吟遊詩人な日々
第114回 ギルド裸戦隊
 コウからわたし宛にメッセージが届いていた。カードを開くとお誘いメッセージが書かれている。
 『HOKのイベントに行かない?はて〜が是非ぺこを連れて来いって言ってるんだけど』。
 ギルド裸戦隊のイベント。おもしろそう。すぐにお返事を書いた。
 『ぜひ行きたいです。ぺこ』
 お返事を出してからしばらく後、ギルドハウスに来客を告げる音が鳴った。たぶん、コウね。玄関の扉を勢いよく開けた。
 「おはよ、ぺこちゃん」
 「おはよ、コウ」
 「今日はイベントなんだけど、ホントに来る?」
 「うん。もちろん」
 にっこり笑顔で答える。
 「そっか。はて〜も喜ぶよ。ぺこちゃんのこと気に入ってるみたいだから」
 「あは。ありがと」
 そう言われると照れちゃうんですけど。
 「今日のイベントは大デュエル大会なんだけど」
 「うわぁ、一度デュエルってみたかったの」
 デュエルと聞いて、興奮しちゃう。
 「ホント?ラッキ」
 わたしとコウが盛り上がってると、
 「えと、デュエルって?」
 たじりんが遠慮しつつ声をかけてきた。
 「対人戦闘」
 「そそ。PvP」
 わたしとコウが簡潔に答える。
 「じゃ、タジマさんも来る?」
 コウの誘いに嬉しそうに肯くたじりん。
 集合時間に遅れないように、早速出発することになった。表に出て、海側のほうに歩く。コウがフェルッカ石を懐から取出して、 地中に埋める。すぐにフェルッカに通じる金色のゲートが開く。たじりん、わたし、コウの順に入った。
 視界が変化した。先ほどまで聞こえなかったモンスターの声が聞こえる。ギルドハウスがあった場所にはまったく 違う建物が建っている。ここが別世界なのだと主張してるみたいだ。ふぅ。軽く深呼吸する。フェルッカに来るとやっぱり ほんの少し緊張する。
 「ぺこちゃん、ゲートだして?」
 コウから手のひらに収まる小さなルーンを受け取った。呪文を詠唱して、ゲートを開く。
 最近の副業、ゲートタクシーのなせる技か、ゲート出すの得意なの。お客様のご希望の街・ダンジョンまでもれなく直通 ゲートを出します。どうぞ遠慮なく声をかけてね、もちろんお代は要りません。えへ。
 ちなみにわたしのゲートタクシーはヘブン。いつもどこかに行きたいときはヘブンに出してもらうの。
 ゲートを抜けた先はギルド「裸戦隊」のギルドハウスだった。北極にある巨大なラージタワーがそれ。
 「こんにちは」
 コウに続いて、鉄の扉をくぐる。
 「かわさん、ぺこちゃんつれてきました」
 言いながら、玄関脇のテーブルに座る男性に近づく。
 「ぺこちゃん、これがうちの変態大王のギルマス」
 この方が裸戦隊のギルドマスターつまり総帥なのね。戦隊だから隊長かな。あ、わたしのトコと同じになっちゃう。
 「はじめまして。ぺこ、です。今日はコウに薦められて見学に参りました。よろしくお願いします」
 下馬してきちんと挨拶。もちろん礼も忘れません。たじりんもかわさんにご挨拶。
 「こちらこそ。ゆっくりしてってね」
 優しいかわさんのお言葉に肯くわたしとたじりん。
 「あ、ぺこちゃん。いらっしゃい。来たね」
 「あ、はて〜さん、こんにちは」
 見知った人がいるとやっぱり安心。
 どんどん集まるギルドの人達。みんなとても親切なのはいいんだけど。着いた途端脱ぐのはやめてほしかったりする。 裸戦隊は裸が基本とはいえ。たじりんなんて、目がテンになってるもん。
 「あら、久しぶり」
 「あ、リノアさん」
 わたしがこのギルドで唯一知ってる女性がリノアさん。とっても美人で優しいの。はて〜さんの奥様でもある。
 「そろそろ、じゃ、移動しようか」
 ギルマスかわさんの言葉に従って、開いたゲートに一緒に入る。
