吟遊詩人な日々
第125回 クラフト工房
 最近家の模様替えをしてる。女の子ぽい内装にしようと思って。お花を飾ったり、小物を飾ったり。かわいくしたいな。
 とりあえずテーブルをもう少し大きいものにしたいから。まずは家具を買いに行こう。家具といえば、ざなちゃん・・・。
 ざなちゃんはグランドマスター大工で、「ざなのクラフト工房」っていうお店を開いてるの。いろんなものを手作りして 販売してるんだよ。
 ざなちゃんのお店に行くのは久しぶり。あの日以来、逢っていないし・・・。
 お店に着いた。店員さんにざなちゃんが作った家具を見せてもらう。
 ざなちゃんらしい丁寧な造りで、優しくて温かかった。木材そのものの温かさを示したいと言って、色付けをした商品は 一切置かなかった。
 そのポリシーを話してくれた時、ホントに木を愛してるんだなって。ますますざなちゃんが好きになったことを思い出した。
 どうしよう。どれにしようかな。どの商品にも「Zana」と刻印が入ってる。手で撫でると胸が傷む。
 「ぺこ。こんにちは」
 「えっ!?」
 不意に優しい声が聞こえた。声の聞こえたほうを向くと、扉の前にざなちゃんが立ってた。
 「ざなちゃん・・・」
 変わらない笑顔がそこにあった。
 『ずっと友達。親友だよ』
 あの日のざなちゃんの声が耳元で聴こえた。自然と笑顔がこぼれる。
 「こんにちはぁ」
 ざなちゃんがわたしを見てる。あの時の言葉通りに。嬉しかった。
 「お家に置くテーブルセットを買いに来たの」
 「うん。いろいろあるから。どんなのがいい?」
 「ん。優しい感じのがいいな」
 「えと、じゃ、これかな?」
 角の丸いテーブルと背もたれ付きの椅子。
 「うん。これにしよっかな。えと、いくらかな?」
 「ロハでいいよ」
 「ロハ?」
 「タダってこと」
 そういって、ニコニコ笑う。
 「だめだよ。ざなちゃんはお商売してるんだから。材料費だってかかってるでしょ?払うよ。払わせて?」
 手をブンブン振りまわして、必死で断った。そんなことしたら、お商売にならないよ。
 それでなくても、このお店はやたらと低料金で、儲けなんてあんまりないくせに。ブラックが経営タイヘンそうって心配してたこと、 わたし知ってるんだよ。親友のことなんだから。
 「もう。ぺこってば。水くさいな〜」
 わたしの顔を覗き込みながら、
 「友達なんだよ?お金なんてとれないよ」
 「・・・ざなちゃん」
 「ね?」
 じっと見つめられると心の奥まで見透かされそうな優しい瞳。
 「・・・うん。わかった。ありがと」
 頷いて、
 「じゃ、今度板集めて持ってくる。それなら受け取ってくれるでしょ?」
 「うん。ありがと。ぺこ」
 うん。いっぱい集めてくるわ。材料になるように。木こりに転職したっていい。ざなちゃんが喜んでくれるなら。
 ずっと友達でいようね。大好きだよ。ざなちゃん。

第126回 タウンクライヤー
 海の上にタウンクライヤーが立っていた。体重をまるで感じさせずに。いったい何をしてるんだろう。 というかなんでこんなとこにいるんだろう。
 タウンクライヤーとは銀行の前に立って、ブリタニア中の出来事を知らせる人間。モンスターの情報だったり、 お祭りの情報だったり、いろいろだけど。最新のニュースはタウンクライヤーに聞けばたいてい分かる。
 だから普通は街の中にいるんだけど。街の外。しかも海の上にいるのは、普通じゃない。というよりは異常。
 ねこの舟に乗って、見物に来たけど、いったいこれはなんなの?
