吟遊詩人な日々
第46回 調教師
 今日は北極に来てる。ここはブリテインから遥か北の四方を海に囲まれた島。氷で覆われた大地の中心部に大きな鉱山があるだけ。でもこの鉱山の内部には「デシート」と呼ばれるダンジョンがあるんだけどね。わたしが先日体験したあのリッチがいるトコロ。
 北極には舟かリコールでないと来られない。モンスターもオークが少しいるだけなので、比較的安全なトコロといえるかな。
 そんなに寒くないのは、鎧のせいかな。雨がちょっと降っていたけれど、とてもキモチよかった。
 メンバーは、隊長、ブラック、ヘブン、わたし。そして新しくお友達になったセラことセラフィーナ嬢。わたしの数少ない同性の お友達の一人。最近知り合ったんだけどね。ホントに少ないの。全部で4人。
 元気いっぱい活発な女戦士まい。
 釣やきこりのお仕事のかたわらお裁縫もこなしちゃう穏やかで優しいざな。ざなちゃんの来ている作業着は彼女のお手製。 今一番の仲良しだよ。
 わたしと同じ吟遊詩人で調教師までこなしちゃうセラは、無口でとってもおとなしい。でもとっても気が合うんだよ。
 最後にセラの妹で、看護婦志望のきゃぴきゃぴ娘のラヴィニア。通称ラヴィ。
 今日はそのセラも一緒に来てるんだ。
 調教のスキルをあげるためには、北極熊がいいとぴょんから訊いて。調教スキルを上げることに燃えているわたしが強く主張して やってきたんだけどね。
 あ。今日のわたしはいつもと服装が違うんだよ。いつもはアクアブルーのワンピースを着ているけれど。
 今日はベレー帽とチュニックと呼ばれる膝上のワンピース。そして膝丈のロングブーツ。色はライトグリーンに染めてみました。
 ざなちゃんがとってもかわゆい服装のせいか、ちょっとおしゃれしてみました。
 北極クマを探して、島中を走り回る。お。発見。うわぁ、大きい。それに真っ白な毛並み。かわいい。らぶり〜。
 早速訓練開始。なかなか成功しない。だけど根気よくがんばる。かなりの時間を要してわたしを主人と認めてくれた。
 ばんざ〜い、喜んでいると、隊長が通りがかった。
 「クマ、リリースして」。えっ、今調教したのに、もう解放ですか?「雪豹、やってみ」というわけで、お互いに調教した動物を 交換して調教。でも豹はまだわたしのレベルじゃ無理だった。
 とにかく動物を見掛けたら、調教をしてみる。でもクマととどでがんばった。
 隊長やセラは調教訓練だけど、他の二人は何をしてるんだろうと思ったらブラックは歓喜しながら釣りしてた。入れ食いだったら しい。
 ヘブンはヒマをもてあましてた。戦士だから、ね。すぐそばのダンジョン「デシート」で遊んでくれば、と水を向けるとあっさり 承諾してでかけてしまったくらい。
 散々調教訓練をしたので、そろそろブリテインに帰ることにした。
 着いたときの場所に戻っておいで。隊長の言葉に従って、到着したときの場所に行こうしたけど、迷った。こんな小さい島ですら 迷うわたしっていったい。
 うぅ、もうどこかわからない。こういう時、辺り一面氷って不便だよね。目印がないんだもん。
 鉱山の一角に道があるのが見えた。きっとここだと思って、左に曲がってみる。う?レンガ造りの建物が建っている。復活の神殿 と書いてある。あぁ、北極で死んだらここに来ればいいのか。だけど、ここは目的の場所じゃないね。
 緊急連絡を入れると、隊長がここまで迎えに来てくれるというので、じっと動かずに待つことにした。
 しばらくしたら真っ白な視界の中に黒い点が少しずつ近づいてきた。
 ふにゃ〜ん。泣きべそをかきながら、黒いローブを纏った隊長のもとに行く。
 「おばかっ」隊長にまたまた笑われてしまった。しくしく。

第47回 とど
 今日も北極に来た。昨日の面々にブラックを除いた4人。来てすぐにヘブンはデシートに移動した。今日は狩りに来たらしい。 残りは全員調教訓練。
 クマがあまりいない。しかたがないのでとどで調教訓練をする。とどは、鳴声がかわいくないし、みかけもわかいくないので、 不満があるけど。クマさんがいないので、ガマン。少しずつ場所を移動して、とどを見つけては調教して、訓練を続ける。
 調教中のセラに出会った。クマがいないね、とセラに話し掛けた。
 「仕方がないから、とどで」とわたし。
 「それなら、あざらしで」とセラ。
 ・・・。沈黙の後、二人で顔を見合わせた。これって・・・?
