吟遊詩人な日々
第31回 毒の精霊
 更に地下フロアに降りることになった。地下二階に移動するゲートをくぐる。この階には「毒の精霊(毒エレ)」がいる。ブラッ クによれば、毒エレは解毒魔法や解毒剤を飲む間もなく殺られるらしい。毒の回りが速すぎて、間に合わないってわけ?うわぁ。 サイアク。
 全員が無言で顔を見合わせる。というわけで「毒エレ」が来たら逃げる。決して関わらないことに決定っ〜。
 地下二階は、回廊になっているとブラックが教えてくれた。じゃぁ、今度は絶対はぐれないね、と安心したわたし。それならと、 二手にわかれて行動することになった。ヘブンとブラック。隊長とわたし。
 分かれてすぐ風エレに遭遇した。二人で倒しにかかる。そこに更に一体増えた。う〜、めんどくさい。なかなか耐久力があるみ たいで、致命傷を与えられない。
 と、遠くで呼ばれたような気がした。だんだん気が遠くなっていく。えっ、戦闘中なのに。薄らいでいく意識の中、隊長を見る。 あれ、隊長の様子もおかしい。まさか隊長も?こんなところで意識がなくなったら・・・。
 目覚めたら、ゴーストになってた。隊長も。インディも隊長の愛馬も死んでた。戦闘中に意識なくしたんだから、風エレに嬲り殺 しにされたようなものだよね。だけど。あんまりだ。ふぇ〜ん。
 隊長がヒーラーを探してくるから待ってて、と告げ立ち去った。わたしは死んだ場所で立ちながら、所在無く右往左往。
 ブラックとヘブンが来た。ゴースト姿を現わし、事情をボディランゲージで伝える。二人がわたしと隊長の荷物を集めてくれる。 ぺこ荷物多すぎ〜と、ヘブンがぼやく。ってごめんね、ヘブン。
 モンスターが現れた。ヘブンとブラックが相手をするけど、わたしはモンスターに相手をしてもらえない。ゴーストだから、当た り前か。ちぇっ。タイクツなので、ちょっと付近を散歩する。
 と、どうみても戦士にみえない男性に出会った。向こうからすると「出遭った」かな。わたしを認めて、ちょっと動かないでと言 うので、しばし直立不動。男性が呪文を唱え始めた。えっ、この人、ヒーラー?うそぉ。とてもそんな格好には見えないけど。T シャツにズボンのヒーラー??だけど無事復活。人を見掛けで判断しちゃだめだわ。
 お礼を言いつつ、もう一人、いいですか?と図々しくお願いする。一緒に元の場所に来てもらう。戻ってくると、ヘブンしかいな い。ブラックの居所をと訊くと、おれだけ。ブラックも死んだ。なんてこと。ありゃりゃ。
 そこにヒーラーがいないと落胆した表情の隊長が戻ってきた。例の男性が隊長に気づいて駆け寄った。隊長も無事復活。またまた 図々しく、もう一人いるんです。と言うわたし。ブラックが戻ってくるの待ってもらうことにした。
 そこにまた風エレが現れた。魔法で応戦する男性。攻撃魔法も使えるんだ。ホント、すごいわ、この人。よく考えると蘇生魔法が 使えるくらい魔術レベル高いってことだもんね。地味な姿で、実は大物だったんだね。
 そこに騎乗の女性が現れた。美人だ〜。こっちに向かってくるので、男性の仲間かなと思ったら、なんと婚約者なんだって。
 「この人ったら、貧乏で、甲斐性無しで、いいとこな〜んにもないのぉ」とからからと笑う。男性がぼそっと「が〜ん」と呟いて るが聞こえた。ひどい言われようだなぁ(笑)。
 婚約者さんがわたしに質問してきた。「結婚に必要なものってなんだと思う?」う〜んと、やっぱり愛情じゃないですか。と答え た。「いいえ、お金よ、お金。愛じゃ食べていけないわ」とチカラを込めて叫ぶ婚約者さん。でも男性って貧乏なんですよね、矛 盾してるとツッコんでみた。「そうよぉ。だから今ここでお金稼いでるんじゃな〜い」あ〜。幸せオーラ全開のヒトにツッコムん じゃなかった。おしあわせに〜。
 ブラックが、自力でヒーラーを探して無事復活して戻ってきた。ブラックを見て、よかったね、と男性と婚約者さんは立ち去った。
 そろそろ引き上げることになった。
 行きの時間を考えて、帰りはゲートを使うことにした。ブラックががんばるけど、うまくいかない。まだ魔術スキルがそこまでの レベルじゃないのかな。
