1999年 収穫記念・秋の号 私の葡萄造り(ページ2)
- 5. 殺菌剤を、減らす?
「殺虫剤」「除草剤」については書いたが、残る「殺菌剤」が難物。もともとヨーロッパ原産のワイン専用種は雨に弱く高温多湿の日本の気候は致命的。十数回に及ぶ農薬散布を抜きには代表的な品種は栽培できない。
「病気」とは何のためにあるか。心ならずも「病原菌」と呼ばれる生物たちも生態系の中でなくてはならない役割を担っている。一つの考えであるが、「環境に適さないものを排除するためのシステム」とも言える。日本の気候・土壌に適さない植物、生育が悪く虚弱な植物を排除するため、ベト病、灰カビ病、晩腐病、黒痘病、つる割れ病などが続々と押し寄せる。
私は、将来的には日本の気候にあった葡萄でワインを作るべきだと思う。より健康なものを作るのはこれからの農家の義務であり、喜びである。ワイン先進国のたどったように、育種・選別を通して日本固有の品種を探すことになる。それは長い長い道のり。誰がやり遂げるか。
ワインとしては一段低く見られていた食用品種(例えばナイヤガラやキャンベルアーリ)を用い栽培・醸造の面から洗い直す必要もある。これらの品種も特上の原料からは、素晴らしいワインができるのを何度も経験した。
しかしまず私はヨーロッパの品種でどこまでのワインができるか挑戦したい。農薬にある程度頼らなければならないのなら、できる限り安心できる使用法を追求する。そのためいくつかの方法を考え、実践してきた。
一つは「農薬は薄い濃度で、何度も撒く」。この方法では「比較的安心できる作用の予防薬を」「全体としては少量(薄くすることで)」用いる。観察を重視して「予防」し、強い作用の薬の出番を減らす。
もう一つは「かけたい所だけに撒く」こと。そのために特注の機械を考案した(もちろん安く)。 その上で、地面に農薬が落ちないようにし、土壌微生物への影響を少なくしたい(とても大事だと思っています)。
農薬による樹への負担を減らすため、普通なら数種類の農薬を混ぜてまくところをできるだけ単独で散布する。そのため回数は増え、今年の場合は5月〜9月で計12回になった。回数で見ればかなりの数になってしまったが、農薬の種類、量、そして金額で比べれば慣行の方法の半分ぐらいである。
今後の方針として、木酢液などの天然資材を活用することで今より低濃度、少量の農薬散布を目指すこと、少しでも回数も減らすこと、収穫前の「無農薬期間」を長くとることでより安全性を増すことを考えている。
- 6. 腐敗果は手で取る
収穫が近づくと、病気や虫のため葡萄の実に痛みが出る。農家の間では「クサレ」と言う。その年の気象、作業の適否によりかなりさが出る。そのクサレを1粒1粒ピンセットで取り除く。
この作業なしでは農薬の量をかなり増やさねばならない。また、ワインの仕込みに入る前の「酸化防止剤」を多めに添加する、ということになる。うちのワイン特有の清涼な風味は、この「腐敗果」の少なさにも大きく由来する。楽しくないし、根気のいる作業であるがとても大事なのです。
- 7. 「炭」を畑に還元
今年から、剪定枝で焼いた炭を畑に還元するため、「炭焼き」を開始した。簡単な野焼き方式だが、結構な炭がとれた(陶器やイモもいっしょに焼くべきだった…)。
炭は素晴らしい微生物の住処であり、土壌の改善に大きな効果がある。いろいろな方法で目指していた「生き物に満ちた葡萄畑」の一助になるに違いない。また「葡萄畑のものは葡萄畑へ」という一貫性が一つでも達成できる。
- 8. 新鮮なままワインへ
松原農園の収穫は一瞬。今年は正味5時間ほどで終了した。たくさんの人でいっせいに穫り、新鮮なうちに工場で搾る。スピードが、新鮮さにつながる。我がワインの持ち味。これにより「酸化防止剤」も減らすことができる。
今後の目標
当たり前のことをやる、それがまず第一の目標(これが大変なのだが)。その上で、「この土地らしい葡萄」を作るため、畑に「土着菌」を増やしていきたい。隣接した森で採取した微生物を米ぬかなどで培養し、発酵肥料(いわゆるぼかし肥)を作る。土壌の微生物の質・量は作物の風味にも多大な影響を与えるはず。こうする事により、「日本のミュラー、蘭越のミュラー」が生まれる。ちょっとわくわくすると思いません?
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