 「えっ。これってとど」
 「えっ。これってあざらし」
 丁度タイミングよく現れた動物をお互いに指差した。
 ずっと、とどと思ってたけど、違ったのかな?気になったので、かばんの中から本を取り出し、調べてみる。ページを繰ると、 その動物が載っている。「せいうちひげ」。あり?
 本から顔を上げて、「これって、せいうち」。声が重なった。セラの手にも本があった。また顔を見合わせて微笑いあった。それ にしても、とどじゃなくて、せいうちだったなんて、ね。う〜ん。
 ちなみに隊長にこの発見を報告したら「おばかっ」ってまた言われちゃいました。隊長は知ってたみたい。教えてくれてもいいの に。うぅ。調教師なら知ってて当然なのかなぁ。
 だんだん眠くなってきたので、隊長に一言告げて、先にブリテインに帰った。
 宿屋で休もうと思ったら、ぴょんが帰ってきた。随分久しぶりに会うな〜。最近魔法使いの腕を買われて、いろんなパーティに 助っ人にでかけてる。話を聞くと、さっきまでタイタン島にいたらしい。ホント忙しい人になっちゃったな。淋しい。
 ぴょんが思い出したように洋服をくれた。エプロンドレスだ。
 「ぺこ、ほしがってたでしょ?」。うん、うん。ざなちゃんが着てる柘榴石色のエプロンドレスを見て以来ずーっと欲しかったん だ。ピンク、緑、青、の三着もある〜。うれし〜。ありがと、ぴょん。
 他にも欲しい色があったらあげるよと言ってくれたので、遠慮なく「黒」と返事をした。黒はぺこには大人っぽすぎるんじゃ、と 返された。ぷんぷん、子供ぽくて悪かったわね。むぅ。
 怒りついでに、最近ぴょんがいないから淋しかったんだと言ってみた。たまには、一緒に遊んでねって。
 すると、明日デパートに連れってってくれるという。ついでに動物園も。ブリテインにデパートや動物園なんてあったっけ?でも 折角だから連れて行ってもらっちゃおう。
 絶対約束だよ、と念を押して眠りについた。

第48回 観光
 北極での調教訓練を終え、セラと分かれたわたしはデシートの前でぴょんを待っていた。これからぴょんの案内でデパートと動物園 に連れていってもらうことになってる。
 動いていないとさすがに寒くて、このまま凍えちゃうんじゃないかな。という頃になって、ぴょんが到着した。寒さに震えるわたし を見て、温めてあげるよと魔法で炎の壁を出してくれた。
 刹那、あの魔法耐性訓練を思い出したわたしは遠巻きに暖をとるだけにした。もうやりたくない。
 ぴょんの出したゲートで到着したところは、フェルッカだった。目的地ってフェルッカだったのか。言ってくれれば、心の準備くら いはしたのに。大滝
 切り立った崖の縁にぴょんと共に立つ。 目の前に大きな滝が水けむりをあげながら流れていた。うわぁ〜〜〜、すご〜〜〜い。
 ついでだからと、観光名所にも案内してくれるんだって。うれしい。ぴょん、ありがと。せっかくだから、記念写真をとろうと 思って、ぴょんにそう言ったら笑われてしまった。でも一緒にちゃんと並んでくれた。。
 写真を撮り終わったら、ぴょんが新たなゲートを開いてくれた。
 次に移動した場所は誰が使うのかわからない大きさの望遠鏡がある
オブジェの前。円形の台の周りをうろうろする。ぴょんがここがいいんじゃないと、立ち止まる。わたしが立ち位置を探してるのが 分かったんだね。じゃ、ここで。ぴょんの隣に並んで。 大望遠鏡
 三度目のゲートを抜けたとき、動物園に着いた。 入り口にまで反響する鳴声にちょっとびっくり。だって動物園ってこんなにはうるさくないような気がするんだもの。猛獣でもい るのかな。まずは入り口そばの檻から見学開始。
