吟遊詩人な日々
第97回 蛍光灯
 コウが蛍光灯を手に入れたと聞いた。7万GPで購入したらしい。一時は20万GPだったんだから、安くなってきたと思うけど。 一番小さな家が4万GPで買えるんだよね〜。人気のほどが伺えるかも。
 早速見せてもらうため、ブリテン第2銀行で待ち合わせ。あ、コウ。
 「コウ、おっはよ」
 「ぺこちゃん、おまたせ〜」
 「蛍光灯手に入れたんだってね〜」
 「うんうん」
 「見せて、見せて〜」
 「うぃ」
 やっぱり盗難を気にしてるようで、銀行に預けてるのね。そうだよね。ダンジョンに持っていって、 死んだ日には間違いなく盗られると思うもん。
 銀行から出てきたコウの手には氷青に輝く一筋の杖が握られてた。うわぁ、本物だぁ。やっぱりキレイ。
いいな、いいな。 そしてわたしの前に蛍光灯を差し出してくれた。やった〜。
 触ると、ひんやり冷たい。氷の杖だもんね。記念に一枚写真を撮った。てへ。
キレイでしょ?  「ありがと」
 コウに返した。持ち逃げはしません(笑)。
 「ぺこちゃん、これからどうするの?」
 「んと、新大陸の北極に行くつもりだけど」
 実は訓練前に寄ったんです。もちろん、ヘブンと行く予定です。ヘブンはデルシアにブルを調教に行ってるから、 そこまでわたしが迎えに行くことになってるの。
光杖やっぱりほし〜  「一緒に行く〜」
 うん。おけおけ。ゲートを開いて、ムーングロウ経由で新大陸のデルシアまで行く。ゲートを開けることが出来るようになって、 良かった(しみじみ)。
 ヘブンと合流して、北極に移動する。早速調教訓練開始。雪エレに追っかけられつつ、調教に集中した。 その間コウは狩りを楽しんでた。
 1時間の練習ののち、パプアの街に戻る。
 ヘブンの帰ろうという声とともに、ゲートが開いた。あれ、いつのまに呪文を唱えたのかな。そう思ったけど、ゲートに入った。
 到着した先は、蜘蛛城のテラサン蜘蛛達と敵対関係にある蛇城内(としか思えない)。だってオフィディアン蛇がわきまくってる ど真ん中。
 うわっぁぁ、間違えた。間違えた。あのゲートはヘブンが開いたんじゃないんだ。帰らないと死ぬ。絶対死ぬ。 間違いなく死ぬ。どう考えても死ぬって。
 えと、えと。リコールだっけ?いや、唱えてる間に死ぬだろ。うわ、うわ。あ、ゲートがまだある。もう一回とびこめ〜〜〜〜。
 目の前にヘブンの顔がある。ふぅ。帰ってこれたぁ〜。ヘブ〜ン。恐かったぁ。泣きべそをかくわたし。(号泣)。
 「どこに着いたの?」
 「蛇城のどまんなか。めちゃめちゃわいてた」
 そんなに思いっきり笑わないでよ。恐かったんだからぁ。
 「コウも行ったんだけど」
 「ぐ」
 そういえばコウの姿がない。ヘブンと顔を見合わせる。
 「コウなら大丈夫だろ。帰ろっか」
 「うん、大丈夫だよね。帰ろう」
 ルーンがないから迎えにいけないんですもん。冷たい二人とか思っちゃや〜よ。
 ムーングロウ行の魔法陣に入って、移動しようとしたとき。半死半生の戦士がこの魔法屋に入ってきた。 見覚えのあるその姿は、コウ!!
