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木村明:こうして治す::::神経性頻尿.
暮しと健康,8月号,p46-49,2002.





頻尿とは
 

腎臓でつくられた尿が、膀胱内に一定量溜まると、膀胱壁が刺激されて末梢神経から脊髄排尿中枢を通じて大脳の中枢神経に伝えられ、 尿意を感じるしくみになっています。そこで、人はトイレに行き、排尿を行うわけですが、正常な排尿は大脳の働きによって、尿を送り出す膀胱との関係がうまく保たれコントロールされています。 そのために、排尿をある程度がまんしたり、逆に軽い尿意でも外出前や会議前などに排尿を済ませておくことができるわけです。

 膀胱の正常容量は、体格にもよりますが、約200ml~300mlほどが普通です。日本人では、約150ml溜まると軽い尿意を、 250ml溜まると強い尿意を覚えるのが一般的です。排尿回数は、昼間は四、五回、夜間は〇~二回、合わせて一日に七回ほどが 成人の平均で、一日に約1500mlの尿量を排出していることになります。

 この排尿の回数が異常に多くなる現象を、 頻尿といいます。二時間以下の間隔で排尿があり、昼間の覚醒時で八回以上、夜間の就寝時で三回以上、つまり、 一日に八回~十回以上、トイレに行くようであれば、頻尿といっていいでしょう。

 水をがぶ飲みしたり、 ビールやジュースな どの水分をとりすぎると、トイレが近くなります。これは誰にでも当てはまることで、 体内に急激に増えた水分を排出しようとする一時的、生理的な反応です。

 しかし、このような水分の大量摂取がない のに 排尿回数が増える場合は、問題となる原因の特定と治療が必要になってきます。

 中にはさまざまな要因が複合して起こる場合 もあるので、頻尿が続く場合や、繰り返す場合には、いずれにしても、泌尿器科に受診し、検査を受けるようにしてください。

原因疾患のある頻尿と 疾患のない神経性頻尿


 大別すると、頻尿を招く原因には二通りのケースがあります。

 膀胱や尿道などの下部尿路器官などに病気や異常がみとめられるケースと、病気や異常などの器質的疾患がないのに、 心理的要因によって症状だけが出るケースです。

●原因疾患があるために起こる頻尿


 原因となる病気が背景にあって 頻尿が起こるものとしては、以下、四つほどのケースがあげられます。

*一つめは、泌尿器科では最も多く見られる膀胱炎の他、尿道炎、膀胱がん、前立腺炎、膀胱および尿管結石などの病気に伴う頻尿です。 例えば膀胱炎を起こすと、少量の尿が膀胱内に溜まっただけでも、炎症を起こしている膀胱粘膜の知覚が過敏になり、 排尿刺激が起こって頻尿となってしまいます。

 このように、下部尿路器官などに疾患があると、膀胱が不安定(不安定膀胱、過活動膀胱)になり、 膀胱壁への刺激性が高まる結果、排尿筋が収縮してひんぱんに尿意を覚えるようになります。

*二つめは、膀胱容量が減り、一回の排尿量が減ってしまうケースです。膀胱内に腫瘍や結石ができて膀胱内部が狭くなったり、 逆に膀胱周辺の臓器(子宮や卵巣、大腸など)の腫瘍によって膀胱が圧迫されることで膀胱の容量が減ってしまい、頻尿を招くものです。 女性では妊娠が、 膀胱の容量が減る原因になることもあります。 膀胱結核や間質性膀胱炎などで膀胱自体が萎縮して容量が減るケースもあります。

*三つめは、 一日の尿量が四~十l近くにもなる尿崩症や糖尿病などの内分泌異常や、慢性腎不全などの病気によって尿量自体が増え、 排尿回数も多くなるケースです。 尿量が増加すれば、当然一日の排尿回数も多くなるため、頻尿の症状も見られるわけですが、この場合、厳密には、頻尿ではなく、 むしろ「多尿」(一日の尿量が多い状態)と診断されます。一日の尿量の合計が普通で、少しづつ何回もトイレに行くことが 頻尿の特徴だからです。診断に際しては頻尿と多尿の識別は重要になってきます。

*四つめは、  膀胱にたまっている尿を一回ですべて出し切れないため、何度もトイレに行かなければならず頻尿となるケースです。 男性での前立腺肥大症や前立腺がんなどに見られる頻尿のほとんどがこのケースです。比較的まれですが、 「神経因性膀胱」といい、排尿を調節している神経系が障害される病気によって 排尿のシステムがうまく働かなくなると、同じようなことが起こります。脳脊髄腫瘍や脳梗塞などの脳血管障害、 多発性硬化症、パーキンソン病などの病気の他、子宮や直腸の病気で手術や放射線療法を受けた人や、 糖尿病で膀胱の神経が麻痺している状態の人に起こります。 トイレに行ってもたらたらと少しづつしか尿が出ません。尿失禁などの排尿異常も見られます。  以上のように、頻尿をもたらす背景には、 様々な病気があり、原因となっていることが 多いわけですが、 いずれもそれぞれの病気の治療に専念することで頻尿もおさまります。