 って中にいたのはモンスターだった。それもなじみのモングバット。今更動物園で見るほどでもないような。あたりの檻を見回す と、やっぱりどれもモンスターばかりだった。動物園っていうよりモンスター園。ぴょんに動物はいないのと質問する。こっちに 動植物いるよ、と案内してくれた。
 一際大きな檻の中に確かにグリズリーがいたけれど、それ以上にエティンやトロルといった大型モンスターがいた。しかもこの二 体がバトル中だった。なんだかなぁ。
 と、こんな危険にしかみえない檻の中に女性が入ってきた。飼育員さんかな。飼育員にはとても見えない鎧姿の女性は手前のトロ ルに近づいていく。 「おのれの所業を後悔するがいい」と言って、手にした剣をイッキに振り下ろした。肉を切り裂く音が聞え た瞬間、トロルはその巨体を分断して果てていた。
 ・・・。ぴょんと顔を見合わせる。ぴょんは今の光景になんともいえない表情をしていた。
 他を見に行こうか。気を取り直して、笑顔でぴょんに告げる。
 そして、更に奥に移動しようと思ったとき、隊長から緊急連絡が入った。
 今日はいつもの所で待ち合せはしたけれど、珍しくみんな目的地が異なって別行動だった。
 ざなちゃんは橋のたもとでお裁縫。
 わたしとセラは北極で調教訓練。
 ヘブンはリッチを狩りにデシート。
 そして隊長はタイタン島にタイタン狩り。実は隊長にタイタンは誘われたんだけど、わたしレベルだと瞬殺されるらしいので 遠慮したの。
 そのタイタンで隊長は死んでしまったらしい。荷物は後から合流したヘブンが回収済みだけど、他の一緒だった人達も全然い ないらしく。つまり復活する手段がない?
 「ぴょん。あのね。緊急なんだけど」ここまで言ったとき。
 ぴょんが「隊長?」。察しの良いことで。
 「うん、全滅みたいで、ヒーラーいないって。だから」
 一人でタイタンまで行くから、ここで待っていてとぴょんが言う。
 「ヤだ。一緒に行く。絶対行く、行きたい。行くんだもん。行くからね。ここで一人で待つなんてヤだ。連れてって。連れてけ〜」 駄々っ子のように喚き散らして、無理矢理承諾させてしまった。
 ホントは一人の方がすぐに移動できたんだと思う。
 だけど、一緒に行きたかった。理由はよくわからないけれど。どうしても。ついて行きたい。
 ごめんね、ぴょん。わがまま言って。

第49回 タイタン島
 フェルッカからトラメルに世界を移動し、ブリテインの街から、次の場所に、と。順番にゲートをくぐって、タイタン島に着いた。 南国の木々が生い茂る島だった。
 隊長はどの辺りにいるんだろう。よく考えると、肝心の場所を教えてもらってなかった。ぴょんはタイタン島には何度も来ている から地理にも明るいし。ぴょんが心当たりを探してみることになった。
 と。道の影から、男性が現れた。ヘブンだった。こっち、と隊長のいるほうに案内してくれた。
 あぁ、隊長だ。ゴーストだけど。早速ぴょんが蘇生の呪文を唱える。よかった。無事復活。ほっ。
 ではブリテインに帰ろうと帰り支度を始めた三人。せっかくだからタイタン島を観光して帰りたいんだけど。わたしの意見に賛成 してくれた。写真も撮りたいな。
 ぴょんが良いトコロがあるから、と案内してくれた。
 切り立った岩がせり出したところにみんなで並んだ。もちろん中心には隊長。ヘブンがせっかくだからタイタンを倒して死体も一 緒にとか言ったけど、速攻却下した。それでまた全滅したらどうするつもりなのぉ。では、いきますよ〜。みんな、準備はいい? タイタン島上陸記念  ブリテインに全員で戻ってきた。
