吟遊詩人な日々
第82回 古代竜
 ギルドハウスがホントに珍しく大賑わいだった。隊長、ぴょん、ヘブン、ボブリン、ねこ、キール。そしてわたし。 テーブルを囲んでとても楽しくおしゃべり。
 そんなときにぴょんがみんなに向かって、こう言ったの。
 「この人数だったら、古代竜も瞬殺だね」
 この言葉で全員が盛り上がったのは言うまでもないかな。そういうわけで決定しちゃいました。「古代竜狩り」。
 行き先はダスタード。ここはドラゴンが生息するダンジョン。で、そのドラゴンの中でも最強のドラゴンが古代竜だったりする。 わたしも野生の古代竜はまだ見たことがなくて。ドラゴンのダンジョンなんて、いくら「不本意ながら」死にマニアの認定を 受けているわたしでも行かないもん。
 今日は大勢だから大丈夫かな。たとえ死んでもぴょん、ねこ、隊長、ボブリンと蘇生が出来る人が四人もいるし、ね。てへ。
 ダスタードに向かうゲートが開いて、順番にゲートをくぐっていく。うわぁ、なんかドキドキしちゃうな。いやん、興奮しちゃう。 そういえば、以前フェルッカで「ドラゴン見学ツアー」でヒドイ目に遭ったこと思い出しちゃうなぁ。よく考えるとあそこって ダスタードだったワケだよね。ここはトラメルのダスタードだけど。はぁ、着いた早々イヤなこと思い出したかも。うぅ、不吉。
 ゆっくり坂道を下って、ダスタードに侵入した。広い、広い、空間には何もいない。う〜、ほっとしたような。残念なような。
 と、壁面の上に赤い竜がいる。もしかして、あれ・・かな?
古代竜狩ってます。  全員が横一面に馬を並べ、そしてぴょんの指示に従って第7系統魔法「連鎖電撃」を古代竜に向かって一斉に唱えた。 巨大な音ともに雷が古代竜に落ちる。ちなみにわたしはまだ使えないので、ただの雷撃だったりして。キールも、全然だめだめです。 戦士だし。あ〜、さみし。
 雷を浴びた古代竜にターゲットされたのはぴょんだった。古代竜からの攻撃を一人で受け止めながら、連鎖電撃で攻撃し続ける。 でも竜の抵抗もほんの刹那だった。断末魔の悲鳴が聞こえて、その巨体が地面に叩きつけられた。
ドラゴンスレイヤー♪ と、ぴょんから声が漏れた。
「あ〜、そこだと回収できない」。・・・。なるほど。倒れた場所がかなり悪い。あれじゃぁ、戦利品の回収が出来ないね〜。 あ〜、古代竜だと期待できそうなのにぃ。これからは場所を選んで、倒そうね〜。

第83回 アイス
 その後まったく古代竜は現れなかった。狩りにやってきて、獲物がいないのは非常に寂しい。それならば、と。 ぴょんがゲート魔法を詠唱中です。 今度は新大陸にあるアイスに行くことになった。なんかダンジョンツアーになってるような気がするのは気のせいかな。
  実はアイスも初めてなの。洞窟に入ってみると、中は一面の氷の世界だった。うわぁぁ、キレイ。モンスターダンジョンだなんて信じられないよぉ。 きらきらと光りの乱反射で洞窟内はとても美しい。
 ん?不意に目の前を何かが横切った。目を凝らしてよく見ると、氷で出来たエレメントモンスターだった。 氷エレだぁ。初めて見た。透き通る身体がキレ〜イ。うっとり♪
 モンスターに思わず見蕩れてしまったわたしと違って、みんなはとっても現実的で。あっさり倒してしまいました。あぅ。
 洞窟をうろうろして、気がついたんだけど、ここのモンスターはすべて氷で出来てるの。そのせいかなぁ、どのモンスターも 恐いっていうよりは綺麗なの。こんな綺麗なモンスターならいいな。
う〜、モンスわかないなぁ。  っが。あぅ。痛い。後ろから氷蛇が襲ってきた。いや〜。透き通ってる身体の上に、まわりも氷で覆われてるから、視界に捕らえ にくくて。そばに来てたのに、気づかなかった〜。あぅあぅ。
 「ぺこ、蛇倒しちゃいな〜」や〜。蛇キライだもん。いや〜ん。や〜だ〜。インディの横腹を思いっきり蹴って、 ダンジョンの中を逃げ回る。ごめんね、インディ。痛かった?
