吟遊詩人な日々
第131回 散々な日
 久しぶりに狩りに行こうと思いたった。どこに行こうかな。最近ちっとも行ってないところでお金も儲かるところ。 悩んだ末にロングに決定。
 あのね、最近になってブリタニアの全ダンジョンで異変が起きたの。従来いたモンスターが出現しなくなったり、 新たなモンスターが出現するようになったり。
 その中でも劇的に変化しちゃったのがロング。ここはデスパイズと合わせて冒険初心者向けの弱いモンスターしか 出現しなかったんだけど。それらがすべてなりを潜めて、殺人者の山賊集団がロングを支配するようになってしまったの。
 山賊だけあって、お金を結構持ってたりするので、わたしとしては狙い目かな。
 秘薬はたくさん持ったし。真紅の悪魔も念のため召還しておく。現れた異形のモンスターの瞳をまっすぐに見つめて、こう言った。
 「デーモン、わたしを守って」
 デーモンが咆哮した。わたしの背後に立ち、その巨大な翼でわたしを包むようにしながら歩く。これでダンジョンに到着した 途端襲われても大丈夫。
 ゲートを開いた。わたしより先にデーモンがゲートに入って行く。うん。よし、よし。そしてわたしもゲートをくぐった。
 「痛っ」
 いきなり棍棒で殴られた。げ。山賊の手下が血走った目をわたしに向けている。なんで、屋上にいるのよ!?痛い、痛いってば。
 う〜。ちょっとデーモン。わたしのガードどうなってんのぉ。って、えぇぇぇっ。なんで一階にいるわけ?おいおい、 一人だけ先に下に降りたってわけ?ちょっとガードの意味ないやんっ。なんのために呼んだと思ってんのよぉ。 ばかぁ。ぎゃぁぁぁぁぁっ。・・・・・死んだ。
 灰色の世界で途方に暮れた。ロングはこの山賊集団が出るようになってから、ハンターに敬遠されてるんだよね。 意外に強いのと、数が多いから。
 ここって、近くに復活の神殿もないし。困った。蘇生してくれる人がいない。どうしよ。とりあえずギルドの誰かに 連絡をとることにした。
 運良くしのぶとつながった。
 「しーちゃん、死んじゃった」
 「うぁ。行こうか?」
 「うん。ロングの正面入口にいるから」
 「わかった。待ってて。すぐ行くから」
 伝えて、テレポートタイルに乗って、階下に降りた。鉄扉の前に佇む。しばらくしてしのぶが到着した。蘇生してもらう。
 「ごめんね。ありがと、しーちゃん」
 「荷物どこ?」
 「えと、屋上・・・」
 「げ」
 「上、わたしを殺したヤツいるよ」
 「うん、大丈夫。行ってくるね」
 ニコッと笑ってしのぶが荷物の回収を引き受けてくれた。屋上に上がるにはテレポート魔法を使う必要があるんだけど。 生き返ったばかりのわたしには秘薬がないので、できない。
 しのぶがダンジョンの重い鉄の扉を開け、開けた場所でテレポート魔法を唱える。屋上に姿を現したしのぶにわたしを襲った山賊が 棍棒を振り下ろすのが見えた。しのぶが盾で防ぐ。そして刀を持った腕を振り上げて反対に山賊に切りかかる。 ほんの2,3撃で山賊の姿がわたしの視界から消えた。しのぶがわたしの死体のあるほうに移動するのが見えた。 数分後青いかばんを持ってしのぶが戻ってきた。
 「ありがと。しーちゃん」
 「いえいえ。アイツ、荷物も盗んでなかったよ。だから全部あると思うけど」
 「うん。大丈夫みたい」
 ゴースト特有の灰色のずるずるからおしゃれなすみれ色のワンピースに着替える。
 「んと、じゃ、行くね」
 「うん。ホントにありがと。しーちゃん。助かった」
 「うん。じゃ、がんばって」
