吟遊詩人な日々
第119回 天国騎士団
 着いたっ。えと、えと。間に合ったかな。玄関の扉を勢いよく開けた。
 「ただいまっ」
 「お。おかえり。来てるよ」
 隊長の言葉を聞いて安心した。ほっ。
 「ホント?よかったぁ。間に合った」
 隊長の隣にお客様がお二人いらっしゃる。スラっとした美しい女性と穏やかな印象の男性。
 「はじめまして」
 「お邪魔してます」
 お二人の挨拶に慌てて、インディから降りて、こちらも挨拶。
 「はじめまして。ぺこ、です。ずっとお会いしたかったんですぅ(泣)」
 そう。フェルッカの自宅でぼーっとしてたのを跳んで帰ってきたのはそのせい。
 このお二人はギルド「天国騎士団」(ヘブンズナイト)の方々。女性が天国騎士団総帥ギルドマスターのアウシターナさん。 通称ターナさん。男性が騎士団の聖騎士の位にある戦士カムイさん。通称コカムさん。
 「ね、ね。隊長。どこでお会いしたの?」
 「あぁ、デシートの骨部屋でね」
 骨部屋が溜まり場で良かった。
 「おうわさをきいて、ずっとお会いしたかったんですよ」
 「わたし達もですよ」
 えへへ。ここで説明すると。わたしの大好きなぴょんの正式な所属先が「天国騎士団」なの。もちろんぴょんも聖騎士を拝命してる。
 ぴょんがまだ魔法使いとしてヒヨっこだった頃、ターナさんと出会って師弟の契りを結んだんだって。ぴょんから師匠のターナさんや 兄弟弟子のコカムさんのお話を聴くたびに会いたいなって思ってたの。
 天国騎士団の方々のほうでもぴょんからわたしのことを聴いていたそうで、会いたいと思ってくださってたんだって。 いったいぴょんはわたしのことをどんな風に伝えてたのかな。
 本人に訊いてみたいけれど、生憎先日また旅に出てしまって、今はどこにいるのやら。
 わたし達が穏やかに話しているそのうしろで、他の連中はスパーリングに励んでいた。
 「人数多いと賑やかですね」
 「ホントに」
「うるさいばっかりで」
 隊長もアタマをポリポリ。お客様が来てるのに、態度かわんないからな。で、直後いつものごとく死人続出。
 「あ」
 「あぁ」
 すいません。スパーリングで死ぬまでやるのがLB流です。寸止めなしです。お二人が進みでて、蘇生をしてくれる。 あっという間に生き返る。だけど、またも再開したら死人続出。
 「もぅ〜。お客様が来てるのに、たまにはおとなしくして〜」
 とわたしが耐え切れず叫んだ瞬間、ボボボボボッという音とともにわたしの意識が途切れた。ヘブンの笑い声が耳に残った。 殺ったわね。
 やっぱりターナさんに蘇生してもらって、恐縮するわたし。うぅぅ。
 「そんなにお好きなら、私どもの道場お貸ししますよ?」
 「え?」
 「お好きなだけどうぞ?」
 「う」
 スパーリングはともかく天国騎士団の道場を見たかったので、その場にいたみんなでお邪魔することになった。

