2002年中小企業診断士2次試験問題

【事例1】

1960年代半ば,情報化の進展に伴って誕生した情報処理サービス産業は, わが国にあって比較的新しい産業である。およそ35年前,この産業が出現した当初は, コンピュータを保有し,顧客から委託された計算処理業務が主な業務であった。 70〜80年代を通じて,コンピュータ関連技術の進展とその普及に伴って, 情報処理サービス産業は急成長を遂げた。とりわけ,最大顧客ともいえる金融業の莫大なコンピュータ投資に支えられ, 80年代初頭に「1兆円産業」の仲間入りを果たした情報処理サービス産業の事業規模は, 90年代初頭には7兆円にまで達したが, バブル経済の崩壊や金融業界の投資の一巡化などによって,その成長はいったん鈍化した。

しかしながら,90年代半ば以降,インターネットの普及,ネットワーク技術の高度化などIT革命が進展して, IT産業の一翼を担う情報処理サービス関連の企業・業界も大きく変容しつつある。

こうした変化は,エレクトロニクス産業など情報技術と直接関わる産業のみならず, 製造業や流通業,金融業などを含めた産業社会全体に多大な影響を及ぼしている。 また,企業間の技術競争も,地球規模でのデファクト・スタンダードを巡ってさらに激しさを増している。 産業社会全体を巻き込んだ事業環境の変化の中で,中小・中堅の情報処理サービス企業にも経営革新が求められている。

A社もその例にもれず,情報技術の進化と業界構造の変化とともに, その歴史を刻んできた独立系の中堅情報処理サービス企業(独立系システム・インテグレーター)である。 1960年代後半,現会長職にある創業者によって設立され,データエントリー業務を開始した。 その後,重電機メーカーの情報システムや航空会社の座席予約システムの運用サポートに業容を拡大すると同時に, 全国に出張所を設立して事業拡大を図ってきた。 80年代半ばには医療関連システムの運用サポートを,90年代にはシステムセンターを開設してアウトソーシング事業の強化を図った。

現在,A社の資本金は1億円,売上高約40億円,従業員数450名(パートタイマーを含む)である。 営業利益はおよそ1.2億円,営業利益率は3%前後であり, 必ずしも情報処理サービス産業の中で高い利益を上げている企業とはいえない。 A社の取引先をみると,およそ7割がメーカー系のエンジニアリング会杜であり, エンドユーザー系企業の売上比率は3割まで達していない。 また,250社を超える顧客別の売上高をみても, 1社当たりの取引額が1,000万円に満たない取引先がその大半を占めており, 取引額が5,O00万円を超える取引先の数はわずかである。

A社の事業は,創業時代から続いている「システム運用事業」が売上全体の45.0%, システム企画・システム開発などの「システム開発事業」が42.5%, 残り12.5%がシステムセンターを活用した「アウトソーシング事業」という構成になっている (A社の事業別売上構成比参照)。 「システム開発事業」は,一部を除いて顧客先での常駐は少ない。 それに対して,全体の45%を占めている「システム運用事業」の場合, 業務処理を顧客先で行うことが求められるために特定顧客先に長期間常駐することが多く, そうした社員は,本社あるいは事業所への出勤を求められていない。

上記3つの主力事業を有する同社の組織は,医療システム事業部,システム開発事業本部, システム運用事業本部,システム事業本部と,営業本部, 管理本部および経営企画室の管理部門によって構成される(A社の組織図参照)。各事業部の売上高は, それぞれ10億円程度と均衡している。

医療システム事業部の主たる事業は,医療システムの開発および運用である。 システム開発事業本部は,エンドユーザーおよびベンダー向けのシステム開発で, 業務別売上構成では,システム開発業務が約65%を占めている。 システム運用事業本部では, 顧客業務システムの運用・保守とそのオペレーションを担当している。 システム事業本部では,顧客業務システムの運用管理とシステムのカスタマイズに加えて, システムエンジニア(SE),プログラマー,オペレーターの派遣などの業務を行っている。

A社の組織図



取締役会 



営業本部
	首都圏営業部 
			営業管理部

医療システム事業部  公共システム部

  医療システム部
  北日本事業所

  システム開発事業本部  システム管理部

    システム技術部
    オープンシステム部

  九州事業所


  システム運用事業本部 運用管理部

  運用ソリューション部

   システムセンター

  システム事業本部   システムインテグレーション部

  システム・サポート部

  西日本事業所


  管理本部
  総務部
  経理部

経営企画室

コスト構造をみると,売上原価の 7 割近くを,従業員に支払う給与と, 100社を数える「協力企業」と呼ばれる外注業者からの技術者雇用によって発生する外注経費に含まれる人件費が占めている。 もっとも、90年代初頭まで急騰していたSEの賃金も, 一部の技術者を除いて近年では低位安定傾向となっていることは事実である。

