Trick & treat

 

 

 

 

 

 

 

 空気も随分と冷たくなり、高く感じる空はもうすっかり秋の色。はらはらと散る木々の葉は人の心を淋しくさせる。

 そんな、どこか物淋しさを感じさせる秋の日々。しかし誠凛高校の学内では、生徒たちが楽しそうに賑やかな声を上げている。

 特に、試験期間の終了した今は、賑やかを通り越して少々騒々しい。辛い試験期間が過ぎて当然と言えば当然だが、それともうひとつ。この後には楽しい学園祭が控えているからである。

 誠凛高校の学園祭は、十一月の一・二・三の三日間。そしてその前日、十月三十一日はハローウィン。

 その日には、ハローウィン・パーティと称した前夜祭が行われるのである。

 

 

 

 

 

 

 

「火神くん?」

 その、ハロウィーン・パーティ当日。部室で仮装を終えた黒子を目にし、火神は内心激しく身悶えていた。

 黒い上下、首には赤いリボン。そのリボンには鈴があしらわれており、ちりんちりんと音を立てる。

 頭にひょっこりと生えた黒い三角の耳。腰では長い尻尾が揺れている。

 堪らなく可愛い。今すぐ連れて帰って思いっきり抱きしめたい。

 そんな煩悩を払うべく、近くの壁に思い切り頭を打ち付ける。

「かっ、火神くん?!」

「あー…何でもねぇ。」

「でも、血が…!」

 びっくりして駆け寄る黒子に何でもないと手を振ってはみたものの、強く打ちつけすぎた所為で血が滲んでしまったらしい。道理で予想以上に痛いはずだと思いつつ、屈めと言う黒子に素直に従い、顔を差し出す。

「血を飲むヴァンパイアが、血を流してどうするんですか。」

 額の血を拭ってくれながらくすくすと笑う、その目を細める表情がまた、今の格好に合っていて、堪らず腰を抱き寄せる。

「火神くん?」

「………」

「っ! 本当に噛み付かないでください…」

 きょとんとしている黒子の首筋に軽く歯を立てれば、さすがにびくりと肩が跳ねた。しかし、思い切り喰らい付きたい衝動は治まらない。そのまま甘噛みを繰り返す。

「あんまり、そういうことしないでください。心臓が持ちません。」

 すれば、両腕を首に回し、きゅっとしがみついた黒子は甘い吐息を零して。

「いつもと違うから…ドキドキしてしょうがないんですから。」

 髪の隙間から覘く耳がほんのり染まっていることに気づいた火神は、そこに唇を寄せ低く囁いた。

「Trick & treat?」

 

 

 

 ——甘い戯れと甘いキミをちょうだい?