「…火神くんって、ピアスするんですか?」

 それに気づいた時には、軽く目を見開いた。ベッドでふたり、微睡んでいた時のことだ。

 薄い耳たぶに空いた小さな穴。指先で耳たぶを摘むようにして触れれば、穴の周囲が僅かに盛り上がっているのを感じる。

「向こうじゃ、赤ん坊の時に空けちまうのがフツウなんだよ。」

「そうなんですか?」

「おう。空けてねぇと、何で空けてやってねぇんだって言われるんだと。」

 両親の仕事の関係で、幼い頃にアメリカに渡った火神。その耳にピアスホールなど勿論なく、近所の住人や両親の職場の人間たちにも散々言われたのだそうだ。

「………泣きませんでしたか?」

「そりゃ泣くだろ。大泣きだったらしいぜ。」

 両親もかなり迷ったそうだが、郷に入ってはと言うか、空けてやれと言い続ける周囲の声に負けたと言うか、だったのだと言う。

 しかし、火神は当時三歳程度。当然、大泣きであったらしい。

 幼い頃とは言え、大泣きする火神と言うのも、今の姿からは想像できない。くすくす笑うと、笑うなと髪をぐしゃぐしゃに掻き回される。

「でも、ピアスしてるところ、全然見ないですね。」

「こっち戻ってからはしなくなったな。学校とか煩ぇだろ。」

 だが、穴は空いているものの、火神がピアスをしているところなど、一度も見たことがない。言えば、日本に戻ってすぐの頃、当たり前のように着けて行ったら、教師に散々小言を言われたのだと。

 確かに、日本ではそういう点は何かと煩かろう。小言を喰らった時のことでも思い出しているのか、酷く苦々しく顔を歪める様には苦笑するしかない。

「じゃあもう、見れませんかね。」

「あ?」

「火神くんがピアスしてるところ。見てみたかったです。」

 きっと凄く格好良いだろう。そんなことを思って照れて、黒子は顔を枕に埋め隠す。

 すると、そんな黒子を構うでもなく、火神は何やらごそごそとベッドサイドを探り始めて。

「黒子。顔上げろ。」

「?」

 呼ばれてそろりと顔をずらし見上げると、火神の耳に赤いピアスが鈍く光るのが見えた。

「どうだよ?」

「…似合って、ます。」

「惚れ直したか?」

「っ! バカじゃないですか?」

 思わず惚けて見つめていると、火神がニヤリと笑みを浮かべ、黒子は再び枕に顔を埋める。

 が、きっと火神にはバレバレだろう。何せ、耳が酷く熱い。くつくつと喉の奥で笑う声が聞こえてくる。

「それ…ルビーですか?」

「いや、スピネル。」

「スピネル…?」

「大昔はルビーだと思われてたらしいぜ?」

 女の子じゃないのだから、宝石に詳しいはずもないが、聞いたことのない名だ。深い赤をじっと見つめていると、火神が似てるらしいぜと教えてくれる。

「詳しいですね…」

「おふくろが言ってたんだよ。」

 意外さにぱちりと目を瞬かせれば、照れ臭いのか気恥ずかしいのか、火神はふいと顔を背けたけれど。

「ラテン語で『棘』って意味だとか、ギリシア語で『閃光』って意味だとか言われてんだと。」

「閃光…」

 教えられた語源を噛み締めるように繰り返し、黒子はふわりと笑みを浮かべた。

「キミにぴったりですね。」

 

 

 

——彼は正しく、赤い閃光だ。

 

 

 

 

 

 

 

赤い閃光