 どきどき。いよいよ、イベント開始ね。どこに行くのかな。デュエルってどんな風にするのかな。胸を躍らせながら、 ゲートに入った。

第115回 憧れ
 到着したところは、鉄のフェンスで四角く仕切られたコートが三面ある沼地だった。中心にわたしの背程の塔が建っている以外 何もない。
 ここ、なぁに?きょろきょろ辺りを見回す。同じく、きょろきょろしてるのはたじりん。フェルッカ自体初めて訪れたんだものね。
 「PIT(ピット)。ここがデュエル会場だよ」
 あのコートをPITって呼ぶのね。あそこで闘うんだ。ふんふん。なるほど。コウに説明してもらいながら、海側のPITの前に立つ。
 最初の二人がPIT内に入った。ギルマスであるかわさんがデュエルのルールを説明しはじめた。
 開始合図は魔法で出現させた石の壁が消えた瞬間。壁が消えるまでは呪文の詠唱はしないこと。召喚魔法はすべて禁止。 馬はすべてPIT外につないで、下馬した状態で闘うこと。などなど、細かな説明が続く。
 見学しに来ただけだったから。ルール説明を半分聞き流しながら辺りを見回した。
 わたし達以外にもちらほら人が見える。他のPITでは戦闘をしてる人達もいる。ここってみんなに開放されてる場所なんだ。 PKとか出るのかな。モンスターとか。
 キョロキョロしているわたしの瞳に一人の男性が映った。わたしの立っているフェンスの延長上、丁度あの塔の前辺りにその人はいた。 隣の男性と楽しそうに談笑している。
 途端に心臓の鼓動が早鐘のように鳴り出す。体内温度も急上昇を始めたみたい。どきどき。もしかして。もしかして。 あの人じゃないのかな。両の頬に手をあてる。顔が赤くなってるような気がする。もしかして耳まで真っ赤かも。えと、えと。 どうしよう。
 とりあえず。確かめなきゃ。それで本人だったらどうしよっか。きゅんっ。
 インディ、コウとここにいてね。たてがみを撫でて、愛馬から降りる。PITの戦いに夢中になっているコウのそばをそっと離れた。
 そして真っ直ぐにフェンスに沿って歩く。だんだん急ぎ足になってく。でも緊張して右手と右足が一緒に出てるみたい。あぅ。
 近づくにつれ、心拍数は更に上がっていく。血が沸騰したみたいに身体が熱い。おちつけ、おちつけ。ホントにあの人なんだろうか? ホントにホントにあの人なの?
 熊マスクを被った男性の前で立ち止まる。
 「あの」
 裏返ってしまう声。あぁ、どうしよ。
 「ん?」
 連れの男性と共にこちらを向く。あぁ、まともに目が合ってしまった。うわぁっ、顔が一気に火照ったのが分かる。あぁぁ。 ブリタニアの神様。わたしに勇気を下さいっ。
 力を振り絞って。顔をまっすぐ上げて、言葉を懸命に紡いだ。
 「突然で、あの、びっくりされると思うんですけど。あの、あの」
 あぁ、うまく言葉が出ない。
 「なに?」
 微笑みながら、わたしが話すのをじっと待っててくれる。ちゃんと耳を傾けてくれる。なんだかその微笑みで緊張してるんだけれど、 心が温かくなってく。ちょっとだけ落ち着いた。
 「あの、う〜たんさんですよね?」
 「そうだよ」
 ほぅ。身体の力が抜けた。やっぱり。やっぱり、あの人だ。ホンモノだ。そう思った途端、涙があふれてきた。
 「あの、あの、ずっとファンだったんです(号泣)」
 「あはは。ありがとう」
 そう笑顔で応えてくれる。うわぁ、幸せ。最高に嬉しい。
 「おい、この子に決めた。結婚するわ」
 へ?突然の言葉にアタマが真っ白。「あの、あの」とか「えと、えと」とかしかでない。憧れの人からのプロポーズ??あ。 魂抜けた。
 この鹿マスクの男性のお名前はう〜たんさん。伝説のデュエリストの名を持つ人。ブリタニア中で大反響を呼んだある作品の 作者でもある。
 そして。わたしがずっとずっと憧れてた人。その作品のファンだったし。伝説のデュエリストとして憧れてもいた。
