救世主

 はるか遠くはなれた星での話です。

 そこにも、また人間によく似た生物が住んでおりました。
 でも、もうすぐ絶滅してしまうことになるでしょう。なぜなら、
生命の維持に必要な元素のうちのひとつが自然界から急速に失われ
ていたからです。
 人々は祈りました。天に神様がいるなら助けてくださいと。
 そんなある日、空から無人のロケットが落ちてきました。その中
には、いくつかの容器がつまれており、容器の中には白い粉が詰め
られていました。
 分析の結果、白い粉には失われつつある元素が豊富に含まれてい
ることがわかりました。

 こうして、その星は絶滅の危機を逃れることができ、人々は神に
感謝しました。

 その何十年か前、地球ではこんなことがありました。
「約束果たせたな」
「ええ、しかしどうしてこんなことを最後に望んだんでしょう?」

「さあ、とにかく他人の為に人生を捧げたような人だったから、誰
もいないところでのんびりしたくなったんじゃないのかな」
「でも、私、確かに聞いたのよ。亡くなる前の晩、おじいさん、い
つもの調子で『よし、わかった。
俺にまかせろ』って庭で空を見上げながら、そう言ったのよ」
 最近ブームになっている「宇宙葬」を見送りながら、遺族のうち
の1組が、そんな話をしていた。
 その後、ロケットが軌道を変え、まるで意志を持っているかのご
とく1つの星をめざすことなど夢にも思わず。