お支払いはキスで
傷めた足のことが少し気になるから専門の病院で検査して来いと、カントクの親父さんの知り合いがやっていると言う病院に放り込まれた。
言っても大人しくしないからベッドに括りつけておいてくれとのカントクの言葉に医者は笑っていたが、幸い夏休みもまだ残っているし、その間は治療に専念するようにと入院決定。そこまでしなくとも、と抵抗してみたが、医者の言うことは素直に聞きなさいと、笑顔で却下された。
笑顔だったが、目は全く笑っていなかった。その恐ろしさはさすがカントクの知り合いだと思わされる。
「あー…」
そうして病室に軟禁されて早三日。火神は既に限界を感じていた。
痛みはないのにバスケは禁止。何度かこっそり抜け出そうとしたが尽く見つかってしまい、どうやらベッドに括りつけられたいらしいですねと、拘束バンドを手に微笑まれた。
入院生活はツライ。こんな時間から寝れるかと思う程、消灯時間は早く、おまけに、
「…腹減った…」
食事の量が少ない為、腹が減り過ぎて、とてもじゃないが眠れやしない。
「マジバのバーガー喰いてぇ……今なら五十個はいける。」
「それはさすがに食べ過ぎですよ。」
「?!!」
空腹が過ぎて吐き気を催してきた。枕に顔を埋め呟いたら、返るはずのない言葉が返ってぎょっとする。
見れば、病室の入り口に人影。看護士とは違うそのシルエットに、火神はぽかんと目を見開く。
「オマエ…何で…」
「お見舞いです。きっと病院食では物足りない思いをしているんじゃないかと思って。」
「じゃなくて!」
思った通りでしたと黒子は笑うが、火神が言っているのはそういうことではない。消灯時間をも過ぎている今、面会など許されるはずがないのだ。
しかし。
「人の視界から逃れるのは得意ですから。」
さらりと宣う黒子の表情は相変わらずで。さすがと言って良いものか迷いつつ、火神はかくりと頭を垂れた。
「内科系疾患ではないので、食事制限はないですよね。」
「…おおっ! サンキュー!」
がしかし、どさりとベッドに下ろされた袋に目を輝かせる。
漂うソースの香り。取り出したそれを早速口一杯に頬張る。
「五十個はないですけどね。」
「いや、十分。」
「おかげで、欲しかった本が買えなくなってしまいました。」
別にしてあった袋はバニラシェイクであったらしい。それを吸い上げながらの黒子の言葉に手を止め、口腔内のバーガーをごくんと飲み込む。
「なので、代金を支払ってください。」
けれど跋の悪い顔を向けた先では、珍しく悪戯っぽく笑みを浮かべた黒子がちょんちょんと唇を指して。
火神はハハッと笑うと、黒子を引き寄せ唇を合わせた。
「Of course be pleased.」