 逢いたいなと思っていたけれど。まさか逢えるなんて思ってなかった。こんな風に逢ってお話できるなんて、夢見たい。 ホントに感激して涙止まらない。
 目の前に心から憧れてた人が立ってる。わたしを見つめてくれる。笑いかけて話し掛けてくれる。こんな幸せってない。 たとえプロポーズが冗談でもとってもとっても幸せ。嬉しい。感激。
 今日のわたしはう〜たんさんしか瞳に入ってないかも。えへ。

第116回 デュエル
 目の前に憧れのあの人がいる。うわぁ、心臓ドキドキしてる。
 「ぺこちゃん?」
 「は、はいっ」
 不意に名前を呼ばれて、直立不動でお返事。
 「そんなに緊張しなくても」
 苦笑混じりに呟くう〜たんさん。
 「でもでも、緊張しちゃいますぅ(涙)」
 あ。もうちょっとかわいい服着てくればよかった。うぅぅ。
 そのとき、はて〜さんの呼ぶ声が聞こえた。一礼して、う〜たんさんの元を離れる。返事をしながら、はて〜さんのそばに行った。
 「なんでしょ?」
 「ぺこちゃんもやってみる?」
 「え〜〜〜っ、デュエルですか?」
 「うん、何事も経験。経験」
 「う〜。う〜。じゃ、やります」
 「そうこなくちゃ」
 何をどうすればいいのか、わからないけど。とりあえず、PITに入る。
 「がんばれ、ペコ」
 「がんばれ、ぺこちゃん」
 「いぢめるなよ〜」
 かわさんやコウ達の声援が聞こえる。よし、がんばろ。
 さほど広くないデュエルピット。はて〜さんとわたしの間に、石壁が現れる。これが消えたら、戦闘開始の合図。
 最初は、んと。んと。麻痺魔法で、相手の動きを封じよう。アタマの中で一生懸命作戦を練る。
 石壁が消えた。早口で麻痺魔法を唱える。だけど唱え終る前にはて〜さんからの毒攻撃を受ける。うわぁ、解毒。解毒。 解毒魔法を唱えないと。わたしの呪文詠唱を邪魔するように精神破壊魔法が加わる。うぇぇん。なんとか解毒できたと思ったら、 更に重ねるように毒。毒。毒。
うあわぁ、解毒、解毒。
 毒を食らうと解毒。解毒している間に精神破壊。解毒が終れば新たに毒。
 さっきから全然攻撃すらできない。気がつけば、体力の回復を図らないとならないほど、身体がふらふらしてる。うわぁ、回復〜。 だけど、最後の毒攻撃で、昇天。試合時間はほんのわずかだった。
 「あ、死んだ」
 リノアさんに蘇生してもらって、荷物を回収する。
 「負けたぁ。ぜんぜん、敵わないな〜、でもおもしろ〜い」
 「あはは。そか?」
 「うん。もっとやりたいっ」
 「あはは。ヤル気だ」
 「うん」
 このときから、正式にはて〜さんはわたしのデュエルの師匠になった。そして。師匠のもとに通う日々の始まりでもあった。
 はて〜さんは、いつもはニコニコしてる優しい人。だけどデュエルになると、途端に表情がかわる。冷静に魔法のみで闘う魔道師に なっちゃうのだ。
 この後もはて〜さん達相手に、デュエルをするが、まったく太刀打ちできない。
 裸戦隊は、常にPKの危険に晒されるフェルッカにあるギルド。それだけにデュエルにかなり力をいれている。他のギルドと 共同訓練や戦争をすることもあるらしい。いわゆる対人戦に強い集団なのだ。
 一度デュエルを体験すると他の人の戦法が気になって、PITに釘付けになってしまう。夢中でみんなの対戦を見学した。
 「ぺこちゃん」
 不意に優しい声が降ってきた。と思ったら隣にう〜たんさんがいた。
 「きゃぁぁぁ」
 「うわぁっ」
 脅かさないで下さい。心の準備ができてません。
 「そんなにびっくりしなくても」
 「心臓止まるじゃないですかぁ(泣)」
 「あはは。止まった?」
 「即死です」
 わたしの言葉に笑うう〜たんさんの横顔をじ〜っと見つめる。こちらを見てないから、安心してず〜っと見ていられる。