 そういえば、動物園が中途半端だったし、まだデパートにも行ってないし。ぴょんと共にもう一度フェルッカに戻ることにした。 もちろん今度は隊長とヘブンも一緒だよ。
 ぴょんに「そういえばドラゴンまだ見たことないんじゃない?」と訊かれた。ペットで連れて歩いている人のドラゴンなら見たことが あるけれど、野生のドラゴンはもちろんまだ。
 ではドラゴンを見に行こうと話がまとまり、連れていってもらうことになった。
 動物園にはドラゴンまでいるんだ、とこの時のわたしはその後の展開を知る由もなく、とてものんびりしてた。ドラゴンが見られ る嬉しさに舞い上がっていた、とも言うけれど。
 だけど。もし、知ってたらもう少し違った未来が待っていたかもしれない。

第50回 ドラゴン
 ゲートを抜けて、洞窟の前に到着した。ダンジョンみたいだな。それがわたしの印象だった。最近洞窟といえば「ダンジョン」と 刷り込みされてるから。やっぱりドラゴンだと、こういうトコロで飼育されてるのかな。洞窟にある「自然ドラゴン園」っていう のが売りなのかな〜。
 みんなに続いて中に入る。広々とした空間が奥に続いている。所々に植物も生えているようだ。ぴょんを先頭に奥に向かう。「夜 目」の魔法をかけてもらったので、洞窟の中とは思えないほど明るくはっきり見える。
 少し進むと巨大な生き物の死体が転がっていた。これドラゴンの死体?死体も展示してるのかな。標本かな。「これはドレイクと いってドラゴンの子供みたいなもの」とぴょんが説明してくれる。ふ〜ん、とにかくわたしから見ると充分ドラちゃんなんだけ どなぁ。トロルやエティンが子供に見えるくらい大きい。
 洞窟内湖を迂回するように奥に向かう。かがり火が焚かれたトコロにやってきた。ここまでは、あの死体以外、何もなかった。 それにお客もいないみたいだし。かなり規模の大きな園なのかな。
 訝るわたし。「モンスターは出ないのかなぁ」と不吉なことをいうヘブン。ダンジョンじゃあるまいし、出るワケないってば。
 ドレイクが奥から現れた。こちらにゆっくり向かってくる。土色でとにかく大きい。声をあげるわたし。間近で見ようとそばに 寄った瞬間、ドレイクの口から炎が迸った。
 うわぁっ。なんだ、なんだ。・・・。
 その瞬間理解した。やっぱり、ここは動物園でもドラゴン園でもなくて、ドラゴンが棲むダンジョン・・・。洞窟とくれば、イ コールダンジョンだったんだ。わたしの考えに間違いはなかった。だけど。だけど、気づくの遅すぎたぁ〜〜〜っ。
 赤ドレイクも現れた。巨体が、わたし達四人に向かって炎を吐き出しながら、その爪で攻撃してくる。隊長とヘブンが応戦し、 ぴょんが魔法で支援する。
 で。わたしは、というと。現実を受け入れられず、途方に暮れてた。
 今日は観光とお買い物の予定だったので、何も持ってきてなかったし。服装も鎧を脱いで、昨日ぴょんにプレゼントされたピ ンクのエプロンドレスと同色のベレー帽にブーツという普段着だったし。そういうわけだから、当然剣も盾も武器一切は持って きてないし。
 持ってきてるものといったら、お買い物のための現金とインディのエサと秘薬と魔法書だけだった。魔法書があればなんとか なるはずなんだろうけど、攻撃魔法なんて使ったことないし。
 これはヤバいんじゃないのかな。かなり。ホンキで。
 ドレイクが格好の餌食と判断したのは、わたしらしい。周りに目をくれずにわたしのほうに向かってくる。今まで、何度か感 じてたことなんだけど。わたしは、モンスターに狙われやすい?