第120回 天国騎士団道場
 フェルッカのヒスロス島に建つ大理石で出来た素敵な道場。一階に馬を止めさせてもらって、二階の一室で歓談。
 そんなときですら、隙を見て攻撃をしかけてくるヘブン。ヒトサマの家なのに。まったく。
 隊長が「やっとくか?」と言ったので大きく肯いた。これ以上恥はかきたくない。耳ざといヘブンが足早に階下に逃げる。
 「あ、逃げた」
 ターナさんとコカムさんにお騒がせする旨あらかじめ謝罪する。にこにこ「存分にどうぞ」の返事にちょっとびっくり。 おもしろがられてるのかな。
 部屋を出た廊下で不可視魔法を唱えて、待ち伏せする。ヘブンが戻ってきた。隊長とタイミングを計る。っが。 隊長の隠れている位置をあっさりヘブンに見破られた。
 で、逆にヘブンが隊長に攻撃を開始した。しまった。だけどわたしの存在には気づいてないみたい。
 速攻、毒をヘブンに仕込む。解毒魔法を唱え、更に毒魔法で、わたしに毒を仕掛けてくる。こちらも解毒しつつ、毒攻撃。 お互いに同じ攻撃を繰り出す。で、その間に隊長の雷弾がヘブンを狙い打つ。隊長の雷弾をまともに喰らい、慌てて回復図るヘブンに、 わたしが毒魔法を仕掛ける。続いて、ヘブンのマナ(MP)を吸引する。これを続ければ最後には魔法が使えなくなるハズ。
 どう、ヘブン?伊達に対人を勉強し始めたワケじゃないでしょ?
 さすがのヘブンも死にかけ。よし、止めの一発。と思った瞬間、ヘブンが残ったチカラで階下に走り始めた。
 「二人がかりなんて卑怯だぞ〜」
 「ヘブンのほうが強いもん。ハンデ、ハンデ」
 隊長とわたしがにんまり笑顔で応える。
 階下まで追いかけるとドアの閉じるのが見えた。外に逃げたな?隊長が追いかけて行く。でもここに戻ってくる以外ないんだよね〜。 ふふふ、さっそくドア前に張り込むわたし。
 よっぽどおもしろいのかターナさんとコカムさんが一緒に降りてきて、様子を見守っている。
 ヘブンが戻ってきた。逆にすごい勢いで攻撃される。隊長はどこよ?もしかして殺られた?とりあえず二階に逃げて、反撃の準備だ。 っが。間に合わなかった。・・・死亡。隊長がのほほんと姿を現すのが見えた。表情を見て、気づいた。隊長とヘブンが手を組んで、 わたしを攻撃することにしたってことに。むぅ。
  うぅ。ヒトサマの家に死体を置くことになるなんて。礼儀に反してる。恥ずかしい。 蘇生してもらって、とにかく謝った。
 「この上に神殿があるんです。モンスターも出ませんし、もしよろしかったらそちらでやりません?」
 ターナさんの提案に肯くわたし達。ヘブン、仕返ししてやる。

