心を満たす幸福を
お正月の浮かれ気分も徐々に落ち着いて、一月行く月、いつの間にか、けれど確実に時間が流れていたことに気づく一月の終わり。そんな一月も最終日に、黒子は誕生日を迎える。
気づかぬ間に過ぎていた日々に慌てる心からは、つい抜け落ちてしまうのだろう、黒子の誕生日は忘れられ勝ち。それでも、朝には黄瀬からメールが届いたし、桃井からは昨日の内にカードとプレゼントが送られて来た。
プレゼントが欲しいだの祝って欲しいだのとは特別思わなくとも、こうして祝われればやはり嬉しい。黒子は良い気分でシェイクを吸い上げる。
今日は日曜で、一日中練習。練習は倒れそうな程にキツくとも——実際、二度程倒れて主将に怒鳴られたが、大好きなバスケを好きな人と一日中一緒にできると思えば、それもまた幸せなこと。
思いつつ、窓の外を見下ろしていると、漸く商品が揃ったらしい火神が正面の席に腰を下ろす。
「………やる。」
テーブルに乗せられたトレーには、山盛りのバーガー。いつも通り。
けれど、そのバーガーの山の裾から、常にはない物が現れる。
「今日、誕生日だっつってたろ。」
黒子の前に置かれたそれは、デザートメニューの中のミニケーキ。ぱちくりと目を瞬かせ見ていると、ぶっきらぼうな声が頭上から降って来る。
明後日な方向に投げられたまま戻らない視線。じわじわと色を濃くして行く、赤く染まった耳。再びケーキに視線を落とした黒子の唇が、ゆるゆると笑みを形作る。
朝には黄瀬からのメールが携帯を鳴らした。間に合うようにと送られたのだろう桃井からのカードとプレゼントは、昨日の内に届いた。それらはもちろん、とても嬉しかったけれど、おめでとうもないぶっきらぼうな言葉と、この小さなケーキが比べ物にならない程に嬉しい。二人には胸の裡で謝罪して、黒子はプラスチックのスプーンを口へ運ぶ。
「美味しいです。」
「…そうかよ。」
ゆっくりと味わい告げた言葉にも、やはり素っ気ない声しか返らなかったけれど。
心を満たす幸福を、ケーキの優しい甘さと共に噛み締めた。