 そういえば、う〜たんさんは伝説のデュエリストなんだよね。どんな風に闘うのかな。見たいな。話には聞いてるけど、 実際に見たことないんだもの。
 PITで闘う気はないらしく、フェンスにもたれて、他の人の戦いを見たり、PITに来たいろんな人に挨拶されたり。 やっぱりとっても有名な人なんだなとその光景を見てるとしみじみ思った。
 「ぺこちゃんメロメロだな〜」
 「憧れのヒトだからな」
 「そ〜そ〜。『憧れ』だもんな〜」
 「おい、コウ。しっかりしないと」
 「うるさいやぃ」
 外野賑やかだな(笑)。
 「ぺこ」
 「は、はぃっ」
 うわ、呼び捨てされちゃったよ。キュンッ。心臓が高鳴る。
 「ホントに緊張してるもんなあ(笑)」
 「だからそう言ってるじゃないですかぁ(泣)」
 「うしろ、いいの?」
 「あ。はい。大丈夫です」
 今日だけ。
 今度いつ逢えるか分からないんだもん。そばにいたい。今だけ。今だけ。
 結局デュエルピットで一日中う〜たんさんのそばで過ごした。いろんなお話をして、笑って。とっても楽しかった。
 こうして、あっという間に一日が終った。みんなと別れたあと、なんとなく、ギルドハウスに戻る気になれず、 自宅に泊まって帰ることにした。こんなキモチの日は、一人になりたかったから。
 自宅は相変わらず静かなところで。今日みたいな気分にはぴったり。
 う〜たんさんに逢えるまでは、逢えることを願ってた。逢えれば満足だと思ってた。
 今日、う〜たんさんに逢ってしまった。逢ったら、もっと仲良くなりたくなってしまう。わたしって欲ばりだな。

第117回 ねこハウス
 ふぅ。着いた。ちょっと遅れちゃったかな。
 家の前に到着すると、玄関先にねこが立ってた。商品を補充してる真っ最中だったみたい。
 ねこは、自宅の玄関先を利用してお店を開いてるの。商品はほんの少しだけ。すべて超一級、一級品で高額なものばかり。 だけど。求めるお客は後を絶たないみたいで、ねこのお店はそれなりに繁盛してるの。
 「ねこ、おはよ」
 手を挙げて、声をかける。
 「こんにちは、ぺこちん。おはよってもうお昼だよ。挨拶間違ってる」
 「だってさっきまで寝てたんだも〜ん。だから『おはよ』で合ってるでしょ?」
 「あはは。やっぱりぺこちんてば天然」
 そかな。挨拶としては間違ってないと思ったんだけど。
 ねこからギルドハウスのルーンを失ったという連絡を受けたので。慌てて支度して、ルーンを焼いて、 ねこの家に届に来たのでした。
 「はい。これ、約束のルーンね」
 「ありがと。ごめんね」
 「ううん。大好きなねこの頼みだもの。全然ヘイキ」
 「ありがと」
 部屋でねこの作業が終るのを待つつもりで玄関の扉を開ける。ねこの家はいわゆるログハウスだから、 木のぬくもりが感じられてとっても素敵。で、わたしのお気に入りなんだよね。ぎぃっと扉の軋む音を聞きながら室内に足を踏み入れた。
 で、1秒後。静かな森の一軒家に不似合いな悲鳴をあげて、屋外にわたしは飛び出した。
 「いやぁぁぁぁ〜〜〜。なんで家の中に死体があるのぉ〜〜〜っ」
 そう。床に、がいこつや人間の上半身、片腕。ホンモノのようなモノがいっぱい固定されてたのだ。
 「あはは。あれね、釣りしてたら、釣れたから。おもしろいから床に飾ってみたんだけど」
 うぅ。悪趣味。
 「ねこ。これじゃぁ、ホラーハウスじゃないの。怖くて入れないよ」
 「やっぱり怖い?いろいろね、集めてみようかなと思って」
 「もうねこの家。来るのヤ」
 怖いのキライって言ったのに〜。
 泣きべそをかくわたしをおもしろそうに見つめるねこでした。

第118回 素晴らしき出会い
 「・・・・ところで」
 「ん」
 「これから網を投げに行くけど、一緒に来る?」
