星の輝く夜空で、火神はきょろきょろと辺りを見回す。
これだけ沢山の星が瞬いていると言うのに、月の姿が見当たらない。火神は長い尾を翻し、星々の間を縫うように翔、月を探す。
真っ赤な鱗に覆われた長い胴。枝分かれした立派な角に、鋭い牙を持つ大きな口。火神は名の通り、火を司る龍神だ。
その火神は今、ぐるぐると喉の奥を鳴らしながら、月を探している。その掌中に収める為に。
けれど、隠れることを得意とする月を捕まえることは、なかなかできない。
包むような優しい光を放つ、気高きその存在に惹かれた。柔らかな光を、微笑を、自分だけのものにしたいと切に想う。
「黒子、っ!」
月を欲する者は多い。
その誰にも渡したくなくて。火神は漸く見つけた月に必死に腕を伸ばした。
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目に映るのは、輝く数多の星ではなく、見慣れた自室の天井。ぼんやりと、今まで見ていた夢を辿り、火神は大きく息を吐く。
あんな夢を見たのは、恐らく、昨晩聞いた月と龍の物語の所為。龍は月を手にすることができたんだったっけかと、話半分に聞いていたそれを思い返しながら寝返りを打つ。
そこには、穏やかな寝息を零す恋人の寝顔。その頬をゆるりと撫で、火神は思考を放棄する。
物語の龍が月を手に入れることができたのかどうか。夢の中の龍が月を捉えることができたのかどうか。そんなことは、どうでも良い。
己の月は、この腕の中に在るのだから。
窓からの月明かりに照らされて眠る恋人を大事に抱え直して、火神は再び夢の淵へと沈んで行った。
夢の淵には、月を腕に抱き、ゆるり横たわる紅い龍と、その身に凭れ、幸せそうに微笑む月が。
月と龍