 ドレイクに一人追いかけられる。とにかく逃げまくった。なんとか炎をかわしながらインディと駆け回る。
 といってもヘンなトコに行ったら、違うのに出くわしそうなので、みんなのそばは離れないように。
 ぴょんのそばに来たとき、ぴょんから動くなといわれた。そして魔法でわたしの姿を隠してくれた。おかげで目の前をドレイ クが通り過ぎていく。ほぅ。
 二体のドレイクをぴょんの扇動の音楽で相打ちさせ、弱ったところを隊長とヘブンが叩く。一体が倒れたところで、わたしは姿を現 した。
 試しに攻撃魔法を使ってみた。初めての挑戦。呪文を唱えると弱々しい炎の玉が現れ、ひょろひょろとドレイクに吸い込まれ る。蚊がとまったほどにも思われてないみたい。情けな〜。
 あまりの威力のない攻撃魔法にぴょんが笑う。うぅぅ。上級魔法使いと一緒にしないでよ〜。
 もう一体を倒し終えた後、ぴょんが剣の精霊を召喚する魔法が載っている巻き物をくれた。よし、今度はこれでがんばる。
 ドラゴンを見せたいんだよと、ぴょんがドラゴンを探しにわたし達の元を離れた。ドレイクで満足。帰りたい。そう言いたかっ たけど、タイミングを逃してしまった。「見るだけ」で済むとは思えないんだけどなぁ。
 ちょっとため息がでたとき、背後から声をかけられた。知らない人が立ってる。誰?新手のナンパ??こんなとこで???と 思ったら、魔法で変身した隊長だった(笑)。こんな時にこういうことができる余裕がうらやましいな。まったくおちゃめな隊 長なんだから。
 湖畔でぴょんの戻るのを待つ。ヘブンは獲物を探しに走り回ってた。で。しっかりドレイクを連れて帰ってきた。ヘブン、余計 なことをするなぁ〜。
 そしてヘブンが連れて来たにも関わらず、ドレイクのターゲットはやっぱりわたしだった。「なんでいつもわたしなのぉ」と今 回はマジで泣きべそをかきながら、逃げ回る。
 戻ってきたぴょんには「かわいいからじゃないの」と言われたけど、モンスターに好かれたってうれしくないやぃ。
 剣の精霊を召喚してみようとしたけど、失敗ばかり。うまくいかない。失敗を続けてるうちに秘薬も切らしてしまった。で。 結局逃げ回る。
 隊長とヘブンは一体だと落ち着いたもので、あっさり片づけてしまった。ホントにこの二人強い。特にヘブンはびっくりする ほど強くなったよね。
 ほっとしたのも束の間。大蛇、スライムを始め、かなりの数のドレイクが集まってきた。うわぁぁぁぁ。さすがフェルッカ。 モンスターも半端な数じゃなかった。うぅ。
 とにかく数が多い上に、強い。まともに攻撃したって無駄だった。圧倒的に不利。
 速攻、全員で逃げることに決定。撤退、撤退。逃げるが勝ち。
 全力で馬を駆り、入り口目指して一目散に走る。インディ、行くよ。止まれば、瞬殺は間違いないんだから。
 ドレイクの口から次々と吐き出される炎を避ける余裕もなかった。背中に傷が増えていく。魔法で回復している時間も、もち ろんなかった。
 もう、だめだ。と思った瞬間、微かな光が前方に見えた。出口だぁ。光に向かって、飛び込んだ。
 助かった。出入り口でぴょんがみんなを回復してくれた。
 うぅ。コワかったよぉ(号泣)。全然動物園じゃなかったし。ダンジョンなら最初からそう言ってよぉ。
 あれ、結局野生のドラゴン見てないような・・・。

第51回 デパート
 命からがらドレイクから逃げてきたわたし達は、平原にあるデパートに向かった。このデパートはフェルッカにしかないそうで。 だから、ぴょんはフェルッカに連れてきたらしいんだけど。
 個人が経営しているお店なんだそうだ。石造りの堅牢な建物を入ると、まさしくそこはデパートだった。
 この店のオーナーが優雅に現れた。うわぁ、キレイな人。ぴょんはよく来てるらしいけど、オーナーに会うのは初めてみたい だった。
