吟遊詩人な日々
第26回 オークキャンプ2
 さてここでずーっと夜明けまでしゃべるワケにもいかないので、狩りに行くことにした。でもニューとブラックは不参加だった。 そうそう隊長の知り合いのカツさんも一緒に行く予定だったけど、こちらも不参加。
 ニューとカツさんとは、またの再会を願って分かれた。いつも、あの時間に橋にいるから来てね。
 狩りの行き先は、昨日と同じオークキャンプ。今回はぴょんがゲートを開いてくれた。ゲートだと速いね。到着した場所はコーブ の街の中だった。
 さて移動しようと思ったら。なぜかまいがゲートを逆送して、ブリテインに戻ってしまった(爆笑)。ぴょんは、まいを迎えに行 くというので、隊長と二人で先にキャンプに移動する。あ、ヘブンはさっさと移動しちゃいました。今頃はもう現地に着いてるで しょ。最近ヤル気というか怖いもの知らずというか。チャレンジャーだなぁ。
 鉱山の脇道を摺り抜けオークキャンプに到着した。
 ここは、出島のように海上に建てた大きなログハウス。陸には物見台が左右に二台。ログハウス内部は丸太で仕切った小部屋が複 数と中央に広場。そして海に接してる部分は桟橋になってる。インテリアはすべて骸骨や皮・肉。はっきり言ってグロい。
 陸とキャンプを繋ぐ木製の橋を渡って、足を踏み入れる。いた、いた。まずは一体倒す。先に到着してたヘブンもしっかり戦闘し てた。やっぱり〜。
 ん、隊長がいない。入り口までは一緒にいたのに。隊長どこですかぁ〜と叫ぶ。入り口でエティンと戦闘中らしい。馬を駆って、 入り口右手に向かう。いた。隊長〜と叫びつつ近寄る。
 すでに一体を倒し終わって、二体目らしい。たぶん加勢はいらないだろうけど、ま、いいやと参戦する。すると。ここ、と今頃さっ きの叫びに応えてくれた。余裕だなぁ。
 戦闘が終わると眼前の舟上の男性が「助かりました」と隊長にお礼を言った。エティンはこの舟を襲ってたんだね。舟が出航した。
 キャンプ内に戻ってオークを探す。今日もほとんどいない。ぐるぐる室内を歩き回ったり、物見台そばに行ったり。エティンや オークを見つけては倒す。
 路上でちょっと休憩。隊長がぴょこと呟く。名前こんがらがったのかな??と思ったら。ホントは。先程スレ違った人の名前が 「ぴょこ」だったんだって。わたしとぴょんの名前を足して2で割ったみたい(笑)。ウケた。
 待ちが長い。倒し終わって、次のモンスターが現れるまでに、間が開く。ヤだな。ヒマだ。
 ヘブンがこの近くの墓場に移動しようと提案した。というかヘブンはさっさと移動したけど。昨日わたしが帰った後、墓場に行っ て死んだらしいのに懲りないな〜。
 隊長が道で待っててくれた。そこにねこも現れた。先に移動した面々を追いかけて、墓場に移動開始。コーブの街を左に見なが ら、森に入り、一路東へ。
 森の中で、隊長を見失った。かなりの速度で駆けてたもんね。そういえばねこも見当たらない。方角は合ってると思うから、この まま直進しちゃえ。
 地獄の底まで響くような不気味な唸り声が聞えてくる。墓場が徐々に近くなってくる。うわぁ、ゾンビうじゃうじゃ。・・・・・。 昼間の明るい陽光の下なら、森の住人達に守られたロマンティックな場所だったろうね。だけど今は深夜。この世でないモノ達が 蠢く時間。う〜っ。怖いよ〜(泣)。
 墓場には囲いがしてあった。入り口を探すけど見つからない。同じく入り口を探してる隊長を見つけた。墓場を周回するが見当た らない。フェンス越しにヘブンに入り口の場所を訊き、扉を開けて入る。
 と。隊長からぴょんがわたしを探しに出かけたらしいことを知らされた。ごめんね、ぴょん。ちゃんと到着しました。
 怖いからこそ、キモチ悪いゾンビは一掃しちゃえっ。片っ端からゾンビを倒す。だけどさすが夜の墓場の定番住人。湧いてくる わ、湧いてくるわ。骸骨やゾンビは比較的簡単に倒せる。でもリッチはちょっと手強くて、困った。