第1問(配点1O点)

ソフトウェア・ハードウェアを問わず,情報関連技術は長足な進歩を遂げてきた。 90年代後半に始まったIT革命は・産業社会に大きな影響を与えている。 近年の情報技術の変容が中小企業の経営にどういった影響を及ぼしているか。 100字以内で論述せよ。

第2問(配点40点)

事例から類推される範囲でA社の人的資源管理上の課題をその対応策とともに2つあげ, それぞれ150字以内で論述せよ。

第3問(配点25点)

中小企業診断士としてA社の社長に組織に関する相談を受けた。 A社の組織構造と事業構造の問題点は,どういった点にあると考えられるか。組織図を読み込んで, その問題点と改善策を200字以内で論述せよ。

第4問(配点25点)

A社は,情報処理サービス産業の中でも,1人当たり売上高,営業利益率が低い事業構造となっている。 そうした同社の収益構造を改善するために,今後, どのような戦略的事業展開を考えていくべきか。その可能性について,200字以内で論述せよ。


【事例2】

B社は,1960年に資本金500万円, 社員2名で輸入食品を扱う食品卸売業として創業した。 当初は飲食店を主たる顧客として,扱っていた食材はごく一般的なものであった。 東京オリンピックなど大きな国際的イベントがあるたびに, 徐々に事業規模が拡大していった。

そのようなイベントごとに, 従来日本では利用されることの少なかった輸入食材や新しい調理法がポピュラーとなっていった。 本格的なフランス料理を提供するレストランもまだ少ないとはいえ, だんだんと増えつつあった。また,テレビの料理番組にフランス風料理が取り上げられ始めたり, 家庭においても洋風料理が食卓にのぼるようになってきた。

上記のような状況に前後して,創業5年目には,従業員も5名に増え, B社はレストランに向けて高級輸入食材を卸す,専門的な業務用卸売業に転換しつつあった。 その背景には,一般的な食材では価格競争になってしまい, 成長がなかなか困難であるという状況があった。 B社の創業者は学生時代にフランスに滞在した経験があり, 語学に堪能であった。また,フランス語のかなりできる後輩を従業員として迎えることができ, 二人でフランスからの高級食材の輸入ルート開拓を行うことができた。 その結果,B社はフォアグラ,トリュフ,オマールなど, 高級レストラン向けのフランス料理用輸入食材を主力商品に据えるようになった。

創業10年目のある日,日本のある有名ホテルにいたMシェフから,独立するとの知らせを受けた。 Mシェフは,かつて,ホテルからの派遺でフランスにおいて修行していた。 その当時,B社の創業者は,食材の調達ルート開拓でフランスのリヨンに行くことが多く, そこでMシェフに出会っていた。二人は,料理人と卸売業者と職は異なるが, いずれも食に関わっていて,日本に本物のフランス料理を根付かせたいという点で意気投合し, Mシェフが帰国してホテル勤務に戻ってからもしばしば情報を交換していた。

Mシェフは,独立開業する新しいレストランの食材調達の大部分をB社に任せてくれた。 これを機会に,限られた高級食材だけから,各種肉類,調味料,生鮮野菜など 取り扱い商品の幅が急速に拡大していった。その結果, レストランで必要なものは大方納入できるようになっていた。 しかし,ワインだけは,当時の免許制度の壁に阻まれて取り扱うことはできなかった。

Mシェフの始めたレストランは,本物の味が好評で急速に評判を高めていった。 それにともなって,輸入食材納入業者のB社の評価が上がり,特に宣伝したわけではないのに, 納入希望レストランがどんどん増えていった。その結果,従業員も15名に増え, 資本金も3倍に増資された。語学力のある従業員を各部門に配置することも可能になった。 その後,東京の本社だけではなく,大阪に小さいながらも営業所を開設することができた。 また,Mシェフの口添えでパリに情報収集などを行う人材を非常勤ではあるが, 見つけることができた。B社はある程度の資本蓄積ができ,事業を拡大することを計画した。