第121回 対決
 ターナさんの言う神殿は別荘を出て、島を北に数分歩いたところにあった。入口と思われる壊れた門扉をくぐった。 むき出しの大地のあちこちからゴボゴボとマグマが吹き出している。熱い。
 目の前には対照的な白亜の建造物。神殿に向かって進むと、神殿の内部から人々のざわめきが聞こえる。参詣客かな。
 「他の方々もやってるみたいですね」
 ターナさんが声の聞こえるほうに目をやる。あぁ、デュエルやってるんだ。
 「では私達は地下に参りましょう」
 そう言って、神殿の右側の門扉を開いて、神殿の横を歩いていく。土を固めただけの階段を降り、ちょうど神殿の 脇腹辺りにある赤茶けた扉を開けた。神殿の内部と思われるその部屋は、デュエルピットとは比べものにならないほど広かった。 ここなら縦横無尽に暴れられそうだわ。
 「でははじめましょうか?」
 ターナさんの言葉に全員が頷く。まずは全員入り乱れての乱戦。最後の一人になるまで戦う。ルールは通常のデュエルと同様で、 召喚魔法及び剣の精霊、ペット使役は禁止。
 参加メンバと攻撃武器は、隊長(魔法&弓)、ヘブン(魔法)、たじりん(剣)、ベル(剣)、キール(魔法)、わたし(魔法)。 ターナさん(剣)とコカムさん(剣)となってます。
 隊長の指示で石壁を出現させる。これが消えたら、戦闘開始。
 わたしが狙うのはヘブンのみ。絶対、さっきの分やり返すんだから。
 壁が消えると同時に、毒魔法をヘブンに向かってかける。続いて、ヘブンに雷弾を撃とうとして、背後にたじりんがいるのに 気がついた。いきなり刀で切りつけてくる。ひっ。間一髪で交わしたが、その振りの速いこと。剣圧で腕からうっすら血が 流れている。
 たじりん、いつのまにこんなに強くなってたのぉ?これはこっちの身が危ない。一気に加速してたじりんの間合いから走り抜ける。 ふぅ。危なかった。これじゃヘブン殺るどころじゃないよ。
 そういえば、ヘブンどこよ?砂煙が舞う室内に目を凝らしてヘブンの姿を探した。あ、いた。って、おいおい。わたしが無事 たじりんから逃げたというのに、ヘブンはコカムさんに斬り殺されてた。あ〜ぁ。わたしより先に死なないでよね、ヘブン。
 戦況を見つつ、次の獲物を物色していると。剣の精霊が現れるのが見えた。え。なんで?禁止だったんじゃ。案の定、突然の出現に 生き残ってた人間は全員パニックになった。一番近くにいた隊長が犠牲になる。
 とりあえず消さないと。剣の精霊を消去する魔法を唱えようとしたわたしの目の前にいつのまにかたじりんとコカムさんがいた。 げ。二人が前後からわたしを挟撃し、あっという間に死亡。
 戦闘が終るのをしばらくゴーストで見守る。
 「隊長、たじりん強くなってましたね。ビックリしちゃった」
 「たじだろ?オレもびっくりした。あそこまでとはなぁ。うかうかしとられん」
 「それにしても魔法使い系は全滅だな」
 ヘブンの言葉に死んだ全員の顔触れを見る。
 「ホントだね」
 「というかさ、戦士相手だと不利だよ」
 「うん。それはそうね」
 ヘブンに相づちを打つ。
 「ところで」
 「なんで剣の精霊出てたわけ?」
 「あ、それだろ?誰だよ」
 「もちろんオレ」
 キールの明解な答えに全員から非難轟々。
 「禁止つったろうが」
 「ダメって言ったでしょ〜」
 「ナニ聞いてたんだよ」
 「おばかっ」
 「そこまで言わなくても」
 キールの一言は黙殺された。
 最終的に勝者はコカムさんとなった。あとで思ったんだけど、もしこのときコカムさんじゃなくて、ベルやたじりんが勝っちゃった 場合、蘇生できる人がいなくて大騒ぎになったんじゃないのかな。
 乱戦だと一番最初に魔法使いが狙いうちされて不利なので、次は1on1で同じ系列同志で戦うことになった。
 「オレ、ぺこと戦いたい」
 ヘブンがすぐに反応した。無論わたしも依存なし。
 「おまえら、ホント仲いいな」
 ち〜が〜う〜。わたしとヘブンが二人で首をぶんぶん、腕をぶんぶん回して、否定するが隊長は笑ってるだけ。うぅ。 最近隊長まで誤解してるような気が・・・。
 気を取り直して。1on1で順番に対戦していく。
 最後にわたしとヘブンなんだけど。どうせなら、ターナさんとコカムさんも一緒に2on2で戦うことになった。 戦士と魔法使いのタッグ対戦。チーム分けは、男女別になった。
 試合開始。当然のことながらヘブンとわたしの真っ向勝負。そして天国騎士団は師弟対決。どちらも激しい戦いになった。 見守っているみんなの口が半開きになってたもの。
 わたしとヘブンはお互いのスキルがほぼ同じだから、マジメにこうして戦うといい勝負になる。ただし、わたしのほうが戦闘ヘタなので、 それで差があるんだけど。結果はヘブン・コカム組の勝利。
 「負けちゃった」
 ヘブンに蘇生してもらって、てへっと笑う。後に遺恨を残さないのが対人戦闘なのだ。
 休憩を取っていると、扉が開く音がした。びっくりして扉のほうを見ると更にびっくり。
 「お師匠さまぁ!?」
 わたしの素っ頓狂な声に全員がこちらを向く。
 「押忍!!」
 威勢の良い声で室内に入ってくるわたしの師匠ことはて〜さん。
 「おすぅ」
 こちらはあんまり威勢のよくないお返事をするわたし。
 神殿に向かう直前にお師匠さまに居場所を連絡しておいたけれど、まさかやってくるとは。だって確かWARをやってたんじゃな かったっけ?
 「ま、いろいろあって。こっちに逃げてきた」
 そう言ってケラケラ笑う。突然の闖入者に唖然となってるみんなにとりあえず紹介しなくちゃね。
 「えと、わたしのデュエルの師匠で、裸戦隊のはて〜さんです」
 そう言うとみんな納得した。
 「あぁ、いつもぺこがお世話かけてます」
 隊長が代表してご挨拶。って、隊長、普通「お世話になってます」じゃないの?「お世話かけてます」って、どういう意味よ。 失礼しちゃう。
 今度はお師匠さまも加わって、対戦。というかお師匠さまの胸を借りて隊長やヘブンが対戦する。結果は言うに及ばず。 お師匠さまは強いんです。
 たくさん汗をかいて、楽しいデュエルを終え、神殿をあとにした。