 「死ぬかと思った」
 足元がよろよろの状態で歩いてくる。かなり傷を負ってる。回復してあげたいけど。秘薬きれてるし。 かわりにヘブンが治癒を施す。
 「おかえり」
 「あんなトコにルーン焼くやつの気がしれない」
 よっぽど危ない目に遭ったらしく、グチがほとばしる。
 「蛇城の外ならそんなに強くない」
 ヘブンの言葉にわたしとコウが首をぶんぶん振る。
 「思いっきり蛇城内だったよね」
 「うん、しかも蛇わきまくり。二度と行きたくね〜」
 人様のゲートに間違って飛び込まないようにしよう。今度は絶対死ぬかも。みんなも気をつけようね。

第98回 阿鼻叫喚
 ギルドハウスで、一息ついた頃にヘブンから連絡が入った。
 『ぺこ、デシートでおもしろいことになってるからおいで』
 おもしろいことってなにかなぁ。続いて連絡が入る
 『ドレイクとかモンスターわきまくり』
 それって、この間ブラックが言ってたのと同じ現象だ。デシートでモンスター異常発生ってヤツ。う〜ん、行きたいけど。 逝ってしまいそう。でも、見てみたい。う〜、う〜。やっぱり、行くっ。
 そうと決めたら、早速デシートまでリコール、リコール。呪文を詠唱しようとしたとき、玄関の扉が開いてキールが入ってきた。
 「おかえり〜」
 「ただいま。はぁ」
 フラフラしながら椅子に倒れこんだ。確か今日は筋力訓練のために鉱山に採掘しに行ってたんだよね。疲れたのかな。 なにせ箱入り息子だから。わたしとヘブンの育て方に問題があったのかしらん。
 「ね、キール。これからデシート行くけど、一緒に来る?」
 「う〜ん。行ってもいいかな」
 じゃ、行こう。デシートに向けてゲートを開いた。う〜ん、やっぱり自分でゲート開けるのっていいなぁ〜(しみじみ)。
 到着したところは魔法陣のある通路。デシートダンジョンの地下三階。ここはモンスターがほとんどわかないの。 だからここにマークしたんだけどね。魔法陣に入ると骨騎士部屋。道なりに歩くとリッチ部屋に行ける。なかなか便利な場所でしょ。
 確かヘブンからはリッチ部屋と訊いてるから真っ直ぐだね。歩きかけたところで、骨騎士部屋から降りてきた女性に声をかけられた。
 「ここでなにかあるんですか?」
 「あぁ、リッチ部屋でモンスターが異常にわいてるらしいですよ」
 「へ〜」
 キールと一緒にリッチ部屋に向かって歩き始めると、先刻の女性も同じ方向に向かう。やっぱり好奇心はうずくよね〜。
 リッチ部屋に近づくに連れて、モンスターの死体がちらほら倒れているのが目に入る。それも普段デシートにはいない エティンや大蛇などの死体。う〜ん、これは。これは。
 リッチ部屋への最後の角を曲がった時、部屋から咆哮が聞えてきた。なんか、すごい声なんだけど。 故郷に棲むゴジラが10体くらい叫んでるような声っていうのかな。獣の声だけじゃなくて、爆発音とかもするし。う〜ん。
 気になりながら歩きつづけて、部屋に足を踏み入れた。うわぁ、なんじゃこりゃぁっ!?
 広い空間の中には所狭しとモンスターがひしめき合っている。エティン、大蛇、オーク、オークメイジ、ガーゴイル、コープサー、 ヘルハウンドなどなど。下級モンスターが多いけど、でも数が異常に多い。わいてるってもんじゃない。巣窟。魔窟。地獄絵図。
 そこにハンターやハンターが連れたドラゴンやドレイクが暴れまわっている。誰が襲われてて、どのモンスターが死んでてって、 全然わかんない。うわぁ、もう帰りたくなった。
 だいたいヘブンはどこにいるの。こんな状態で見つかるわけないよ。絶叫が聞える室内に負けないくらいの大声でわたしは叫んだ。
 「ヘ〜ブ〜〜〜ン、どこぉ〜〜〜〜〜〜っ!!」
 するとエティンの死体の影から黒服に熊マスクを被った男性が漆黒のナイトメアに跨って現れた。
 「ヘブン、帰る」
 「ぐは、もうかぃっ」
 そんなこと言っても。
 「おもしろいよ〜。モンスターからルート(盗み)しまくってる」
 これだけわいてたら出来るよね。ヘブンの言葉で少しリラックスできた。せっかくだから楽しんで帰ろっと。
 とはいえ。これだけいるとどのモンスターを狙ったらいいのやら。壁に陣取って、しばし悩む。う〜む。 それにしてもすごいな、これ。
 ぎゃっと短い悲鳴が右の方か聞えた。ん?そちらに目をやると女性がオークに追いかけられてる。あらら。 必死に魔法を唱えようとしているけど、オークが精神集中の邪魔をするらしく呪文を詠唱できないみたい。
 早口で不可視の魔法を唱えて彼女に向けてかける。彼女の姿から室内から消えた。オークもいきなりターゲットが消えたので、 驚いている。そのオークと目が合った。ぐはっ。次のターゲットはわたしか。しまった。そこまでは考えてなかった。