 「うん。またね」
 しのぶの去った入口で、しばし考え込む。
 馬も死んじゃったし、とりあえず馬を調達してからかなぁ。スタミナのないわたしは徒歩だと体力の消耗が激しく、 しかも走るのが遅いので、ダンジョン内を馬なしで突入したらモンスターに殺されに行くようなものなんだもの。
 デルシアの街に移動して、平原にいた野生馬を一頭調教する。今度のインディは久しぶりの白馬。
 新大陸に来たせいか、旧大陸のロングに戻る気になれず、テラサン城の蜘蛛狩りに変更した。空いてる。
 テラサンアベンジャーに狙いを定め、得意の挑発と少し上手になった剣の精霊の召喚で倒していく。うん。なかなかイイカンジ。 最初からここに来ればよかった。やっぱりわたしにはテラサンだよね♪
 瀕死のアベンジャーが坂を下って逃げようとした。丘の上で戦っていたわたしの視界から見えなくなる。 仕方ないので丘を駆け下り、池の縁に飛び上がった。
 アベンジャーの見える位置に移動するために、狭い池の縁を歩く。ところが。あぅ。そそっかしいわたしはそのまま馬 もろとも縁からすべりおちてしまった。
 しまった。あわてて、あがろうとしたけど、もはや手後れ。他の蜘蛛に襲われて死亡。あぁぁ。馬も死亡。あぁぁぁっ。
 近くにいた人に蘇生と荷物の回収をしてもらった。先ほど倒したモンスターからのお金の一部をお礼をこめて皮袋にいれて手渡した。
 30分もしないうちに馬を死なせてしまった。ひどくショックだった。狩りを再開する気になれず、デルシアに戻った。
 銀行の前のベンチに腰をかけて、道行く人達を見るとも無しに眺める。デルシアは街のそばに調教師の訓練に最適な牛や 鹿の群れが多いせいか調教師がたくさん訪れる街。修行の一貫として馬を調教する人が多いから、馬も首都とは比べ物に ならないほど安く売られてるし、無料で譲る人もいる。そのせいかこの街では徒歩の人がびっくりするほど少ない。
 今日はすでに二頭愛馬を失っている。わたしには乗る資格なんてかもしれない。調教師として、愛馬を死なすなんて最低だもん。 それでも馬を見つめているとやっぱり恋しくなる。結局また街の外で馬を調教して街に戻ってきた。
 死なせたくないから乗らない。そうきっぱり決心がつかない自分が情けなかった。

第132回 近況
 故郷を離れ、ブリタニアの街に来てからどれくらい経ったのかな。最近ふと振り返るとそんなことを思う。
 わたしがこの街にやってきたときは、確かに冒険初心者で膨らむ夢に心は弾んでいた。
 あれからいくつもの昼と夜が過ぎて・・・。
 ふぁ。長い長い夢を見てたみたい。部屋に差し込む太陽が室内にまぶしい陽光を届けている。さて、仕度して今日も修行に 行かなくちゃね。
 今日は何を着ようかな。ギルドメンバで仲良しトリオであるしーちゃんことしのぶとパトラちゃんことクレオパトラの二人から 「かわいい」って言ってもらえるようなファッションでないと、ね。
 お部屋の脇につないであるナイトメアに声をかける。
 「おはよ〜、パール」
 いななく声は相変わらずキゲンがよろしくない。
 「あや、相変わらず懐いてくれないんだからぁ」
 親友のレビアがプレゼントしてくれた長いたてがみを持つナイトメアは、主がわたしなのが頼りないらしくて、 乗りはじめて一月は経つというのにちっとも懐いてくれない。馬の姿をしたモンスターだけど、わたしにとっては 今や大切なパートナーなんだけどな。
 気を抜くと野生化してギルドハウスで大暴れしてしまう恐れがあるので、生肉を与える。肉食の馬ってあたりがモ ンスターであることを改めて思い出させてくれるんだけどね。