 「逃げずに戦え〜」
 「死にマニアなんだから、死ぬの平気だろぉ」
 そういう問題じゃないってば。うぅ。蛇はキライなんだってばぁ。
 「ボクはぺこちんの味方だから」そう言って、蛇を倒してくれたのはねこだった。ねこぉ。やっぱり優しいな〜。ねこ、大好きだよぉ♪
 でも。やっぱりここもモンスターはわいてなかった。で。こんなときはアソコしかないでしょ。そ。その名はテラサン♪
 というわけで、テラサンに向かってレッツゴー。って、やっぱりダンジョンツアーになってるよ〜。でもテラサンでは死んだこともないし。ちょっと安心かなぁ、なんてね。てへ。
 だけど。これが嵐の前の静けさに過ぎなかったことに、このとき誰も気づいてなかった。

第84回 蜘蛛城
 やってきました。テラサン城。わたしが唯一死んでいない場所。テラサンでは死なないジンクス。きゃ。
 ゲートで到着した先は、廊下で結ばれた連部屋。先客が既に蜘蛛の姿をしたテラサンアベンジャー(通称:アベ)相手に戦闘状態。 アベも6体くらいいる。
 フリーのアベに向かって、まずは挑発。このスキルがある人間が一斉に楽器を鳴らし始めたから、うるさい、うるさい。 だけどその中にあって、一際美しい旋律が響いてる。ボブリンだ。さすがグランドマスター吟遊詩人。わたしの未来の姿ね。 えっ、違う?
 挑発で相打ちを始めたアベにそれぞれが得意な方法で挑む。戦士のキールと隊長は、それぞれフェンサー、ボーガンを駆使して応戦。 唯一接近戦になるキールはまともにアベの毒攻撃を受けてしまうので、後ろから魔法使いのぴょんや魔法の使い手でもあるボブリンが支援する。もちろん、彼らは強力な攻撃魔法でアベのダメージを増すことも忘れない。なかなかバランスの取れた編成だよね。
 一方、そのすぐ隣の部屋ではねこ・ヘブン・わたしの三人が魔法で戦っていた。壁際に陣取り、EB(雷弾)やFS(火柱) を連射する。呪文をぶつぶつ詠唱しては、攻撃。う〜ん、喉が渇いちゃうな。
 だけど、今日のテラサンはいつもと様相が違ってた。次から次に現れる。狭い空間の中に大量のアベが蠢く。 いくらなんでも多くない?こんなに湧いたらキモチ悪いよぉ。このままじゃ数にモノを言わせたアベに殺られちゃう。 秘薬もどんどん消費してるし。剣だって刃は摩滅していってるはず。
 最初にBS(剣の精霊)を出現させたのは、誰だったのか分からないけれど。それがきっかけで、数体のBSが現れてアベを襲う。 何百、何千という剣の塊がアベの身体を切りつけ、モンスターからその生命を奪っていく。おぉ、さすがBS。頼りになる。なるけど。
 でも。蜘蛛を倒した瞬間こっちに殺意が向けられるんだからね〜。まったくぅ。予め不可視の呪文を詠唱して、姿を消す準備をしておく。 ついにアベが倒れた。
 それと共にBSがゆっくりと赤く変色していく。これはギルドメンバを狙うBSに変化した証拠。うぅ、やっぱり〜。で、ぐぇっ。 最初のターゲットは、わたしぃっ!?
