ハイスーパー S211Aの
エンジン分解作業

私のラビット群の中で稼働率の高かったハイスーパーが不調に陥りました
症状はアイドリング不調なのですがキャブ調整や点火系の清掃でも直りません
ということでクランクのオイルシールを疑ってみることにします。


なぜ原因としてクランクシールを疑うか?
クランクのフロントシールは外気との遮断を
担いますので、この劣化により一次圧縮の不良
や外気吸い込みよる混合比の非適正化がおこり
やすいからです。

また、キャブやポイントなどは整備し易いので今までに
手を入れられてきた可能性が高いのですがクランクシールは
クランクまで分解しないと交換できないので手を入れられて
来ていないことが多いのです。


では実際の作業に入りましょう。
上の画像がエンジン、ミッション、クラッチが一体となった
パワーユニットになります。
脱着作業については別ページでのご紹介とします。
なおミッションオイルは事前に抜いておきます。


リアドラムを外します。
このロックナットは二面幅が実に41ミリもあり、かなり特殊なサイズと
いえましょう。 しかし工具に金をケチっていては良い整備はおこなえません。
できればエアインパクトで外したいところですがメガネレンチでも車載状態で
ブレーキをロックさせて回せばなんとかなります。ドラムを引き抜き内部を洗浄等
して外したロックナット、ワッシャなどを付いていた順番にまとめて針金などで
一まとめにしておきます。


右側に移ってクラッチカバーを外します。
プラス頭のネジでとまっていますが、かなり固く締まっているので普通のドライバー
では回せなくて頭を「ナメて」しまいます。
写真のようにハンマー式のインパクトレンチを使用して外します。
ここには長短のネジが使われているのですが長いほうがナベねじ、短いのはなぜか
小丸ネジでした。
S211Aでは全てナベねじを使用しているはずなのですがこういうこともあるのですね。


クラッチカバーが外れました。
内部の清掃、そしてガスケットの取り除きをやっておきます。
スクレパーで粗方取り除いた後、オイルストーンで仕上げておきます。
外したネジ類は部位毎にまとめて部位のメイン部品と同梱しておくことが
肝要です。
ネジの頭の清掃、ネジ頭が錆びている場合は酸処理のあとユニクロに
再メッキしておくことが必須作業です。


レリーズベアリングのプレートを外します。
写真では分かりにくいのですが、プレートなどの部品に錆が発生しており大変不愉快です。
本来オイルで保護されているので錆の発生は全く考えられないのです。
最初にミッションオイルを抜いた時に乳化現象を起こしていたので嫌な予感はしていたのです。
雨ざらしということはしていないので何処から水が混入したのか全く不明です。
ともかく、ロックワッシャの曲げを起こしてナットを外せばプレートを外すことが出来ます。


さて、ここで特種工具が登場します。
ラビット純正の特種工具 これをどう使うかというと・・・・



このようにクラッチASSYの突起にかけるようにセットします。
これによりクランク(というよりクラッチASSY)の回り止めとなるのです。
実際にはシャフトの長いドライバーや適当な鉄棒を上手い具合に「かませ」て
同じ「回り止め」の効果は得られるのです。
ですので「気分的なところ」が非常に大きいのですが、やはり「ラビット職人」
を目指す身としては出来るだけ専用工具を使いたいですね。



クラッチASSYを止めているナットを外します。
ロックワッシャを引き起こしてソケットレンチを差込
ます。
専用工具を使うといとも簡単に外すことが出来ます。
なにより確実で作業自体も大変スマートですね











クラッチASSYを外したら
ベアリングプレートやスプリング、ロックワッシャ、ナットなどを
元通りに組み付けておきます。
若干錆が生じているので後で再び分解して錆処理をしますが
それまでこういう状態にしておくことが部品の紛失を防ぐ有効な
方法です。