 戦闘しながら、まいとおしゃべりに興じる。「ぺこ。色気教えて〜」ん。いいよ〜。うふん、とか?「いいね〜(笑)」あっは〜 ん、とか?「そうそう。ヘブンが相手してくれないからさ」そうなんだ〜。でもこれでヘブンもめろめろだよ。「そぉ?じゃ、う ふん」いい、いい。サイコー。って、あまりに緊張感のない会話をしていたら。当のヘブンと隊長に「ばか」よばわりされてしまっ た。が〜ん。
 戻ってきたぴょんが魔法でゾンビを焼き尽くす。いろんな呪文を使ったらしく、闇の中幻想的な光景が描かれた。あまりの美しさ に戦闘を中止し、見とれちゃった。うっとり。
 かなりの時間を墓場で過ごした。眠い。疲労のせいか猛烈に睡魔が襲ってきた。
 みんなに、ブリテインに戻ると告げた。戻る人用にゲートをねこが開いてくれた。でもわたしは歩いて帰ると言って、馬を返し た。
 その途端。景色が一変して見馴れた2銀の前に立ってた。
 あれ?目の前におつかれ〜と隊長。うしろに、ねこ。どうやら間違えてゲートを通っちゃったのね。
 ねこが気を遣って、墓場にゲートを開いてくれたけど。今更戻って、歩くのもヘンな話だから、断った。ねこは墓場にそのまま 戻っていく。
 わたしは隊長とともに、帰路に就いた。隊長が戦利品を売るというので、一緒に武器屋に行く。
 隊長も相当眠いらしい。宿屋に着いてすぐに休んだ。

第27回 迷い道
 わたしは、今、とっても急いでる。周りの風景もモンスターさえも目に留めず、手綱を握り締めて、愛馬インディと森を駆け抜け てゆく。
 インディの息があがり始めているけど、休憩はとらない。動物愛護団体に訴えられたとしても。ごめんね、今日は特別。
 目指している場所はオークキャンプ。そこに隊長とブラックがいる。 急遽ブリテインを出発したのが、30分ほど前。ブリテイ ンから南東に向けて、全力で駆ける。
 急に速度が落ちた。インディに疲れが出てきたんだ。実際に走るのはインディだものね。わたしじゃない。分かってた。分かって たけど。
 インディに声をかけ、小休止。たっぷり用意してあるリンゴをインディの口元に持っていった。とってもおなかが空いたんだね。 あっという間に食べてしまった。
 わずか5分の休憩の後、出発した。若干速度を落としはしたけど、走るのは止めない。5分じゃインディの疲れは決してとれない ね。
 でも。 ごめんね、インディ。無理させて、ごめんね。今日だけは特別だから。許して欲しい。
 オークキャンプに行くのは今回で3回目。だけど、たった一人で出かけるのは初めて。ほぼ道は覚えているし、海岸沿いを走れば 30分もあれば着くはずだった。はずだったのに。
 どこをどう間違えたのか、気がついたら、ここがどこか分からなくなってた。方向音痴だということを失念してたわ。海岸沿いを 走って、婉曲する湾を迂回したときに道を間違えたんだろうか?もう潮の匂いさえしない。
 陽の光が木々の間から差込み、風に枝葉を揺らしている。鳥のさえずりが遠くから聞こえてくる以外は、物音がしない。これじゃ ぁ「森の中にいる」しか分からないよ〜。
 いったい到着はいつになるんだろう。一刻も早く隊長たちのもとに行きたいのに。この時ほどゲート魔法が使えないことを後悔し たことはない。
 二人に会うのは実は3日ぶり。事情があって、会えなかった。
 もしかしたら。もう二度と会えないかもしれない。そう覚悟したくらい。
 だから。隊長から連絡が届いたとき、とても嬉しかった。すぐに取るものとりあえず宿屋を飛び出したのだった。とにかく今は会 いたくて。ひたすら、疾風のごとく駆けてゆく。