 いつもならここで慌てるけど。ふっふっふ。今回は呪文は詠唱済。あとは自分に魔法をかけるだけ。えっへん。
 ではでは。せ〜のっ。・・・・・。あれ?わたし、えと、消え・・て・・ない・・よね?ぐはぁっ。失敗(爆)。 うわぁぁぁ。失敗したよ。サイアク。どうしよ。どうしよ。こっちに来てる、来てる。あぁ、このままだとまたBSに殺されちゃう。 えと、えと。室内を見回した。
 あっ、あそこに扉がある。インディっ!!あそこ、行こっ。インディと呼吸を合わせて、扉に向かって駆け出した。 扉までそんなに距離はないはずなのに、酷く遠く感じる〜。えぇい、アベ、ジャマ〜。どいてよぉ。通れないでしょ。インディ、飛び越えて。
 必死でたどりついた鉄扉を夢中で押し開いた。あや、後ろからヘブンも続く。二人で飛び込んで、急いで扉を閉める。 ガキン。BSが鉄扉にぶつかる音が聞こえた。間一髪。大きく肩で喘ぐ。はぁ〜。助かった。
 「アブなかった」
 「うん」
 ヘブンと顔を見合わせて安堵した。ねこは無事に消せたんだろうな。
 「ね、なんかめちゃくちゃ湧いてない?」
 「うん。秘薬が切れそう。ちょっとヤバいかも」
 「わたしも」
 秘薬のキレ目が死に目?まさかね。テラサンでは死んだことないもん。大丈夫、大丈夫。死ぬ前に撤退すればいいんだし。
 扉の向こうでBSが消える音がした。うん、もう大丈夫だ。扉をそっと開ける。元の場所に陣取って、隣の部屋の様子をちらっと見た。
 あれ?ゴーストがいる。あ、キールだ。死んじゃったんだ。蘇生のできるメンバが蘇生し始める。いつもなら、これでキールが蘇生して、また戦うはず。
 だけど。今回はその蘇生をする余裕すら湧いてくるアベ達は待ってくれなかった。ボブリンが、ヘブンが次々に倒れていく。 うわぁ、ヤバいよ。蘇生できる人間がいなかったら、全滅じゃないのぉ。
 獲物のいなくなったアベが最後にターゲットしたのはわたし。うわぁ、サイアク。EBを打って応戦するけど、挟撃された。 いや〜ん、逃げられないじゃない。
 えと、不可視の魔法。魔法。うわぁ、詠唱のジャマするな。ばかぁっ。ぐはっ。死んだ。ジンクス敗れたり。あぅあぅ。
 ゴーストになったわたしの目に飛び込んだのは、アベに襲われてる愛馬の姿だった。あぁ、インディ。逃げて、逃げてよ。
 泣いてるみたいな、悲鳴のような嘶きが室内に反響する。見てることしかできない。何もしてやれない。こんな近くにいるのに。 こんな姿じゃ何も出来ない。インディ、もういいから。逃げてっ。ね、お願い、逃げて。死なないで。
 馬体が静かに床に沈んでいく。いやぁっ。インディ〜〜〜〜っ。ごめん。ごめんね。また、助けられなかった。
 ゴーストでも涙が出るんだ。初めて知った。
 気持ちを切り替えて、隣の部屋の隊長の元に走り、蘇生してもらった。やった、復活。急いで荷物の回収に戻らなきゃ。 くるり回れ右して駆け出した。あ〜、このずるずるホンット走りにくいんだから。
 自分の死体の元まであと数歩というときに、突然アベが2体湧いた。ぐはっ。運悪くわたしは湧いたアベのすぐ横に立ってた。 というわけで。えぇ、瞬殺。ゴーストから復活したときって、秘薬も武器も持ってないんだもん。抵抗する術なし(泣)。
 また隊長の元に戻らなきゃ。って引き返すと、隣の部屋からずるずるを纏った人がやってきた。ぐはっ。隊長まで。・・いつの間に。
