2005年 冬 新春号(35号)

今年もよろしくお願いします。

 元旦の朝、珍しく初日の出を見ながらスキー場へと出勤しました。年末の豪雪が嘘のように晴れ上がり、コース内も深雪コースもこれ以上ない絶好のコンディションです。
 「おめでとうございます」「おめでとう」スキー場はなんといっても天気と雪のコンディションが命ですから、ニセコらしいパウダースノーでお客さんを迎える事ができ、しかもすっきり晴れていれば私たちも働いているのが楽しくなります。北海道のスキー場の山頂勤務となれば「マイナス15℃+風速15m」などという事もある厳しいところ。半端でない過酷な職場ですが、お客様の楽しい時間を預かり、安全に責任を持たなければならないこの仕事はサービス業の原点のように思えて私はちょっと気に入っています。
 先日年末風景を伝えるラジオで、東京・築地の市場の方が、「お客様の食事風景が見える事が、商売をする上で何より大事」と言われているのを聞き、まさに「我が意を得たり」でした。日頃バカの一つ覚えのように「みなさんの食卓にワインを届けたい」と申してきましたが、やはりこの言葉こそ私たち「食に携わる」人間の宝物なのだと改めて思いました。
 誰に習った覚えもない言葉ですが、ワインを造りながら考えてきた気持ちがこの言葉に行き着きました。同じ言葉を胸に働いている人たちがいるという事が、私を誇らしい、そして愉快な気分にしてくれました。

縁は奇なもの

 私の住む蘭越町に、閉校した小学校を間借りして家具造りをしている若い家具職人2人の工房があります。最近縁あって知り合ったそのうちの一人の方に、「どこで今まで修行していたの?」と聞くと、なんと私が20代前半に一ヶ月だけ大工修行をさせてもらった岐阜・高山の工房ではないですか!
 二十年近い時の流れを挟んで同じ寮に住み、それぞれ前途に夢を描き悩んでいたのかと思うと他人のような気がしませんでした。そのうちゆっくり酒でも飲みながら話したいねぇ…
 ところがその岐阜の工房「オークヴィレッジ」をめぐる縁はそこで終わらなかったのです。昨秋、いつもワインを買って頂いている「学生時代の部活(ワンダーフォーゲル部)の先輩」の娘さん夫妻(これだけでもややこしい…わかります?)が突然松原農園を訪ねて来られました。(初対面の方はよく予告無しで来られます…いなかったらどうするのでしょう?)
 短い訪問でしたがいくらか畑で話をする事ができて、とても喜んでくれて帰られてからもメールでやり取りもあったのですが、そのうちになんと数年前まで「オークヴィレッジ」にそのご夫妻もおられたことが判明!びっくりすると同時に、「あれ!?もしかしたら…」
 さっそく蘭越の家具職人に訊いてみるとやはり!お二人とは同じ釜の飯を食った先輩・後輩だったそうです。「蘭越に来たのなら、会いたかったなぁ…」と残念がる事しきり。
 その工房、オークヴィレッジは若い志が集まるところ。今までにもたくさんの若者たちが巣立っていったのでしょう(私はただ覗いただけのような半端者ですが…)。そこに縁づいたものがこの蘭越に偶然集まっていたというのは世の中も不思議なものだと思います。それと同時に若者が集い巣立っていくところがもっといろいろと世の中にあればなぁ…とも思わされました。

チーズ・フォンデュの会

 さて、それからしばらくして近郊の街、倶知安で「チーズフォンデュの会」という、アルプス生まれのこの料理をニセコ・羊蹄山麓の郷土料理にしていこう、というちょっと「?」な催しに招かれ、行ってきました。簡単に外国の郷土料理を輸入して定着するか?とつい思ってしまういかにも北海道らしい発想のイベントと感じましたが、そこで主催していた代表の方、イベントを手伝っていた札幌のシンクタンクの方、そして偶然来られていた小樽のワインレストランの方と次々松原農園のお客さんだという事がわかりびっくり。メールや電話ではやりとりしていて長いおつきあいでも、お会いするのは初めて。北海道ワインでとてもお世話になっていたH常務も同席し、とてもうれしい出会いの席でした。ここでも「色々やってきた事がこういう出会いを連れてきたんだなぁ…」と思わせてくれました。
 もう一つ、その時食べた北海道新得町・共働学舎のチーズは、もうビックリするほどうまく、同じモノ造りに携わるものとして感嘆せざるを得ませんでした(代表の宮島さんが来られていました。とてもすてきな方でしたよ!)。改めて風土と人が食べ物を造るのだ、と確信させてもらいました。これだけでも行ってよかった!
 私たちの農園は人が巣立つところではありませんが、毎年数千本のワインが日本中に旅立ちます。それだけでもたくさんの出会いがあるのですが、お客様の中には私たちのワインに思ってもいなかったところで出会ってびっくりした、という楽しい話をしてくれる方がおられます。私たちの農園を起点とした「楽しい出会い」が広がるよう、そしてその場所がとても楽しい場所であるお手伝いができるよう、今年も畑を歩く事にしましょう。これからもその年その年の、新しいワインの誕生を見守って頂ければ幸いです。