グルメブームというほどではないが, 一般消費者にも本物の素材や珍しいものへの関心が高まってきた。 そこで,B杜は, 高級レストランに卸しているフランス料理用の高級輸入食材そのものを小分けした商品を扱う専門小売店を, 都心に1980年に開業した。 開業にあたって,自社の従業員1名のほかに,かつて食品スーパーに勤め, 小売についてよく知っている人材1名, さらにパート2名の陣容でその小売店をスタートさせることができた。 この小売店では,レストランでしかお目にかかれなかった高級素材を, 一般消費者も少量でも手に入れられるということで,マスコミにも取り上げられた。 その甲斐もあってか,あまり広告はできなかったが, 想定した以上に来店客があった。来店客は興味をもって, 店員に調理法や調理器具などいろいろなことを質問してきたが, 社長以外はなかなか的確に答えられなかった。 その社長も調達ルート開拓と販路開拓で, ほとんど小売店頭には出られなかった。 そんな状況で,実際に購入してくれた人は少なかった。 一度購入していってくれた顧客も, なかなか二度は来店してくれなかった。東京近辺だけではなく, 関東以外からも問い合わせの電話が入ることがあった。 そのような人に販売することのできる商品の種類は, あまり多くはなかった。 その結果,売上は伸びないままで,わずか2年で撤退を余儀なくされた。 そこで,本業の高級食材の輸入卸売業に徹することにした。

ところで,B社の卸売事業でのコンピュータシステムをみてみると, 従来,電話やファックスに頼っていた受注業務にコンピュータを活用することを思い立ち, 一部の主力取引先との問でいろいろなシステムを運用していた。 はじめは,カタログとプッシュホンを利用したものであった。 確かに受注側は一度システムを構築すると,正確に受注できるが, 発注側は,毎回同じコードなどを大量に打ち込むのはかなりの負担であった。 そのためレストラン側に受け入れられなかった。 パソコン通信を利用したシステムでは, コードを提示することができるようになって, 発注側の負担はかなり軽減された。 しかしながら,まだ,コンピュータや通信の能力が乏しく, 別途カタログが必要であった。 その後,インターネットが利用できるようになって, 紙のカタログをWeb上にのせることが可能となった。

最近はテレビをつけると,百貨店地下の食品売り場の紹介や, グルメ番組が頻繁にみられるようになった。 Mシェフも有名シェフの一人としてテレビに登場して, グルメ層にはよく知られた存在となっていった。 Mシェフは有名になっても,B杜を納入業者の中心に据えてくれていた。 B杜は現在では資本金7,000万円,従業員58名になり,年商60億円に達している。

高級レストラン市場は接待需要が旺盛なうちは,市場規模の拡大が続いたが, バブルの崩壊後,市場環境は厳しくなった。そこで,各レストランは個人客の開拓を行ったが, イタリアンを中心として多様なレストランが出店して,なかなか顧客を引き付けられなかった。 高級レストラン市場への納入が頭打ち状態になった中, B杜は新たな事業に進出することによって,業績の維持・拡大を願っていた。

いろいろ検討した結果,一つの案は,レストラン事業に進出することである。 もう一つの案は,高級食材の小売事業を行うことである。 ただ,後者は前回失敗しているので, 同じようなやり方では無理である。 日常的なクッキングはなるべく簡便にしたいが, パーティーなどのために凝った料理を半ば趣味のようにクッキングをする消費者層が増えつつあった。 B社は,そのような消費者を対象として, 新しく小売業を行うことにし, 前者のレストラン事業への進出は断念した。

第1問(配点10点)

B社が1980年に開業した小売店を2年間で撤退しなくてはならなかったのはどのような理由によるであろうか。 あなたが最も重要と思う理由一つを50字以内で述べよ。

第2問(配点15点)

B社は今回の新規事業開発に際して,レストラン事業への進出も検討したが, それを断念することとなった。あなたが最も重要と思うその理由一つを80字以内で述べよ。

第3問(配点40点)

B社が新規に開業する小売店の基本戦略について,以下の設問に答えよ。

(設問1)

B社の新しい小売店がターゲットとする顧客層に適した品揃え戦略について 100字以内で述べよ。

(設問2)

B杜の新しい小売店がターゲットとする顧客層に向けて必要とされるサービスに ついて100字以内で述べよ。

(設問3)

有名になったMシェフをB社の有効な経営資源の一つと考えたときに,どのよう に活用することが可能であるかについて100字以内で述べよ。

第4問(配点35点)

B社が新規に開業する小売店のその他の重要な戦略について,以下の設問に答えよ。

(設問1)