 というわけで今度は復活済みのボブリンに蘇生してもらう。ふぅ。助かった。今度は慎重に移動しよっと。壁伝いにそろそろと移動する。 大成功。荷物をせっせと回収する。まずは秘薬、と。それから、着替えなきゃ。ぐはっ。なに、なに。背中の傷みに顔を顰めながら、 振り向くと、アベ。・・・。あらぁ。さよぉならぁ〜〜。うぅ。またまた今度はアベの毒で即死。
 蘇生される度にすぐ殺されてしまう。これじゃ荷物回収もできない。アベのいない隣の部屋でぴょんに蘇生してもらう。 今まで周りに目が向かなかったけれど、よく見るとわたしと同じようにヘブン達も入れ替わり立ち代わり、死んでは蘇生を繰り返してる。 あやや。こうモンスターわきまくり状態だとこうなるよね〜。はぁ。キリがないような気がしてきた。
 死亡者が順番に蘇生を完了して、それぞれの荷物を取りに行こうとしたその時、隣の部屋が闇に覆われたかと思うほど暗くなった。 そして、天井に届くほどの巨体がこちらに向かって歩いてくる。うわぁぁっ。よりにもよって、ここに黒閣下!?黒い翼を持つ悪魔。 その名は黒デーモン。最強の名に相応しいモンスター。自分の運のなさを呪いたくなるわ。
 「誰だ、閣下連れてきたやつ〜」そう叫んでたのは誰なのかは分からないけど間違いなく全員の気持ちを代弁してたよ。 黒閣下は、わたし達には視線すらくれず通りすぎた。で。後には、ゴーストが4人。そうです。みんな通りかかりに殺されたんです。 うぅ。閣下のばかぁっ(号泣)。
 ゴーストが4人も固まっていると、目立つらしい。ナイトメアに乗ったここの先客である女性が蘇生してくれた。 荷物のある場所に立ったら、不可視の魔法までかけてくれた。はぁぁ、やっと安心して荷物の回収が出来る。 足元に目をやると自分の死体が3体仲良く並んでる。はぁっ、もう疲れた。今日お家帰りたい(号泣)。
 「ね、帰ろ」疲労感漂う顔でヘブンに告げる。
 「うん、これ以上いても死ぬだけだしな」
 「秘薬きれたし」
 「名声も下がりまくったし」
 というわけで、一人平均3回死にのテラサンから撤退したのでした。
 写真すら取れなかった。くすん。余裕なかったし。

第85回 トレジャーハンティング再び
 レビがトレハンに誘ってくれた。トレハン。つまりトレジャーハンティング。宝捜し。スリルと冒険。なによりお宝♪行く、行く。 もちろん行きます。行かないでかっ。
 そういうワケで、ヘブンと連れ立って集合場所のブリテン第2銀行(通称:2銀)に急行した。
 まずはレビを探す。2銀は1銀と違って、もともと人もそれほど多くない上に、夜明け前のこの時間は人もまばらにしかいない。 だから簡単にレビを見つけることが出来た。
 「おはよ、レビ」
 「おっはよ〜」
 「トレハンに誘ってくれてありがと」
 「ううん。それより。ぺこ、お願いがあるんだけど。宝箱を開けたときの護衛をぺこに頼みたいの」
 それを聴いて驚いた。戦士でもないわたしが護衛なんて。まだヘブンのほうがいいんじゃ。わたしのきょとんとした表情を見て、 更にレビが言葉を継ぐ。
 「最前線で壁になって〜」
 その言葉で、ぽんと手を打ったのはヘブン。
 「あ〜、死にマニアだから」
 ぐはっ。つまりレビ。それはわたしが囮になる、と。そういうこと?