心理的要因やストレスが引き金となる神経性頻尿  

一方、疾患や異常がみとめられないにも関わらず、頻尿を起こす症例があります。精神的な要因やストレス、 恐怖心などが原因となって起こる「神経性頻尿」です。  頻尿の症例のうち、膀胱炎に次いで多くみられるのが神経性頻尿です。 排尿には 心理的要因が関わってくることが少なく ありません。 例えば、試験や試合、デートや会食、発表会や演奏会、大事な面接や会議、プレゼンテーション等々、 人それぞれの勝負時や本番など、緊張する場面でトイレが近くなる状態は、誰でも経験することです。  

しかし、この状態が一過性の現象として終わらず、その後も排尿回数が日常生活に支障をきたすほどひんぱんになってしまう 場合があります。また同じことが 起きるのではないかという不安や恐怖心が先立ち、ことさらに尿意が意識されてしまう結果、 実際に度々尿意を感じるようになってしまい、意識すればするほどがまんできなくなり、頻尿のパターンに陥るのです。 神経質な人に多く見られます。

 精神的負担やストレスを感じる場面で精神が高ぶり、何度もトイレに行きたくなった経験や、 電車や車の中でトイレをがまんしたエピソードなどをきっかけに、この神経性頻尿は発症するようです。職場や学校、 家庭でのストレスをはじめ、いじめや暴行、事故や災害などによる重大な精神障害を機に発症することもよくあります。

 通常、排尿痛や発熱は見られず、尿意を意識せずに何かに熱中しているときや、夜寝ているときには、 症状がないことが神経性頻尿の特徴です。  男性では仕事や職場の人間関係のストレスなどで無菌性の前立腺炎の症状を起こして 来診するケースがありますが、神経性頻尿の症状と複合してけっこう長引くケースも少なくありません。

検査、診断
 

女性に多いのですが、膀胱炎を実際に患い、それをきっかけに神経性頻尿発症するケースもあります。 その場合、頻尿の他に、排尿痛や残尿感など、膀胱炎そっくりな症状を訴えることがあるので、 診断に際しては見極めが大切になってきます。

 基本的な検査は簡単です。尿検査をすると膀胱炎などのように 膿や血尿などは出ないので、すぐに判断できます。就寝中に排尿がみられないことも診断の手がかりになります。

 さらに、問診によって、他の自覚症状の有無や頻尿に至った心理的要因を把握していく過程で、 残尿感などを訴える患者さんには超音波検査による残尿測定などを行うこともあります。 症例によっては膀胱内圧測定や、婦人科的な検査を行うこともあります。頻尿に伴い、 切迫性の尿失禁などの症状を訴える患者さんもいるからです。

治療


●排尿量と回数を記録し、チャートを作る


 検査の結果、器質的疾患がないことがわかれば、泌尿器科では、膀胱容量が正常であることを確認するために、 一日の排尿回数と排尿量を患者さんに記録してもらいます。朝一番の排尿量が三百mlあれば、膀胱容量が正常であることがわかります。

 この排尿日誌の作成は、患者さん自身の排尿システムの検討や理解にもつながり、頻尿を克服する自覚をうながす意味でも治療上、 大変有効です。

 ただし、この記録をつける方法は一日やれ ば十分です。 毎日やるような習慣をつけるとそのせいでかえって習慣性の頻尿になってしまいかねないので注意してください。

●薬による治療期間中に排尿間隔を開ける生活訓練を行う


 神経性頻尿は尿意を気にし過ぎることで悪化します。膀胱には何も異常がないので、本来は何も治療する必要はないのですが、 患者さんは、膀胱に少量の尿が溜まっただけで強い尿意を感じる傾向があります。そこで、膀胱の過敏性をやわらげ、 収縮 を抑える薬(抗コリン薬)の服用が効果的です。薬はパップフォー、ポラキス、ブラダロン(2011年加筆過活動膀胱の基準に当てはまれば、ベシケア・デトルシトール・ステーブラ・ウリトス・ベタニスも処方可能)などを処方します。

 この薬の服用期間中に、排尿チャートをもとに目標をきめて、排尿間隔を開け、一回量を増やすような生活を心がけてもらうと 快方に向かう人が多いようです。

 服薬を中止することによる頻尿の再発を心配することはありません。

精神面が大きく作用する神経性頻尿の場合、数週間の投薬で頻尿の習慣が消え、服薬を中止しても大丈夫な人が多いものです。

 改善したら、予防法など考えず、排尿回数に無関心になることが最大の予防法といえるでしょう。

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