2004年 初夏  出荷記念号(33号)

 今年のワインをお届けします。このワインは、松原農園の歴史の中でも記憶に残り続ける一品になるでしょう…もちろん希少価値からですが…(もちろん、おいしいんですよ!)
 
 今から4年前、2000年のシーズンに10トンを越すぶどうが穫れたとき、その量に、「はたしてみんな売り切れるだろうか…」と暗然としたことをはっきり覚えています。しかし巡り合わせとは不思議な物です。当然のように一年では売り切れなかったその年のワインは、翌年から徐々に収穫量が減ってしまった松原農園のワイン販売を、なんとか支える役目をはたし続けます。あのワインが無かったら…今考えてもぞっとしますねぇ。
 今年はまさかと思った「4年越し飲み比べセット」が登場しました。実際、同じ畠のワインを違うビンテージでずらっと並べることは、よほどの物好きでなければ経験の無いこと。このセットの味のちがいには次のような理由があります。

  1. 天候のちがいによるぶどうの品質・個性の違い
  2. その違いを生かすために(あるいはその欠点を隠すために)、ワインのタイプを再考し、違うワインになることも(2000年ワインはこのパターン)。
  3. それだけではなく…実は大きいのは気まぐれで欲ふかな、園主の思いつき。(園主のワインの飲むスタイルも徐々に変化しているせいかも?)

 今年のワインは最近追い求めていた「上品でサラッとしていて、あとに引きずらないコクがある」中に、ちょっとした酸のスパイスを入れてみたかったのですが、思っていたよりすんなりとまとまったワインになった気がします(よくも悪くもです)。でも、実際の実力がはっきりするのは夏を越してから。松原農園のワインは、さっぱりした第一印象と裏腹に、その味覚の全貌が明らかになるのには1年以上かかるのかも…と思います。お客様の中には、春先の新酒を買った後「2年後に送ってくれ」と毎年承っている方もおられます。2年間、1ケース千円の保管追加料金で、松原農園が最高の環境でお預かりしています。はっきり、同じワインとは思えないほど変化します。皆さんも、ぜひ一度試してみては?

 この冬、隣町での小さな集まりに呼ばれて行ってきました。そこでは食や生活に関して専門家を読んでは日頃疑問に思っていることを聞いたり、プロならではの裏話、苦労話を聞きながら楽しく交流する、肩のこらない集いです。
夜分に集まってくれた10人ほどの方々の中で、私は自分が家族とともに農園を拓くため蘭越に移り住んできた顛末を話したり、ワイン全般の話から自分なりの、ワインとつき合う姿勢を好きなように話しました。

 ワインの試飲も、酪農の町である地元のチーズをつまみながらの楽しい時間になりました。そして、楽しい集りの常なのですが、人と話す事で自分の中でわかってきたり、再確認できてくる事があるのです。そう、話しながら「そう、そうだったよね」「そう考えればあれも楽しい経験だったのかも…」などなど。

  私はそんなに人前でワインの話をする機会は無く、せいぜい「誰かと楽しく飲みながら」といったところです。その延長線上だったからか、自分でも「いい気持ちで」つらつらと話し続けました。
 
  そのとき話した事の一つが「ワインは脇役、主役はその席の手料理や楽しいおしゃべり」。それは、ワインに関わるようになってから徐々感じてきた事。私はワインの本質だと思っています。それがこの席で一つの言葉にまとまりました。

 ワインをいろんな面から分析してほめてもらうより、「楽しく過ごしたい時や、大事なお客様を迎えた時にこのワインを開けるんですよ」との言葉が嬉しい。「楽しい時に松原ワイン」と言ってもらえればそれで十分です。

 今、実は出荷作業の直前の夜中にこの農園便りを書いているのですが、例年よりかなりの値上げになるにもかかわらず、多くの方々が申し込んでくださいました。12本でも大丈夫かなぁ…と言えば「待ってました!」とばかりに追加注文のファクスやメールがやってきました。

 はがきやメールの端々に、私たちへの皆さんからの心遣いを感じました。同時に、私たちのワインが、皆さんの食卓の一員として、いつもの年と同じように「ちょこん」と座る事ができた事がとても嬉しいのです。
私たちが作っているのは、「たかがワイン」です。そしてそのワインは間違いなく、そのワインを楽しむ人の物だと思います。ワインがおいしければ、それは「楽しい席」だったからでしょう。いっしょに過ごした人がすばらしい人だったからでしょう。ホストの手料理が、あるいは家族の会話が楽しく弾んだからでしょう。そんな時に開けてもらえるワインを作りたい。笑顔の中で飲まれたい。

  収穫が少なかったのを一番実感したのは出来上がったワインの少なさを目の当たりにしたとき。「たったこれだけか…」。でもね、そんな時だからこそ、その一本一本の向こうに見える風景が、とても大切な、かけがえの無い物なのだと、ワイン造りは素晴らしい仕事なんだと感じる事ができた今年の出荷風景でした。みなさん、ありがとう。