新しい季節
喜びと、ほんの少しの淋しさが綯い交ぜになった春の初め。ここ、私立誠凛高校でも、一般入試の合格発表が行われている。
あちらこちらから上がる歓声。友人同士、手を取り合い、肩を叩き合って喜ぶ受験生たち。
その人垣の間をするりするりと通り抜けた黒子は、親に合否の連絡を入れると、パタンと携帯を閉じる。
と。
「ねぇ見て、あの人。」
「うわっ、背たっか!」
ふと、近くにいた女の子たちの声が耳に入り振り返る。
然して何の感慨もなさそうな様子で掲示板を眺める学生。190はあるだろうか、目を引く赤い髪は完全に人垣から飛び抜けている。
その横顔を暫し眺め、黒子はマフラーを巻き直しながら踵を返す。春とは言えど、風はまだ少し冷たい。
「また、四月に。」
マフラーに埋められた口元から零れた言葉は、向けられた当人には勿論、誰にも届かないまま。
入学式も済み、上級生たちの部活勧誘の波を潜り抜けて目的の場所へと向かう。
先客一名。覚えのあるその横顔と髪の色に、思わず口元が弛む。
見つけた——あの時、そう感じたのだ。強い光。自分は彼の影となるのだと。
説明している先輩の手元から用紙を引き寄せ、必要事項を記入する。
置いて離れる前にちらりと見やれば、名前が見えた。
「火神大我くん、ですか。」
反芻し呟く声を聞く者はいない。
黒子は空を見上げると、眩しい青に目を眇めた。
——さあ。新しい季節が始まる。