 更に早口でFSの呪文を詠唱する。よし、攻撃。ぐはぁぁっ、失敗。いやぁぁん。こっち来ないで〜。
 逃げようとした瞬間、わたしの横を炎が横切った。その炎は一瞬でオークを焼き尽くした。ふぅ。助かった。
 「ありがと、ヘブン」
 ヘブンの元に歩きながら、お礼を言った。不可視の魔法で姿を消していた彼女も姿を見せた。
 「ありがとう。助かりました」
 「いえいえ」
 にっこり笑顔で応える。
 「魔法で攻撃してもキリないよね〜」
 「ぺこ、挑発すればいいじゃん」
 あ。そうだった。最近すぐ魔法を使ってしまって、挑発忘れちゃうんだよね。
 そういえば。
 「ヘブン、キール知らない?一緒に来たんだけど」
 「さぁ、だいたいこの状況で見つかるワケないって」
 肯くわたし。確かにこの状態で見つけられるワケないよね。モンスターとハンターの殺戮が延々と繰り広げられている惨状を見渡す。 でもわたしはちゃんとヘブン見つけたんだけど、な(笑)。
 とりあえず壁の華になってるのもつまらないので、モンスターの大群の中に足を踏み入れる。ぐにゅっ。 『いや〜な感触』ってインディが思ってると思うわ。地表が見えないからどうしてもモンスターの上の歩くことになっちゃうんだもん。
 挑発しようにも、たくさんモンスターがいすぎて、どれを狙うのが適切かよくわかんない。魔法で走り回るモンスターを倒してた。 だけど、周りでどんどん狩られるので、わたしもヘブンと同じようにルートするほうにまわることにした。てへ。
 お〜、たくさんある〜。お金でしょ。秘薬でしょ。宝石でしょ。盗れる、盗れる。わ〜い、ばんざ〜い。こりゃ、楽だわ。 うほほ〜い。きゃっほ〜。
 モンスターの大群が消えてなくなるまでこの饗宴は続いた。おかげで、たっぷりお宝集まりました〜。嬉しぃ。えへへ。 ちなみにこの異常発生の間、まったく死者は出ませんでした。
 いつもの通り本来の主が部屋に姿を見せはじめた頃、わたしはギルドハウスに帰宅した。

第99回 新人
 買い物から帰宅するとギルドハウスには誰もいなかった。みんな、どこ行ったのかな。ふと窓の向こうに隊長とブラックの姿がある。 あぁ、外にいたんだ。玄関を出て、右の方向に歩いて、森ではなく住宅の密集する方に行く。
 「お〜、おかえり」
 「ただいま」
 あや、見慣れない人がいる。誰??
 「タジマさんだよ、ぺこ」
 隊長の言葉に肯きながら、タジマさんにご挨拶。
 「こんにちは」
 「こんにちは」
 「どこでナンパしてきたの?」
 「オレじゃない。船長がブリテインで」
 最近ギルドに加入した正体不明の船長ことコルセアが連れてきたらしい。で、連れてきた本人はどこに行ったんだろ。
 この船長、とっても口が悪いの。一緒に話してるとこっちまで口が悪くなっちゃうんだもん。ただし、本人が敬愛する隊長と、 大佐と呼んでるブラックには丁寧なんだよね。上官だから、らしいけど。船長から見ればわたしだって上官じゃないのって言いたいけど。 ぷん。
 話がそれちゃった。で。その若者は、まだこのブリタニアにやってきたばかりの冒険初心者。名前はタジマ。通称たじりん。 隊長がつけたの。なかなかかわいいネーミングセンス。さすが隊長♪
 たじりんはまだ緊張してるらしくて、口数が極端に少なかったけど、打ち解けてないわけじゃないってことは、 その表情を見てるとよく理解った。素直なカンジの良い子だぁ。
 話していると目の前にコープサー(植物型モンスター)が現れた。たじりんの最初の獲物になるのかな。
 「ぺこ」
 隊長に呼ばれた。名前を呼ばれてすぐに隊長が言いたいこともわかった。
 「たじりんに」
 「回復すればいいんでしょ?」
 「そそ」
 らじゃっ。回復しますよ。
 「たじりん、まだ体力ないから気抜くなよ」
 「はぁい」
 ではたじりん、がんばって。隊長とわたしが後方支援。ブラックがたじりんのサポート。
 植物モンスターはたじりんが刀を振るってもちっともダメージを受けてない。たじりんの攻撃が相手に当たってないというベキかな。 反対に敵の攻撃はたじりんを確実にヒットしていて、見る見る傷を負っていく。早め、早めにたじりんに魔法で回復。 この調子だとよそ見をしたら、たじりん死んじゃうわ。
 そういう状況なんだけど。たじりんを除いた3人は雑談してたりして。話題は初めて闘った相手。
 「オレ、うさぎ」
 「わたしはモングバットかなぁ」
 「ブラックは?」
 「うさぎ、かな」
 最初はそうだよね〜。なのにたじりんにはいきなりコレなわけ?わたし達がいるけど。でも、ね?