B杜の新しい小売店における顧客管理のために,日常業務のなかでどのような情報をどのように収集し, その情報を経営にどのように活かせばよいかについて100字以内で述べよ。

(設問2)

B社の新しい小売店がターゲットとする顧客層へのプロモーション戦略について100字以内で述べよ。

(設問3)

一般的な購買金額に応じたポイント制度では規定のポイントに達すると値引きやプレゼントなどの特典が提供される。 B社の新しい小売店がターゲットとする 顧客層に向けてポイント制度を採用する場合どのようなプレゼント特典(ただし, 物品のプレゼントは除く)が望ましいか。それぞれ15字以内で二つあげよ。


【事例3】

【C社の概要】

C杜は,1961年に創業した書籍製本専業の企業であり,従業者数は代表取締役(55歳)以下, 営業部門6名,生産管理課を含めた生産部門40名,総務その他で3名の合計50名である。 生産部門の40名には,臨時社員(パート)15名を含んでいる。

常時取引のある得意先は約50社で,その大半が出版社である。 主な得意先は学術書や児童書を手掛ける中堅出版社であり, 得意先上位3社で総売上の約7割を占める。 C杜は,都心の中央部に立地しており,顧客である出版杜まで距離的に近い。 「顧客に支持される上製本業者」を標榜し,他杜と比較して価格はやや高いが, 「誠実」「品質が高い」との評判を得ている。

しかし,製本需要の低迷に加え,厳しい価格競争から同業者に受注をとられるケースも出てくるなど, C社の近年の業績は低迷している。最盛期(10年前)には40,000 千円程あった月商も,今年度は約30,000千円にまで減少し, 月次利益はゼロ付近で推移している。従業員の高齢化も進み,労働分配率は60%を超過している。

製本とは一般的に「印刷物などを糸・針金・接着剤などで綴じて表紙をつけ, 小冊子・書籍などに形づくること」であり,製本業は,通常,出版杜,印刷業者, または同業者から製本を受注する。書籍製本には大別して,学術書,児童書, 美術書などのいわゆるハードカバーを生産する上製本と,雑誌や文庫本などを生産する並製本があるが, C社は上製本のみを取り扱っている。近年,書籍市場では,上製本の低迷が並製本に比べて著しい。

【受注の状況】

C杜は,すべて受注生産であり,書籍タイトルごとに1つの生産ロットとなる。 ロットサイズは大きいもので約5,OOO部,小さいもので約500部である。 最近は小ロット化が進み,500〜2,000部の注文が大半を占める。

製本加工する印刷物はすべて支給され,通常,注文は印刷物支給日の1週間前までに入る。 1週問の受注量は,多い週で約40,000部,少ない週で約24,000部である。 なお,稼働日数は週5日,所定内労働時間は週40時間となっている。

C杜の製本工程は,主に,前工程(折り・断裁など)→本工程(丁合・糸綴じなど)→ 後工程(カバー掛け,帯掛けなど)に分かれている。 C杜では,これらの工程をすべて内製で対応しており, 通常,納期は印刷物の支給日から3日〜1週間である。 近年,500〜1,000部程度の注文を中心に「印刷物を3日後に支給するので, 支給日から2日後に仕上げて欲しい」といった,さらなる短納期の要請も強い。

【生産の状況】

得意先(出版社)から注文が入ると,印刷物支給日を確認し,社内の生産計画に組み込む。 生産計画は本工程のみ作成されており,生産管理課が社内のおおよその生産能力 (1日8時間,8,000部/日)を基準として, 毎週木曜日に翌週の生産計画を立て現場に指示する。 生産計画については,生産ロットごとに「何日に」「どの本を(タイトル)」 「いくつ(部数)」生産するかをコンピュータ上の生産計画表に入力する。

本工程はライン化されており,1ラインを保有している。ラインでは, ロットを替えるたびに段取り替えが必要となる。 本工程の作業者は10名で,ライン稼働時には 印刷物の投入作業やラインの監視に従事し,段取り替えは全員で対応する。 段取り替え時間は1回につき45分間(750部を加工する時問に相当)とみて, 生産計画に織り込んでいる。例えば,1日3回の段取り替えがある場合には,1日の生産量は5,750 部(=8,000部 - 2,250部)となる。

しかし,各ロットの仕様によって段取り替えに要する時間や生産スピードにバラツキがあるのに加え, 飛び込みの受注や設備の不調によるラインの停止によって, 生産計画通りに生産が進まないことが週に2日程度ある。 その場合には,残業によって対応しており, 残業代もコストアップの大きな要因となっている。さらに, 重要な得意先からの飛び込みの注文を優先することによって工程が混乱し, 他の注文について納期遅れが生じることがある。なお,各ロットの本工程終了時, 生産実績をコンピュータに入力し,計画と実績とを対比することができる。