 階下の居間には誰もいない。表で話し声がするから、みんな外にいるんだろう。わたしの愛するギルド 「LOVE☆BITES」もメンバが日々増殖し、もうすぐ40名に手が届きそうな勢いなの。おかげでわたしの仕事も 増えて毎日大忙し。あのね、一応わたし、これでも大幹部なのです♪マネージャー兼広報担当デス。えへ。
 表にでると案の定ギルドメンバがおしゃべりに興じていた。
 「おはよ〜、ぺこ」
 「おはー」
 「ぺこさん、おはようございます」
 笑顔と一緒に飛んでくる挨拶が嬉しい。ここにいるみんながわたしの家族。
 『ギルドハウスにさ、こんなにいつも人が集まるギルドってなかなかないとそう思わないか?ぺこ』とっても嬉しそうに呟いた 隊長の顔が過ぎる。「家族」みたいなギルドにしたい。その言葉通り素晴らしく居心地の良い場所になってる。 みんなの笑顔がそれを物語っている。
 新人さんを連れてダンジョンに出かけるみんなを見送り、わたしはギルドの公務を片付けた。スカラブレイの厩舎に預けてある インディやドラゴンの様子を見にでかけたあと、遅めの昼食を摂る。
 のんびり、のんびりわたしの一日が過ぎていく。ここからいろんなドキドキがまた始まろうとしてる。

第133回 居候
 ギルドハウスで久しぶりのお休みを満喫していたところに船長から連絡が入った。わたしと船長はとっても仲が悪い。 この世で一番相性の悪い相手と言っても過言ではないくらい。
 あんまりケンカばかりしているせいか隊長に注意されてしまった。おかげで一時停戦中なのだけど。
 停戦してみると、案外悪いやつじゃないってことが分かった。 
口も悪いし、態度も悪いし、性格も悪いけど、ね。(こだわってる)
 その船長の連絡を受けて、フェルッカのデュエルPITにやってきた。大きな斧を担いだ男が立っている。そのそば近くに行く。
 「船長」
 「お。ぺこ、すまんな」
 「ううん。いいけど」
 ゲートを出してわたしの家に向かう。
 「ここか?」
 「うん。これ、鍵と家のルーンね」
 そう言って作ったばかりの二つを手渡した。
 「悪ぃな」
 「いいって。好きに使って?」
 「おぅ、そうする」
 今フェルッカを席捲している派閥に参戦するために、つい最近船長はギルドを抜けたの。デュエルPITで修行を積んでから 参戦する予定みたい。
 で、その間わたしの家に居候させてほしいって言われたんだよね。
 これ以上にない用心棒が住むことになるね。仲が悪いけど、わたしは船長を信用してる。それは感覚の問題なので、 理由を訊かれても困るの。
 わたしのかわいいお部屋で性格もかわいくなるといいな。笑。

第134回 お正月
 新年が明けた。このブリタニアも新しい年を迎えたのね。
騎乗で参詣ごめんなさぁぁい。  われらが主。ブリタニアを治める王ロード・ブリティッシュの象徴獣は銀蛇なんだよね。だから銀蛇なのかなぁ。
 お正月といえば初詣。ということで、わたしものんびり初詣に行くことにしました。
 故郷の着物は生憎持っていないので、最近お気に入りのメイドさんファッションに身を包んでおでかけ。
 即席の神社は、首都ブリテン西の森の一角にありました。参詣客もまばらで、元旦当日とは打って変わって静かな参詣になりそう。
 入り口の巫女さんに挨拶をしてから、中へ。正面に銀蛇が厳かに鎮座しています。う〜、普段あんなに大嫌いな銀蛇も こうしてると神聖に見えるような気がする。まさか攻撃してこないよねぇ!?