 「ぺこは最初からよく殺されてたよね」
 隊長が笑いながら呟く。
 「うん。怪獣とかね」
 「昔から、死にマニアだったのか」
 ブラックってば。ち〜が〜う〜。
 「そういえばブラックとよく沼に狩りに行った」
 「そうそう。よく二人で死んだ」
 「(笑)」
 そういえば。初めてブラックに会ったのって隊長がきっかけだったっけ。懐かしいな〜。ホントに。
 最初の頃はドキドキわくわくしながら狩りに行ってた。死ぬかもしれないけど、それ以上に胸が躍った。たじりんを見ていると そんな昔の自分に戻れるような気がした。

第100回 シェイム
 ギルド設立以来、イベントらしいことを何一つしていないなぁ。というワケで。初イベント(非公式)で狩りに行くことになりました。 たじりんが特別参加です。
 行き先はたじりんが死なないトコを選んで、シェイム。それでも絶対死なないとは言えない(汗)。
 ヘブンがデシート(リッチロード)やダスタード(古代竜)を主張したけど当然却下。
 「たじりん、殺す気か」
 「たじりん、死んじゃうでしょ〜が」
 わたしと船長の合唱がギルドハウスに木霊したことは言うまでもありません。
 即出発するメンバと分かれ、わたしは秘薬を調達しにでかけた。銀行に保存してある分使っちゃったんだもん。 ホント、わたしって自他共に認める秘薬貧乏だ。うぅ。
 思いのほか補給に時間をとってしまったけど、ヘブンに迎えに来てもらって、シェイムに到着。で。着いた先は地下四階。最下層。
 ここって全エレ出るんじゃなかったっけ?血エレとかも出るんじゃなかったっけ?ここにたじりん連れてきてるワケ?
 ・・・・・たじりん。無事なことを祈る。たじりんから仕掛けない限り大丈夫なはずだけど、ね。たぶん。
 みんなと合流するべく奥に向かう途中、橋のそばでゴーストとスレ違った。ゴーストはわたしにまとわりつく。 う〜ん。蘇生を期待してるんだろうな。ごめんね、まだ出来ないの。そうゴーストに伝える。こちらの言葉は通じるから。 だけどゴーストはわたしから離れようとしない。なんでかな。あれ?このゴースト。イグアナだ。あらら。ホントに?イグアナ??
 とまどいつつ目の前のゴーストに質問をぶつける。
 「イグアナなの?」
 「○o」
 何言ってるかわかんないってば。だけど、心なしか「うん」と言ってるような気がする。
 「ヘブン、イグアナだよ。蘇生してあげて?」
 ヘブンはいつのまにか蘇生ができるまでに魔法の腕を上げてる。
 「違うよ。別人」
 「え〜、イグアナだって」
 人違いでも、ヘブンは蘇生してくれるんだけど、ね。蘇生完了。元の人の姿に変化する。
 「おひさしぶりで〜〜す」
 復活した青年の第一声がそれだった。やっぱりイグアナだ〜。いや〜ん、うれしい。
 「元気だった?」
 イグアナとのやりとりで、何度か魔法屋の前に来てたことを知った。そうかな、と思ってたんだよね。 だから隊長と一度魔法屋に様子を見に行かないとって言ってたんだもの。それがこんな風に偶然会えるなんて。日ごろの行いかな。 わたし?それともイグアナ?