 左手に岩肌が露出する平原に出た。岩の感じから見て、鉱山に違いない。確かオークキャンプ近くの街コーブの背後にも鉱山が あったと思う。もうコーブのそばまで来てるのかもしれない。この岩肌に沿って走ればコーブに出られるかも。
 だったら。インディ、行こう。着いたら、リンゴも、休憩もたくさんあげるから。インディもそれに応えるように走る。
 細く長い平原を駆ける。風を切って駆ける。雨が降り出してきた。インディもわたしも雫を風で吹き飛ばすように走る。なかなか 街は見えない。
 インディの疲労はピークに達してる。一度。それも5分しか休憩をとってないんだもの、当たり前だね。リンゴをやったけど、速 度は少しずつ落ちてる。
 インディ、ごめんね。インディのこと、全然考えてないね。
 だけど。気持ちがどうしても急くの。早く、早くって心が叫んでるの。
 でも、もう限界だった。これ以上はインディが耐えられそうになかった。歩きに切り替える。心だけなら、とっくに着いてたの に。
 前方に蜃気楼のような揺らぎが見えた。目を凝らすとその向こうに紅いものも動いている。いったいなんだろう。ちょっと気に なったけど、前に進む。
 赤デーモンと水の精霊(通称:水エレ)だった。どうやらそばにいる戦士が召還したものらしい。そういう魔法があるのは知って いるけれど、見たのは初めてで、びっくりした。ほっとしたのも束の間。なんか雰囲気がおかしい。
 無表情にこちらを見つめる戦士。召還モンス達が静かにこちらに近寄ってくる。
 まさか。アタマに最悪の想像がよぎる。そして。その想像は間違いなく真実を射抜いていた。
 出会うのは初めてじゃない。だけどいつもみんながそこにいた。今はわたし一人。
 PKの悪意に満ちた空気がわたしを凍り付かせる。
 突然デーモンと水エレがスピードを上げた。
 殺される。だけど意識は金縛りにあったように、なにもアクションを起こさない。
 怖かった。恐怖で喉がカラカラになった。声を出したいけど、喉をひゅうひゅう鳴らすだけで、声が出ない。
 死にたくない。このまま二人に会えずにこんなところで死にたくないっ。絶対ヤだっ。
 刹那。動いたのは、本能だったのだろうか。それともインディだったのだろうか。
 回れ右して、一心不乱に平原を走っていた。デーモンと水エレが後ろを追いかけてくる。インディの足元がおぼつかない。こんな ことなら休息をとっておくんだった。でもインディもこの空気を感じているのか、決して音をあげない。全力で走ろうとする。
 少しずつアタマに冷静さが戻る。このまま平原を逃げるより・・。
 森の中に入った。そして森の中を支離滅裂に走り回る。
 そうしてどれくらい経ったろう。ようやく背後の憂いがとれた。どうやらPKから逃れられたようだった。もちろん自分の位置も ますます分からなくなったけれど。
 馬を降り、大きな木の根本に身体を預ける。袋からリンゴを出そうと思ったけど。手が震えて、うまく開けられない。
 大丈夫。もう大丈夫だから。自分に言い聞かせる。安心していいんだから。小さく呟く。
 インディが頬を摺り寄せてきた。インディも大丈夫と。安心していいよと。言ってくれてるみたいだった。インディも怖かったろ うに。
 インディの体温が伝わる。温かい。涙があふれてきた。声をあげて泣いた。
 落ち着くまで、わたし達はそこで過ごした。
 隊長とブラックに会いたい。
 二人はもうオークキャンプを立ち去ってしまっただろうか。それともわたしを待っていてくれるだろうか。
 無償に二人が懐かしかった。会いたい。
第28回 居場所
 PKから必死の逃亡劇を演じた結果、ホントに自分の居場所が分からなくなってしまった。撒くためとはいえ、森中を支離滅裂に 駆け回ったんだから仕方ないけど。考えたところで、方向がわかるわけじゃなし。適当な方向に歩くことにした。行き当たりばっ たりでもうまく行くかも知れないでしょ?