前工程は,本工程の生産予定日に間に合うように, 本工程の生産計画をみながら前工程のグループ長が指示して作業する。 作業者は12名で,2,000部の印刷物であれば, 約2時問で前工程の作業を終えることができる。作業のないときは, 後工程の応援にまわる。前工程で加工された印刷物は, 本工程のラインに投入されるまで通常 1〜2日倉庫で保管されている。

本工程を終了したロットは, 適度な圧力をかけて12時間程度置くことによって品質を安定させ, その後,後工程に着手する。後工程は, 正社員1名と臨時社員による手作業であり,毎日,作業量に応じて臨時社員が配置される。 1名につき8時間で約 500部仕上げることが可能である。

第1問(配点20点)

最近,同業者に得意先の注文をとられるケースが出てきている。C社の外部環境・ 内部環境(経営資源など)の分析に基づいて,C社が得意先への優位性を確保するため に,何を自社の生産面におけるセールスポイントとすべきか。環境分析およびそこか ら導かれるセールスポイントを200字以内で説明せよ。

第2問(配点60点)

(設問1)

中小企業診断士であるあなたは, 生産部門において発生している問題点や受注状況の変化などを踏まえた生産計画に関する提案をC社から求められた。 生産計画に関して,最も重要だと考える提案を1つ挙げ,その内容を200字以内で説明せよ。

(設問2)

C社の生産性・収益性を向上させるため,あなたは前工程,本工程,後工程のうち, どの工程を重点的に改善・強化すべきであると考えるか。 (a)改善・強化すべき工程を1つ選び, (b)その工程を選んだ根拠を列挙せよ。

(設問3)

C社の生産現場で生じている問題点を踏まえ, C杜における作業管理上の改善案を1つ挙げ,具体的な改善手順とともに200字以内で説明せよ。

第3問(配点20点)

C社では,コンピュータ上の生産管理システムとインターネットを活用した営業担当者向け支援システムを開発したいと考えている。 顧客へのサービス向上,利便性提供といった観点から, 考えられる支援システムの内容を1つ挙げ, 150字以内で具体的に説明せよ。


事例4

 D社は大都市において,駅前に保有している自社ビルを店舗および倉庫として使用している書店で, 平成13年度実績で売上高約16億円,従業員数50名(昨年度も同数)である。 現存の事業は店鋪での販売のみで,文芸書,実用書,学術書, 文庫・新書,雑誌など,ほとんどの種類の書籍を扱っている。駅前の持つ特徴で客層は曜日, 時間帯で大きく異なっている。仕入は洋書も含めてすべて大手の書籍卸売業者 (取次会社)を通して行っている。昨年度,卸売業者の強い意向でPOSレジを導入し, D社の売上情報(商品コード,販売単価 販売数量)を1日1回集計処理して卸売業者に送信している。 また,卸売業者から送信される納品情報がD社の仕入情報としてコンピュータに入力される。 現在,これらの情報を利用して売上実績の把握と決算書の作成を行っている。

 D社およびD社が当面の目標としているX社(他の駅前の書店,従業員数60名) の平成13年度に関する貸借対照表および損益計算書は,表1,表2に示すとおりである。 D社の総資本経営利益率が約1%と低迷しているのに対し, X社は総資本経常利益率を約8%確保している。

 こうした状況を打破するために,D社では新事業等のアイディアを検討中である。 その候補としては現在の書籍販売との関連性を考慮して、インターネットによる書籍販売, 中古本販売を考えている。また洋書については,卸売業者との代金決済において, これまでの円決済をドルなど現地通貨による決済にすることも検討している。

 こうした状況を踏まえて,D社経営者は特に財務的な観点から中小企業診断士に診断・ 助言を依頼してきた。

第1問(配点30点)

 平成13年度貸借対照表および損益計算書を用いてD社の経営分析せよ。そして, X社と比較した場合,D社の総資本経営利益率を圧迫している原因として, 特に重要と思われる問題点を3つ挙げ,その解決策を示せ。

 解答用紙には問題点(1),(2),(3)ごとに,それぞれ問題点の根拠を最も的確に示す経営指標を1つだけ挙げて, (a)欄にその名称を示し,(b)欄にD社の経営指標値(小数点第3位を四捨五入すること)を記入せよ。 また,(c)欄には問題点を40字以内で,(d)欄にはその問題点の解決策を40字以内で,それぞれ述べよ。