 「あのね、ギルド創ったんだよ」
 「入る〜」
 ホント?嬉しいな。イグアナが入ってくれたらいいなと思ってたんだもん。
 一旦荷物の回収に戻ったイグアナと分かれ、とりあえず船長達を探すことにする。
 橋を渡ると、そのたもとに死体。あれ、これ。たじりん!?やっぱり死んでる。ってことは。たじりんはヤングだから。 自動的にヒーラーの元に飛ばされてるはず。一番近いヒーラーってどこだろ。迎えに行かないと。考えながら更に奥に進む。
 それにしても今日はモンスターに当たらないな。あ。蠍だ。倒しちゃえ。FSで瞬殺。でもたいしたお金にはならない。
 ブラックと船長がその向こうから姿を現した。
 「たじりん見なかった?」
 「死体なら見たけど。ヒーラーのトコ飛ばされたんじゃない?」
 「あ、そか」
 「そうだった」
 二人ともヤングの常識をすっかり忘れてたらしい。ヤング卒業して随分経つから仕方ないけど。わたしだってすっかり忘れてたし。
 「上見てくる」
 ブラックがそう言い置いて移動した。
 一体の火エレが現れた。
 「ぺこ。回復頼む」
 「はいはい」
 そういって、すたすたと船長は火エレのそばにより、戦闘開始。相手は船長だっていうのに、サポートするわたし。ちっ(笑)。
 初めて戦ってるところを見たけど、船長強いわ。へぇ、意外。普段デシートの骨騎士相手にしてるだけあるかも。
 火エレを倒した船長とともに先を急ぐ。戻ってきたブラックがたじりんがいなかったと告げる。
 「ギルドハウスにまた来るだろう」
 そう結論を出した。
 女性が火エレと闘っているとこに遭遇。この人さっきまでゴーストだった人だ。で。また死に掛けてる。
 サポートのつもりで魔法で回復することにした。船長も加勢にはいる。
 「もしかして死にに来てるのか?」
 ブラックがその様子を見学しながら問い掛ける。訊けば、この女性を蘇生したのがブラックだったらしい。
 「土エレ狩ってたんですけど。火エレとかも狩ってみようかなって。でも無理みたい」
 「うん。無理だと思う」
 「無謀だな」
 わたし達三人がうんうんと頷く。
 「魔法耐性どれくらい?」
 わたしの質問に彼女がはっきりした口調で答えた。
 「30」
 ぐは。今度は三人でのけぞった。それは絶対死ぬ。わたし達の反応に彼女も自分の無謀さを自覚したのか、
「おとなしく土狩ってきます。どうもありがとうございました」
 そういって、去って行った。
 なんか昔のわたしみたいだね。無謀で、だけどなんでもワクワク挑戦してたあの頃の。ね。

第101回 ドラゴン
 『ぺこ、ドラゴン見たくない?』
 ヘブンから連絡が入った。
 「うん。見たい」
 だけど、ダンジョンはイヤ。ダスタードとか行こうっていうんじゃ。
 『家に連れて行くから』
 はぁ!?いったいどういうこと?家までってギルドハウスまでってことでしょ?ドラゴンつれてくる?追っかけられてるんだろぉか?
 外から大地を揺るがすような咆哮が聞えた。なんだ、なんだ??玄関の扉を開けると、家の前にゲートが口を開けていた。 ヘブンがゆっくりとゲートから現れる。そして。そのうしろには。うわぁぁぁっ。ドラゴン。紅ドラゴンだぁぁ。
 ヘブン、これ、いったい!?
