活動報告

交通事犯の厳罰化についての要望書

法務省 法務大臣 長勢甚遠殿

北海道交通事故被害者の会 前田敏章

交通事故被害者のおかれている現状と願い

北海道交通事故被害者の会は、1999年9月結成以来、北海道交通安全協会より財政的支援を受けながら、自主的な相互支援、体験講話など啓蒙活動、そして交通犯罪や事故を根絶するための要望活動などを続けている自助被害者団体です。

2006年8月25日の福岡市での幼児3人が犠牲になった事件を契機に、飲酒運転など悪質交通犯罪根絶が大きな世論になりました。さらに9月25日、埼 玉県川口市で起きた保育園児4人が死亡、17人重軽傷という大事件は、危険運転致死傷罪適用要件の矛盾、および脇見など交通犯罪に適用される業務上過失致 死傷罪の著しい軽さが改めて指摘されることとなりました。

私たちは、会が発足して間もなくの2002年11月、「こうした措置が執られていれば、私たちのような犠牲はなかった」という切実な思いを23項目の要 望事項としてまとめました。以来、関係機関に提出しておりますが、厳罰化については当初から、危険運転致死傷罪の適用要件緩和とともに、業務上過失致死傷 罪とは別に「自動車運転業務過失致死傷罪」(仮称)新設による、危険運転全般の厳罰化を掲げておりました(別紙「要望事項」4項参照)。昨年6月にも警察 庁長官宛て提出し、超党派の「交通事故問題を考える国会議員の会」にも要望しております。

先般12月28日、警察庁が飲酒運転の厳罰化に関する道路交通法改正試案を発表しましたが、私たちは、今回の法律見直しが、飲酒・ひき逃げに限定された ものであってはならないと考えます。川口市の悲惨な事件を例に出すまでもなく、今日、多くの国民に重大な死傷被害を与えている交通事故・犯罪の原因は、飲 酒やひき逃げだけではないからです。今こそ、道路交通法改正と併せて、刑法についても抜本的見直しを行い、危険運転致死傷罪適用要件の実態に合わせた改 訂、飲酒の場合の「逃げ得」という抜け道を許さない方策、そして前方不注意、速度違反など重大な結果につながる過失運転が、命の重みに見合う刑事罰によっ て裁かれるよう、必要な法整備が為されることを切望するものです。

私たち被害者・遺族は、失われた肉親の「命の尊厳」ということを常に考え必死に生きています。願いは一つ、犠牲を無にせず、被害ゼロの社会を迎えること です。2005年において生命・身体に被害を受けた犯罪の被害者数は120万7968人に及びますが、このうち96.3%を占める116万3504人は道 路上の交通事故・犯罪に関わる死傷です。真に「命」が大切にされる国づくりを考えるとき、交通事犯の被害ゼロは正に重要課題です。

今回の法改正が、「被害ゼロ」の道に確実につながるものとなることを、心より願い、交通事犯厳罰化への要望書を提出致します。よろしく取り計らい下さい。

要望事項1

飲酒運転に限らず、自動車等の運転による過失致死傷事件については、業務上過失致死傷罪の特別類型を設け、一般の業務上過失致死傷罪よりも重罰とするよう改正して下さい。一例として、被害者が死亡した場合は、短期1年以上10年以下の禁固または懲役とし、罰金刑は設けないこと。被害者が傷害を被った場合は、短期1月以上10年以下の懲役または禁固とし、罰金刑は選択可能とするなど実効ある法改正を進めて下さい。刑法211条2項に新設された「傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除できる」という「刑の裁量的免除」規定は廃止して下さい。

《 理由 》

自動車運転が危険な行為であるという社会的共通認識があるというべきですから、交通犯罪の場合は、過失犯であってもその結果の重大性に見合う処罰を科すことが、交通事故・犯罪抑止のために不可欠です。現状では、命の重みや被害の重大性に見合う刑罰とはなっておらず、そのことが交通事犯による死傷被害の常態化という大きな社会問題を呈しています。すなわち、前方不注意や速度違反による死傷事件の場合に適用される業務上過失致死傷罪の最高刑が、窃盗や詐欺罪の半分に過ぎないという現行法の著しい不合理です。このことによって危険な運転で人を死傷させた場合でも「事故だから仕方ない」というようなモラル低下を招き、同様事件の頻発につながっているのです。  また、「刑の裁量的免除」規定は、検察官による「起訴便宜主義」により、交通事犯の9割近くが不起訴となっている不当な現状を刑法が追認し、さらには自動車運転業務についてのみ免除が設けられることで、交通事犯を一般の業務上過失致死傷罪に比べ軽く扱うという間違った通念が拡がってしまいます。

要望事項2

2001年に新設された危険運転致死傷罪が、全ての危険運転行為の抑止となるように、適用要件を大幅に緩和する法改正を行い、結果責任として厳しく裁いて下さい。同時に、対象車両を四輪に限定することなく、二輪にも拡大して下さい。

《 理由 》

現行の危険運転致死傷罪が危険運転の抑止につながらなかった理由の一つは、その成立要件が厳格で実態に合っていないことです。例えば刑法208条の二②には「人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転」する行為について「目的」という内心的要素を立証するという極めて高いハードルを設けています。また、同項には「赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で四輪以上の自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、同様とする。」と他の刑法の犯罪には無い要件「殊更に」という、これも内心的要素の立証が要件となっています。 そもそも、「通行中の人または車に著しく接近する行為」や「赤色信号又はこれに相当する信号を無視する行為は、」それ自体客観的に危険な行為なのですから、目的等の超過的主観的要素が無くとも処罰に値すると考えるべきです。  さらに、対象車両を四輪に限定することなく、二輪にも拡大する点については、二輪であっても生身の人間に対して凶器であることに変わりはなく、四輪と同様の危険運転をすればこれと同じ危険性を有するからです。

要望事項3

飲酒運転での死傷事件を撲滅するために、運転者への厳罰の適用とともに、飲酒運転の場合に、危険運転致死罪を逃れるためという悪質な「逃げ得」を許さないために、法体系を整備して下さい。救護義務違反については,法定刑の上限を引き上げるだけでなく,下限を1年以上とするなど、引き上げるべきです。
運転者への酒類提供者に対する罰則規定の他に、飲酒の違反者には「インターロック」(アルコールを検知すると発進できない装置)装着を義務化するなど、再犯防止策を講じて下さい。

《 理由 》

救護義務違反行為は、人の生命に対して及ぼす危険性が大きく、また、自己の犯罪行為の証拠隠滅という卑劣な行為でもあり、重罪として処罰する根拠が十分にあります。また、ひき逃げの場合、厳格な要件の下ではありますが、自己の過失行為を先行行為として、不作為による殺人罪を認めることもありますが、その要件を満たさないがこれに近い行為態様というべき救護義務違反行為について、殺人罪とバランスのとれた範囲で刑罰を科することは、十分に根拠があると考えます。

※なお、当要望書は下記宛にも送付しております
交通事故問題を考える国会議員の会
  会長兼自民党世話人 逢沢一郎様
  事務局長 細川律夫様
  民主党世話人 和田ひろ子様
  公明党世話人 赤松正雄様
  共産党世話人 小林恵美子様
  社民党世話人 保坂展人様

自民党政務調査会 交通安全対策特別委員会御中
民主党 内閣・法務合同部門会議御中

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