 「確かにぺこにぴったりだ」
 ヘブンが大笑いする。レビも一緒になって笑ってるし。むぅ。二人ともヒドいんだから。ぷんぷん。でもトレハンは行くけど、ね。 いいもん、だ。壁でも的でも囮でもなってやる〜。でも死にたくない。
 そこへ今回のトレハン参加者が続々と現れる。もちろん初顔合わせの人もいるから、挨拶を交わしながら自己紹介をした。で。 今回のトレハンメンバは、ボブリン。レビア。キキ。たくやの4人にヘブンとわたしを加えた男女同比率の総勢6人。
 職業は、それぞれ吟遊詩人、魔道師、戦士、トレジャーハンター、調教師、調教師となってます。トレハン企画者で 宝の地図解読&宝箱掘出担当のたくやがリーダーになる。
 トレハン用の宝の地図にはレベルがあって、レベルが高くなるごとに宝も豪華になるんだけど。宝箱を開けるには、その宝を 守護するモンスターをすべて倒さないとダメなの。当然このモンスターはレベルが高くなるほど強力なモノが出現する。
 以前ねこやぴょんと行ったときはレベル1だったから。ホントに余裕でした。今日のトレハンは2ランク上がって、レベル3なのだ。 楽しみ♪
 既に宝の地図は解読済みらしい。あとは現地で宝箱を手に入れるだけ。解読した地図の付近にゲートを開く。 到着した先はサーペンツホールドにある森。そこから更に宝箱のある場所に地図を確認しながら徒歩で移動する。
 「ここ、かな」
 たくやが地図を見ながら呟いた。宝箱のある場所から数歩下がって、たくや以外のメンバが扇状に広がった。
 「じゃ、掘るよ」
 宝箱を掘り出した瞬間、次々とモンスターが現れた。蜘蛛。火エレ。オーガロード。リッチ。レベル3ってリッチとか出るんだ。 ぐはっ。キキが剣を振り上げて、火エレに切りかかる。他のメンバは魔法で応戦。
あっという間に守護モンスターを倒した。また森に静寂が訪れ、わたし達は宝箱の周りに群がった。
 「開けるよ」
 蓋がギッと軋む音と共にゆっくり開かれる。
 「おぉ〜〜〜〜」
 「すげぇ〜〜」
 「ケッコウあるね〜」
 お金はもちろん、巻物、秘薬、武器、防具、宝石など様々なものが入ってる。とりあえずみんなで手分けして回収して、 ブリテンに一旦帰ることにした。
 2銀のすぐ近くにある空き家に入り、テーブルの上にすべての戦利品を並べる。
 「お金は山分けとして、残りは好きなもの持ってていいよ」
 「武器ほし〜」
 「秘薬くれ〜」
 「宝石ちょ〜だい」
 「残りのクズを全部もらっとく」
 わたしは巻物とクズ武器を少しもらった。両方ともお店に売りに行って現金化するの。
 「もう1枚あるから、もう一回行こっか?」
 たくやの提案に全員が大賛成。
 夜が白み始めていた。夜明けが近い。
 こうして史上最悪の第2回戦が開かれようとしていた。

第86回 トレハン第2回戦
 もう一枚の地図を元に、再度サーペンツホールドにゲートを開いた。
 地図の位置を確認して、たくやが地面を掘り始めた。宝箱を開けると一斉にモンスターが現れた。先程と同じように守護モンスター群を 倒していく。
 ところが。それらを倒していると、銀蛇が現れた。どうやらこの島は銀蛇の巣らしい。うわぁ〜〜〜。蛇キライなんだってば。その上銀蛇大きいし。 というか、逃げたほうがいいんじゃ。うわぁぁ、扇動とか魔法とか唱えてる余裕ないし。ちょっと銀蛇って走るスピード速いんじゃないの?