 「おすわりっ]
 えっ。今なんて言った?うそぉ。まさかこれ・・・。
 「ヘブン。これペット!?・」
 「うん」
 「え〜グランドマスター調教師になっちゃったのぉ?」
 「ううん。ならなくても大丈夫らしいよ」
 「マジ?」
 「うん」
 「言うこと聞いてるでしょ」
 ・・・。うん。今はね。でも。メアの二の舞はごめんである。
 ドラゴンが叫ぶたび、ビクッとしてしまう。野生に戻ったんじゃと思うと気が気じゃない。
 でも主人であるヘブンは悠然としてる。
 「エサもってない?」
 「生肉、だよね?ない〜」
 これから一緒にでかけるとき。ドラゴンがいれば、とっても安心だけど。ホントに大丈夫なのかなぁ。
 「ぺこもはやくドラゴンテイマーになれるといいね」
 ヘブンの言葉はとても優しく響いた。
 ありがと、ヘブン。

第102回 ご近所
 訓練に行こうと思って、居間に降りると船長しかいなかった。ぐ。ついてない。わたしと船長の相性はすこぶる悪いのだ。
 「わたし、でかけてくるから」
 「ヤだ」
 「行くから!」
 「行かせない!」
 「行く!!」
 「ヤっ!!」
 「行くからっ!!!」
 強く言い放って、リコール呪文を詠唱する。すると船長がわたしの身体を突き飛ばす。詠唱の邪魔する気やなぁ(怒)。 くぉのわがまま海賊がぁっ。
 「むぅ」
 にらみ合ったままお互い一歩も引かず。スキル訓練に行くのジャマしないでよ。ぷん。
 両者の緊張を緩和するように玄関の扉が開いて、ルーインが姿を見せた。ルーインは鍛冶修行中の女性。 このギルドの一員であり、もちろんぺこの数少ない女友達です。
 「おはよ〜」
 ニコニコ笑いながらルーインが入ってきた。
 「あ。ルーイン、おはよ」
 ほっとした。これでわたしは出かけられるハズ。なぜかルーインと船長は気が合うんだよね〜。なぜだろぉ??
 「おぉ。ルーイン」
 うれしそうな声をあげた彼の次の一言。
 「おまえ、もう行っていいぞ。どこでも行っちまえ」
 くぅっ。ホントに、ムカツく。
 「言われなくても行くもん。ルーイン、行ってきます」
 ルーインにだけめいっぱいの笑顔で挨拶をした。船長には挨拶するもんかっ。ぷん。 そして二人に背を向けて、リコールをしようと思った瞬間。すごい衝撃が突き抜けた。
 わたしはゴーストになってた。げ。
 「あ。ぺこ・・・」
 「ヤっちまった」
 犯人はキサマかぁ〜っ。船長ぉ。どこまで人のジャマしたら気がすむねんっ。
 って、ちょっと待って。今ここに蘇生出来る人っていないんじゃ。えぇ〜〜〜。うわぁ、どうしよう。というか。 どうしたらいいんだぁっ。
つか、船長、分かってて殺ったやろっ。むぅ。むぅ。むぅ。
 ショックの余り玄関を飛び出した。正確にはゴーストだから通りぬけた、かな。家を出て右に曲がって、人家のあるほうに走る。 もしかしたら蘇生の出来るヒトがいるかもしれないでしょ?
 エティンと闘っている戦士の横を通りすぎたとき、戦士に声をかけられた。
 「蘇生、できるよ」
 えっ!?
 「こっち」
 そう言いながらエティンと一緒にすぐ右にある小さな家に入っていく彼。入った途端セキュリティを利用してエティンを外に追いだす。
 「さ。もう大丈夫だから」
 彼のそばでしばらくじっとしていると。ふっと意識が軽くなって、元のわたしに戻ってた。
 「ありがとうございました」
 深深とおじぎをしてお礼を言った。
 「この辺、モンスター多いからね」
 うぅ。誤解されてる。普通はそう思うよね。
 「あの・・・。違うんです」
 「え?」
 「同じギルドのメンバに殺されちゃって・・・」
 「あら」
 うぅ。こんなこと言わなきゃならないなんて。船長のばかやろぉ〜。
 「あの。わたしの家すぐそこなんです。お礼にいらっしゃいませんか?」
 にっこり微笑むわたし。だって命の恩人だもん。
 「あ。じゃぁ、お邪魔しようかな」
 良かった。案内しますね。初めて近所の人に会ったんだし。命の恩人だし。お茶くらいごちそうしたいわ。 確かクッキーがあったような気もするし。
 ゆっくり家に向かって歩く。その間に自己紹介。
 玄関を入るとブラックと隊長がいた。あらら。
 「ぺこ、おかえり」
 「ただいま」
 「えとね、二人とも」
 そう言いかけるのと、隊長とモアヘッドさんが声を上げるのがほぼ同時だった。
 「あ〜」
 へ?知り合い??
 二人は再会を祝してわたしをほって、会話がもりあがってる。
 仕方ないのでブラックにことを報告する。
 「あのね、命の恩人なの」
 「ほ〜」
 あ。そういえば。犯人の船長がいないけど。どこいったんだ??逃げ足の速いヤツ。今度会ったらただじゃおかないっ。
 その後四人で改めてご近所付き合いを誓いつつ、楽しい午後のお茶の一時を楽しんだ。