 実際10分ほどで街道に出た。幸運なことに、標識まで立っていた。らっき。「西。ブリテイン」「東。ミノック」「南。ベス パー」標識はそれぞれの街の方向を指していた。
 ミノック?見知った地名を見て愕然とした。
 コーブはミノックとブリテインの間に位置し、ミノックよりかなり南西にあるのだ。コーブを通り過ぎていたの、わたし?
 確かミノックは鍛冶職人の集まる街で、大きな鉱山がある。・・・。わたしが先程見た鉱山はミノックの鉱山だったのか。脱 力〜。思わず笑ってしまった。実に方向音痴のわたしらしい結果だ〜。
 じゃぁ、ここの森を南西に向かって、直進すればコーブね。おっけ。方向を確認し、再び森の中に入る。直進するように進む。
 森が深くなるにつれ、不気味な声が聞こえ始めた。う〜ん、どっかで聞いたことあるような・・・。不意に目の前に骸骨が現れ た。あ〜、わかった。ここ、墓場の近くだ。
 案の定、墓場が見える。隊長たちがここにいないことを祈って、通り過ぎた。墓場はヤ。怖いもん。
 森を抜けた。コーブの街が見えた。ほっ。オークキャンプはすぐそこだ。更に速度を上げ、オークキャンプまで駆ける。
 胸が高鳴る。どうぞ、いますように。まだ、ここにいますように。神様、お願い。オークキャンプに侵入する。人影がまったく ない。不安が込み上げてくる。
 まずはキャンプ左側を探索。いない。辺りを見回す。見落としのないように。っと、黒い後姿を視界の右端にとらえた。慌てて追いかける。今のは。ブラックだ。まちがいない。まだここに二人がいる。
 「ぺこ。」
 不意に背後で声がした。優しくて。穏やかで。わたしのよく知っている。だけど。今はとても懐かしく響く声。
 振り返った。そこに、隊長がいた。また違う服装だったけれど。変わらない隊長がいた。そしてブラックも。
 ゆっくり二人に歩み寄る。
 「会えた。」それしか言えなかった。
 迷子になったこと。PKに追いかけられたこと。
 ところが隊長とブラックに仔細を話したところ、どうやらPKだと思ってたのはわたしのカン違いだったことが判明(汗)。初め て見たから、仕方ないよね?ね?
 今日は人が少ないらしく、オークロードやオークメイジは完全にわたし達の獲物だった。
 オークキャンプで暴れていると、ぴょんが現れた。ぴょんがわたしを呼ぶ。キャンプ内の桟橋まで、連れてこられた。
 桟橋には一艘の舟が繋がれてた。あぁ、これがぴょんが買ったという舟なのね。騎乗したまま、橋を渡り、舟にのった。ゆっくり 船頭が舟を漕ぐ。舟が静かに桟橋を離れ、キャンプ近くの半島に向かって移動する。舟から隊長とブラックを呼んだ。隊長が気づ いた。こちらに来るみたいだ。
 岸に着いてすぐに降りて、隊長の元に行く。エティンを相手に戦闘中だった。わたしも参戦し、倒した。
 束の間、静かな時間。隊長と向かい合った形で、馬を止めた。
 ホントに久しぶりです。会いたかったです。たった3日なのに、とても久しぶりに思える。
 やっぱり隊長たちと冒険するのがとても好きだ。とても楽しい。危険で。怖くて。時には死んだこともあるけど。それでも。一緒 に冒険したいと強く思う。
 わたしの言葉に頷いてくれた。
 この笑顔になにより会いたかったのかもしれない。

第29回 
 ぴょんの購入した舟に全員が乗船した。静かにオークキャンプを離れる。
 とっても良い天気。日差しが柔らかくて。水面にきらきらと反射する。海原はとても穏やかだった。ぴょんが船頭に指示を出す声 以外は、何も聞こえない。
 シーサーペントと水エレが現れた。海にもモンスターがいたのね。でも。船旅には無粋。というわけで、倒した。
 隊長とブラックが海に釣り糸を垂らした。海釣りですね。
 わたしはリュートを爪弾きながら、唄を歌う。
 いつもとは全然違う過ごし方。だけど。とても良い気分。風をいっぱいに受ける帆かけ舟。キモチいい〜。
 3人が魔術の特訓を始めた。って、召喚魔法なんて使うな〜。白熊呼び出すな。ガーゴイル呼び出すなぁ。あぁ、もぅ。舟沈 むぅ〜。
 わたし達は、舟旅を楽しんだ。目的地は特にない。のんびり海道を行く。こんなにのんびりした空気。久しぶりのような気がす る。
 東の森の岸に舟を止め、丘に上がる。舟旅終了〜。
 偶然狩りに来ていたヘブンに会った。舟から降りてきたわたし達を羨ましがっている。ぴょんに乗せてもらったら?
