Happy birthday、と、耳に流し込まれる流麗な英語。

 寄せられる瞳に瞼を下ろせば、けれど唇が触れ合うより早く、鼻先がぶつかる。

 そうして結局、目測を誤ってしまったらしい唇は、うっすらと笑みを象る唇の端へ着地。堪えきれず笑ってしまう黒子の頭を、大きな手がギリギリと掴む。

 火神のキスは、存外、不器用だ。帰国子女と言うこともあり、てっきり慣れていると思い込んでいたから、初めての時は思わずぽかんとしてしまった程。

 それから既に何度か唇を交わしてはいるものの、依然、鼻キス率は高いまま。その度についつい笑ってしまう。

「笑うなっつってんだろ!」

 火神にしてみれば、その決まらなさは凹むものなのだろうが、悔しそうに恥かしそうに頭を抱える姿は、黒子から見れば可愛くて仕方がない。くすくす笑っているとすっかり拗ねた様子で、火神はクッションを抱え背を向けてしまった。そんな火神ににじり寄り、その顔を覗き込む。

「もうしてくれないんですか?」

「………バカにしてんだろ。」

「してませんよ。」

「笑ってんじゃねーかっ!!」

 キスをねだるも、覗き込む黒子の顔に浮かんだ笑みに、今度こそ完全に拗ねてしまったようだ。そんな火神の頬に、黒子はちゅ、と唇を押し当てる。

「すみません、あんまり可愛いもので、つい。でも、本当にバカにしている訳ではありませんよ?」

 ちらりと。横目に視線を寄越すその頬にもうひとつキスを。肩口に頬を寄せて、赤い瞳を至近距離で見つめる。

「むしろ、嬉しいですよ。慣れていないと言うことは、火神くんから積極的にしたことはないと言うことでしょう?」

 ——ファーストキスではなかったのは、少し悔しいところですけれど。

 言って微笑むと、黒子は火神身体を乗り越え、その懐に潜り込んで。

「ボク、火神くんのキス、好きなんです。だから、もっと沢山してください。」

 瞳を閉じ、温かな唇が己のそれに重なる瞬間を待った。

 

 

 

 そうして与えられるキスの、その不器用さが何よりも愛おしい——。

 

 

 

 

 

不器用なキス