飽きる程に

 

 

 

 

 

 

 

 麗らかな午後の陽射しは眠気を誘う。それが窓際の席ともなれば尚更だ。ふわわわっと大きく欠伸をして、火神はグラウンドへと視線を投げる。

——…黒子じゃねぇか。

 どこかのクラスがサッカーをやっている。と思ったら、ゴールポストの近くに佇む見慣れた色彩。吹く風に淡い色の髪を揺らしているのは、黒子だ。あまりにもぼんやり突っ立っているので、あいついること忘れられてねぇかとくつくつ笑う。

 が。

「黒子ォ! テメエ、真面目にやれ!!」

 思わず窓を開けて叫んでしまった。黒子は時折、僅かに移動している。

 ボールや人を避けるように。

 あれは忘れられているのではない。クラスメイトたちの視界に捉えられないように、影を薄めているのだ。

「真面目にやるのはお前の方だ、火神ィ!!」

 気づいた瞬間叫んでいたものだから、こちらも授業中であることなどすっかり抜け落ちていた。教壇から英語教師のヒステリックな声が響いて来る。

「…ぁんのヤロウ…っ!」

 ウゼェ、と顔を顰めつつ再びグラウンドへと視線を向ければ、黒子が肩を震わせ笑っているのが見えて額に青筋が浮かぶ。

「どこに行く気だ! 授業中だぞ!」

『うっせぇな。偉そうなこと言うのは、オレより流暢に話せるようになってから言えよ。発音も全くなっちゃいねぇしよ。細けぇことばっか言ってっとハゲるぜ? それ以上ハゲたらヤバイんじゃねぇの?』

 ガタンッと椅子を鳴らして立ち上がれば金切り声が飛んで来るが、皮肉に笑うとヒアリングも碌にできないらしい頭でっかちの教師はうろうろと視線を泳がせて。

「よーし。あんニャロ、ぶっ殺す。」

 廊下に出た火神は凶悪に笑うと、グラウンドに向かって大股に歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

「か、火神くん…授業中ですよ?」

「今更、英文法なんざ必要ねぇよ。」

「それは確かにそうですね。」

 立ち上がった火神に慌てた黒子が逃げ出していたのも当然のこと。しかし、倉庫に隠れていたのを見つけ出し捕まえる。

「…どうして火神くんには見つかってしまうんですかね。」

「あ? そりゃあ…」

 ——愛の力だろ。

 見つからないと思ったのにと嘆息するのに飄々と言ってのければ、音がする勢いで顔を真っ赤にした黒子は暫し絶句して。

「………恥ずかしい人ですね、キミは。」

「好きなヤツに好きだっつーのの、何が恥ずかしいんだよ。」

「…火神くんはそういうところがアメリカ育ちですよね。」

 ボクは恥ずかしいですと返す黒子にくつくつと笑って、火神は赤い顔を上げさせると、薄い唇に己のそれを重ね合わせた。

 

 

 

 好きな時に好きと言う言葉を飽きる程に。