おあずけです

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、こう暑いと、食欲出ねぇよなー。」

「……それだけ食べられるなら、十分だと思いますが…」

 気温が高くなってくると、どうしても食欲は衰えがち。しかし、トレーに積み上げられたバーガーを見て、一体誰が、今日の彼は食欲がないなどと思うだろうか。いや寧ろ、この暑いのに随分食欲旺盛だなと思われることだろう。

 だが、そのバーガーの山も、いつもの半分程度の高さしかない辺り、本当に食欲が落ちているらしい。心配ないとは思うが(いつもの半分とは言え、普通の人が一人で食べる量ではないのだし)、やはり少々気にかかる。暑い時こそしっかり食べておかないとダメですよと言えば、テメエが言うなと丸めた包み紙が額に飛んで来る。

「オマエ、普段からあんま喰わねぇだろ。まさか朝抜いたりとかしてねぇだろうな? ただでさえ体力ねぇのに、ぶっ倒れるぞ。」

「ちゃんと食べてますよ。大丈夫です。」

 床に落ちた包み紙を彼のトレーに戻し、ホラこの通り、と、ちょっと戯けて力こぶを作ってみせると、だからねーよ、と丸めた包み紙が再び、今度は苦笑と共に。

「あと、暑いからって、冷たいものばかり摂っていてはダメですよ。」

「それもオマエだっつの。」

 それもまた戻し、シェイクを啜りながら言えば、今度は中身が入ったままの包みが飛んで来て。

 喰っとけと渡されたそれに、黒子はぱくりと齧りついた。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな遣り取りから数日後、火神が夏バテでダウンした。先輩たちや他の一年生たちは「あの火神が…?!」と目を丸くしていたが、黒子は腰に手を当てて、冷たく火神を見下ろしている。

「ボク、言いましたよね? 暑い時こそしっかり食べないとダメだって。」

「……おう…」

「それでどうして倒れるんですかね?」

「………」

 火神は目を合わせない。そんな様子に大仰に溜息を吐いて、黒子はベッドの端に腰を下ろす。

「心配したんですよ?」

「…悪ぃ。」

 確かに、先輩たちの言う通り、バテてダウンしている火神なんて、かなり貴重だろう。だけど、そんな『いつにない姿』なんて、見なくていい。見たくなんかない。黒子は短い前髪を梳くように、火神の額に指を滑らせる。

「早く元気になってください。」

「………そこはキスしてくれるとこじゃねぇの?」

 すれば、先程までのしおらしさはどこへやら。火神はニヤリとした笑みを浮かべて。

「…そんなこと言う元気があれば大丈夫ですね。」

「いてっ!!」

 黒子はべちっと、形の良い額を打った。

 

 

 

 いつものキミに戻るまで、キスはおあずけです。