 とやっぱり最初に思った疑問がアタマによぎる。
 ねこが舟でお散歩中に偶然見つけたの。で、ねこの協力要請を受けてここにきたの。何を協力するかって?それはね。
 「タウンクライヤーってなんか持ってるのかな」
 ねこが呟いた。
 「ん。どうかな」
 「マジックアイテムとか」
 「・・・うん。マジックアイテムとか、ね」
 絡み合った視線の先にはタウンクライヤー。
 まずは魔弾。うわぁ、ダメージほとんどなし。
 「推定、STR(HP)2000」
 そうなんです。ねこがどうしてもタウンクライヤーを倒したいというので協力にきたんです。
 魔弾が効かなかった。今度は威力を上げて、火柱を起こす。それでもほんの少しのかすり傷。む。
 じゃ、最大攻撃魔法流メテオ!!先ほどより少し上回った程度。強い。
 「ねこ、強いね」
 「でしょ」
 「ん〜。みんな、呼ぶ?」
 「うん。呼んで」
 というわけで。連絡がつくすべての仲間達に緊急連絡。
 『タウンクライヤーを倒す人募集。参加者はブリテイン第2銀行に集合』
 この言葉に、レビ、しーちゃん、いぐあな、ヘブンが来てくれた。
 舟から2銀に逆ゲートを開く。舟側で開いたゲートに2銀から入ってもらうの。
 「なんで、こんなトコにいるの?」
 やってきたメンバがやっぱり素っ頓狂な声をあげる。そうよね。やっぱりヘンだよね。
 「強いんだよ。全然、ダメージ受けてない」
 「魔法耐性が高いんだよ」
 戦士のしのぶが戦えるように舟をタウンクライヤーのそばにつける。
 彼女が早速切りかかるけど、見る見るしーちゃんが傷だらけになったと思ったら、昇天。あぅ。  蘇生したしーちゃんの第一声は「強い」だった。
 今度はグランドマスター魔法使いのいぐあなが得意の魔法で攻撃。
 「大渦巻は?」
 エネルギーの渦を作る上級魔法を試そうと思ったみたい。でもね。
 「海だから出せない。剣の精霊もね」
 ねこが応える。威力のある魔法が使えないのよね〜。
 「む〜」
 「でも。タウンクライヤー、かばん持ってないからお金すら持ってないよ。倒しても何も手に入らないよ」
 ヘブンがタウンクライヤーをチェックしたみたいだった。っが。
 「洋服があるにゃ」
 ねこがランランと目を輝かせていう。なにか考えてると見た。
 と。毒魔法の呪文が聞こえた。
 「えっ?」
 全員が声の主。レビのほうを向く。そして、すぐにタウンクライヤーのほうを向く。あ、効いてる。
 「やった」
 レビが小さく笑った。
 「盲点だ」
 「そんな単純な方法があったとは」
 魔法を使うねこといぐあながとっても感心してる。
 攻撃魔法はだめだと悟ったメンバはあっさり戦法を変えた。無論、レビの毒魔法がみんなの目を覚まさせたのだ。
 次々に現れる赤デーモン。そう。攻撃魔法がダメなら、召還魔法。それらが全員タウンクライヤーを攻撃する。
 わたしもみんなに倣って召喚したデーモンをタウンクライヤーに向ける。
 デーモンすら海に沈めながら抵抗する彼女。つか、強いわ。ホント。
 だけど、一人で戦う彼女と違い、こちらは魔法使いが4人。しかも召喚するデーモンは複数。
 最終的な勝者はわたし達だった。
 予想通り服以外なにも持っていないタウンクライヤーから服を剥ぎ取り着替えるねこ。誰がどう見ても、タウンクライヤーだ。
 「ブリテイン東の森でお祭りやってま〜す」
 ねこがにこにこしながら叫ぶ。
 舟にいた全員がねこがこれからやろうとしてることに気がついた。
 「1銀行って、ニセタウンクライヤーかぁ」
 「おもしろそ〜」
 「ニセ情報で混乱させようぜ〜」
 こういうときはホント盛り上がります♪
 今日、あなたが見たタウンクライヤーはホンモノですか?