 というわけで。瞬間移動の魔法「リコール(通称:リコ)」を利用することにした。こっちはある程度のレベルだと簡単に飛べる から。
 「ぺこ、できる?」
 試したことは一度もないけど、と応える。
 取り残されたときのことを考えて、飛ぶ順番を決める。一番最初にわたしが飛ぶのを見届けてから、ブラックと隊長が飛ぶことに なった。予想通りの順番だ。
 行き先はブリテイン。
 何度か失敗を続けた後、視界が変化して1銀前に出た。
 みんなが来る前に1銀前の露店で、馬売りを探して売ってもらう。もう深夜だから、ただ売りしてるときもあるんだよ。全員が戻っ てきたとき、新たなインディに騎乗してました。
 ヘブンから、死んだ回数がヘブンを上回ったと訊かされた。うそぉ。ショックを受けた。絶対ヘブンのほうが死んでると思ったの に。がっくし。
 今日2回死んだから、通算6回目か。インディもいったい何代目なんだろう。守れるくらいの強さを求めて戦ってきたけれど、わ たしは誰を守れているというんだろう・・・。

第32回 毒の精霊
 ヘブンやブラックと分かれ、鍛冶屋に行く隊長にくっついていった。ところが荷物が多すぎて、隊長が動けないらしい。持てない 荷物を渡してもらって、わたしが持って歩くことにした。でも。今度はわたしが動けない(笑)。
 「隊長。鍛冶屋に行ってきて下さい。わたし、先に宿で待ってます」
 「でも動ける?」
 「宿はもうすぐそこだし、ゆっくり歩きます」
 「じゃ、行ってくる」鍛冶屋に向かう隊長を見送り、少しずつ動く。
 重い〜。ちょっと動いただけで息が切れる。新生インディも相当お疲れの様子。エサをやりながら、少しずつ移動して、宿屋前に 着いた。
 隊長を待つ間、タイクツなので、リュートを奏でる。吟遊詩人だも〜ん。最近「戦士」と間違われることが多くて困っちゃうよ。
 宿屋の前で立ってる男性が「ぐっどみゅーじっく」と叫んでくれた。うれし。しばらくその男性とおしゃべりした。この人も楽器 を弾くんだって。今は持ち合わせがないらしくて。結構うまいそうなので、楽器があったら、セッションできたのにね。残念。
 隊長が戻ってきた。あれ、なんかさっきと違う格好してる。とってもにこにこしてるし。満面の笑みってあんなカンジなんじゃ。
 新しい防具に身を包んでた。よく見るとほのかに桜色を帯びてる。ピンクの鎧だ。
 これってもしかして・・・。「そう」隊長が肯く。隊長がずっと欲しがっていたピンクの防具だ。隊長は色付最高級防具をたくさ ん持ってて。毎日取り替えては楽しんでるみたい。今日の精霊狩りでピンクの鎧を買うお金貯まったんだぁ。
 そしてこの防具を買ったということは。淋しさが胸を打つ。
 ・・・隊長。じゃぁ、いよいよ出発ですか?わたしは、一昨日聞かされたあの話を思い出してた。ピンクの防具を買ったら「新大 陸」に冒険に行くこと。そしてしばらく戻らないと言っていたことを。
 いつ出発ですか。明日?万感の想いをこめて訊ねる。初めて出会ってから、まだほんの少し。一番初めての仲間。淋しくても。旅 立ちを哀しんじゃいけない。分かってる。分かってるけれど。
 返事をじっと待つ。ひどく長く感じた。急に時間の流れが遅くなったみたいに。
 隊長が口を開いた。実は迷ってる。まだ魔術スキルが少ないから。しばらく延期しようかな、と。
 ほっとした。そんなこと思っちゃダメだけど。でも。
 だけど明日はちょっと新大陸に行ってみる。
 うん。お土産買ってきて下さいね。待ってますから。
 だけど。別れは確実に近づいてる。

第33回 魔術
 ねこに頼んで、今日は魔法ギルドに一緒に行ってもらった。やっとお金が貯まったんだ。だから。魔法ギルドのギルドマスターに 授業料を支払って、教えてもらおうというわけです。
 もちろん、自力で勉強するのもいいけれど。秘薬代もバカにならない。成功しようと失敗しようと魔法を使うときは必ず秘薬は消 費されるんだよ。教えてもらえばレベル4くらいの魔法までなら使えるようになるからお得。
 魔法ギルドはいつものあの橋の奥にある。秘薬やポーションや魔法書の巻物とかが売られてるので、いつも人で賑わってる。
 ねこがギルドマスターを探してくれた。ギルドの二階の部屋にいたギルドマスターにお願いして、魔法を教わる。
