吟遊詩人な日々
第6回 カルマ
 怪獣を倒したときに知り合ったヘブンも加わり、わたしたちは4人パーティになった。
 これからのことを4人で話していると、裸男が近寄ってきた。名前をチェックすると赤字で表記されている。これは 殺人者の印。
 キケンだな。そう思った瞬間、裸男がいきなり隊長に切りつけてきた。
 みんなが隊長を助けに走った。周囲で気づいた人たちも応戦してくれるようだ。
 わたしも助太刀。と思ったら、矢がなくて弓が使えない。慌てて長ヤリに持ち替えて、参戦する。
 裸男は手ごわかったけど無事倒した。そうそう、裸男を倒すと、カルマ(業)が良いほうに上がるんだよ。
 再び和やかに話し始めて、どれくらいの時間が経ったんだろう。
 突然悲鳴が聞こえた。悲鳴の聞こえたほうを見ると、巨大な鬼が人を襲ってる。助けに行かなきゃ。
 近くで見ると、とにかく大きい。その上、めちゃめちゃ手強い。怪獣も裸男も目じゃないくらい。
 大人数でなんとか倒したけど。
 このときの乱戦で、わたしは誤って紛れ込んだ犬に傷を負わせてしまったらしい。
 カルマがちょっと下がった。が〜ん。ショック。不可抗力なのに。乱戦のときって、ヤリの照準合わせにくいんだもん。 あ〜ぁ。ごめんね、犬。
 戦ってばかりの一日だった。疲れた。

第7回 スキル
 初心者揃いのパーティということもあり、改めて隊長にヘイブンの街を案内してもらうことになった。
 鍛冶屋や雑貨屋の他に、食料屋、農家、訓練所等あるわ、あるわ。
 自分で散策したときには、ちっとも気づかなかったんだけど?もしかしてわたしの目ってば、節穴!?
 隊長の話によれば、ヘイブンはずっと訪れることの出来る街ではなく、限られた時間だけ滞在を許される空間なんだって。 調べてみると、わたしもあと40時間程だった。
 というわけで。残された時間内に、この街でやっておかなければならないことを隊長に助言してもらいながら考える。
 ■結果■
 1.物資の調達
 食料はもちろんペットの餌も用意しないとね。「釣った魚に餌遣らない」式だとペットは逃亡しちゃうんだって。ま、 そりゃそうよね〜。わたしだって逃げる。餓死のため、もれなく3回目の「死」なんて絶対ヤだ。
 2.戦闘訓練
 これからどんどん、よりキケンで、より手強いモンスターに遭遇することは間違いないと思う。
 今のわたしだと、足手まといにはなっても戦力になるとは到底思えない。ま、いないよりマシという考え方もあるけど。 あ〜。なんか自虐的でヤだな。ということで前言撤回ね。
 それに「甘える」と「頼る」は全然違うと思うし。信頼って、「相手を信じる。頼る。相手から信じられる。頼られる」。 そういうことだと思うのね。
 故郷の言語に「人」という文字があるの。「漢字」って呼んでるんだけどね。これはわたしたち「人間」を表わす言葉。
 二人の人間が背中合わせになってるように見えるでしょ?
 わたしは、この「人」っていう字を創れる関係でいたいと思ってるんだ。どちらかが頼り過ぎるとバランスを崩しちゃって、 この文字は決して作れないの。分かってもらえる?
 話がそれちゃったけど、そういうわけで戦闘訓練をします。弓と長槍を使った訓練ね。
 本当はわたし弓使いなんだけど。
 この間みたいに、いざ戦おうとしたら「矢がなかった」なんて情けないったらありゃしないじゃない?