 故郷の干支で言えば、今年は巳年。銀蛇がいるのもわかる。だけどホントにそういう意味なのかなぁ。
 とりあえず。おみくじでも引いて帰ろうかな。珍しく単独行動なんだもん。淋しいなぁ。大好きなレビも、 しーちゃんもみ〜〜んな外出してたんだもの。
 巫女さんからサイコロを手渡され二つのサイコロを同時にフる。あ、1と1だ。なんか良いかも。
 「えと、11お願いしま〜す」
 「11ですね。大ハッピー。あなたの今年は大好調の一年です」
 うれしいな。今年は素敵な一年になりそうだわ。
第135回 特攻
 もうすぐ時間だ。隣にいるぴょんに声をかけた。
 「そろそろだから、ベスにゲート出して?」
 「了解」
 ヒュンッと虫の羽音のような音が聞こえて、青いゲートが目の前に現れる。ぴょんに続いてゲートをくぐった。
 ゲートはとある小さな魔法屋の店内に開かれていた。扉のほうに向かい集合場所であるベスパー銀行へと急ぐ。 そう。今わたし達がいるこの街はベスパーなの。
 「お、集まってるね」
 「ん」
 表通りに近づくにつれ、人々のざわめきが一際大きくなる。銀行の入り口に30人ほどの人だかりが出来ていた。 全身を防具に身を包み、手に手に武器を持った屈強な男女が集まっている。同じギルドのメンバの姿も見えた。
 普段は静かなこの街とは打って変わって騒々しい。人々が何事かと足を止めては立ち去っていく。
 「間に合ったみたいね」
 誰ともなくつぶやく。そして、
 「ジョー、どこ?」
 きょろきょろ辺りを見回しながら、人だかりの中から今日の主催者の顔を探す。
 「ぺこ、ここだよ」
 人込みからジョーが抜け出してきた。
 「ごめんね、今日は」
 「いいって。今日はぴょんと二人で蘇生担当させてもらいます。よろしくね」
 「ありがとう」
 ジョーの言葉にぴょんと二人頷いた。今日はこれからイベントがあるの。
 題して、「戦士限定黒閣下突撃イベント」。つまり。ブリタニア最強のモンスターである黒閣下こと黒デーモンを 戦士だけで倒そうっていうイベントなの。魔法の使い手でもある黒デーモンは一般的には戦士の狙う獲物じゃないんだけど、ね。 間違いなく近づいた瞬間に瞬殺されるだろうことは予想されるんだけど、ね。ま、お遊び企画かな。
 で、多数の死者が出ることだけは間違いないので、蘇生要員として、魔法使いのわたしとぴょんが同行することになったの。 今回は完全にサポート要員で外野です。さみしい。わたしも参加する側がいいのに〜。
 ベスパー銀行から開会式を行うユー裁判所へとゲートで移動を開始する。全員が移動したのを確認した後、わたしとぴょんも 銀行をあとにした。
 ユーの街から南西の方角に裁判所がある。長椅子に腰掛けた参加戦士達を見回しながらイベント企画者のジョーとその友人が 壇上で開会の挨拶を告げた。
 緊迫感漂う部屋の隅でわたしとぴょんは、司会の挨拶も聞かずおしゃべりに興じていた。
 「ぺこ、今日のイベントってどこでやるの?」
 「ん〜。どこだったっけな」
 「閣下だったら、蜘蛛城かヒスロス島の3階か4階だけど」
 「だね。たぶん、ヒスロス島の3階じゃないのかな」
 「だな。蜘蛛城なら沼に誘えば迷惑じゃないけど」
 「うん。ほかの人の迷惑にならないトコだと思うから」
 「3階だな」
 「ぴょん、ルーンある?」
 「あぁ、あるよ。先に安全圏に移動しとく?」
 「ん。でもゲート出す係りにもなってるから」
 「あ、じゃぁ、先行っとくわ」
 「え〜っ」
 思い切り不満を現した表情をぴょんに向けると、やれやれと言う感じで首を左右に振る。
 そこにジョーがやってきて、わたしにルーンを手渡した。小さく黒閣下と刻印されていた。
 「これ、ルーン」
 受け取りながら、ジョーに訊ねた。
 「もうゲート出していいの?」
 開会式をちっとも訊いていなかったことが丸分かりの質問にもジョーはにこやかに答えてくれた。
 「うん。頼む」
 「おっけ」
 ルーンを握り締めて、ゲートを開く魔法の呪文を唱える。裁判所に青いゲートが出現した。この先は地獄のダンジョン 「ヒスロス」の黒閣下の座す
部屋へと続いている。
 気合の入った戦士達が次々に吸い込まれていく。その中に親友のしーちゃんことしのぶを始め、ギルドの仲間達船長、 たじりん、としりんが見えた。最近ギルドに入ったばかりで、わたしと妙に気の合うゆうの姿もみえた。 って、ゆうちゃんは魔法使いなのに、なんで??