 授業料は271GP。最高700GPと訊いてたので、意外に安く済んで良かった。これでレベル4までの魔法なら使えるんだよ ね。やった〜。ヒールと解毒を確実にマスターするんだ。レベルアップしなきゃ。
 隊長は今ごろ新大陸のどこにいるんだろう。
 明日帰ってくるんだよね。お土産なにかなぁ。

第34回 鍛冶職人
 東の森で狩りをしてた。でも今日は一人だよ。いつも誰かが一緒にいるから、たまに一人だと淋しい。
 森を移動中にモンスターと戦っている人を見掛けた。モンスターを倒すお手伝いをした後、改めて戦士に声をかけた。この男性 の名前が「ペコ」さんだった。なんと同名。もちろんすぐに親しくなった。
 ねこがやってきたので、ペコを紹介しようとした。ところが、紹介する必要はなかったの。二人は知り合いだったんだもん。
 ペコがヘイブンにいた頃、困っていた時にねこに助けられたんだって。あら、あら、世間は狭い。でもやっぱりねこって神出鬼没 だよね。わたし達と一緒にいないときはどこで何をしてるんだろ。
 ボブとヘブンが偶然通りかかった。というか、ダンジョンに行ってなければ、大抵みんなここに来てるんだけど。この二人も紹介 すると、知り合いが多いですねとペコに言われちゃいました。他にもいるんだよ、ペコ。
 狩りを続けるために、4人と分かれ、また森の奥に移動した。途中EVというモンスターに出遭った。これは攻撃したら一撃で殺 られるとねこに言われてたので、無視することに決定。と思ったのに、EVに追いかけられた。なんで〜。思わず逃げ回っちゃい ました。
 トロルを倒している時にヘブンがタイミングよく通りかかった。傷も治してくれた。いつも悪いな〜と思って、ごめんね、と謝っ た。自分の訓練になるから気にしなくてもいいよと返事が返ってきた。ありがと、ヘブン。
 ついでに、秘薬がなくなった〜、包帯術の効き目がない〜、とヘブンにグチる。反対にヘブンは包帯術で回復だけじゃなくて、解 毒できるまでにレベルがあがってるんだって。うらやましい話。
 それにしても今日の刀はキレが悪い。なかなかトロル相手ですら、ダメージが与えられない。どっちかというと一方的に傷を負わ されてるような気がする。ヘブンがそばについててくれるので、確実に回復してくれるから、こうしてのんきに戦っているけれど。 ん〜。トロルの表皮が頑丈という理由だけじゃないよねぇ。
 ブツブツ言いながら刀を振るっていると、ヘブンに武器をちゃんと修理に出しているか訊かれた。うっ(グサッ)。そう言われる と、随分ほったらかしだったような・・・。「だめじゃん」一刀両断。が〜ん。秘薬を買いに行くついでに、修理してきます。
 なんとかトロルを倒した。今回はヘブンが回復に徹してくれたので、一人で倒したんだけど。一体にいったい何分かけたんだろう。 こんなに調子が悪いなんて。やっぱり修理かな。というわけで、狩りをやめて街に戻ることにした。なまくら刀じゃ、こっちの身 が危ないもん。
 ブリテインの西北に向かう。近づくにつれて、鍛冶職人の威勢のいい声と客のざわめきが聞えてきた。金属を鍛えるリズミカルな 音。炉の匂い。ここだけ気温が2,3度上がったかのような熱気がする。
 ここの鍛冶屋は良品の武器・防具を売買する有名店。通称ブリ北鍛冶屋。この店の前には数々の鍛冶職人も集っていて、武器・防 具の販売や修理を行ってる。
 特に有名な鍛冶職人はフェリスさん。フェリスブランドの武器は品質の良さでも大人気。斯く言う、わたしの愛刀もフェリスブラ ンドのハイクオリティ製品なんだよ。でも今夜はいないのかな。フェリスさんが見当たらない。
 結局そばにいた鍛冶職人に修理を頼んだ。あっという間に修理してもらって、愛刀復活。
 鍛冶屋を出て、魔法ギルドまで秘薬の調達に行く。だけど、秘薬売ってなかった。が〜ん。明日もう一度買いに来よう・・・。
 ベッドに入って、サイドテーブルの灯りを消した。窓から入る月明かりが部屋の片隅をほのかに照らす。目を閉じずに、じっと天 井を見上げる。
 隊長、今日も新大陸で過ごしているのかな。このまま、新大陸で生活することにしたのかな。もう帰ってこないのかなぁ?