 「うん。行く。行く」
 「えと、マジンシアなんだけど」
 「マジンシア?ん、わかった」
 マジンシアは四方を海に囲まれた島の街。漁業を生業とする人々や海賊の闊歩する街。活気あふれる街。 わたしはほとんど来ないんだけれど。この街の雰囲気は大好き。
 トリンシックの美しい黄砂壁とは違うけれど、タイル貼の建物はどれもとても素敵。建物は余裕を持って設計されていて、 広いスペースにはベンチや植物などを置いて、居心地の良い空間を作り出している。
 「港まで行くよ〜」
 「ん」
 南西の方角にあるドック桟橋に向かって歩き始めた。街路を突き抜けるように歩く。この街はどこにいても潮の匂いがする。 四方を海に囲まれた街はここだけじゃないのに。他の街では潮の香りを感じないのに。
 桟橋が見えてきた。港だ。あ。先客がいる。
 「こんにちは」
 「こんにちはぁ」
 「さっきはどうも」
 ハートさんという名のGM釣師さんとねこは顔見知りらしい。今日の釣れ具合を話してる。
 二人の会話の間、滅多に訪れない桟橋を散策した。打ち上げられている色とりどりのマジンシア産の魚達。う〜ん、 持って帰って今夜のおかずにしたいな。
 「ぺこちん」
 ねこがわたしを呼ぶ。
 「はぁい」
 「網投げるから。出たモンスター攻撃していいからね。よろしく〜」
 「え?」
 よろしくって??モンスター出るって??どゆことぉ?もしかして網投げってトレハンみたいにモンスター出るってこと?あぅぅ。
 戦闘準備に入るわたしにハートさんが声を掛けてきた。
 「吟遊詩人ですよね?」
 「調教師です」
 「え?」
 驚いた顔のハートさんから視線を外す。音楽はグランドマスターなんですけど。それ以外がへっぽこなんです。 心の中で呟いた。まだ調教師のほうが様になってるんです。
 「じゃ、投げるよ」
 ねこが桟橋から海に向かって、網を放り投げた。弧を描きながら、やがて海面にぶつかり沈んで行く。ごぼごぼと海面が泡立ち、ゆらリ。 なにか黒い影が見えたと思った瞬間。
巨大な海蛇、水エレ、大王イカなどのモンスターが全部で五体海上に姿を現した。
 海洋モンスターは見慣れてないので、珍しくてまじまじと観察してしまった。これ、倒すのね。ま、いいか。陸と違って、 追いかけられる心配なさそうだし。まさか足があって、陸にあがってくるわけじゃないでしょ?
 早口言葉のように急いで呪文を唱えては炎弾、雷弾を連射する。その間に手はごそごそとかばんを弄り、中からリュートを取出す。 やっぱり数が多いときは、扇動に限る。強いモンスターを弱いモンスターにぶつけるように扇動する。
 その間にも他のモンスターがわたしに魔法攻撃をしかけてくる。う〜ん、魔法耐性ちょっと上がる。らっき〜。 少しずつ傷を負い始めたわたしの背後で人の気配がしたと思ったら、無言で包帯をインディアンジョーさんが捲いてくれた。 完治。ありがと。
 一方ねこもハートさんと共に攻撃を繰り出していた。よし、がんばる。パワ〜全開。雷弾を絶え間なく打ち続ける。 そして最後に大物大王イカを水の中に文字通り沈めて、終了。
 ねこがモンスターからお宝を回収しはじめる。
 「あぅ、とれない」
 クラーケンのお宝が桟橋からはどうしても届かないトコロにあるらしい。
 「舟、だすよ」
 ハートさんの言葉に頷いて、二人で舟に乗り込む。
 それを待っている間、戦闘で軽く火照った身体を潮風で冷やしていた。うん、最高♪この感じが好き。 だから、狩りも止められない。
 あ。そういえば。同じように隣でぼーっと立っているジョーさんを振り返った。
 「先ほどは包帯ありがとうございました」
 「いえいえ」
 「助かりました」
 めいっぱいの笑顔を添える。ん?眉根を寄せて、じーっとわたしを見つめるジョーさん。??
