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「ほらほら、ガキは退けよ。」

 少し昔に比べれば、最近では日本にもストリートコートが随分増えた。

 とは言っても、それほどあちこちにあると言う訳でもなくて、そこで顔を合わせた者同士一緒にプレイしたり、順番に譲り合って使ったりしている。

 学校からの帰り道近くにあるここでもいつもそんな感じで、火神と黒子も、他の人たちとコートを分け合って自主練に勤しんでいた。

 しかし、無法者とでも言うべきか、皆がそうして互いに気持ち良く使えるようにと心がけているルールを無視する輩もいる。中学生を押しのけて入って来たのは大学生か。火神などは「ぁあ?!」と既に臨戦態勢で、黒子も不快に眉根を寄せる。

「テメエらのもんかよ。」

「オレらが使うんだから、テメエらが退くのは当然だろ。」

 体格も良く野生動物的な迫力のある火神に対しても、怯む様子は全くない。随分と己に自信を持っているのだろう、自分たちの言い分は通るのが当然と言った態度だ。

「火神くん、喧嘩は良くないですよ。」

「あ?! だったら、このバカ共の言う通りにするってのかよ!?」

「そうは言ってません。バスケで決着をつけようと言ってるんです。」

 今にも喧嘩に発展しそうな両者の間に割って入る。

 火神はバスケが絡むと一層、頭に血が昇り易い。そういうところは嫌いではないが、喧嘩して出場停止なんてことになっては困る。

 静かに諭せば少しは頭も冷えたか、火神は片眉を上げるとすぐにニヤリと笑みを浮かべる。

「3on3で勝負しましょう。そちらが勝てたら、コートを譲ります。こちらが勝ったら、順番を守ってください。」

「…それだけじゃ足りねぇな。おれらが勝ったら、お前らふたり、パシリになれよ。」

 いることに気づいていなかったらしく驚いている大学生たちに向き直り提案すれば、自分たちが負けるなどとは微塵も思っていない彼らは、勝った場合の条件を上乗せしてきて。

「いいですよ。」

 けれど黒子はあっさりと承諾し、火神も不敵に笑みを深めた。

 

 

 

 さてしかし。

 

 

「困りましたね。」

 3on3と言うことは、あと一人誰かに入ってもらわないとならないのだが、皆萎縮してしまっていて、不自然に目を逸らしている。

 火神は「もう2対3でいいじゃねぇか」なんて言っているけれど、そういう訳にも行くまい。大学生たちも早くしろとせっついている。

「くーろこっちー!」

「………また良いタイミングで現れやがったな。」

「有り難いタイミングではありますね。」

 今から誰かを呼び出す訳にもいかないし、と思っていたら、フェンスの向こうから黄瀬がぶんぶんと両手を振っていて。

「3on3? いいスよ。」

 手招いて中に呼び寄せると、黄瀬を加えてコートに立った。

 

 

 

「「「なっ!!?」」」

 黒子が見る限り、大学生の方もなかなかの実力のようだが、火神と黄瀬に敵うはずもない。圧倒的な実力を見せつけられて愕然としている。

 その二人の力を一層際立たせるのが、黒子のパスだ。それをきちんと理解しているから、火神と黄瀬は互いにガツッと腕をぶつけ合うと、その後必ず、黒子の髪をくしゃくしゃと掻き混ぜる。

「やめてくださいってば。」

 口を尖らせてその手を払う黒子を見ても、二人は楽しそうに笑うだけ。

 そんな和やかムードに、劣勢な大学生たちが苛立つのも、当然と言えば当然のこと。

 そうして。

 

 ガッ!!

 

「黒子!」

「黒子っち!!」

 その苛立ちを、ラフなプレイで黒子へとぶつけてきた。

「痛…」

「お。悪ぃ悪ぃ。」

 こめかみの辺りに思い切り肘が入った所為で、くらりと脳が揺れる。

 フラつく黒子に肘をぶつけた張本人は悪びれる様子などない。

「「テメエ、黒子(っち)に何しやがる!!」」

 意地とプライドもあって負ける訳にはいかないと、弱そうな黒子を狙ったのだろうが、しかしそれは完全に逆効果で。

 同時にキレた化物二人のそれまでを上回るパワーに蹴散らされ、お決まりの捨て台詞を吐いて逃げて行った。

 

 

 

 

 

「楽しかったスねー!」

「お前、もう大丈夫なのか?」

「ああっ! そうっス! 黒子っち、大丈夫スか?!」

 その後暫く遊んで立ち寄ったマジバ。隣に座った火神が黒子の目元にかかる髪を掻き上げれば、火神との1on1が楽しかったらしくニコニコ笑っていた黄瀬も、心配そうに身を乗り出して来る。

「うわ…お前、青くなってきてんぞ。」

「良く冷やしとかないと、酷いことになるっスよ、これ。」

 肘打ちされた箇所は既に痣になりつつあるらしい。色が白い所為で余計に目立つのだろう、二人とも痛々しいと言った顔をしている。

「「やっぱ、ぶっ殺しとけば良かった…」」

「大丈夫ですよ。ありがとうございます。」

 揃って物騒なことを口にする二人に苦笑しつつシェイクのカップを押し当てれば、そんなんじゃダメっスと、黄瀬はカウンターからドリンク用の氷を分けてもらって来て。

「はい。これで冷やしてくださいス。あんたは黒子っちを家までちゃんと送ってってくださいスよ。」

「わーってるよ。」

 渡された氷を傷口に当てながら、二人とも過保護だと、黒子は小さく笑みを零した。

 

 

 

 

 

「ちゃんとまた冷やしとけよ。」

 家に辿り着く頃には小さな氷はすっかり溶けて、水に戻ってちゃぷちゃぷと音を立てる。

 氷の代わりに押し当てられたのは薄い唇。冷やせと言うなら、温めるようなことをしないで欲しい。

「まったくもう…」

 己の頬に急速に熱が集まって行くのを感じて。溶けてしまった氷の袋を、黒子は再び顔に押し当てた。