「火神くん、重いです。」
「このくらい耐えられねぇとか、鍛え方が足りねぇんじゃねーの?」
「…耐えられないとは言ってません。」
本を読む背中に寄りかかると、すぐさま苦情が飛んでくる。
が、負けず嫌いな彼は、こういう言い方をされると、ムッとした口調で文句を引っ込めるのだ。
そんな彼に気づかれぬよう口元だけで笑って、火神は体重をかけすぎないよう注意しながら凭れかかる。
小さな背中だ。
いつだって支えてくれたこの背中に、寄りかかってばかりはいられないと一人で立ったつもりでいたのに、時折どうしようもなく甘えたくなってしまう。
そんな自分に、自分はまだまだなのだと思い知らされるようで、つい溜息。
と。
「っ、うおっ?!」
凭れていた背中が突然消えた。全体重を預けていた訳ではないとは言え、重心を後ろに置いていた為、バランスを崩してひっくり返る。
が、その頭を受け止めたのは、硬い床ではなく、程よい弾力。衝撃に備え閉じていた瞳を開けば、黒子がどこか悪戯な笑みを浮かべて見下ろしている。
「…読み終わったのか?」
「いいえ。でも、折角火神くんが甘えてくれているので、本を読むのは後にしようかと。」
「っ、別に甘えてる訳じゃ…!」
「違うんですか?」
慌てて起こした頭は、額に置かれた手のひらに膝へと戻される。
甘えを見抜かれたのが情けなくて、ぐうと喉の奥を鳴らすも、黒子は柔らかな笑みを刷いたまま、ゆるゆると火神の額から目元へと手を滑らせる。
「ボクは嬉しいですよ。火神くんはいつも一人で立とうとしますから。甘えて寄りかかってくれるのは嬉しいです。」
少し体温の低い、冷たい手のひら。眠りを誘うようなその動きに、次第に瞼が重くなる。
「一人でなんて、立ってねぇよ。いつも、オマエが支えてくれてんだろ…」
いつだって支えられている。
だから、ちゃんと一人で立とうと、もっと強くなりたいと思うのに、黒子はますます笑みを深める。
「甘えることが必ずしも弱いことだとは思いません。支え合うことでこそ強くなれると言うことは、火神くんだって知っているでしょう?」
その言葉に、ふっと力が抜けた。
そうだ。一人では届かない高みにも、黒子の支えがあったからこそ、手が届いた。
「キミが支えを必要としない程強くなってしまったら、逆にボクは悲しいです。ボクは、キミを支える影でいたいですから。」
だからボクには甘えてください、と。耳を撫でる柔らかな声音に、火神は素直に瞳を閉じた。
支え合うことでこそ強くなれる