 「あの、ぺこさん」
 急に改まって名を呼ばれた。
 「はい?」
 「ブリティンの魔法屋の前で以前たむろしてませんでした?」
 「はい♪」
 うわぁ、懐かしいこと知ってるな。って、え?軽く返事をしてから、アタマが急速に回転をはじめる。
 「えぇぇっ。どうして知ってるんですか??」
 目を丸くしてるわたしに向かって、
 「いつもあの輪に入りたいな〜って思って見てたんですよ」
 「そうだったんですか。入ってくれたらよかったのに」
 「なんとなく入れなくて」
 そんなに入りにくかったっけ?
 「今はあのメンバでギルド作ったんですよ」
 「あ。知ってます」
 えぇぇっ。何で知ってるの?吹聴して回ってるワケじゃないのに。
 不信感が顔に思いっきり表れたみたいで、
 「いえいえ。ストーカーしてたわけじゃないですよ」
 と笑いながら、両手を振り回す。
 「デシートの骨部屋で話してるのを聞いたんですよ」
 あ。そうだったのか。デシートの骨部屋はうちのメンバお気に入りの溜まり場だからな。そんなに気に入ってくれたんなら。
 「今度ぜひギルドハウスに遊びに来て下さいね」
 「えぇ、ぜひ。見学させて下さい」
 にっこり握手を交わして連絡先を教えあうことにした。
 一方無事クラーケンのお宝を手に入れて、桟橋に戻ってきたねことハートさん。
 そのねこに向かって、ジョーさんがぽつり。
 「ねこさんにも会ったことあるんですよ。ヘブンではタイヘンお世話になりました」
 あらら。じゃ、この人も冒険初心者時代にねこに世話になった人?
 「あ〜、もしかしてうんざりするほど世話かけた人にゃ?」
 「あはは。そうです。魔法のことでつきっきりで」
 「そうそう」
 二人が盛り上がっている頃、わたしとハートさんも意外なつながりに気づいていた。
 「ぺこさん」
 「はい」
 「あの・・・ぺこさんってホームページ持ってません?」
 「え」
 ギルドのHPのことかしらん?そう予想したわたしの心臓に杭を打ち込む一言が彼女から漏れる。
 「えと。吟遊詩人な日々」
 ぐはっ。ちょっと待て。ハートさんが言ってるHPってもしや。
 「いつも読んでます」
 うわぁぁ、やっぱり。個人HPの読者だ。しまった。こんなとこで会うなんて。アタマに血がかーっと上って どうしていいのわからない。うわぁあぁ、アタマの中は相変わらずパニックだったけど。ハートさんに向かって頷いた。
 「・・・・はい。書いてます」
 実は隊長たちにはナイショなんだけど。自分の普段の生活を綴った日記というか体験記を書いては、公開していたのです。 つまりあなたが読んでるこれです。
 だけどその読者に会うことなんて考えてなかった。びっくり。嬉しい。とっても照れちゃう。
 こんな素敵な出会いがあるなんて、ブリタニアの神様のおかげだね。

 ハートさんへ。
 この日記を綴っていてホントに良かったと思いました。広いブリタニア大陸の街で、こんな素敵な偶然の出会い。 あなたの言葉はとっても嬉しくて。感激でした。ありがとう。これからもどうぞよろしくね。
 隊長もみんなも元気です。今度遊びにきてくださいね。紹介します。 わたしの新しいお友達のあなたを。ぺこより。