第122回 失恋
 失恋しちゃった。
 結果はわかってたけど。

 ボーイッシュなしゃべり方も。仕種も。
 ホントに大好きだったの。

 ざなちゃん、これからも大好きな親友でいてください。

 きっと今日の好きと明日の好きは違うから。
 今日は泣かせてください。

追伸。
 隊長、隠行を覚えたらいいよなんて言わないで下さい。
 ぺこ、ストーカーにはなりませんっ。

第123回 愛しさ
 マジンシアの港に着いた。ねこが既に桟橋で待っていた。
 「ねこ、ごめんね。遅れちゃった」
 「慌てて来なくても良かったのに」
 「ん。でも、ね」
 一番奥の桟橋で、静かに釣り糸を垂れるねこ。
 潮騒だけが響く。と言いたいけど。実際は、違う。海蛇や大王イカなどの海洋モンスターの叫声、 人々の悲鳴、雷や炎の吹き上がる音、楽器の音色、笑声が騒然と聞こえてうるさかった。
 だけど、敢えて聞かなかったことにする。
 釣り糸を垂れるねこの隣にしゃがみこんだ。ひざをかかえるように
して。
 「ねこ、あのね」
 「にゃ?」
 軽く深呼吸して、一気にしゃべった。
 「失恋しちゃった」
 「あぅ」
 「あのね。髪型変更券買おうかなって思うくらいにはヘコんだよ」
 「・・・」
 ブリタニアはちょっと不便なんだけど、「髪型変更券」というのがないと髪型を変えられない決まりになってるの。 だからそれはとても高額で取り引きされている。
 「でもお金ないから買えないし。失恋したのに、髪も切れないなんて、ね」
 「ぺこちんらしいにゃん」
 そういって、少し微笑った。
 「・・・そのうち新しい人見つかるにゃん」
 「うん。そうだといいな」
 昨日のことが脳裏に浮かぶ。ねこは何も聞かなかった。何も聞かないけど、彼女は知ってる。
 だから、嬉しかった。ねことたわいもないおしゃべりをしながら、きっと大丈夫かなって思った。