第127回 ミイラ取りがミイラ
 「ダスタード?」
 「そうにゃん」
 久しぶりに狩りに行こうって、ねこが言うからどこへ行くのかと思えば。
 「ちなみに」
 「ん」
 「ぺこちん、煽動使えるよね」
 「うん。・・・?」
 「それ以外効かないから」
 「!?」
 自分が奏でる音楽だけが唯一の武器ってこと。
 「行ったら逝っちゃうもん。だから止めとく」
 せっかく誘ってくれたねこに悪いなと思ったけれど断った。それに今日はあんまり狩りの気分じゃないんだ。
 「竜2。赤デーモン1。マーダー1だよ」
 「・・・。それだけいたら十分逝けます」
 「他に誰もいないし、あんまりわいてないし、大丈夫なのに」
 残念そうな声でそう言って、一人で出かけたねこ。ごめんね。
 何もする気になれなくて、気分転換にユーの森にでかけた。人もあまり見掛けないユーの森の中で、木々の合間を縫うように 建つお店のウィンドウショッピングとしゃれ込む。
 ねこに会うまではムーングロウで新しい洋服を買ったとこだったりして。全体的にブラウン系でまとめた落ち着いた印象で、 なかなか良いんじゃないかなと自分では思っているんだけど。
 優雅に楽しんでいたところ、ねこから連絡が届いた。
 「死んじゃった。蘇生はしてもらったから、荷物の回収頼まれてくれない?」
 「・・・わかった。ダスタードの何階?」
 「んと、二階」
 「了解。すぐ行く」
 とは言え、わたしの持ってたルーンって何階のだったっけ?どうしよ。一瞬考えて、ブリテイン第2銀行にリコール。
 「おひさ〜」
 「こんにちはぁ」
 視界にピンクと水色の乙女が目に入る。
 「こんにちは。お久しぶり」
 こむすめちゃんと・・・えと、誰?
 「りのでぇす。はじめましてぇ」
 「あぁ、りのちゃん?はじめまして」
 この水色の衣装の彼女がりのちゃんか。最近レビのギルドに入ったっていう。
 「レビから聞いてるよ」
 「かわいいってですか?」
 「ううん。強いって」
 「あはははははは」
 「え〜そんなことないですよぉ」
 こむすめちゃんの笑い声と手をぶんぶん振るりのちゃん。デュエルでレビも負けたって聞いたんだけど。
 あ。と、それどこじゃないんだ。時間がない。こむすめちゃんに訊ねた。
 「あの、ダスタード2階のルーン持ってない?」
 「あるよ〜」
 「ゲートお願いできる?」
 「あんなとこ何しに行くの?危ないよ」
 「うん。分かってるんだけど。ねこから荷物の回収頼まれちゃって」
 「あぁ。なるる」
 こむすめちゃんの出してくれたゲートに入る。
 ってねこのうそつきぃ。どこが竜2、赤デーモン1、マーダー1よ?竜10、赤デーモン1、マーダー1やん。しかも最強というか 最凶の影竜までいるし。
 「・・・影竜もいるよ」
 「げ、これはヤバいって」
 つきあって、一緒に来てくれたこむすめちゃん、りのちゃん、ひかりちゃん。速攻全員不可視魔法で姿を消す。2銀ズの友情に 感謝しつつ。彼女たちを巻き込んだことを後悔した。
 姿の消えた状態で竜が飛んでいくのをじ〜っと待つ。待ってるのに、なんでわたしの周りを囲むように着地してるのぉ。 ホンマは視えてて、わざとやってるんちゃうやろなっ?
 魔法の効力が消えた。竜達に包囲されているわたしは逃げる余裕もなく、集中砲撃のブレスで死んだ。あ。ひかりちゃん、 りのちゃんまで。
 なんとか走り回って逃げ回ってるこむすめちゃんが竜の隙を突いてゲートを開く。そこに全員が飛び込んだ。
 2銀にぞろぞろ幽霊が現れる。ギョッとしたように2銀にいた人々がこっちをみる。順番に蘇生してもらう。ふと後ろを見ると わたしと同じ姿をしたねこがいた。ねこ!?蘇生してもらったんちゃうの?