 そしてもう一つ。これは前回ナイショにしてたんだけど。
 調教練習に行った日あるでしょ?そうそう、あの2回目に死んじゃった日。2体目の怪獣のとき、怪獣を倒す前に矢を放ち 尽くしちゃってね。怪獣を警戒しつつ、矢を拾っては放ち、拾っては放ち、というなんとも情けない戦い方をしちゃったの〜。 かなり間抜け、だよね。
 だからね。やっぱり長槍も一応練習しておこうと思うんだ。槍は剣よりリーチがあるから、あんまりモンスターにも近づか なくて済むし。うん。弓を使う理由も実はそういうこと。
 だってコワいんだもん。近づくとヘンな匂いがするし。それに元々コワいの苦手だし。だいたい故郷にはあんなのいなかっ たもん。コワくて当たり前だよ〜。
 3.調教
 わたしがずっとがんばってる訓練の一つ。まだ犬、猫、鳥(キングフィッシャーっていう小さい鳥ね)とかしか出来ないけど。
 そうそう、ぴょんがね馬も調教できるようになってたの。わたしと一緒に隊長の調教を見て「ほぇ〜」って言ってた頃が懐 かしい。というかね〜。ぴょん、いつの間にそんなにレベル上げたの?
 ココで告白。実は馬は入手済みだったりして。買っちゃった。100GPもしちゃった。怪獣倒したときと隊長から貰った お金でまかないました。てへ。←あかんやん。
 4.楽器演奏
 よく考えると。わたしは吟遊詩人なんだから、この訓練が一番重要なような気がするんだけど。なぜか優先順位がラスト。 う〜ん。ま、いいか。演奏できないよりは最終的に出来てたらいいんだもんね。
 だいたい。楽器持ってない、演奏出来ない。今のわたしって、「吟遊詩人」とは到底思えない。とほほ。
 訓練に当たって、隊長から楽器を貸してもらった。なんでレンジャーの隊長が持ってるのかはわからないけど。
 というか、隊長って何でも持ってるんだよ。
 通りかかった人に「○○ありませんか?」と訊かれると、答えのほとんどは「あるよ」なんだもん。
 いったいお金をいくら持ってるんだかも分からない。わたしを始め、ぴょん、ヘブンの装備はほとんど隊長からのプレゼントだし。
 いったい貯金はどのくらいあるんだろう〜。別行動している間に、商売でもしてるんだろうか?馬売ってたりして(笑)。
 以上4点についてがんばることにする。なかなかイイんじゃない?
 ところで。隊長に貸してもらった楽器はリュートと太鼓.。リュートは いいんだけど太鼓って・・・。太鼓と長槍持った吟遊詩人って、ちっとも詩的じゃない気がした。

第8回 旅新たなる旅立ち
 ヘイブンでやるべきことを終えたわたし達は、まずは首都ブリテインを目指すことにした。集まる情報も物資も一番多いに 違いないからだ。
 隊長とわたしが一足先に出発する。ぴょんとヘブンはもう少し訓練をするようで一日遅れなんだ。
 ブリテインで全員が集合する場所を手に入れた地図で決める。なんといっても首都だもの。ちゃんと決めておかないと、こ こで今生の別れになりかねないし。いろいろな意見が出たけど、街の中心に程近い橋のたもとにした。そばに「魔法使いの 喜び」という名の魔法屋がある。図書館とギルド(組合)も併設されているらしい。
 故郷を出発したとき、目指そうと思っていた場所。「吟遊詩人」の集まる都。やっと、やっとわたしは行けるんだ。そう思 うと、胸の高まりを押さえることなんて出来なかった。
 ヘイブンの街を出発した。だんだん、遠く小さくなっていく街。馬を止めて、振り返った。朝日を受けて山々の稜線が、街 が鮮やかに浮かび上がる。
 この先何がわたしを待っているんだろう。そして何をわたしは見つけるんだろう。不安と。そして。それ以上の興奮。
 ゆっくり馬首を返し、先で待つ隊長の元に馬を走らせた。
 これからが本当の冒険の始まり。

第9回 首都ブリテイン