 全員がバラバラの方向に逃げ出す。宝箱?そんなこと気にしてる余裕ないって。不可視の魔法をかけたいけど、 呪文唱えている間に殺されるよ。来るな、来るな、来るなぁぁぁっっ。あぅぅぅ。フェイドアウト。
 ・・・死んでしまった。昨日散々死んだっていうのに。うぅ。なんでかなぁ。とりあえずヒーラー探さなきゃ。って、 こんなとこにヒーラーなんているの?えと、地図見てみよっと。下のほうに復活の神殿があるみたい。あそこまで走るしかないよね。
 他のみんなはどうしたんだろ。たくやとボブリンが死んだトコは見たけど。
 復活の神殿は森の中に十字架を建てただけの粗末なものだったけれど。あっという間に蘇生が完了したんだから、 その効果はすばらしいかも。でも回復はしてくれないから、ズキズキ身体が痛むし、意識はふらふらするけど。
 まずは荷物の回収か。足元がふらつくけど、死体のそばまで歩いた。まずは死体から秘薬を取って、回復の呪文を唱える、と。 ふぅ。あ、あれたくやだ。復活したんだ。あ、キキが死んだみたい。う、ヘブンも?あ、ボブリン、また死んでる。 回収を終えて、復活したたくやのそばに行く。
 「とりあえず西の海岸集合ね」
 ん、わかった。先に移動してるわ。西の海岸なら、ここを左にまっすぐかな。ふぅ。沼地になってるところに足をとられないように ジャングルを移動する。
 シュ〜、シュ〜という息遣いが近くに聞こえたと思ったとき。あぅ。な、なんで、銀蛇!?また、復活の神殿まで行くのツラいよぉ。っと、なんとこんなジャングルの中に野良ヒーラーがぼーっと立っている。うわぁ、天の助け。ブリタニアの神様ありがとぉ。ヒーラーさんに無事復活してもらう。
 ふぅ。よかった。さ、回収しよっと。やっぱり最初は秘薬から。ふんふん。ん?急にわたしの周りが暗くなった。
 確かに太陽が昇り始めて、どんどん明るさは増しているけど。こんなに日陰が出来るほどじゃないのに。なんでかな。 まさか・・・。恐る恐る後ろを振り返ったわたしの前に立っていたのは、宝箱の守護モンスターの最後の一体、オーガロード。 なんで、ここにいるの?銀蛇のせいで倒しそこなったけど、だからって。なんで。うぅ。回復していないわたしは抵抗も出来ないまま、 オーガロードの振り下ろした手で張り倒された。そしてそのまま意識が途切れた。はぁ、ゴーストになっちゃったよ。えと、 何回目だっけ?
 ゴーストのわたしに気づいてくれたのか野良ヒーラーが無言でわたしの前に立っていた。ま、あなたから来てくれるなんて、幸せです。 あっさり蘇生。らっき・・・ぃ・・・!?なんで、オーガロードがまだそこにいるのよっ。うわぁ、蘇生の完了したわたしにまた その大きな手が振り下ろされた。あぅ。
 「きみ、なにしてるの!?」と言いたげな野良ヒーラーはまたわたしを蘇生しようとする。えと、うれしいんだけど。ありがと、 なんだけど。オーガロードまだそこにいるんだってば。だから、今蘇生されても死ぬんだってば。
 「蘇生したくないワケ?」そういう顔でゴーストなわたしをじっと見る。うぅ。わかった。蘇生してください。はいはい。 で、蘇生完了を待ってましたとばかりにオーガロードがわたしを殺す。そんなわたしをまたヒーラーが蘇生する。 この不毛な状況はいつまで続くのかな。
 と、わたしを探しに来たボブリンがオーガロードを引き付けてくれた。今のうちに、蘇生と回復を完了して、秘薬だけ先に回収して すぐに不可視の呪文を唱える。ふぅ。助かった。ゆっくり荷物を回収する。
 さて、西の海岸に移動しよう。海岸に出てそのまま北上することにした。今回は周りに注意深く目を配る。オーガロードはいない、と。 銀蛇もいない、と。
 大丈夫。そろそろと移動していると、後ろで何かを這いずる音がする。もしかして。うしろをぱっと振り返ったわたしの目に 映ったのはなんと、3体の銀蛇。ぐはっ。せ〜の〜で。アタマの中でホイッスルが鳴って、わたしは海岸沿を文字通り死ぬ気で走り始めた。
 銀蛇3体がすごいスピードで追いかけてくる。うぉぉ。走るっていうより飛んでるよ。こわ〜〜〜い。少し引き離したところで、 不可視の魔法を唱えて、姿を消した。ふぅ。せ〜ふ。追いついた銀蛇達が消えているわたしの周りで止まった。うそぉ。 視えてないんじゃないの?なんで、そんなトコで止まるのよ。うわぁ、困るよ。効力が消えたらどうするのぉ。うぅぅぅ。 結果。死にました。
 ゴーストなわたしの元にレビが来てくれた。蘇生してくれる。レビ〜。ありがとぉ。みんなどう?