 楽しい気持ちのまま、宿に戻った。
 今日は、いつもの二階ではなく、広い一階に泊まった。一階はなんとダブルベッドだった。先に気づいたのは隊長。一瞬の沈黙の 後、隊長と爆笑した。
 だって、おかしかったんだもん。

第30回 精霊
 遠い〜。愛馬インディとブリテインから南西、シェイムを目指して駆けている。前方には隊長、ブラック、ヘブンが彼らの愛馬を 駆っていた。
 今日はブラックの提案で、風・火・水・土・毒それぞれの属性を持つ精霊モンスターのいるダンジョン「シェイム」で狩りをする ことになった。ここを選んだのには、理由があって。お金を稼ぐため、だったりする。精霊達はお金持ちモンスターなのだ。一体 に300GPは固いかな。
 街道を途中で西に折れて、今度は森の中を走る。結構モンスターがいるけど、無視。しばらくすると海が見えた。ここからは左側 の海沿いに北上する。
 海が見えなくなると共に、左手に鉱山が見え始めた、少し進むと鉱山が分断されて、街道が出来ていた。今度はここを抜けるんだ。 駆け抜けようとしたら。
 ちょっと待って、隊長の声がかかった。そして馬から降りる。その動作でわたしは気がついた。ブラックも気がついたみたい。
 ヘブンだけは、何してるのと問う。「エサ」。偶然にも唱和してしまった。馬を降り、袋からエサを多めに取り出し、インディに やる。長旅だったから、エサをやったほうがいいよ、と隊長がヘブンに忠告する。うん、やらないと主人振り落とすからね〜。経 験済みだもん。あれ以来餌はまめにやるようになった。愛馬に餌をやって、再出発。
 鉱山を左右に分断するように街道を抜けた後、今度は南下する。雨が降り出した。ブラックがもうすぐだからと声をかけてくれた。
 前方にお馴染みの洞窟が口を開けている。鉱山の一角にあるんだ。ここか〜。以前程、ダンジョンキライではなくなっていた。 きっと慣れたんだと思う。強くなりたいしね。誰かを守れるくらい。
 やっぱり中は暗い。奥に進むと、小部屋がある。迷わずブラックが小部屋に入り、わたし達もそれに続く。ゲートがあった。地下 に降りるにはこのゲートを通るみたい。みんなに続いて、ゲートを抜ける。
 地階に着き、小部屋を出るみんなに続こうとした。だけどちょっともたもたしてしまった。小部屋を出たときには、誰の姿もそこ にはなかった。が〜ん。またはぐれてしまった。というか、置いてけぼり?