 首都ブリテインに着いたら、深夜だった。毎度のことながら、なぜか到着は、夜。
 まずはぴょんとヘブンが到着したときに待ち合わせる集合場所を確認しに行った。橋はすぐに見つかった。周りの建物のちょ うど裏手にあたるみたい。
 今夜の宿を探し、部屋に落ち着いた途端、眠気が襲ってきた。ここまでの疲れと久しぶりのベッドのせいかも。吸い込まれる ようにわたしは眠りに落ちていった。
 翌朝、目が覚めると隊長がいなかった。隊長のことだから、街を散策しに行ったのかな。わたしも行ってみようかな。方向音 痴だけど、宿屋の名前を覚えておけば、なんとか帰れるだろうし。わかんなくなったら集合場所の橋にさえ辿り着ければ、隊 長が拾ってくれるよ、きっと。
 早速、身支度を整え、外に出てみる。
 よく晴れた空の下、街が活気に満ち溢れていた。たくさんの人が行き交い、そこかしこで商売人の声がする。
 街の美しさもまた首都に相応しいもので。レンガ造りの建物。しゃれた家々。タイル張りの道。街路灯。そしてこのブリタニ アを治めるロード・ブリティッシュの城。とても美しく優雅な城。
 ホントに都に来たんだな、わたし。ブリティッシュ城を見上げ、しみじみそう思った。
 ん?どこからともなく柔らかな音色が聴こえてくる。耳をすまして、音の方向に馬を向ける。
 あ、ここだ。ここからだ。音のするほうに道を巡り着いた建物。音色に誘われるまま扉を開け、奥に進む。そこには、たくさ んの楽器がおいてあった。自由にみんなが楽器を演奏している。
 おずおずと空いているハープに近寄って、触れてみる。優しい音色が弾けた。椅子に腰掛けてもう一度ハープに触れる。もう 止められない。
 心のすべてをハープに預けて、わたしは夢中で奏でた。少しずつ、だけど確実に、わたしの中から音楽があふれ出てくる。
 かなりの時間をここで過ごして、わたしは宿屋に戻った。
 隊長は、まだ帰らない。

第10回 再会そして出会い
 今日はぴょんとヘブンが到着する日。朝からそわそわしちゃう。たぶん到着は夜。わたしと隊長が着いたのと同じくらいだと思う。
 そうそう隊長からまた防具をもらちゃった。わたしのワンピースって鎧じゃなくて、ただの洋服だったみたい。ワンピースの 下に着られるように鎖で編んだ薄い鎧。軽いし、通気性抜群。だからムレないよ。それから靴。脛あて。最後に仮面。仮面って 言ってもマスクのようなかっこいい代物じゃないからね。ヘンな顔で角が2本もついてて。仮面っていうよりヘルメット。
 隊長ったら、自分が渡したくせに、被ったわたしを見てなんて言ったと思う?「ぺこ。こえぇ〜っ」だよ?ヒドいと思うわ。ぷんぷん。
 夕方、隊長が銀行に行くというので、ついていくことにした。さすが隊長。銀行にすでに口座や貸し金庫を持ってたのね。
 銀行には人が集まりやすいのか、ひしめくように露店商や立ち売りの姿があった。おかげで待っている間、退屈しなくてすんだ。 ありがと。露店のみなさん。いわゆる、見てるだけ〜〜っだったんだけど(笑)。
 隊長にわたしは預けるものはないのかって訊かれたけど。預けるほど品物もなければ、お金もありませ〜ん。はぅ。まだ貧乏の 見習いですから。
 そろそろぴょん達が着く頃かもしれない。早めに橋の前まで行ってみようと思い、隊長に告げる。鍛冶屋に寄り道していくとい う隊長と分かれ、橋までの一本道を馬でのんびり歩く。のんびりしてちゃ、だめなんだけどね。
 橋に到着して、驚いた。血だまりがあったから。全然渇いていないから、そんなに遠くない時間にここで何かがあったんだと思 うけど。
 そういえば、この街に来てまだ一度のあの怪獣を見かけていない。モンスターは街の中心部には入り込めないのかもしれない。 なんといっても首都だもん。警護兵の数もケタ違いだし。
 ということは、この血って・・・?
