先日、中学時代のクラスメイトからメールが来ました。
彼とは当時もそんなに親しくもなく、卒業してからは顔をあわせたことも、
電話で話したこともありませんでした。 名前も忘れていたほどです。
卒業アルバムを見て、やっと思い出しました。
なぜ今になって突然メールが、と思ったのですが、とにかく開いて読んでみました。
中学時代の彼は「にらめっこ」が得意でした。 「にらめっこ」とは、本当に普通の
「にらめっこ」です。 笑うと負け、という。
とにかく強いんです。 僕も彼が負けたところを見たことがありませんでした。
勝負がついたあと、彼はいつも決まってこう言いました。
「俺ににらめっこで勝てるのは、俺だけさ。」と。
僕らは「はぁ」としか言いようがありませんでした。
「そうだろうな、本当にそうだろうな。」と思いました。 納得。 名言。 と。
さて、そんな彼からのメールには驚くべき事実が書かれていました。
『今度、にらめっこの世界選手権の日本代表に選ばれた』
何が驚いたかって、まずそんな選手権が存在していたことに驚きました。
いやはや、世界は広い。 広大だ。
世界にらめっこ選手権(「the
world grinning championship」と言うそうである)は、
毎年、前回の優勝国で開催されているらしく、その経済効果はサッカーのワールドカップに
勝るとも劣らない、と彼は書いていますが、それはまぁ、きっと嘘でしょう。
昨年はロシアのバクストラシャコフという選手(この人は普段はレストランでピロシキを
作っているんだそうです。 にらめっこだけで食べていくことは、まだまだ難しいそうです。)
が優勝したので、今年の大会はサンクトペテルブルグ(昔のレニングラードですね)で
開催されるそうです。
寒さで顔の筋肉(表情筋)が麻痺してしまわないように鍛え上げるのが、今年の各選手の
課題で、しかしながら、「逆に麻痺したほうが笑わなくて有利なのではないか」との声もあります。
要は「攻めるか、守るか」ということらしいです。
僕のクラスメイトの彼は、もっぱら「攻め」のタイプなので(中学時代もそうでした)、
今は−20度の生肉の倉庫でのトレーニングに余念がないといった面持ちです。
『サンクトペテルブルグまで応援に来てくれないか?』
というのが、このメールの主旨でした。
「なぜに僕?」とメールを返信しました。 すると彼は即座にまたメールを送ってきました。
「連絡網で順番に聞いてまわって、断わられ、最後がキミだったんだ」とのことでした。
僕も、まぁその「にらめっこ選手権」に興味はないこともないですが、なにも好き好んで
そんな寒いところに行く気はありません。 やらなければならない仕事もありますし。
でも、彼が肉の倉庫であみ出した必殺のフェイスというのを見てみたいのも確かでした。
僕は彼に「大会には行けないけど、キミのあみ出した顔を写真に撮って、メールかFAXで
送ってくれないか」というメールを送りました。
彼の答えは「NO」でした。
彼が言うには、必殺フェイスは言わば絶対機密事項で、メールなどで送ったら、
どこで傍受されるかわからない」とのことでした。
今や各国の諜報部がライバル国の選手の技を狙っているらしいのです。
そんなわけで彼は肉の倉庫に鍵をかけ、ここ8ヶ月そこから1歩も出ずに
暮らしているんだそうです。
「食事とかはどうしているの?」と僕が聞くと、彼曰く、
「肉は腐るほどあるから大丈夫。 ・・・と言っても、ココは冷凍庫なので、
腐らないがな。 ハッハッハ。」ということでした。
『とにかく見に来てくれよ、ロシアまでのチケットと現地でのホテルはこちらで用意しているから』
という彼の押しの強さに負け、僕はロシアに向かうことになりました。
来週はロシアか・・・・
ロシアって、花粉は大丈夫かな・・・