「…火神くん?」

 カバンはあるのに朝練にも授業にも出て来ない火神を探して歩いていたら、屋上で漸く、仰向けに横になっている彼を見つけた。

 が、目元を片腕で覆う彼の様子はどこかおかしい。そっと声をかけるも、ぴくりと指先が揺れただけ。

 週末には決勝リーグだと言うのに、どうしたのだろうか。何かあったのかと声をかけることすら憚れるような空気に、黒子は黙って隣に腰を下ろす。

 と。

「…オマエ、何でオレの影になるなんて言った?」

「え?」

「………青峰ってヤツに会ったぜ。」

「?!」

「オレの光は淡すぎるってよ。」

 らしくもない、暗い声。そうしてその口から零れた名に目を見開く。

 知らない場所で行われた1on1。彼ひとりで戦うことなどさせたくはなかったのに。傍若無人なかつての光の行動に唇を噛み締める。

「オマエも言ってたよな。影は光が強い程、濃くなるって。」

「それは…」

「オマエが不憫だって言ってたぜ。」

「そんなこと、っ!」

 くっと歪んだ唇から自嘲が溢れる。そんなことはないと頭を振るも、目元を覆ったままの火神には見えず、歪んだ笑いだけが風に流れて行く。

「オマエも、もっと強い光がいいんじゃねぇの?」

「違います!」

 くつくつと響く嘲笑が哀しくて、止めたくて。投げ出されたままのもう一方の手を、黒子は両手で強く握り締める。

「確かに…光が強ければ強い程、影は濃くなると言いました。だけど、激しすぎる光は、影をも消し去ってしまう。白く霞んで、何も見えなくなるんです。」

 影も、誰のことも必要としなくなった、傲慢な光。そんな光を求めることはない。

「それに、火神くんの光は、決して淡くなんかありません。ボクは、火神くんの強くて、優しくて、温かい光と寄り添っていたい。ボクは、火神くんの影で在りたい。」

 祈るように頬に押し当てた指先がゆるりと肌を撫でる。

「…いいのかよ。」

 瞼を開けば、漸く覗いた瞳はまだほんの少し揺れていたけれど。

「ボクは、キミと言う光を、彼に負けない程強く際立たせる為に存在するんです。」

 黒子は柔らかく笑みを浮かべると、火神の手に愛しげに頬を擦り寄せた。