 親切にもオーナーはわたしに購入方法を教えてくれた。決済は銀行引き落としらしく、現金を持たずに買えるんだって。 すご〜い。買いすぎに注意しなきゃ。
 一階は魔法関係の売り場。ポーションや魔法書、巻き物が売られている。販売員はみんな女性でクスリ売り場は青、書物売り場は 赤のワンピースと帽子を身に纏ってた。これがここの制服なんだ。うん、いかにもデパートだ。
 二階は弓矢なんかを売ってた。よく見てなかった(笑)。
 三階が今回の目的場所。洋服売り場。
 売り物の洋服はすべて黒色だった。実は街の仕立物屋で売ってる染料では黒には染められないんだよね。黒だけは個人所有の黒タブかモンスターから黒布を奪うしかないらしい。
 エプロンドレス。ファンシードレス。ワンピース。パンツ。シャツ。全部黒い。うわぁ〜。素敵、素敵。値段は300G〜500 G。街の裁縫屋とは比べ物にならないくらい高い。物価の差というよりは、お店の格という気がする。
 ヘブンは黒い服なら1銀前で100G以下で売ってるとぶつぶつ。モノが違うでしょ。これはブランド品だよ。
 かなり高いけど、買おうと思っていると。ぴょんが買ってくれるって。わ〜い。どれにしようかなぁ。迷っていたら適当に見繕って 買うからとあっさり言われた。うぅ。だって迷いすぎて選べないんだもの。
 数分後、ホントに適当に見繕ったらしい洋服を詰めたかばんを受け取った。中を開けてみると、適当っていうより、全種類買った んじゃないの、というくらいの服が入ってた。わ〜ん、でもうれし〜。
 せっかくだから黒い帽子とあとかわいいサンダルも買っていくことにした。ピンクの制服の販売員に声をかける。うれし〜。
 早速、試着室がないから階段で着替える。うわぁ、めちゃめちゃかわいいよ。これ。黒のミニワンピにサンダル。アクセントに ピンクのベレー帽とぴょんからもらった金のブレスレット。いやん、かわゆいわ。
 最後に一階で巻き物も一本買った。上級魔法の巻き物。まだわたしのレベルじゃ使えないんだけど。せっかくだから。記念に。
 帰ったら銀行で残高確認しなきゃ。もうないかも。
 デパートを出ると、モンスターがうじゃうじゃいた。さすがフェルッカ。扇動の旋律を奏でて同士討ちを促す。
 戦闘が終わったトコロで、トラメルに帰ることに決定。
 ここで女性に声をかけられた。PKに教われたので、トラメルに行きたいという。わたし達もちょうど帰るところだから一緒に どうぞと誘う。
 「フェルッカのミノックにPKが出てるのでいかない方がいいですよ」と忠告してくれた。でもわたし達の普段の住まいはトラメル。 今日はお買い物と観光にきましたとわたしがいうと、笑顔がこぼれた。
 ゲートを抜けると、人々のざわめきが聞えた。ブリテインに戻ってきた。もちろんトラメルの。活気も雰囲気もやっぱりこちら が一番。
 当分フェルッカには行きたくないけれど、デパートはちょっと魅力だなぁ。またぴょんに連れて行ってもらおうかな。えへへ。

第52回 噺家
 いつもより早めに出て、昨日消費した秘薬を買いにギルドに行った。秘薬は売ってたけど、少なめ。すぐに売り切れるから買い占 めにかかった。だけどみんなが同じこと考えるから、結局そんなに変えなかった。しくしく。
 大勢の人にもみくちゃにされながらお買い物をしていると、うしろから名前を呼ばれた。振り返ったら、ざなちゃんがいた。
 珍しいところで会うなぁ。ざなちゃんって、こことは無縁だと思ってた。魔法を使うなんて訊いていなかったもん。
 先にお買い物を終わったので、橋のたもとで待っていると、ざなちゃんも出てきたので、おしゃべりする。ざなちゃんの目的は ポーションだったんだ。
 自分でポーションの調合をする勉強を始めたんだって。空き瓶売ってなかったの。ふ〜ん、じゃぁ、探しとくね。空き瓶。リサ イクルしたほうが安くつくしね。