 左右に道が分かれている。迷った末、右の道を行く。そんなに時間はくってないから、走れば追いつけるはずなんだけど。
 細い通路を抜けると、広場に出た。広場の前は湖で、吊り橋が渡された先には湖上建造物があった。広場にはみんなはいない。 もっと奥なんだろうか。それとも左の道だったのかな。橋のたもとで途方に暮れた。どうしよ〜。むぅ。
 と不意に前方に水エレこと水の精霊が現れた。落ち着いて、戦闘を開始する。迷子だけど、狩りに来たんだし。まずは狩っちゃえ。 わたしの実力では水エレはキツいんだけど、がんばる。ところが。背後にもモンスの気配を感じて振り返るともう一体水エレが 立っていた。前後から襲われた。しまった〜。前に気を取られると後ろ。逆もまたしかり。どうにもいかない。二体相手はキツい よぉ〜。傷も深くなってきた。回復薬を飲むヒマさえない。う〜。逃げるタイミングを測って。逃げるしかない。
 そこに戦士が二人通りかかった。わたしに向かって声をかけてくれる。声を限りに救援を頼んだ。
 戦士はとても強かった。あっという間に倒してくれた。相方が回復魔法で傷を治療してくれる。その上、一体分の水エレの戦利品 をくれた。この人が全部倒したのに。うれし〜。ありがと〜。救ってくれたことと、戦利品をくれたことの二つに対しお礼を言い つつ、パーティとはぐれて迷子状態であることを告げる。
 早く見つかるといいね、という言葉で元気が出た。二人と分かれ、更に奥に進む。いない。どうやら左かもしれないと、引き返す ことに決めた。
 橋のたもとまで戻ると、水エレと戦闘中のパーティがいる。ん?ちらっと水エレの影から見えたのは、隊長?あ〜、やっと合流で きた。今度はみんなと共に移動する、とそこに先程の命の恩人コンビが通った。
 みんなと会えたんだね、よかったねと声をかけてくれた。えぇ、そうなんです。会えました。ホントにさっきはありがとう。改め て、お礼を言って、立ち去る二人を見送り、さて、と。
 馬を返すと、みなはとっくにいずこにかに移動していた。つまり、またはぐれたしまったわけ。が〜ん。今度は移動した方向は予 想できたので、あっという間に追いついたけれど。
 土エレ、風エレ。次々に現れる精霊を倒す。それにしてもホントに精霊はお金持ってるな。うれし〜。隊長は今日のノルマを密か に決めているらしい。2000gp溜まったと喜んでるし。
 精霊を倒して移動を繰り返すうち、それほど複雑なダンジョンではないことに気づいた。これならみんなとはぐれても、たぶん大 丈夫。と安心してたら。また、はぐれた。本日3度目。精霊を倒しながら、このフロアを回る。もちろんみんながいないか、確認 することは忘れない。
 先程のゲートまで戻ってきた。ちょうど、フロアを半周したことになる。土エレがいた。うん。これくらいならいいか。落ち着い て、倒しにかかる。と、そこに蠍まで現れた。げっ。
 偶然ヘブンが通りかかり、がんばれと声をかけてくれた。うん、がんばる。と返事をする。
 気を付けろよと再度声がかかった。うん、わかった。と返事をしようと思ってたら、蠍の毒であっさり死んだ。が〜ん。
 ゴーストになって、ヘブンの前に姿を現わす。
 「ほら、だから気を付けろって言ったのに」とぶつぶつ呟くヘブン。ごめんね〜。
 「悪いけど、荷物見ててくれる?」と声をかけた。
 「何いってんのかわかんないよ」とあっさり言い返された。あ。そうでした。ゴーストの言葉は霊媒スキルがないと分かんないん でした。とほほ。
 さて、ダンジョンの中で死んだときって、どうすればいいんだろう。今までは気がついたら、死んだ場所近くの街に移動してて。 目の前にはヒーラーが立ってた。というパターンが多かった。それはわたしが冒険初心者だったからなんだよね。
 今回は今までのようにはいかないみたい。一応冒険初心者は卒業しちゃったからだと思う。(ちっとも成長してないのにね!) だって、移動してないもん。う〜ん。ここから一番近い街がどこか分からないし。こんなところにヒーラーもいないよね。死んだ 場所でうろうろしながら、考える。
 そこにホントにたまたま通りかかった戦士が復活魔法を会得していたらしく、助けてもらった。ありがと〜。わたしも自分で覚え ようかなぁ。これはホントにこれからヤバい。
 隊長やブラックがヘブンと共にわたしのところに戻ってきた。隊長が「ぺこ、復活してる」。二人とも、きっと死んだって聞い て、来てくれたんだ。ありがと。