 全戦士をゲートで輸送し、最後にぴょんと二人で現場に向かった。
 ヒスロス3階の魔法陣の間。黒閣下が光臨する場所。送り届けた戦士達と数分しかかわらないというのに、 すでに黒閣下はその巨躯を地面に横たえていた。
 「あ、終わってる」
 「あの人数だしな」
 「ん。でも・・・」
 「死者もいっぱいだな」
 「・・・ね」
 戦闘の終わった広間で、間違いなく閣下に瞬殺されたと思われる死者の群れを一人一人蘇生していく。 その中にはもちろんギルドの仲間達もいた。
 「近づいた瞬間に殺られた」
 豪快に笑いながら、船長がそのときの様子を話してくれた。そこにゆうちゃんが近づいてきた。
 「ゆうちゃん・・・」
 「3人蘇生したよ。手伝おうと思って参加したの」
 「ありがと。助かるよ」
 「ありがとー。うれしい、ゆうちゃん」
 「いえいえ」
 そこへ、
 「すいません」
 会話に割り込むように男性が近くによってきた。イベント主催者の一人だったような・・・。
 「ダスタードのルーンあります?」
 「あるけど」
 ぴょんが頷く。
 「じゃ、ゲートお願いします」
 あっけなく閣下との戦いが終わったので、今度はダスタードで古代竜を狩ることにしたのだという。ロクなことを考えないヒトだな。 わたしも行くんだよね、蘇生担当だもんね。・・・・・。
 ぴょんがダスタードの入口に出したゲートに閣下を倒して更に盛り上がる戦士達を見送りながら、ため息をついた。
 「ぺこ、悪い。先行ってて?」
 「えっ!?」
 「ここの片づけ終わらせていくから。頼むよ」
 「ん。・・・わかった。入口で待ってるね」
 やっぱり行かないとダメなのね。。ダスタード竜の棲むダンジョンの入口に続くゲートを見つめるわたしの顔はかなり 憂鬱そうにみえたと思う。来るたびに死んでるのに。また死ぬのかな。
 今死んだらレビにもらったこのメアまで死なせてしまうのに。それだけがヤなんだけど。パールと名づけたその愛馬に、 わたしがとても大切に乗っていることをレビは殊のほか喜んでくれた。パールが死ねば、レビも哀しむ。 わたしはレビの哀しむ顔を見たくない。
 「あっちは片づけてきた」
 ぴょんが姿を見せた。
 「あれ、ほかの人は?」
 ダスタードの入口の前に人影がないことに気づいたぴょんが訊ねる。
 「喜んで、入っていったけど?」
 「あら。じゃ、僕たちも行こうか」
 「・・・。行きたくないなー。ここ来る度に死んでるんですけど」
 「今日は僕が守るから心配ないよ」
 ぴょんの笑顔に肯きつつ、
 「ホントに。信じてるからね」
 じーっと見つめて、念を押した。メアが死ぬのはヤなんだもん。でも。ぴょんと一緒だと大丈夫って思える。フシギ。
 古代竜のいる最下層に通じるスロープのそばにゲートを開いてもらった。下に行こうとするわたしにぴょんが言葉をかけてきた。
 「ぺこ、不可視魔法のアイテム持ってる?」
 「え、うん。この間ぴょんがくれたブレスレットならあるけど」
 「おっけ。じゃ、大丈夫だね」
 「うん♪」
 古代竜のブレス攻撃をかわすには、不可視魔法を唱えるより、その効果がついたアイテムを身に付けるほうがすばやく 身を守ることができるのだ。古代竜相手だと、魔法を唱えてる間に殺られちゃうからね。
 古代竜はまだわいていないらしく、今か今かと戦士達が血気盛んに吠えていた。・・・元気だわ。
 反対にわたしはぴょんのそばにくっつきながら、すでにビクビクしていた。ここと上の階はわたしが確実に死ぬトコだからな〜。
 黒い翼の古代竜が戦士達の向こうに見えた。よりにもよって古代竜の中でも最強の黒竜。怒号をあげながら竜に向かっていく 戦士の後ろ姿を確認しながら、わたしとぴょん、ゆうはさっさと不可視魔法で姿を消した。