 蘇生が終了した。
 「あれは、キツいね〜」苦笑交じりに呟くのはこむすめちゃん。
 「きゃはははははは。すごかったですね〜」表情も言葉も深刻さとは無縁のりのちゃん。
 「オレは絶対もう行かないっ」怒りも顕わに強く告げたのはひかりちゃん。
 「あぅ。自分の荷物回収するハメになってしまった」これはわたし。
 「ぺこ。インビジ持ってない?」ケロッとした顔でねこが言う。
 「ちょっと待ってね」
 隊長から貰った不可視魔法の効果を持つ指輪をねこに渡す。
 わたしがへっぽこだから、売れば高くつくインビジアイテムをいつも隊長やブラックがはプレゼントしてくれるの。 そのたびに使い切ってしまうわたし。隊長、ブラックありがと。
 「回収行くならわたしも行く」
 ねこと一緒に再びダスタード二階に移動する。心なしかさっきより数が減ったような気がする。ひたすら、回収する。 ほ〜。回収完了。
 帰ろうと思ったら、見知らぬ幽霊さんが。蘇生してあげないと。竜の姿が見えない魔法陣の近くで蘇生を開始する。 っが、そこに紅竜に追いかけられた人が走ってきたもんだから。えぇ、巻き添え喰いました。即死です。ちなみに逃げた張本人は 見事生き残りました。
 その人がゲートを開けてくれたので、とりあえず入る。着いたところはムーングロウ。よく見るともう一人幽霊。 あ、ひかりちゃんも死んだのね。見知らぬ人の友人に蘇生してもらって、お礼を言って。銀行で秘薬をとってきて。 また2銀にいるみんなの元に戻った。
 ひかりは最初の死で秘薬をルートされたらしいけど。2回目の死で懲りたらしい。ぷりぷりしながら、 トレハンにいってしまった。
 わたしがムーングロウで蘇生されてる頃、こむすめちゃん、りのちゃん、ねこ、みんなまた死にまくったらしいことを 3人から聞いた。
 そんなとこにヘブンが来た。安心して涙が出る。
 「ヘブン。ダスタードで荷物の回収手伝って?」
 手を合わせてヘブンにお願いした。呆れた顔でヘブンが言った。
 「なんで、そんなトコいったんだよ?死ぬに決まってるだろ」
 「ねこに回収頼まれて。それで・・・・」
 「あはははははは」
 そんなに笑わなくても。でも快く引き受けてくれた。
 「いいよ。ダスタードの何階?」
 「ん。二階]
 「また、一番わいてるとこに・・・・なんでそんなとこねこは行ったんだよ」
 「それはねこに聞いて」涙目になっちゃう。
 「ま、行ってくるわ」
 手をひらひらさせて、リコールで行ってくれた。
 でもヘブンだけに任せるのはやっぱり気が引けたので、秘薬を補充して、こむすめちゃんにお願いして、ゲートを開けてもらう。
 で、ゲートを開いた場所は茶竜の股下。・・・即死。ゲートがまだ開いていたので、そのまま戻ることにした。 入ってすぐ幽霊になって戻ってきたわたしを見て、2銀にいた全員の顔がひきつる。
 「はやっ」
 蘇生してもらって、叫んだ。
 「だって、ゲートが竜の真下だったんだもん(泣)」
 坂の下からねことヘブンも幽霊になって戻ってきた。蘇生が完了した瞬間ヘブンが口を開いた。
 「ちくしょう。行くぞ、ねこ」
 「回収してやる〜」
 「リベンジ、行くぞ」
 行っても死ぬだけなのに。ちっとも懲りないのは死にマニアギルドのなせる技?
 わたしはもうバカバカしくなってて、荷物のロストを選んだ。というか、とうの昔に死体は消えてるもん。
 荷物のロストは初めてじゃないし。いいんだ。ただ、買ったばかりのお洋服が。いい色だったのに。 まだ1回しか来てないのに。はぁ。
 重いため息をついたわたしの耳に呼び声が聞こえた。誰かがわたしを呼んでる??
 「ぺこさん、いらっしゃいません?」
 「ぺこなら、そこ」
 「わたしですけど??」
 「あ、この荷物あなたのでしょ?」
 そう言って女性が青いかばんを取り出した。
 「あ。わたしのです。え。どうして?」
 「荷物回収したの。だけどあなたを見失ってしまって」
 「それで、ここまで?」
 「えぇ。よかった」
 ラスティネイルさんの優しさがとってもうれしい。ありがとうございました。