質より愛情
恋人がチョコレートを嫌いではないと知ったのは、間の抜けたことにバレンタインの前日だった。それも、当日は日曜だからと、女の子たちがチョコを渡しに来た時に、だ。
その風貌から、何となく甘い物は好まないと思い込んでいたから、貰ったチョコでいつものように頬袋を膨らませているのを見た時には、かなり驚いた。訊けば、甘い物だってフツウに食べるし、特にチョコレートは、アメリカにいた頃よく食べていたこともあって、好物なのだそうだ。
知らなかった。帰り道、急いでチョコを買いに行く。
どうにか用意できたそれにほっとして。黒子は冷蔵庫のドアを閉めたのだった。
「どうぞ。ハッピーバレンタインです。」
「サンキュ。もしかして、手作りか?」
「溶かして固めただけですよ。」
手作りにしたことに、特に意味などない。ただ、いくらミスディレクションが使えるとは言え、女の子たちで溢れ返るチョコレート売り場に足を踏み入れることができなかっただけだ。
それに、手作りと言っても、溶かしたチョコに刻んだナッツを加え固めただけのこと。前日、一部の女子が彼に渡していた手作りのケーキなどとは比べようもない。時間がなかったので仕方ないとは言え、来年はもう少し手をかけたものを贈りたいと思う。
と。
「…オマエ、もしかして妬いてんのか?」
もごもごとチョコを頬張っていた火神が面白そうに目を細めて。それとは逆に、黒子は軽く目を見開く。
「………え…?」
「妬いてるっつーか…昨日のチョコに負けてるみたいで悔しいって聞こえるぜ?」
手作りにしたことに、特に意味などなかった。ただ、いくら目立たないとは言え、女の子たちでごった返すチョコレート売り場に足を踏み入れることができなかっただけで。
しかしそれだけならば、手作りにする理由にはならないかもしれない。だって、材料を買いに行ったスーパーにだって、バレンタイン用のチョコは売ってあったのだから。(そしてその時、そこにはほとんど人はいなかった)
なのに、夜中までかかって手作りにしたのも、今年は時間が足りなかったけれど、次はもっと手の込んだ物を贈りたいと思うのも、全ては、女の子たちの彼を想う気持ちに負けたくないから…?
「ちっ、違いますっ!!」
カッと、顔に一気に熱が上るのが解る。そんなことは思っていないと必死に否定するも、火神はニヤニヤと笑うばかり。増々血が上って、耳まで熱い。
「ま、オレはオマエがくれるもんなら、どんなのだっていいけどな。」
質より形より愛情。真っ赤になった黒子を抱き込んで笑う火神には、黒子がどれだけ火神を想っているのか、すっかりバレている様子で。
これ以上は赤くなりようもない顔を、黒子はぐりぐりと火神の胸に押し付けた。
「……じゃあ、来年からは、袋入りお徳用チョコにします。」
「いや、それはさすがにちょっと…」