 「死にまくってる。ヘブンもたくやもボブリンもキキも」
 それって、レビ以外全員だったってこと?レビはまだ一度も死んでいないけど、みんな銀蛇に殺られまくっているらしい。だろ〜な〜。
 「ぺこ、蘇生できる?」
 「ううん、第7系統すらまだまだなのに。出来ない」
 「ぐはっ。そういうわずに練習だと思ってやれ〜」
 え。そう言ってレビが作った蘇生魔法を施した巻物をくれた。これはすでにレビが秘薬を使って作ったものだから、 魔法と同じ効果がある。ただの呪文を書いただけの巻物とは違う魔法の巻物なのだ。ん、わかった。がんばる。
 「じゃ、上のほうにみんな集まることになってるから」
 わかった。レビも死なないでね。今度こそ慎重に移動して、みんなのいるだろう海岸にやってきた。ボブリンとたくやがいる。 ふぅ。よかった。ヘブンは?神殿に集合にしたから。そか、じゃ、移動だね。
 そんなわたし達の前にゴーストのキキが現れる。あ。キキ。待って、待って。レビから貰った巻物を握り締めて、呪文を唱える。 蘇生できますように。お願い。ブリタニアの神様っ。キキの姿が元に戻った。よかった。成功だぁ。
 「ぺこ、ありがと」
 ううん。蘇生できてよかったぁ〜。
 「よし、みんなで神殿に移動しよ」
 南に下って、復活の神殿に全員集合する。
 「とりあえず宝箱を回収して撤退しよう」
 たくやの提案にみんな肯く。これほど死んでいてもやっぱり宝箱を手に入れることは忘れないメンバ。
 「宝箱を開けるには、後オーガロードが残ってるな」
 「だね」
 「オーガロードを手分けして探そう」
 了解。神殿から2人一組で別れて探す。わたしはヘブンと一緒に行動する。
死にマニア本領発揮の図  「おれのかばん、たぶんオーガロードが持ってる」
 ヘブンの自慢の黒バッグをどうやら死んだときに盗られたらしい。じゃ、オーガロード倒せば戻ってくるんだから。
 「うん」
 いないね。オーガ。手分けして。しかも銀蛇に注意しながら、オーガを探すのはタイヘンだった。
 あ、あそこ。巨体がゆっくりと東に移動している。オーガロードだ。
 「OL見つけた〜」
 「どうする?」
 「とりあえず、みんなのトコ戻ろう」
 うん。神殿に向かって、戻る。オーガロードを探すメンバ達に出会うたび声をかけた。全員が揃ったところでオーガロードの元に行った。 今度は倒すよ。
 みんなでオーガを中心に円陣を組む。キキが刀を振り上げ、レビやボブリン達が魔法を唱える。そしてヘブンがBS(剣の精霊)を 召喚・・・。ぐはぁ。オーガロードは一斉攻撃の前に崩れた。
いっぱい死んだけど、ね。  で、BSがいるんです。うわぁぁあ、やめて〜〜。わたしのほうにBSがやってくる。背を向けて走ったけど、逃げ切れるわけもなく。あぁぁ。死んだ。
 「あははは」
 「サイコー」
 レビに蘇生してもらいながら、みんなの笑い声が耳に痛い。
 「BSで死ぬのはぺこくらいだよ」
 ヘブン、原因作っといて、それはないでしょ〜が。
 「さて全員倒したし、宝箱拝みにいきますか」
 たくやの言葉にみんなが笑顔で頷いて、最初に移動した場所に戻る。宝箱にはたくさんのお宝が入ってた。 今回は苦労したから嬉しさもひとしおです。
 しみじみヘブンが呟く。
 「ヒーラーの有り難みが初めて理解った」
 朝日を受けたみんなの笑顔がとても眩しかった。