吟遊詩人な日々
第128回 オーバーブルー
 ブリテン第2銀行前で2銀ズの面々と楽しく過ごしていた。
 すると。突然おばぶことオーバーブルーが街にナンパに行くと言い出した。ナンパ用衣装と思われるファンシーマスクと ローブを身に纏って怪しさ炸裂である。
 「彼女、海の見える別荘でお茶しないかい?ケーキもあるよ」
 ナンパのキメ台詞らしい言葉を呟く。それを見たレビが冷ややかに言った。
 「そんなことしたら、リザ、オレが貰うぞ」
 リザさんはおばぶの奥様である。
 「いいよ。上げる。いらん」
 「ぐは」
 あっさりしたおばぶの言葉にその場にいた2銀ズ全員ずっこけた。
 「そのかわりぺこ貰うから」
 そう言ってわたしのほうを向く。
 「ぺこ、『海の見える別荘でお茶しないかい?ケーキもあるよ』」
 「きゃぅん」
 「てめ、ぺこに手出したら殺す!!」
 殺気立ったレビがおばぶに魔弾を撃った。おばぶも負けじと弓で応戦する。2銀ズの面々はおもしろがってやんやの喝采。
 で。わたしはというと。
 レビが男性だったら、感動的な場面だったんだろうなぁ、なんて。のんきなことを思ってたのでした。

第129回 トレハンフェルッカ編
 ギルドハウスにコウが遊びに来た。
 ちょうど居合わせたしーちゃん達も交えて楽しくおしゃべり。新メンバの中では一番仲良しのしのぶ。コウがいなかったら、 彼女と出会うことも、こうして同じギルドで過ごすこともなかったんだよね。そう思うと、人の縁って不思議。
 突然、コウが緊迫した声でわたしを呼んだ。
 「ぺこっ」
 「はい?」
 「裸戦隊から緊急集合がかかった。行くぞ」
 言い終わらないうちに、椅子から立ち上がって身支度を整え始めた。状況の把握が出来ない。かろうじてコウに訊き返した。
 「え?わたしも???」
 「当たり前。ほら行くぞ」
 身支度を終えて玄関に向かいながら、当然と言った表情でわたしを呼ぶ。なんだかよく分かんないんだけど。 とりあえず承諾の返事をした。それからしーちゃん達に留守を頼む。
 「じゃ、行ってきます」
 「うん、いってらっしゃ〜い」
 「そのまま裸戦隊に入っちまえ」
 ・・・キール。ホントに口が悪くなったね。船長以上だわ。
 表に出ると、コウがフェルッカ石を取出して、地面に埋め込むのが見えた。
 ゲートが現れるのを待つ間、疑問がアタマに次々と浮かぶ。緊急招集って何だろ。何でわたしも行かないとダメなんだろ。 う〜、わかんないな〜。
 フェルッカに続く金色のゲートを抜け、更に北極に向かうそれを抜けて、裸戦隊ギルドハウスに到着した。 堅牢な石造りの巨大な塔が威容を誇っている。
 銀行に行くと言ったコウと分かれ、一人玄関に向かう。挨拶をしながら重い鉄扉を開けた。
 「こんにちはぁ」
 「いらっしゃ〜い」
 中にいたのはカワさんだけだった。椅子から立ちあがって、わたしを迎えてくれる。緊急と言ったわりに人が少ないな〜。
 わたしの前で立ち止まってカワさんがこう訊ねた。
 「ぺこさん、ホントに行くの?」
 「え?」
 何のことだかさっぱりわからない。顔に疑問符が貼りついていたのかな。カワさんが更に言葉を継いでくれた。
 「トレハン」
 「え?え?えぇ〜〜〜っ?」
 トレハン!?緊急ってトレハンのメンバ募集?コウってば何も言ってくれないんだもん。
 「あの。緊急集合がかかったってコウが言ったから一緒に来たんですけど。えと、トレハンのことだったんですか?」
 「え?つかね、今日のトレハンの企画を立てたのはコウなんだけど」
 「えぇっ!?」
 予想していなかったのでとっても驚いてしまった。それならそうと言ってくれればいいのに。
 コウってば、どうして「緊急集合」なんて言ったのかな。狩りに誘われたのを三回連続で断ってるからかな。