 ヤだ。なんかヤだ。ヤなカンジがする。一人でここでぴょん達を待つの?サイアクかも。やっぱり隊長についてけばよかった(泣)。う〜。早くぴょんとヘブン来ないかなぁ。う〜。隊長戻ってこないかなぁ。というか、早く来て下さい。ふぇ〜ん。コワいよぉ。
 独り見知らぬ街で、それも夜もふけてきて、橋のたもとで立っているのって、とっても心もとない。ただ、救いは、隣の二人組。 さっきからずっと商談をしているようで、それも長引いてるみたい。本人達はイライラしているかもしれないけれど、わたしは ほっとしてる。人がいることがこんなに安心するなんて。みんなが来るまで、お願い、商談続けててね。
 待ちくたびれて、ぼーっとしていると、馬に乗った人物がこちらに向かってくる。わたしの前で馬を止めた。街灯と月明かりで、 顔を確認する。
 ぴょん?姿がかなり怪しい格好だけど、ぴょんだ。
 わ〜い、ぴょんだ〜。待ってたんだよ。独りで淋しかった〜。心細かった〜。と目の前の人物に叫ぶわたし。隣の二人組が突然 の大声にぎょっとしたようにこちらを振り返ったけど、気にしない。気にしない。
 だけど。意外な返答が。「はい?なにか?」
 うそっ。ぴょん、じゃないの?だって、だって。ぴょんでしょ?他人の空似なの??え〜っ。めちゃめちゃ恥ずかしいけど。人 間違いしちゃったんだ。うわぁ、どうしよう!?
 アタマがパニックになって硬直したわたしに軽やかな笑い声が響く。
 「うっそだよ〜。ぴょんだよ。」はっきり言って脱力しちゃった。
 ごめんね、と呟くぴょんに怒りよりも笑顔がこぼれる。二日ぶりなのに、なんだかとても懐かしいカンジがする。
 そういえばヘブンがいない。どうしたの?訊ねると、ヘブンはヘイブンの街でナンパした二人と共に橋の向こうで待っているん だという。おぉ、ナンパか。これは期待できるかなぁ。
 さらに半時ほど後、隊長も戻ってきた。ところが。隊長の後ろにも人影が。隊長もどうやら誰か連れてきたらしい。やることが 同じなんてチームワークいいね。って、ちょっと違う?
 全員がそろったところで、久しぶり。と初めまして。の挨拶が交わされた。しばし賑やかな挨拶合戦。
 ヘイブンの街からナンパされた人物は、全身赤い衣装に身を包んだニュー。ナンパというから女性かと思ったけど、男性だった わ。残念。
 そして隊長が連れてきた人物は、ブラック。黒衣の騎士という印象を受けた。隊長がいうには、隊長より腕が立つらしい。おぉ。 すごい。
 ちなみに、ヘイブンから来たもう一人はブルーというんだけど。わたし達には加わらずに、すぐに立ち去ったからブリテインま での旅仲間だったわけね。また会う日まで元気でね、ブルー。
 というわけで。隊長ことひで。ぴょん。ヘブン。ブラック。ニュー。そしてわたし。6人パーティになりました。増えたね〜。
 橋のたもとでわいわい、がやがや話が盛り上がる。そうそう、隊長にぴょんが他人のフリをしたときの話をしたら、かなりウケ たみたいだったわ。隊長はよくウケる人だな〜。お笑い好き?
 ヘブンとおしゃべりしてたとき、突然、ヘブンが素っ頓狂な声をあげた。
 「えっ、ぺこって女だったの??」はっきし言って、ずっこけた。
 ワンピース着て、髪を二つのおさげにしてて。どっからどうみても女でしょうに。そりゃ、今はあのヘンな顔のヘルメット被って るけど。ヘブンはその前から顔見てるでしょう?
 ヘブンてば、わたしをなんだと思ってたのかな。男だと思ってたわけではないらしいけど。(じゃぁオカマさんってわけ?)
 ちょっと乙女心を傷つけられたわたしでした。