第16回勉強会「リストラ問題に労働行政はどう対応しているか」
                ・・・・・・1999年11月11日

太田俊明労働省雇用政策課長

<雇用情勢の現状>

@有効求人倍率は0.47倍、完全失業率は4.6%と依然として厳しい環境下にあるが、一方で20ヶ月ぶりに雇用者数がプラスに転じるなど若干改善の兆しが見られる。
A非自発的理由による失業が100万人、非自発的失業の3割が倒産解雇、3分の1が中高齢者で再就職は厳しい。
B産業別では製造業が一番雇用者数が減少。建設業は過剰雇用といわれているが公共投資の影響でやや増。サービス業が伸びているが、ここにきて止まっている。医療、ビルメンテナンス、警備、保健、福祉、学習塾、フイットネス、娯楽業等の分野が増加。
C失業増は構造的要因と景気後退要因の二種類があるが、7割が構造的要因である。景気が回復すれば3%台半ばになり安定する。構造的要因は70年以降年々増加しているが、高齢化と産業構造の変化に伴うものである。
D大手41社の雇用調整の動向は14万200人(従業員総数の12%)に及ぶが、採用抑制による自然減が大部分。表向きには指名解雇はない。しかし、下請けにはこの影響が出る。

<今後の見通し>

@雇用調整のピークは超えたと考えている。雇用調整実施事業所割合はバブル崩壊直後の41%から27%と14%減少、ここ1年でも34%から27%と7%減少している。内訳でも希望退職・解雇は1年前の5%から2%へと減少している。
A雇用の過剰感は93年から増加傾向にあり、97年以降30%を超えているが、ここに来て2期連続で改善し、水準は高いがピークは超えた。政府の経済対策・雇用対策の効果で明るい動きが出ている。
B一方で雇用の方が半年から1年は景気の回復より遅れるので、大企業を中心としたリストラの実施計画もあり、依然として厳しい見方をしておく必要がある。
C政府全体で構造改革をしなければならないし、景気・雇用の改善に引き続き取り組む必要がある。

<当面の対応策>

@経済のプラス成長に雇用の立場からも取り組む必要。緊急経済対策として政府全体で100万人の雇用創出を目指す。雇用対策だけで5000億円の補正予算化。
A緊急雇用対策として雇用機会の創出を最大の柱とし、その中でも中高年の非自発的失業者と学卒未就業者に重点を置いている。
B新規創業による雇用機会の増大が基本であるが、時間がかかる。国が臨時応急に民間の雇用創出を支援し地方公共団体も取り組む。
C雇用の開発として「中小企業労働力確保法」による創業・異業種進出の中小企業で雇用する際の助成で雇用創出は6〜7万人になる。
D雇用の維持・安定としては「雇用調整助成金」(休業・教育訓練・出向への賃金を助成。20万人が対象)「人材移動特別助成金」は5万人分予算を用意したが、日本の労働移動はグループ内でしかなされないため5000人の利用しかない。
E労働力需要のマッチング強化については民間の活用を12月1日から、かなり自由化する。「特定求職者雇用開発助成金」の対象年齢を45歳以上55歳未満にまで引き下げた。
F能力開発については「職業能力開発支援事業」(能力開発をする場合、雇用手当の給付期間を延長。3万人が民間の各種学校、専修学校で訓練)「教育訓練給付制度(教育訓練費の20万円・8割を限度に助成)
G労働力人口の推移は2005年をピークに2010年には120万人減少が見込まれるが、高齢者・女性が就労すれば30万人程度の減少ですむ。ただし、年齢構成が大きく変わる。15〜29歳は2010年には400万人減少。55歳以上は380万人増加。
このような環境変化を前提に「第9次雇用対策基本計画」により対策をはかる。
2010年頃の完全失業率は3%台後半から4%前半と見込まれる。そのためには2%程度の成長が前提となる。

<問題点と課題>

@雇用保険の積立金が12年でなくなってしまう。雇用保険の給付と負担の両方を見直す必要がある。今の失業率の状況では現在の負担100分の8を労使で折半(平均賃金で1ヶ月の掛け金1600円)では2〜3年先には給付出来なくなってしまう。また重点的な給付をすることを考えざるを得ない。雇用保険の制度改正は大きな課題。能力開発・就職促進的な制度を改革を検討したい。
A介護の分野で資格を持っている人の就労がなかなかマッチングしない。ニーズが高まる中で介護関係の雇用創出のための法改正の検討が必要。
Bワークシェアリングについては日本の場合、労使の考え方に大きな隔たりがあって早期にには実現し得ない(労働側は時間短縮によって雇用機会を創出、使用者側は層人件費の抑制によって雇用を維持)。機は熟していないが究極の雇用対策はワークシェアリングではないかと個人的には考える。
C求人の年齢制限の緩和については法制度的には困難であるが、もう少し強められないかと考える。賃金・処遇制度の問題をどうするかが課題として残る。
D中高年の失業者に対する能力開発とマッチング機能を具体的にどうするのか、とりわけホワイトカラー・建設業種について、新たな分野への労働シフトをどのようにはかるかについては未だ充分な解明はできていない。

      プロジェクト猪発行「NEWS LETTER」第26号(1999.12.4)より