世界中に知らしめる
カシャン…
「黒子ー。何か落ちたぞー?」
教室で得た話題だとか、前日のテレビの話だとか、雑談を交わしながら練習着に着替える。
黒子もまた、話しかけてくる声に応えたり、みんなの話に小さく笑ったり。
そうしながら、黒子は脱いだ制服を畳んでロッカーに入れていたのだけれど、その畳んでいる最中のズボンのポケットからぽろりと、中に入れていた物が滑り落ちた。近くのベンチに座っていた小金井がその音に気づき、僅かに床を転がったそれを拾い上げる。
「え? ありがとうございま、っっ!」
「あり? 何かこれ、どっかで見たような…?」
小金井の手のひらに乗せられたリング。振り返って焦るも、拾ってくれた先輩の手から奪い取るような真似もできない。そうする内に、他のみんなも何だ何だと集まって来る。
しかも。
「お、お店かどこかで見たんじゃないですか…?」
「んん〜…いや、もっと身近で見たような…」
「黒子テメエッ! 人がゴミ捨て行ってる間に、さっさと行きやがって!」
間の悪いことに、バンッとドアを開けて、火神が部室に入って来た。
いつもなら淡々と「じゃんけんに負けたの、火神くんでしょう」くらいのことは言えるのだけれど、今はそれどころじゃない。火神も言い返されるだろうことは予測していたのか、何も言わず青褪める黒子に、訝しげに片眉を上げる。
「あー、そうだ! 火神が着けてるのに似てるんだ!」
その火神の胸元で揺れるリングを認めた小金井が、指差し声を上げた。どうして火神が来てしまう前に、少し強引にでも取り戻しておかなかったのか。黒子は増々顔色を失う。
「そりゃ、揃いで買ったんだから、同じだろ。ですよ。」
そんな黒子と指された胸元と、それと小金井の手にある物に目を移した火神は溜息ひとつ。あっさりと言ってのけ、小金井の手から取ったリングを黒子に返す。
「あ、あの…」
「最初っから着けてりゃ、んな慌てることねぇんだよ。」
おろおろと見上げる黒子の髪を混ぜた火神は、無造作に荷物をロッカーへ放り込んで。
「揃いでって…その、オマエらって…?」
「つき合ってるぜ。です。」
堂々と返された言葉にぽかんとするみんなの前で、黒子は首まで真っ赤にして立ち尽くしていた。
「みんなにバレてしまいました…」
「別に隠すことじゃねぇだろ。」
練習後の帰り道。ぽてぽて歩きながらの呟きに返るのは、やはりあっさりとした言葉。隠したがる黒子に合わせてくれてはいたものの、何で隠す必要があるんだと言っていた火神であるから、寧ろバレてすっきりと言った様子だ。こちらは穴があったら入りたいくらい恥ずかしかったと言うのに。
おまけに、何故だか紙とペンを握り締めて瞳を輝かせたカントクに質問責めにされて、酷く疲れた。はあ、と息を吐くと、髪を混ぜた指が首筋へと滑り下りて来る。
「明日からはちゃんと着けて来いよ。」
「いやですよ。学校中にバラす気ですか。」
「おう。」
指先が引き出すのは、もうバレたんだからいいだろと着けさせられたチェーン。眉を顰める黒子に対し、火神は楽しそうに笑って顔を寄せる。
そうしてチェーンの先に下げられたリングに、ちゅ、と口づけてみせて。
「今すぐ、世界中に言って回りたいくらいだぜ? オマエはオレのもんだってな。」
「…やめてください。恥ずかしさで死ねます…」
ボクを殺す気ですかとぼやきつつ、そのまま寄せられる唇に、黒子は静かに瞼を下ろした。
本当はボクだって、世界中に知らしめたい。
ボクがどれだけ、キミを好きかと言うことを。