ノンアルコールで酔っぱらう

 

 

 

 

 

 

 

「なぁなぁ、みんなで花火しよー!」

 休憩中、突然、小金井が発した提案に、汗を拭い水分を補給していたバスケ部の面々は、皆一様にぽかんとした表情を浮かべる。

「何なの、急に。」

「水戸部んちに、花火いっぱいあるんだって。」

 何でも、水戸部には小さい兄弟がいるのだが、祖父母らが沢山買ってくれたのだけれど、弟妹たちは既に飽きてしまったらしい。それをみんなでやろうと言うのだ。楽しそうである。

「でも、どこでやる?」

「…学校?」

「や、それはマズくね? つか、夜は閉まってるだろ。」

「公園とか河原とかも、最近は近くの住人が煩いしねぇ…」

「ちゃんと後始末すればいいんじゃねぇの?」

 しかし、問題はどこでするかと言うことで、みんな頭を突き合わせて考え込んでいたのだけれど。

「あの…」

 いい所を知っているとの黒子の申し出に、そこに案内してもらうことで決定した。

 

 

 

 

 

 

 

「で、何でうちだよ。」

「火神くんのお家の庭が広かったのを思い出したので。」

 大量の花火とお菓子を抱えて訪れた面々に、ドアを開けた火神は頭痛を覚えて額を押さえる。

 トイレに行っている間に、みんなで花火をしようと言う話になったことは聞いていた。ただ、夕方伺いますからと黒子が行ったのは、てっきり一緒に河原かどこかへ行くものだと思っていたのだ。知らぬ間に自宅が場所として提供されているとは思ってもみなかった。

 項垂れたものの、お願いしますと上目に頼まれたら断れない。溜息ひとつ、せめて先に言っとけと小突いて庭へと向かう。

「えーと、火神。オマエんちの親、何してる人?」

「あ? 普通のリーマンだぜ? です。」

 普通のリーマンはこんなデカイ庭のある家には住まねぇよ。と、庭に案内された全員が思った。(黒子を除く)

 バスケットコートひとつ、とまでは言わないが、ハーフコートくらいは余裕で入るんじゃなかろうか。さすがは帰国子女、などと、意味不明なことを考えてみる。

 そして。

「黒子。皿とかグラスとか出して来て。」

「はい。」

 庭ばかりか、家の中まで知り尽くしているらしい黒子を、皆、生暖かい笑みを浮かべて見送った。

 

 

 

「ぎゃあぁぁっ!! こっち向けるなーっ!!」

「あちっ! あちっ!」

「パラシュート取れなかった人は、罰ゲームねー!」

「水戸部ー! 水戸部ー! オレの分も取ってー!」

「ズルすんな、小金井!!」

 いつもは静かな夜の庭も、今日は酷く賑々しい。バチバチと音を立てて明るく燃える花火。それを両手に持ち振り回す者、逃げ惑う者。そうして、パラシュート花火を手にしたカントクが言い出した言葉に、罰ゲームは嫌だと、皆パラシュートを追って庭を駆け回り飛び回る。

「オマエ、座ってていいのか?」

「木にひとつ引っかかりましたから。」

 騒ぎ過ぎて喉が渇いたとテラスへ向かうと、黒子が腰を下ろしてウーロン茶を飲んでいる。

 みんな、カントクの考える罰ゲームに兢々としてパラシュートを追っているのに、のんびりしていていいのかと思うも、バレる心配はないなどと言う。

 パラシュートは全部で十コ、部員はカントクを除いて十二人。木にひとつ引っかかったので、自分が持っていなくとも、必ず後二人は取れない人が出るのでバレない、だなんて。それはちょっとズルイだろう。

 ジュースを一気に飲み干すと、火神は黒子の腕を掴んでテラスを下りる。

「カントク! コイツ、罰ゲーム!」

「なっ?! 火神くん!」

 背中で慌てふためく声が上がる。こんな黒子は珍しい。くつくつ笑いながら、首を傾げるみんなに、木の上にひとつ引っかかっているのだと告げる。

「ボクが見つけたんですから、あれがボクのです!」

「持ってねぇんだから、アウトだろ。」

「そーだそーだ!」

「ズリーぞ、黒子!」

「じゃあ、ズルしようとした黒子くんの罰ゲームは、特別なものにしないとねー。」

 ニヤリと笑えば、同調して囃し立てる声。うきうきとしたカントクに、黒子は怯えたような困ったような顔で「うぅ…」と唸る。

「黒子くんにはー………みんなの前で、火神くんにキスしてもらいましょうか!」

「なっ、っ?!」

「おぉ。」

 告げられた罰ゲームは火神にはとてもオイシイものだったけれど、真っ赤になった黒子はわなわなと震えて。

「っ! みんな、酔ってるんですか?!」

 叫ぶ黒子に、みんなで腹を抱えて笑い転げた。

 

 楽しさに酔うのも、いいものだ。