この鉄則はなにもここの部位に限ったことではなく
外したネジなども出来る限り元のネジ穴に戻すか、まとめて
親部品と同梱しておくことが肝要です。

この後ハイスーパーの特徴のひとつミッションダンパーゴムの
方に作業は移ります。


ここの部分を分解します。
リアミッションケースとも呼べる部分で変速ショックをやわらげるミッションダンパーや
1〜3速のギヤ及びシフターが入っています。




ここもやはりプラス小ネジでとまっていますのでインパクト式ショックドライバーで
ネジを外します。
少量ですがミッションオイルが出てきますので受け皿を敷きます。
ネジは清浄したのち他の部位の物と混同しないように分けておきます。



プラスチックハンマーでミッションカバーを叩いて分割します。
叩くといっても「コンコン」と軽くです。
以前に分解組立をおこなった際に
液体パッキンを使ったり併用したりしていると中々割れません。
根気良くおこないましょう。



スクレパーなどを使ってガスケットを丁寧に剥がします。
その後、接合面を紙やすりで粗だししてからオイルストーンで
最終仕上げ、脱脂洗浄をおこないます。
面倒ですがこの作業をおこなうと最後の最後で「オイルニジミ」
という全てが報われない結果が待ち受けています。
当然ながら他の部分の洗浄もおこないます。
作業時間の殆んどはこういった作業にとられてしまいます。

引き続いてミッションダンパーを外します。
ロックワッシャを引き起こしてナットを回すだけです。
ここのナットはそんなに大きなトルクで締まっていないので
手でダンパーケースを掴んでメガネレンチを掛けて、レンチの先を
平手でパンと叩けば大丈夫です。
プラハンマーで軽く叩けば抜けてきます


ダンパーケースが抜けました






ダンパーケースからブレード(手に持っている方)を抜きます。
中に入っているゴムダンパーの状態を点検します。
今回は問題ありませんでしたので元に戻してロックワッシャや
ナットなどと共に一まとめに針金などでまとめておきます。

ミッションカバーを止めていたネジ類も清掃の後、親部品と共に
一まとめにしておきます

その奥にあるベアリングプレートを外します。
例によってハンマー式のインパクトドライバーでマイナス皿ネジを
外します。





リアのブレーキシャフトも忘れてはいけません。
カム側(ドラムの中に入る方)をバイスグリップなどで掴んでおいて
ナットを外してレバー等を分解します。
分解後は例によって各部品を洗浄した後、レバー、シャフト、ナットなどを
ひとまとめにしておきます。


インテークパイプのカバープレートも忘れずに外しておきます。
ボルト2本でとまっているだけですので簡単に外れます。

そしてミッションケースを固定しているナベねじを全て外せば
いよいよ分割となります。



特種工具(SST)のプーラーをセットします。
今回用いたSSTはスバル360用のプーラーを改造したもので
ラビットの純正SSTではありません。

先ほど外したベアリングプレートの取り付けネジ穴に固定ボルト
をセットしてプーラーボルトをねじ込んでいくと

「パコン」「パコン」と音がして内外のチェーンケースが分かれていきます。

因みにS301系ではSSTの必要性はありませんが、S211ではここの
部分の圧入がきついのでプラハンマーで叩くだけではまず無理です。



とはいえ、SSTだけでは左右に大きいケースを割るには若干役不足です
SSTはテンションをかけるようにしてマイナスドライバーで軽くこじると
上手い具合に外れていきます。
SSTのテンションが無くなったら、再度テンションをかける  この繰り返し
を根気良くおこないましょう。









ケースが分割されました。

いかがでしょうか? S211の設計思想の素晴らしさが感じ取れます。
非常に美しいパワートレインユニットと言えますね。

中央右側に位置する一次減速ギアの大きいこと。
そして重量軽減のための造形。
一次側で大きく減速され、3段の変速ギアは一番後部に持ってくることで
低い回転速度での変速が可能となり各部品への負担が減りました。

近未来的(?当時)ともいえるデザインで今ひとつ人気のないハイスーパー
ですが、知れば知るほど好きになるラビットなのです。