人はきっと、それを運命と呼ぶ

 

 

 

 

 

 

 

「火神くんは、どうして誠凛を選んだんですか?」

 シェイクを啜りながら投げられた問いに、火神は暫し思考を巡らせる。

 とは言っても、思い出せる理由なんて、近かったから、ただそれだけだ。

 中学ではレベルの低さにバスケから一旦離れてしまったし、高校ならもうちょっと強ぇ奴らにも出会えるかと思い、身体を訛らせる訳にもいかないしと入部したけれど、どこが強いだとか誠凛のレベルだとか、そんなものは全く知らなかった。

 だから、何故と問われれば、近かったからとしか答えようがない。

「…オマエはどうなんだよ?」

 しかし、それをそのまま告げては呆れられそうで、質問をそのまま投げ返す。どうやらあっさりバレたらしく、結局は嘆息されてしまったけれど。

「ボクは一度だけ、先輩たちの試合を見たことがあります。」

 勝つことが当たり前だった中学時代。既に近隣の中学では練習にはならず、また、敬遠されていたこともあって、近くの高校相手に練習をしていた。その高校で観た練習試合、その時の相手が誠凛だったのだと黒子は言う。

「帝光の相手をしていたくらいですから、その高校は決して弱くはなかったです。けど、先輩たちは喰らいついて…何より、凄く楽しそうでした。」

 

『火神くんは、バスケを嫌いになったことはありますか?』

 

 一度はバスケを嫌いになったと言った先輩たちの言葉を受けて投げられた問い。憂いた瞳で、黒子は「ある」と言っていた。

「…以前、話しましたね。ボクのいた中学は『勝つことが全て』だったと。」

「あぁ。」

「確かに、負ければ悔しいですし、ボクだって勝ちたいです。だけど、勝つ為だけのバスケに楽しさはなかったし、勝った時の喜びさえなかった。」

 日本のレベルに失望はしても、バスケを嫌いになったことなどない自分は、恐らくとても幸せなのだろう。どこか遠くへ視線を投げる黒子を見ながら、火神は思う。楽しさのないバスケなど、想像さえつかない。

「勝つことだけを求めたらそうなってしまうのだろうかと思ってました。だけど先輩たちは勝利を求めながらも楽しそうで…この人たちとなら、欠落していた『何か』を見つけられる気がしたんです。」

 試合に勝った時、控えめに微笑む顔を思い出す。

 思い切り喜ぶこと、喜んで思い切り笑うこと。そういうこともきっと、黒子が中学時代に取り落としてきた『何か』だ。

「その『何か』はまだはっきりとは解りません。でも今はとても楽しくて充実しています。何より、火神くんと出逢えました。」

 手を伸ばして髪を混ぜれば、黒子はくすぐったそうに首を竦めて。

 誠凛を選んで良かったです、と。言って微笑む様子に、火神もそうだなと口角を吊り上げた。

 

 

 

 

 

 影が光に、光が影に出逢ったこと。

 それはきっと、偶然なんかじゃない。