2000年 新年号   私のワイン造り(ページ2)

日本の家庭料理のために

  私のような庶民からすると、めったに無いようなごちそうではなく、「あのワインを飲みたい」と思える日常の食卓を増やしていきたい。その上で日本の家庭料理を考え、「松原農園ワイン」ならではの特徴付けを考えてきました。ここのところは、多分に私自身の「好み」なんです。やはり、自分が飲みたいワインを造りたいですよね。

 

技術によらないもの

  私はいつもワイン造りは「引き算」だと思います。いい葡萄がある時、いかにその個性を残すか。いろんな段階での減点をしないよう、慎重に作業を進めます。決して何かを付け加えて葡萄以上のものに化けさせる事などできない。
  ワイン造りの現場というのは実際にはかなり泥臭いもので、時間に終われ、やらなければならない事の多くを積み残して後悔を引きずりながらワインは生まれていきます。それでも、私にとって眠気と戦いながらホースを引っ張りバケツを抱えて工場の中を走り回っていた晩秋の日々は、祭りの前夜のような興奮に満ち、不思議な充実感がありました(またやりたい!)。
  モノ造りの世界、工場の空気というものには何とも言えない魅力があります。私がそれに初めて触れたのは、旋盤工でもある作家,小関智弘氏の著作「春は鉄までが匂った」でした。厳しい生活の中からこそ生み出されるぎりぎりの「生産」の美しさ、楽しさを教えてくれたこの本は20年経った今でも時折読み返す私の聖書です。爪楊枝一つ,ボルト一本にも作り手の姿を見る事ができると説くこの本を読み返すと、自分がどれだけのものを、文章やラベルでなくワインそのもので皆さんに届ける事ができたのか、不安になる事しきりです。

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