第35回 探し物
 リコールを利用して、コーブの街に飛んできた。便利だな。一度使い始めると病みつきですね。まだあんまり上手じゃないので、 一発成功というわけにはいかないんだけど。
 今日は一人でオークキャンプで狩り。オークキャンプは今までも何度か来ているし、比較的わたしにもラクなトコロだから。
 考えたんだ。この間の精霊のダンジョンでヒドい目に遭ったのは、やっぱりわたしのレベルの低さが原因だと思うのね。だからも うちょっと強くなりたいな、と。
 まずはコーブの街で秘薬を買う。出発前に寄ったブリテインの魔法ギルドでは、売り切れてたから。あった〜。うれし〜。という わけで全部買い占めることにしました。後から来た人ごめんね。今のわたしの命綱なんだもん。
 キャンプに続く道をを歩いていくと、道々になぜかいつになくエティンの死体の山。エティンの大群でも出たのかな。
 オークキャンプまであと半分ほどのところで、わたしもしっかりエティンに遭遇した。戦闘開始。ところが。全然ダメージを与え られない。自分ばっかりダメージ食らった。通りかかった人たちに助けてもらいながら、なんとか倒した。
 ふ〜っ。お礼を言って、ちょっと休憩することにした。エティンは強敵だけど、こんなに強い相手だったっけ?愛刀は昨日修理し たばかりだし。
 小休止を終え、奥に向かおうをしたとき、大群のオークが出現した。げっ。うじゃうじゃ。こんなの一編に相手できるわけないよ ぉ。
 そ、だ。良いことを思いついた。鞄からラップハープを取り出し、挑発の旋律を奏でる。音楽が辺り一面に響き渡ると、オークが 同士討ちを始めた。たまたまそばにいた戦士も感心してくれた。だってラクだもん。あとは弱ったところで止めを刺せばいいだけ。 えへへ。吟遊詩人ぽいでしょ。結果は楽勝。戦利品を巻き上げる。
 戦士がパーティを組まないかと誘ってきた。今日は一人だし、了承しようかな。返事をしようと思った瞬間、ぴょんから緊急連絡 が入った。キャンプに舟で到着したところをオークに襲われたって。戦士にそのことを告げ、急いで、奥に向かって、インディを 走らせる。
 舟だ。ぴょんはいたけど、既にゴーストになってた・・・。とりあえず舟に近づこうと思ったけど。オークにジャマされて行けな い。
 これがオークキャンプの真の恐ろしさなんだろうか。怖いというより、うっとぉし〜。数にものをいわせたオークにインディ共々、 しっかり殺されちゃったよ。うぎぎっ。インディごめんね。また守れなかった。んと、通産7回目です、確か。
 コーブに戻って、復活して、今度はキャンプに戻る。まずは自分の荷物を確保して。先に復活してたぴょんに、取られたものはな いか確認するように言われた。ないない。って、あった。よりにもよって秘薬が入ってる青い巾着。さっき秘薬を買ったばかりな のに。今まで一生懸命貯めた秘薬だって入ってるのに〜(号泣)。
 「秘薬入ってる袋がなくなった〜」と泣きつく。モンスターが持ってる可能性があるというぴょんの言葉に従い、キャンプ内の人 に訊きつつオークの死体を漁る。あぁ、情けない。でも背に腹は変えられないのよぉ〜。十何番目かのオークの死体から、わたし の努力の賜物。巾着発見。あったぁ。
 さて、回収するぞ、と思った瞬間。死体が消えてしまった。うそぉ。時間が経つと消えちゃうことは知ってたけど、人が回収する 前に消えることないじゃない。うぅっ。ショックで呆然と立ち尽くすわたしに周りの同情が集まった。
 もう戦う気力もなくなっちゃいました。ブリテインに帰る。ぴょんが帰るなら、2銀で待っていてというので、リコールで飛んだ 後、2銀に向かった。
 2銀でぴょんを待ってると、直に戻ってきた。ぴょんが銀行に預けてある秘薬を数種類100ずつくれた。そして馬代も。おわび? ぴょんは悪くないよ。悪いのはオークでしょ。断ったけど、ぴょんが納得しなかったので、受け取ることにした。ありがと、 ぴょん。
 もしこの後予定がないなら釣りにいかないかと、ぴょんに誘われたけど。ごめんね、今から東の森に行かなきゃならなくなりまし た。
 ぴょんと分かれ、東の森に走っていく。馬がないから、走っていく。息が切れても。走れなくなっても。それでも東の森に行くん だ。