 姿の見えないわたしがまるで見えているかのように黒竜はわたしの真横でその歩みを止めた。近寄る戦士達をそのブレスで あっさり昇天させていく。累々と屍が重ねられていく。
 うー。アイテムの効果時間がきれたら、わたしも死ぬな。
 『ぴょん、助けてよー』
 クリスタルでぴょんとコンタクトをとる。
 『ぺこ、一気に左下に向かって走るよ?そっちのほうが安全だから』
 『ん。わかったー』
 黒竜にターゲットされるより速くメアを叱咤して、ぴょんとともに安全圏に逃げる。わたし達の姿を認めた幽霊の列がわたし達を 追いかけてくる。ちょっとコワい。
 そうして、黒竜が倒されるまで、離れたところで見物した。その後幽霊のすべてを順番に蘇生する。
 「やっぱりドラゴンのブレスすげーなー。逝った」と笑いながら話す戦士達。ぜんぜんこりてない。戦士っていったい・・・。
 閣下、古代竜と倒した戦士達の興奮は最高潮に達していた。スロープを駆け上がり、上の階の竜たちを倒しにいってしまった。 必然的に、わたしとぴょんも上に向かうことになる。スロープをあがったわたしの目に映ったのは二頭の赤竜と二頭の影竜 そしてワイバーン。竜わきまくり(涙)。
 調子にのっていた戦士達など、多数の竜の相手ではなかった。次々に昇天していく。もちろんこうなるとわたしもヤバい。 即、不可視アイテムで姿を消す。
 そして竜がわたしと反対のほうを見た瞬間ぴょんに連れられて、岩の突出した影に移動した。
 「これは、ヤバい。ぺこはここにいて。僕がなんとかするから」
 そう言って、死者のもとに走っていく。
 岩陰でぼーっと竜の一方的な殺戮を見つめていると。むずむずと倒したくなる。でも手出ししちゃだめなんだよね。 死者の数が増えて、みんなを助けてるぴょんに迷惑がかかっちゃうもん。
 そのとき。目の前に一人の幽霊が姿を見せた。
 「しーちゃん!?」
 「OoooOoOo」
 しっかり殺られたんだ。愛馬の乗りラマは無事みたい。幽霊のしーちゃんの横に忠実に立っている。しーちゃんの蘇生を終え、 荷物回収まで見守った。
 「ありがと、ぺこ」
 ここだけのほほんとした空気が流れる。
 撤収の声が聞こえ、ぴょんが出したゲートにボロボロの戦士達が入っていく。見事に竜の数に負けたのね。
 またダスタードの入口に戻った。残りの幽霊達の蘇生をするわたしとゆうちゃん。
 「全員の荷物回収するから、コカムさん手伝って」
 ゲートからぴょんの姿が一瞬現われ消える。ギルド「天国騎士団」のコカムさんを死者の荷物回収のために応援に呼んだらしい。 よくみると、その横にぴょんの一番弟子のバイオくんまでいる。
 みんなの荷物の回収までフォローするあたりがいかにもぴょんらしかった。
 三々五々解散する戦士達を見送りながら、ぴょん達が帰ってくるのを待つ。
 と、ジョーがやってきた。心底疲れた顔をしている。
 「ぺこ、今日はありがとう。いろいろ勉強になったよ」
 「いえいえ」
 「ぺこがいつもイベントやってるのがどれだけタイヘンかよくわかった」
 「うふふ。馴れだよ。また手伝うから。ね?」
 「ありがとー。さっきから文句がいっぱい来てて、、あはは」
 じゃぁ、と手を挙げて去っていくジョーの顔に縦線が入ってるみたいに思ったのはきっと気のせいじゃないはず。
 ギルドの面々の姿を見つけ声をかけた。
 「みんな、おつかれさま。どうだった?」
 「逝った。2回」と船長。としりん。
 「3回」と、しーちゃん。
 「4回」とタジ。
 あはは。よく死んだなー。
 「おつかれー。荷物全部回収したよ」
 今日のホントの功労者が笑顔でこっちにやってきた。
 「ぴょん、おつかれさま。手伝ってくれてありがとう」
 「サポートのプロだからね」
 ぴょんの言葉にギルドのみんなが微笑んだ。