表1 平成 13 年度貸借対照表    (単位:百万円)

X社
金額
D社
金額
D社対
前年度
増減額

X社
金額
D社
金額
D社対
前年度
増減額
資産の部


負債の部


流動資産 598 558 171 流動負債 470 454 167
 現金等 140 74 6  支払手形・買掛金 230 293 148
 受取手形・売掛金 32 34 -3  短期借入金 176 130 19
 商品 355 425 170  その他流動負債 64 31 0
 その他流動資産 71 25 -2 固定負債 146 204 -15
固定資産 226 275 -13  長期借入金 139 195 -15
 土地・建物 27 151 -8  その他固定負債 7 9 0
 設備・備品等 48 85 -5  負債合計 616 658 152
 保証金等 117 0 0  資本の部


 その他固定資産 34 39 0 資本金 58 46 0




利益準備金 10 8 0




別途積立金 16 6 0




当期未処分利益 124 115 6




 資本合計 208 175 6
 資産合計 824 833 158  負債・資本合計 824 833 158

(注)表中の「D社対前年度増減額」は,平成 13 年度額から平成 12 年度額を差し引いた額である。

表2 平成 13 年度貸借対照表    (単位:百万円)

X社金額 D社金額
売上高 1,856 1,626
売上原価 1,386 1,208
売上総利益 470 418
販売費・一般管理費 391 386
 人件費 158 195
 販売費 66 44
 設備管理費 130 89
 減価償却費 2 13
 その他管理費 35 45
営業利益 79 32
営業外収益 3 1
営業外費用 19 24
経常利益 63 9
特別利益 1 1
特別損失 15 2
税引前当期利益 49 8
法人税等 14 2
当期利益 35 6

第2問(配点20点)

D社のキャッシュフローについて,次の設問に答えよ。

設問1

平成 13 年度貸借対照表および損益計算書,さらに平成 13 年度貸借対照表の対前年度増減額を用いて, D社の平成 13 年度営業キャッシュフローを計算せよ。

解答用紙の (a) 欄に営業キャッシュフローの計算にかかわる項目を示し, (b)欄にその金額(単位:百万円)を記入せよ。 なお,(c)欄は営業キャッシュフロー額(単位:百万円)である。

設問2

D社の営業キャッシュフローはどのような状態か。50 字以内で説明せよ。

第3問(配点15点)

洋書の仕入代金決済を現地通貨で行うとすれば,為替リスクへの対応が必要となるが, これについて次の設問に答えよ。

設問1

仕入時点で完全に為替リスクを回避するにはどのような方法をアドバイスするか。 30字以内で延べよ。

設問2

ヨ−ロピアンオプションによって為替リスクを回避しようとする場合, 代金決済に円安が予想されたときには,

  1. どのようなオプションを手に入れるべきか,20 字以内で説明せよ。
  2. オプションの満期日にはどのように対処すればよいか。50 字以内で説明せよ。

第4問(配点20点)

現在の書籍店舗販売と新事業として検討されている書籍インターネット販売および中古本販売のそれぞれ今後 3 年間の予想売上高営業利益率とその発生確率については, 表 3 に予想される推定データを得ている。 これに基づいて,事業の収益性に関する次の設問に答えよ。

表3 予想売上高営業利益率とその発生確率
書籍店舗販売予想売上高利益率(%)1.52.02.5
書籍店舗販売発生確率0.10.80.1
書籍インターネット販売予想売上高利益率(%)-2.04.08.0
書籍インターネット販売発生確率0.30.50.2
中古本販売予想売上高利益率(%)-10.010.030.0
中古本販売発生確率0.50.30.2

設問1

3つの事業の予想売上高営業利益率を期待値(リターン)で評価すると, どの事業が今後有望と判断できるか,40 字以内で述べよ。

設問2

(設問1)で得た結果に対して,期待値(リターン)だけでなくリスクも考慮した事業評価を行うとどのようになるか, 60 字以内で説明せよ。

第5問(配点15点)

D社のPOSレジとコンピュータで構成されるPOS情報システムを活用して, 今後より一層D社の経営に役立てるための方策について,次の設問に答えよ。

設問1

書籍店舗販売の促進に役立てるにはどのような方策が考えられるか。 60 字以内で説明せよ。

設問2

仕入発注業務の改善に役立てるにはどのような方策が考えられるか。 60 字以内で説明せよ。