昼間はまだ暑い程の日もあるとは言え、吹く風はもう秋の色。木陰にいれば肌寒さすら感じる程で、身体は自然と暖かなものを求める。

 それは解っているのだけれど。

「…ずるいですよ、2号。」

 腹が満たされ寝てしまったらしい火神の懐には仔犬。黒子が戻ったことに気づいた2号は尻尾を揺らしているが、火神の体温が心地良いのだろう、離れようとはしない。黒子は拗ねた顔で小さく口を尖らせる。

 ふたりと一匹、ここで食事を摂った後、本の返却期限を思い出して図書室へと向かったのだ。戻ってみればこの状態。しゃがみ込んで2号の頭を撫でてやりつつ、寄り添う体躯を羨ましく眺める。

 ここが例えば火神の家ならば、思い切って甘えてくっつくこともできる。けれど生憎、ここは学校、しかも中庭。誰に見られるか解らない場所で、そんなことができようはずもない。尖らせた唇から吐息が漏れる。

 と。

「オマエも寝ろ。」

 素早く動いた右手が頭を引き寄せ、胸に倒れ込む。危うく2号を潰すところだったが、素早く飛び退いた2号は軽く身体を伸ばすと、てててとどこかへ行ってしまう。

 少々力を入れてみたが、がっしりと頭を抱え込んだ腕はびくともしない。仕方なくそのまま、黒子は深く息を吐く。

「たぬきですか。」

「違ぇよ。さっき目ぇ覚めた。」

 先程の呟きも聞いていたのだろう、火神の口元はくっきりと弧を描いている。全くもって趣味が悪いと思うが、伝わってくる体温に、気持ちは柔らかく解けて行く。

「誰かに見られたらどうするんですか。」

「もう予鈴鳴るし、ヘーキだろ。」

「授業は?」

「サボる。」

 更にしっかりと抱き込まれれば、その心地良さから抜け出すことなどできなくて。

「赤点取っても知りませんからね。」

 黒子は火神の胸へと更に身体を擦り寄せた。

 

 そこは、彼だけの日溜まり。

 

 

 

 

 

 

 

日溜まり