第124回 デシート
 デシートに行くことになった。ギルドハウスに、隊長・ブラック・たじりん・こうちゃん・しーちゃん・ わたしと珍しく人数が揃ってたから。非公式イベントってヤツです。
 デシートは昔からわたし達のお気に入りのダンジョン。戦士のスキル上げの骨騎士部屋。嫌われてるんだか好かれてるんだか わからないリッチ&リッチロードのおぢいちゃんモンスターなど楽しく(?)過ごせるトコロだから。
 隊長がギルドハウスの外でゲートを開いてくれるというので、ぞろぞろ玄関を出て行く。
 「防具とか銀行なんだけど」
 こうちゃんがちょっと不安気に呟く。すると勇気づけるようにブラックが、
 「わしも。防具なしナリ」
 すかさずわたしも、同じ〜と答える。って、わたしはいつも防具なし、なんだけどね。
 「じゃ、大丈夫だよね。安心した」
 こうちゃんがにぱっと笑った。
 「あ。ゲート開いてるよ。行こ?」
 バタバタと三人でゲートに飛び込む。
 着いた先はみんなの一番お気に入り。骨騎士部屋。ここから今日のお目当ての毒エレの現れるポイントに移動する。
 着いた人から一目散に走って行ったものだから、こうちゃんとたじりんとわたしはちょっと出遅れてしまった。 わたし達が合流したときにはすでに毒エレと戦闘が始まっていた。
 最前線で闘うしーちゃんにたじりんが加勢する。この二人は戦士。他のメンバはその周りを囲むように魔法で攻撃。
 だけど毒エレのターゲットは隊長だったようで、隊長の移動する方向へ追いかけていく。隊長が毒エレの毒を受けた。 解毒しないと。って、そっち行ったら解毒魔法の効果範囲超えちゃうってば。解毒しようと思っていた全員が虚をつかれた。 結局解毒が間に合わず、隊長死亡。
 蘇生の出来るメンバが隊長を取り囲んで、各々が蘇生開始。なぜかこういう時って誰が蘇生させるのか競争になっちゃうのよね。 早口で蘇生呪文を唱えたけど、ブラックのほうが一歩速かった。悔しい。負けちゃった。
 隊長が荷物を回収したところで、リッチの出るポイントに移動したわたしがよく行くリッチ部屋よりは狭いけれど、 他のハンターが現れない穴場みたい。おしゃべりしながら、リッチの出現を待つ。ギルドのみんなと狩りに来るのって、久しぶりだな。
 この間、外から帰ってきたときも隊長に言われたんだよね。
 『ぺこは他の人とばっかり遊んでるのな』
 確かにギルドが成立した辺りから、あんまりギルドメンバとは行動してない。昔は隊長のお尻追っかけてたようなトコロが あったけれど。
 たぶん。目指す方向が違うっていうのもあるんだと思うの。隊長はレンジャー志望だったのに、今は弓使い魔道師を目指してるし。 わたしは竜使いの吟遊詩人になるつもりなんだもん。
 だけど、本音は隊長達と一緒に遊びたいんだよ。だって、楽しいもの。だからちゃんと隊長にはその時言っておいた。
 『ぺこだって、隊長と遊びたいし。淋しいよ』って。
 そしたら、いつもの穏やかな優しい笑顔で、
 『じゃ、今度一緒に遊ぼうな』
 そう言ってくれた。
 はぅ。すっかり回想してしまった。意識を跳んでたみたい。しーちゃんやたじりんがリッチ相手に闘ってるじゃないの。 接近戦の二人に負けじと、攻撃魔法を連発する。あ。前より威力が上がってるみたい。それともリッチが弱くなったとか。う。 そうじゃないことを願うわ。
 「ここ、三体出ることもあるからな」
 隊長の言葉に、全員が仰け反った。
 「それはイヤナリ」
 「ヤだ〜」
 リッチが同時に三人も現れるなんて、とってもタイヘンそうなのに。はぅ。ため息をついたその時。リッチが二体現れた。 分散して、闘おうとしたその時、なぜか毒エレが通路の向こうに姿を現した。げ。リッチ2体に毒エレ。同時に三体って、 よりにもよって3体目が毒エレ。瞬時に現場はパニックになった。
 「これはマズい〜」
 「げ〜」
 「うわおあぁぁ」
 参った。毒エレから死角の位置に立ち、とりあえず、リッチ二人を挑発する。これで、大丈夫でしょ。
 って、なんだぁ?いつのまにか死者が四人。わたしが煽動してる間に、殺されちゃったの?はぅ。蘇生しないと。と、その前にいぐに 緊急連絡しとこ。
 えと、えと。まずは一番近くにいる人から。なぜかこういうときって一回じゃ蘇生できないんだよね〜。うぅ。あせると呪文まで 失敗しちゃうよ。落ち着いて、落ち着いて。なんとか最初の一人を蘇生し終わった。あ、隊長だったんだ。
 じゃ、次は、と。そのときすでに、合方を殺したリッチが背後に迫っていた。そして、毒エレも次の獲物を探して、わたしの目の前まで やってきていた。
 そか。わたししかいないから、わたしに全部来るんだ。あぅぅ。うわぁぁ。ちょっと待って。待ってってば。ぎゃ〜。・・・・・・。 死亡。
 灰色に染まった世界で、気がついたとき。部屋には他のゴーストも、毒エレもリッチもいなかった。まさか全滅。って、ちょっと待って。 生き残ってるのって、誰?蘇生できる人いるの?
 ゴーストのままフラフラしていると、こうちゃんの姿が見えた。あ。こうちゃん。身振り手振りで、意志を伝える。 なんとか言いたいことが伝わったようだ。
 「隊長が、向こうで蘇生してるよ。荷物回収しとく」
 ありがと。隊長のいるほうに向かおうとしたそのとき。あ、毒エレ。あ。こうちゃん。あ・・・。
 「ぺこ、ごめ〜ん」
 死んじゃったのね。一緒に隊長のとこ行こう。壁をすり抜け、通路に出ると隊長が必死の形相で蘇生しているのが見えた。 最後尾に並んで蘇生の順番を待つ。
 お馴染みのずるずるの衣装を纏った集団が、早足で荷物の回収に駆けて行く。あ。でも毒エレがいたから。 毒エレや他のモンスターにターゲットされないように慎重に自分の死体の元に向かう。速くしないと、消えちゃうよ。
 走って、戻ってくると、すでに死体は骨になっていた。ギリギリ間に合ったぁ。必死で荷物を回収する。 こうなるといつ死体が消えてもおかしくない。はぅぅ。ふぅ。終った。
 顔を上げると隊長がそばに立っていた。
 「さすが、LB。死にマニア隊だな」
 「うん。でも今回は全滅かと思った」
 隊長の蘇生ができてなかったら、たぶん、全滅してた。隊長と二人でみんなのもとに向かう。あ、いぐが来てる。
 「呼び立ててごめんね」
 「いや。大丈夫だったみたいだね」
 「ん。なんとかね〜」
 「お〜、いぐあな。今回はヤバかったぞ」
 「隊長、済まぬ」
 ギルドメンバが集まってわいわい大騒ぎ。安心したあとのおしゃべりだから盛り上がる盛り上がる。
 でも。もう少し強くなってね、みんな。