 今度もまた断ると思って、黙ってたのかな。でも。トレハンは好きだし。今回はおつきあいしよ〜。
 あ。フェルッカでのトレハンは初めてだ。
 トラメルよりもキケンな香りがした。
 今日のトレハンのメンバが揃い、それぞれが思い思いの席に着く。
 かばんから地図を取出して、コウが説明を始めた。ホントにコウの企画だったんだ。
 今回のトレハンはレベル2の地図が数枚用意されていた。レベル3とは違い、出現するモンスターは大したことはない。 ただし他の人達にとっては、ね。わたしの場合は命懸けだったりして。
 参加メンバは、またさぶろうさん(地図解読&宝箱堀)、しけるげへんさん(戦士)、リノアさん(魔法)、コウ、 ぺこ(吟遊詩人)となってます。
 またさぶろうさんが地図の解読に取り掛かっている間に、わたし達はトレハンに行く準備を整えた。
 テーブルに向かっていたまたさぶろうさんが顔を上げた。解読が終ったみたい。
 宝箱の場所に一番近い所のルーンを使って、リノさんがゲートを開く。ここからは徒歩で移動する。
 よく考えると、街の外を歩くのは初めてだった。いつPKが出現してもおかしくないんだ。 ドキドキするわたしを余所に、みんなは談笑しながら前を歩いていた。
 みんなを見失わないように気をつけながら、周囲の景色を見渡した。殺伐とした風景だった。枯れた大地。枯れた木々。 トラメルの緑豊かな世界とはあまりにも対照的。
 先頭を歩いていたまたさぶろうさんが黄砂で出来た一軒家の前で立ち止まった。その家の戸口からまっすぐ3歩進む。 行き当たった枯れ木の根元をじっと見つめる。
 満足そうに肯いた。どうやらあそこがポイントだったらしい。
 「じゃ、掘るよ」
 告げて、ツルハシで木の根元を掘り始めた。黒く光る箱が土の中から顔を出す。どんどん掘り進め地中に埋まっていた宝箱が その姿を現した。
 「開けるから、よろしく」
 宝箱を開けた途端。ヘルハウンド。ガーゴイル3体、ゲイザー。オークメイジが次々現れた。
 ヘルハウンドがわたしに向かって唸り声をあげて、襲いかかってきた。手綱を右に左にさばきながら、ヘルハウンドから逃れる。 だけどヘルハウンドの足の速さに追いつかれてしまう。
 「ぐるるるるる。がぅっ」
 あぅ。いやぁぁん。痛いってばぁ。うぇぇぇん。だからレベル2キライなんだってばぁ。リノさんが魔弾でヘルハウンドを 攻撃してくれたおかげで、なんとか無事でいられた。
 「ありがとうございまぁす」
 「うん。よかった」
 やっと落ち着いた。
 ガーゴイルは戦士に任せ、残りのモンスターを煽動することにした。煽動後は、リノアさんと共に魔弾魔法で倒していく。
 結果難なくすべてのモンスターを倒し終わった。わたし以外にはレベル2のモンスターなど物の数ではなかったみたい。
 この調子で全部の宝箱を無事に手に入れ、抱えきれないほどのお宝をギルドハウスに持ち帰った。
 1700Gのお金を渡された。しかも今回は秘薬の消費量が少ないから、思いっきり黒字だ。それから宝石も貰った。 更にトレハンでは目玉賞品とも言える不可視魔法がかかったブレスレットまで譲り受けた。
 だから、他のすべては放棄しました。だって十分だもん。今回のトレハンも大成功でした♪コウ、誘ってくれてありがと〜。

第130回 結婚式
 フェルッカのトリンシック近くの自宅で、わたしは焦っていた。セキュアになおしてある洋服を片っ端から試着しては 脱ぐを繰返している。
 散々迷った挙げ句、結局コウから貰った青いドレスにした。あ。時間が。早くしないと間に合わな〜い。
 馬の乗り入れは禁止って聞いてるから。インディ。お留守番しててね。じゃ、いってきま〜す。
 ブリテン第2銀行にリコールで移動し、そのすぐ近くにある噴水のある公園まで走った。
 「あ。ぺこさん」
 わたしに気づいたかわたろうさんが手を振ってくれる。