 そうだ。昨日のデパートで実はざなちゃんにお土産を買ってきてたのでプレゼントした。黒のしゃれたワンピース。実はわたし のアクアブルーのワンピースの色違いのデザイン。
 ざなちゃんは服装がカジュアルだけど、たまにはこういうのもいいかなと思ったんだよね。実際気に入ってくれたみたいで、す ぐに着てくれました。
 ざなちゃんとのおしゃべりはホントに楽しい。穏やかな話し方も優しい話し方も大好き。自分のことを「ぼく」と呼ぶところも キュートで大好き。めちゃめちゃかわいいし。
 だけど。言うときはビシッというんだよね。
 最近口が非常に悪い男がこの辺りに出現してるの。ざなちゃんが言うには、この辺りで活動してる人間ならみんな知ってる有名 人らしい。何をするわけでもなくて、他人の会話に遠くからツッコんでみたり、雑言浴びせたりひどいらしい。
 この男がこの間、だったかな。わたしとざなちゃんとセラの3人で話してたとき、少し離れたところに現れたんだよね。
 案の定わたし達の会話に割り込むように合いの手を入れる。無視しておしゃべりしてたんだけど。
 男があるツッコミを入れた瞬間、ざなちゃんが馬を翻して、走っていって。「それは違う」
 あれにはわたしとセラもびっくりしちゃって。結局その男はざなちゃんには口で負けたんだもん。
 でもね、悪い人じゃなさそうだったので、仲良くなりました(笑)話を訊くと、その男の人はブリテインで噺家を目指してるら しくて、名前は通称はげさんというの。世の中にはいろんな人がいるわ。

第53回 
 いつものように橋のたもとでおしゃべりしていると、一人の若い女性が近づいてきた。まだ冒険に出たばかりの初心者だった。 どうやらヘイブンからブリテインに来たけど、戻り方がわからないらしい。
 それならブリテインで過ごしてみたら?隊長やヘブンが装備を揃えてあげて、彼女の狩りにつきあうことにした。場所は東の 森。まだ初心者だけど、この二人がいればフォローも万全だし、安心。彼女、ルリは戦士志望なんだって。
 東の森の入り口付近で、同じく冒険初心者の面倒を見ていたラヴィに会った。今日はみんな新人研修状態だなぁ。
 ルリの狩りにつきあいつつ、わたし達も各自のスキル訓練をやる。
 隊長が「自分に、毒かけてみ?」と突然言った。
 は?
 「それで回復する」
 は?この間の火あぶりにつづいて、今日は「毒」?自分に毒の魔法をかけて、自分で解毒するの?
 「早くやる〜」
 うぅ。分かりました。やります。やればいいんでしょ。毒をかける呪文を唱える。ターゲットは自分。
 うっ。ぐっ、ぐっ。苦しい〜。はぁっ。はぁっ。酸素、酸素。うぅ。息が。ぐぇっ。げぇぇぇぇ。っが。ぐぐぐぐぐ。ぅぅぅ。
 とっても苦しいけれど、呼吸を整えて解毒魔法を唱える。はぁ〜〜〜。死ぬかと思った。って、一歩間違えたら死ぬけど。
 「さ、続けて、続けて」って。隊長・・・。
 何度か試していると、隊長が妙にうずうずしているのに気づいた。
 最近隊長が訓練しているスキルに「包帯術」がある。解毒も覚えたらしくて試したくて仕方ないらしい。だから、さっきから解 毒魔法を使って治療すると、とても残念そうな声が漏れるんだわ。
 「・・・。わかりました。もう一回やりますから。隊長、どうぞ?」
 とてもうれしそうだった。にこにこしてる。ふぅ。
 ため息をつきつつ、再度自分に退く魔法をかける。うっ。ぐっ、ぐっ。体内を急速に駆け巡る毒に呼吸が荒く、困難になってく る。
 隊長が「まきまき」といいながら、包帯術を駆使する。人にやってもらうときって、異常に長く感じるよね。早くして〜〜〜。 隊長〜〜〜。
 息がラクになった。解毒されたんだ。
 隊長の訓練になるんだったら、よころんでお手伝いしたいけれど、こういうのはちょっと。