがわたしのですよ。返してほしいとお願いしたところ、持ち主なら中身を 説明できるはずなどと言う。
 あぁっ??いちいち覚えてるワケないやろっ、と方言が出そうになったけれど、慎重な性格の持ち主なのかもと自分を納得させ、 鞄の中身を一つ一つ上げていく。
 どうやら本人のものだと納得したようだった。だったら返してくれるのかと思ったら、今度は返すつもりはないらしい態度を取り 始めた。なんやそれっ、とまた方言で叫びそうになったけれど、丁寧な口調を意識しながら、大切なものだから、と不慣れな別の 地域の言語を駆使する。 周りでは戦闘が繰り広げられているというのに、わたしはこの戦士相手になにをやってるんだろう。 なんだかなぁ。
 だんだん話をはぐらかす目の前の戦士に対して、怒りがふつふつ湧いてくる。というかさっきから腹はたってるんだけど、ね。 わたしの身体から怒りのオーラが昇り始めた。それに気づいた戦士はお金と鎧セットを返した。他は返すつもりがないらしい。
 もうこの状態にうんざりしていたし、ぴょんがわたしと隊長を迎えに来てくれたので、他の荷物は諦めて帰ることにした。
 ぴょんがゲートを開く。待っていると、くだんの戦士が今度は鎧セットを売ってくれと近寄ってくる。あぁ、どこまで無神経な んやっ、と思ったけど。無視してゲートをくぐった。
 デルシアの街に戻って。ホントにひどい目に遭ったので、今日はこのままデルシアの宿に泊まることにした。
 秘薬はすべて失った。せっかくぴょんにもらったというのに。隊長からもらった鎧が返ってきただけで喜ぶべきなのかな。
 宿屋に向かう前に、デルシアの銀行に寄った。銀行の前にはなんと、ナイトメアが四頭も売りに出されていた。うゎぁ、いい なぁ。かっこい〜。よだれを垂らさんばかりのわたしと隊長。
 ぴょんが「隊長に買ってプレゼントしますが」と言い出した。売り値はブリテインより安いけど、それでも10万なのに。さ すが毎回文字通り命をかけてかなりのお金を持っているモンスターの狩りに出かけてるだけある。
 でもナイトメアを乗りこなすにはそれなりのレベルがいるんだよね。調教だけじゃなく、命令を聞いてもらうための動物学と かも。
 ナイトメアクラスになるとほとんど完璧に近いレベルが要求される。とにかく強い馬で、野生のナイトメアなんて人間を襲っ ちゃうし、簡単なモンスターだったら倒しちゃうからね。隊長でもレベルが足らなかったみたい。
 なごりを惜しみつつデルシアの夜はふけていく。

第44回 挑発
 デルシアからいつもの待ち合わせ場所に行くために、ブリテインに戻ることにした。隊長もぴょんも既にいなかったので、きっ ともう移動した後なんだろうな。
 さっそく今まで覚えた手順通りに、パプアに移動した。パプアから魔法陣に入り、ムーングロウに移動するはずだったんだけど。
 なぜか上手くいかない。他の人達はどんどん魔法陣から消えていくのに、わたしだけ取り残されちゃう。なんでぇ??
 刻一刻と迫る集合時間が気になるわたし。だけど一向に魔法陣から動けない。考えた末、ぴょんに連絡を取る。ぴょんに向かっ て、助けてと叫んだ。ぴょんがすぐに迎えに来てくれるというので、じっと待つ。こうしてる間にも集合時間が迫ってくる。 あぅ。
 ぴょんが来てくれた。「帰れない〜。一生ここで暮らすのかと思ったよぉ」と言ったら、「そんなわけないでしょ」とあっさり 返された。
 魔法陣で移動できないことを伝えると、ちゃんと魔法陣で呪文を唱えたかと訊かれた。あで?そういえば、ねこにそんなこと教 わったような気もする。・・・しまった。忘れてた。ぴょんに苦笑される。あぅ。
 魔法陣の呪文も教わったので、もう一人でムーングロウ経由で帰れるんだけれど、ぴょんに頼んで、パプアから直接ブリテイン に連れて帰ってもらうことにした。
 見馴れた地下水道に到着した。ぴょんは用事があるというので、ここで分かれた。わたしは急いで走って、集合場所に向かう。
 隊長とブラックがいた。遅れたけれど、間に合った。
 ダンジョンにでかけるという隊長とブラック。一緒に行くでしょ、と誘われたけれど、馬がないんですが。
 と、隊長にギルドのすぐそばにある厩舎に案内された。え〜〜〜、ここで馬売ってるのぉ??いつから売ってるんです?毎日?? じゃ、今まで失うたびに1銀前に行ったり、デルシアに行ってたわたしって。
 でもせっかくなので、馬を買うことにした。鞄を開けて、お金を出そうとしてびっくり。・・・お金がない。隊長とブラックに 実にわたしらしいオチと散々笑われた後、ブラックがお金を借してくれた。って、そんなにわたしらしいの??二人の中のわた しのイメージっていったい。
 所用が終わったぴょんも合流して4人ででかけることになった。ぴょんがゲートを開いてくれた。
 着いた先はとにかくエティンやらトロルやら大蛇やら、なんか大きいモンスターが多いダンジョンだった。
 だけど、隊長とブラックは文句なく強くて、どんどんモンスターを倒していく。広い部屋の中、通路。あちらこちらに死体の山 を築きあげながら。わたし達以外に狩りに来ている人もほとんどいなかったから、二人の独壇場みたいだった。
 ぴょんは、召還した動物とモンスターを使役して、一撃でモンスターを倒してた。隊長に曰く、ちんどん屋さん。
 わたしはといえば、とにかく大型モンスターを倒す余裕もなく、モンスターに追いかけられては逃げ惑っていた。だって、数体 で来られたら、どうしようもないんだもん。それに、それになぜかモンスター達は他の3人には目もくれないで一直線にわたし に向かってくるのだ。そんなにわたしって、モンスターには良い獲物なのかな。
 だけど、逃げ惑っていては何にもならないので、ラップハープを取り出した。挑発の旋律を奏でて、同士討ちという方法を選ぶ ことにした。これならちょっと離れたところからでも戦えるし。
 なかなかうまく演奏できたみたいで、トドメだけ刺していく。
 この方法で何体目かのモンスターを倒していたとき、愛刀が壊れてしまった。が〜ん。隊長から剣とぴょんに魔法の剣を代わり にもらったけど。お気に入りのフェリスブランドの愛刀がぁ〜〜。
 そうして数時間をここで過ごして、ブリテインに引き上げた。
 今日のダンジョンでの戦利品をみんなで山分け。一人アタマ1200GPくらいあった。わたしはそこからブラックに馬代を返 したけれど、それでも600GPくらい残ったよ。
 今日は珍しく死なずに済んだし、めでたし、めでたし。
 ・・・じゃなかった。愛刀壊れたんだったわ。とほほ。

第45回 調教師
 いつもの場所で隊長とざなちゃんとおしゃべりを楽しんだ後、隊長と一緒にデルシアに調教訓練にいった。
 街を出てすぐそばにある小高い丘に鹿の群れがたくさんいる。
 今日はここでひたすら小鹿相手に調教する。わたしのレベルだとまだ小鹿なんだよね。隊長は大人の鹿を相手にしてるのに。
 なかなかスキルが上がらないけど。がんばる。
 調教しながら移動していると、モンスターに襲われている動物がいたりする。
 これは調教師として、必ず助けること。
 隊長の言葉通りにモンスターを倒す。
 数時間訓練して、デルシアからブリテインに戻った。