 かわさんの目の前で止まった。肩で息をしながら、少し呼吸を整える。はぁ。はぁ。
 「このたびはおめでとうございまぁす」
 今日はわたしの師匠ことはて〜さんとリノアさんの結婚式なの。同じギルド仲間同士の結婚なので、とってもおめでたいです。
 結婚式はニュジェルンの街にあるニュジェルンパレスで行われるんです。会場までは同じギルドの人達がゲートタクシーを してくれるんだって。で、集合場所はここ。
 公園に集まる顔触れには知らない人もいるわけで。そうなるととりあえず挨拶。
 「はじめまして」
 「あ。はじめまして〜」
 「ぺこ、です。よろしくお願いしまぁす」
 ゲートタクシーを利用してニュジェルンパレス前に移動した。入口でかわたろうさんから式場内での注意事項が告げられた。
 私語厳禁。動物乗り入れ禁止。酒気帯び禁止。ポーション禁止。魔法禁止。戦闘禁止。召喚禁止。騒ぎを起こさず、ってことですね。
 「えと。右側ギルメン座ってください。もちろん裸ね。一般の人は左」
 最後の言葉に全員が大笑い。
 「さすが裸戦隊」
 「右に座ったら、オレ達も脱ぐのかな?」
 「かもね」
 特に座席が決まっていたわけじゃないので、左側の空いているところに腰を掛けた。
 全員が着席した。静まり返ったパレスにカウンセラーの声が響く。
 「始めます」
 その声と共に裸の新郎はて〜さんが祭壇の前に立った。
 そして入り口の扉が開いて、ギルマスげんじいさんに付き添われた花嫁リノアさんが静かにバージンロードを歩む。
 花嫁は草色のワンピースに同色の帽子。キラキラとまばゆいアクセサリーを身につけていた。噂のブライダルハウス 「プリンセス ア・ラ・モード」のデザインらしい。今日のリノアさん。一段とキレイだ。
 はて〜さんの傍らに立って、カウンセラーの読みあげる言葉に耳を傾ける。
 そして。宣誓と指輪の交換。
 「はてー、汝病める時も健やかなる時もリノアを愛することを誓いますか?」
 はて〜さんが頷く。
 「リノア、汝、病める時も健やかなる時もはて〜を愛することを誓いますか?」
 リノアさんが頷く。
 「では最後に誓いのくちづけを」
二人の顔がゆっくりと近づき、やがて長く延びたシルエットが重なった。
 「ここにめでたく二人は夫婦となりました。二人に神の加護とロードブリティッシュの祝福があらんことを」
 カウンセラーが退場したあと、参列者から祝福と拍手が鳴り響く。魔法使いたちは祝福の魔法を唱える。
 「おめでと〜」
 「おめでと〜」
 「浮気するなよ〜」
 二人が腕を組んでバージンロードを出口に向かって歩いていく。参列者は我先にと移動し、出口に整列した。
 とってもしあわせそうなお二人にとっても感動しちゃった。引き出物に「フェルッカデートスポットルーンブック」を 頂きました。これでわたしもデート場所だけはいつでも行ける〜。
おめでとうございまぁす♪
 ここまではハッピーエンドなお話。余談です。

 「ホントにどうもありがとう」
 「ささやかですが二次会を用意してますので、時間がある方はどうぞいらっしゃってください」
 その言葉を額面通り受けとって、入っていく人々。
 わたしは行き先を知っていたので、敢えてゲートに入らないつもりだったのに。
 新郎になってしまったはて〜さんに「ぺこも入れ!!」と強く言われ、泣く泣く地獄への門を潜った。
 え。行き先はどこだったかって?竜のダンジョン。ダスタード。しかも入り口から入って最下層の古代竜まで移動する旅。
 ドラゴン達も二人を祝福したかったらしく、入り口に入ってすぐのところからドラゴンが溢れかえっていたし。
 「ぺこ、つっこんでこ〜い」と本日の主役に言われ、ホントにつっこんで、死んだし。
 と。楽しい2次会でしたよ(泣)。
 末永く、おしあわせに。お師匠様。リノさん。
 ぺこの式のときはよろしく〜。